あなたの人生は、あなただけのもの。 あなたには、それを守る権利があるの。「失われた私」を探して(34)
「自分に誇りを持つ」ってどういうこと?それは自慢という意味ではないし、人と優劣を競うことでもない。中村うさぎさんが答えます。

公開日:2025/09/20 06:05
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「失われた私」を探して自分に誇りを持つって、どういうこと?
そんな質問にお答えします。
私は以前、この連載で「自分に誇りを持って」と呼びかけた。
何故なら、「誇り」ってすごく大事だと思うから。
でも、いきなり「誇りを持て」なんて言われても、難しいよね。
自分には権力も金も能力も美貌もないし、人に誇れるものなんか何ひとつないから無理だよ、なんて思う人もいるでしょう。
その気持ちはすごくわかるけど、私が言ってる「誇り」というのは、「自慢」って意味じゃないんだ。
「自慢」っていうのは、ほら、他人と自分を比べて優劣を競うことでしょ?
俺はあいつより仕事ができるとか、私はあの子より幸せだとか、人も羨むいい暮らしをしてるとか、「自慢に思う」っていうのは、そういうこと。
だけど「誇り」っていうのは、優劣じゃない。
私の身体は私のものだから、他人から傷つけられたり利用されたりしたら怒っていい。
私の心は私のものだから、他人から操られたり土足でズカズカ踏み込まれたりしたくない。
私の人生は私のものだから、他人に支配なんかさせないし、ちゃんと自分で責任を取りたい。
そんなふうに「私は私のものである」という確固たる気持ちこそが「誇り」だと思うし、そこには優劣なんかないの。
人と比べて劣っていようが、欠けてるところがあろうが、関係ない。
あなたの身体も心も人生も、あなただけのもの。
その尊厳を誰も侵すことはできないし、他人からバカにされたり値踏みされたりする筋合いもない。
「私は私のものよ!あなたの好きにはさせない!」という気持ちこそが「誇り」であり、「自尊心」だと私は思うの。
ね、これって「自慢」なんかとは全然別のものでしょう?
だから、「私には誇れるものなんか何もない」なんて考えないでほしいの。
誇れるものは、あるよ。
だって、あなたはあなたのものだから。
他の誰の持ち物でもないんだから。
あなたにはちゃんと生きる権利があって、尊重されるべき存在なの。
なのに、気がついたら他人と比較されて優劣をつけられて、それが当たり前みたいになってるから、私たちはいつの間にか、そんな根本的な「誇り」を失ってしまう。
で、他人にいいように利用されても文句が言えなかったり、蔑まれ踏みにじられても自分が劣っているせいなのかと思ってしまうようになるのよ。
少なくとも、私はそうだった。
若い頃の私は、他人の評価に振り回され、自分には何の価値もないような気がしたり、嫌われるのが怖くて周囲に迎合したりして、自分の尊厳を自分で貶めていた。
でも、ずっと違和感はあったのよ。
「なんか違う」って、ずっと思ってた。
「こんなの、私じゃない」ってね。
だけど、どうしたら自分でいられるのか、よくわからなかったの。
自分の価値を他人に決められることが習い性になってたから、他人の偏見や一方的なジャッジから自分を守ってあげられなかった。
それがすごく悔しかったし傷ついたから、これを読んでるあなたには、あの頃の私みたいになってほしくないのよ。
自己評価の高い人って、どんな人?
私なりの答を出してみた。
私のように自分の愚行を曝け出して笑いを取る「自虐エッセイ」を書いてると、よく「自虐は自己評価の低さだから良くない」なんて説教されることがある。
自分がバカなことをやらかして、それをバカだと認めることが、なんで「自己評価の低さ」ってことになるのか、私には全然わからないよ。
じゃあ、「自己評価の高い人」ってのは、どんなにバカなことをしても絶対にバカだと認めない人なの?
それ、おかしくない?
人間はバカなことをしてしまう生き物なんだから、自分のこと「バカだな-」と呆れて笑うことがあってもいいじゃん。
逆に自分の愚かさや弱さを一切認めない人間の方が、私の目には「虚勢」に映る。
「自己評価の高い人」というのは、他人からのジャッジにいちいち動じない人だと私は思ってる。
現代みたいなネット社会では、本当に、言いたい放題の悪口を浴びせられるよね。
正しい批判もあれば、ただ憎いだけの誹謗中傷もある。
そんな無責任な悪口に動揺して、自分の価値がどんどん落ちていくと、私たちは正当な「誇り」を保てなくなってしまう。
「おまえなんか死ね」と書き込まれて、本当に自殺してしまう人がいるでしょ。
「死ね、死ね」って言われ続けるうちに、自分には生きる価値がないと思い込んでしまうのね。
でも、それは違うよ。
あなたが生きるに値するかどうかは、他人が決めることじゃない。
あなたが自分で決めることだよ。
あなたの価値を、他人の勝手なジャッジに委ねないで。
あなたには、自分の価値を守る権利があるの。
だって、あなたの命はあなたのものだもん!
母親から「おまえなんか産まなきゃよかった」って言われて、深く傷ついたという人を知っている。
そりゃ、そんなこと言われたら傷つくよね。
でも、あなたの命はあなたのものであって、お母さんのものではない。
たとえお母さんがあなたを否定しても、それはあなたに価値がないってことにはならないの。
生まれ落ちた瞬間から、あなたには生きる権利があり、尊重されるべき存在なのよ。
ましてや親でもない赤の他人から、その尊厳を奪われる筋合いはまったくない。
だから、生きてていいんです。
あなたの人生には、ちゃんと価値があるんです。
その価値を自分で認め、守ろうとする想いこそが「自己評価」の高さなんだと思う。
バカでもいいの、弱くてもいいの。
自分の愚かさや弱さをすべて受け容れて、それでも自分の人生を無価値なものだとは思わない、その「誇り」があればこそ、人は自虐ができるのよ。
己の愚かさや弱さを否定して目を逸らすのは、自分を受け容れてない証拠。
それって自己評価が高いどころか、むしろ「自己否定」なんじゃないの?
だって、本当の自分を否定してるんじゃん。
自分のいいところしか見たくないだけじゃん。
そんなの正当な「自己評価」って言えるのかなぁ?
「自分に誇りを持って」という私の言葉の真意が、これで伝わったかな?
あなたの人生の価値を、あなた自身が認めてあげて、ということ。
あなたには生まれながらに尊厳があり、それは親であろうと誰であろうと、他人が損なっていいものではない、ということ。
それが、私の言う「誇り」。
あなたがちゃんと自分の「誇り」を守れる人になれますように。
私は心から願っています。
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