どんな人生を選択してもいいの。 ただ、これが自分の人生だという誇りを持ってね。「失われた私」を探して(30)
ずっと孤独が怖くて、結婚や恋愛に逃げてきた私。でももっと不幸になり、気付きます。私を誰にも明け渡さない「誇り」こそが必要だったのだと。

公開日:2025/07/22 01:30
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「失われた私」を探して私はずっと孤独が怖かった。
でも孤独から逃げるための恋愛は、
私をもっと不幸にしただけだった。
人間は互いにわかり合えない孤独な生き物のくせに、孤独をひどく恐れる変な生き物だ。
自分は孤独ではないと証明するために仲間を欲しがり、家族を作り、そして最終的には「仲間も家族も他人だよなぁ」という当たり前のことに気づいて落胆する。
依存症が何らかの欠落感や不全感を埋めるための病なのだとしたら、その「欠落感」や「不全感」の源は、つまるところ、この「孤独」なのだと思う。
でもさ、私たちは生きている限り、この「孤独」からは逃れられないのよね。
孤独から逃げようとすればするほど、なんか厄介な泥沼にハマっていくような気がする。
最初の結婚は、今思えば、孤独から逃れるためだったのかもしれない。
フリーのコピーライターとしてどこにも所属せず、ひとりで働いていた私は、たぶん自分で思ってる以上に不安だったんだろう。
「パワハラ」とか「セクハラ」なんて概念がなかったバブル時代、広告界はパワハラとセクハラが当たり前の世界だった。
20代の小娘がひとりでやっていくには、結構しんどい社会だったと思う。
すっかり弱気になった私は、付き合っていた男と結婚することにした。
気難しくて暴君みたいにワガママな彼と結婚しても、きっとうまくいかないって気はしてたけど(だから向こうが結婚したがってもズルズルと引き延ばしていたのだ)、もはやひとりで生きていくことに限界を感じてしまい、安心できるシェルターが欲しくて逃げ込んだの。
でも、すぐに気づいたよ。
ひとりで生きる孤独より、心の通じない誰かと一緒に暮らす孤独の方が、ずっとずっと苦しいんだ、と。
彼との結婚は私にとって、シェルターどころか牢獄だった。
完全に支配下に置かれたわ。
孤独に耐えられないのなら、誰かの従属物になるしかないの?
そんなわけないと思うんだけど、結果的にそうなっちゃった。
私は自分の弱さを呪ったわ。
それもこれも、私がシェルターなんか求めたせいだ。
私は当時、恋愛依存気味だったから、夫を見限って男を作った。
結婚という牢獄から逃げ出すためよ。
でも、その男も束縛の強い男で、常に浮気を疑われて嫌味を言われて、本当に面倒臭かった。
で、結局、別れちゃったわ。
ひとりになって、せいせいした。
だけど、そこから、買い物依存症が一気に悪化した。
「男なんか要らん! ひとりで生きてく!」と決めたものの、やっぱり孤独が怖かったのね。
心のどこかからどんどん漏れて来る寂しさを埋めようと、必死だったんだと思う。
ねぇ、不思議だよね?
どうして私たちは、こんなに孤独なの?
孤独を恐れて誰かに依存しても、結局は孤独なまま。
一番近くにいる人が、一番遠い他人に思えて、どんどん心が凍えていくの。
自立して自由を手に入れても、やっぱり孤独。
誰にも縛られずにのびのび生きてるはずなのに、気づくと寂しさがしんしんと降り積もってる。
この孤独を攻略しなきゃ、私は前に進めないよ!
孤独の攻略に必要なのは「誇り」だった。
自分の承認権を他人に委ねない。それが私の「誇り」。
結局、私はどちらかを選ばなきゃいけないんだって気づいた。
ひとりでいても孤独、誰かといても孤独。
じゃあ、どっちの孤独を私は取るの?
これって正解はないんだと思う。
どっちを取っても、たぶん私は何かを失くす。
そして、私が選んだのは「ひとり」の孤独だった。
何故なら、そっちには自由があるから。
私にとって一番大事なのは、自由なんだ。
これまでの経験で、今度こそ、はっきりとわかった。
自由のためなら、多少のことは犠牲にできる。
でも、誰かと一緒にいるために自分を犠牲にするのは、絶対に嫌。
もちろん、寂しかったわよ。
ただ、以前と違うのは、これは自分の自由を守るための寂しさなんだ、と思えたこと。
そんなふうに思うと、寂しささえも誇りに感じた。
なんだか、明るい寂しさだったのよ。
昔みたいに窒息しそうな寂しさじゃなかった。
なんとなく、孤独の攻略法がわかった気がしたわ。
孤独の攻略に必要なのは、「誇り」だったの。
「誇り」って、人間にとってすごく大切なんだと思う。
自分が自分であることを守ろうとする「誇り」。
私を誰にも明け渡さないと心に決める「誇り」。
「自分を大事にする」って、そういうことだと思うの。
売春やってる女の子に「自分を大事にしろ」とか説教するおっさんがいるけど、本人が自覚と誇りを持ってその仕事してるんなら、それでいいのよ。
ちゃんと「自分を大切にしてる」の。
おっさんこそ、家や会社で自分の「誇り」を保ててるの?って訊きたいわ。
「誇り」は、「尊厳」に直結してる。
強制されて嫌々パンツ脱ぐのは尊厳を踏みにじられる行為だけど、自らの意志でパンツ脱ぐ場合は尊厳に傷なんかつかない。
要は、自分の意志を自分が尊重できるかってこと。
パンツだけの問題じゃないわよ。
自分の意志で自分の生き方を決める。
自分の人生に、主体性と責任を持って臨む。
そうやって自分の尊厳を守れば、あなたは自分を誇れるわ。
そしてね、自分を誇れれば、孤独なんか怖くなくなる。
だって、いつでも自分が自分の味方だもん。
誰も味方がいないから、孤独は怖くて心細いのよ。
でも、あなたの一番の味方は、あなた自身。
あなたを理解してくれるのも、あなたを承認してくれるのも、まずは自分自身なの。
その承認権を、他人に委ねないで。
誇り高く生きようよ。
自分の尊厳を守ろうとする人は、他人の尊厳にも気を配れるようになる。
誰にも支配されない誇りを知ってるから、誰をも支配しようとしない。
自由の大切さを理解してるから、他人の自由も侵害しない。
そして、そのことも、ちゃんとあなたの誇りになる。
他人を尊重できる人間だという誇りが、あなたをもっと強くするの。
私は、そう信じてる。
私の言ってることが綺麗事に聞こえるなら、それでもいいよ。
現実は厳しいし、そんな誇りなんて持てるかい!って、鼻で笑ってもいい。
ただ、私の言葉を心の片隅にメモっておいてね。
あなたが重大な選択を迫られた時に、もしかしたら役に立つかもしれないから。
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コメント
うさぎさんの言われている 寂しさ、孤独、誇り
全てが今の私に沁みました。
綺麗事とは思いません。
それまでのうさぎさんの闘いを見てきた(読ませてもらった)から。
私も63歳でひとりで生きる孤独を選びました。
私の誇りは、困っている人の助けになること。そうしたいと、試行錯誤していること。まだまだ学ぶことがたくさんある事。うさぎさんの言葉はそんな私のお守りです。ありがとうございます。