Addiction Report (アディクションレポート)

機能不全家族で育った3人+精神科医 それぞれが考える「依存症」の境界線

機能不全家族で育った大学教員、漫画家、アダルトビデオ監督の共著『「ほどよく」なんて生きられない』の出版イベントが2025年6月に開催された。

アルコール依存症、アダルトチルドレン、性被害、性依存など、あらゆる依存症とトラウマを、当事者目線から赤裸々に語った出版イベントの様子をお届けする。

機能不全家族で育った3人+精神科医 それぞれが考える「依存症」の境界線
『「ほどよく」なんて生きられない』出版イベント

公開日:2025/07/16 02:18

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2025年5月5日に明石書店から発売された書籍『「ほどよく」なんて生きられない』。温かみのある表紙のイラストだが、「生きづらさ」を柔らかく包み込んでくれるアドバイス本ではない。

著者は、大学教員の横道誠氏、漫画家の菊池真理子氏、そしてアダルトビデオ監督の二村ヒトシ氏。機能不全家庭で育った3人が、依存症、セックス、宗教2世、発達障害などを本音で語った、刺激の強い一冊だ。

本書の出版記念イベントが、6月13日(金)に下北沢にある本屋B&Bにて開催された。個性の強い著者3名に依存症専門医の松本俊彦氏を加えた座談会では、書籍に勝る赤裸々なトークが繰り広げられた。

(取材・文:宮﨑まきこ)

まずは自己紹介から

会場に集まった観客同士顔見知りも多いのか、イベント開始前には好きな飲み物を片手に歓談する様子も見られる。温かい雰囲気のなか、まずは著者3名の赤裸々な自己紹介が始まった。

横道誠氏(以下、横道)「私が最初に覚えた依存は、過食でした。子どものころの偏食と拒食を克服するためにガンガン食べていたら過食になって、おかげで人生を通して軽度の肥満体です。


カルト宗教の家庭に育ったので制約が多く、欲求のはけ口として1日に何度もオナニーをするような子どもでしたね。その後万引きを繰り返すようになり、中学2年で補導されたことをきっかけにやめました。


成人してからは酒が依存の対象ですね。30代の頃は、夕方帰宅してから5,6時間飲み続けて、日付が変わってから眠るという生活を続けたことで睡眠障害、うつ病を発症して40歳のときに休職。その後依存症の診断を受けて自助グループに出会い、人生が変わってきたという感じです」

のっけから赤裸々な自己紹介を始めたのは、京都府立大学准教授の横道誠さんだ。

菊池真理子氏(以下、菊池)「漫画家の菊池真理子です。アルコール依存症の父親のもとで育ちました。『ビンジドリンキング』といって、週末だけ大量にお酒を飲む人だったので、父がアルコール依存だったことに気づかないまま、アダルトチルドレンとして生きてきました。

「人間関係依存」的で、良い父の代わりを男性に求めてしまう一面があります。そのせいで、DV男や二股男など、おかしな男性とばかり付き合ってきました。いま、なにかに依存していると言ったら、カフェイン依存と、みなさんと同じぐらいスマホ依存でもあると思います」

二村ヒトシ氏(以下、二村)「僕はアダルトビデオの監督をしています。同じ職業の人やAV女優さんがそうだとは思いませんが、僕の場合は職業そのものが、性に依存して生きていることの顕(あらわ)れだと思いますね。

それと僕は子どものころからずっとアトピー性皮膚炎を患っていました。一方僕の母は有名な芸能人も通うクリニックの皮膚科医で、『アトピーを治す名人』と呼ばれていました。しかし、赤の他人は治せても、自分の息子は治せないんですね。このアトピーは母に対する甘え、母への嫌がらせとして発症している、複雑な依存症のかたちなんじゃないかと思うんです」

松本俊彦医師(以下、松本)「僕の一番のアディクションは、たぶんニコチン、煙草でしょうね。最近悲しくなるのは、煙草を吸うだけで『あいつはおかしい』と世の中的に排除されるのに、喫煙所に入ると、電子タバコと紙タバコに分けられていることなんです。絶滅させるのに一番いい方法は、内部で分断させることなのでしょう。

僕は精神科医として患者さんの話を聞いていて、患者さんに必要とされることでバランスを保っているのかもしれないと思うときがあります。二村さんの言葉を借りると、『心の穴を埋めている』のかもしれませんね。

僕は所属施設のなかでダントツ診ている患者さんの数が多くて、殺人的な数なんです。それくらい、『心の穴』が大きいのかもしれませんが、その穴が何なのか、正直知りたくないですね」

注) 「心の穴」とは二村さんの著書『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(イースト・プレス)の中で、親の影響で子どもの心に生じてしまう軽微なトラウマのことを指す。成長してからも無意識のうちに認知や行動の「くせ」となって残り、寂しさや不安や人間関係上の問題の原因、また、恋愛や仕事に向かうエネルギーや、その人特有の魅力の源でもあるとした。

右から、横道誠さん、菊池真理子さん、二村ヒトシさん、松本俊彦医師
右から、横道誠さん、菊池真理子さん、二村ヒトシさん、松本俊彦医師

依存症はグラデーションで、線引きが難しい

イベント開始早々から、過食、アルコール、性、スマホ、ニコチンなどと、依存症の主役たちが舞台に並んだ。毎晩晩酌をする社会人もいれば、毎日マスターベーションをする思春期少年もいる。しかし彼らがみな依存症とはいえない。一体どんなものが対象で、どの程度深くなれば依存と呼べるのか。

松本「注意しなければいけないのは、あまり『依存、依存』と言いすぎてしまうと、本当の依存症が軽くなってしまうことですね。僕らが診ているのは、生活に支障が出ても依存を手放せない人ばかりなんです。ただ一方で、『本当の依存症』の人たちを向こう側に置いてしまうのもよくないでしょう」

例えばギャンブル依存症と投資家・起業家には、本質的な違いはあるのだろうかと、松本先生は問いを投げかける。FXなどまさに投資とギャンブルの境界線にあるともいえるのではないか。ワーカホリックも依存症といえなくもない。そう考えると、世の中は依存でできてるのかもしれないと。

二村「確かに、僕のように自分のおかしなところや依存的な性質を仕事にしてしまう人間もいれば、人生を損なうような困りごとや周囲への加害行為になってしまう人もいます」


松本「依存は連続していて、線引きが難しいんです。今日お集まりの皆さんにも、何かしら小さな依存はあるでしょう。今日のイベントで、依存症に対する偏見をクリアにできたらと思います」


菊池「私はアルコール依存症の父がいたのですが、父についての漫画を描くようになってから、依存症の当事者の方々と関わり始めたんです。メンタルを崩してしまうほどつらい作業だったのですが、私がその方々を理解できたら、アダルトチルドレンが減る、子どもが助かるということを目的に動いていました。

そこで気づいたのですが、依存症の当事者は、医療保険で病院で治療を受けられますよね。でもその家族の苦しみはケアされない。依存症は周りの人たちがすごく苦しい思いをしているのに。私は依存症家族の苦しみをもっと知ってほしいと思って、活動しています」


菊池さんの意見に、松本先生は「そうだね」と大きくうなずいた。


菊池「でもね、依存症当事者の方々と直接話をしてみて、自分にそっくりだって気づいたんです。私はたまたまアルコールが飲めない体質だったのでアルコール依存症にならなかっただけ。だから、これからはこの人たちと仲良くなれると思ったんです」

父親のアルコール依存症に苦しみながら育った菊池さん。トラウマを乗り越えて当事者と向き合ったことで、彼らが自分と変わらない存在であることに気づいた。

菊池さんは本書の中で父親について、「飲まないとしゃべれないから、飲んでキャラを変えていた」と分析している。真面目だからこそ、「ほどよく」なんて生きられず、依存症に陥った。だから、依存症になる人は、いい人なのだと。

(後編へ続く)


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