Addiction Report (アディクションレポート)

「しんどくなるとパキる」 エリートで一見恵まれている彼が市販薬のオーバードーズに頼るようになったわけ

高校生の時から市販薬のオーバードーズを始めたショウタさん。なぜそんな使い方をするようになったのでしょうか?

「しんどくなるとパキる」 エリートで一見恵まれている彼が市販薬のオーバードーズに頼るようになったわけ
自分に関して自信があるのは指だけだ、と語るショウタさん。

公開日:2024/09/22 03:12

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日本では違法薬物の取り締まりに力が入れられているが、若者の間で今問題になっているのは、むしろ市販薬の乱用だ。

国立精神・神経医療研究センターの薬物使用と生活に関する全国高校生調査2021では、高校生の60人に一人が過去1年間で市販薬を不適切に使用した経験があると答えた。

「全国の精神科医療施設における薬物関連 精神疾患の実態調査2022」では、1年以内に不適切に使用した薬物の2割が市販薬となり、10代では乱用した薬物の65.2%を市販薬が占めている。

若者はなぜ市販薬を使うのだろうか?

高校時代から市販薬を使ってきたショウタさん(20代前半、仮名)に話を聞いた。

高校生の時に仲間とオーバードーズを初体験

都内に両親と住むショウタさんは、高校2年生の頃に初めて市販薬のオーバードーズ(過量服薬)を経験した。

「精神的に落ちていて、メンタルクリニックに通い始めた時期でした。当時、付き合っていた学校外のコミュニティで咳止めの錠剤をたくさん飲むのが流行っていたんです」

ショウタさんが高校時代によく遊んでいた渋谷では、高校生でも参加できるクラブイベントが開かれたり、ファストフードの店で色々な学校の学生が集まったりしていた。ショウタさんも放課後、ふらりと立ち寄っては顔見知りと喋るようになっていた。

「その中に市販薬を使う人がいたので、最初は遊び感覚で始めたんです。一人暮らしをしている高校生の家に行ってやったり、カラオケボックスでやったりしていました」

最初に飲んだのは20〜30錠の咳止め薬。一瓶ぐらいなら、薬局で簡単に買えた。

「マスクして、少し咳をゲホゲホして演技をして。質問されることはあっても、売るのを断られたことはなかったです」

初めてたくさん飲む時も、怖さはそれほど感じなかった。周りがみんなやっていたからだ。

「どうなるんだろうという好奇心の方が強かった。最初は気持ち悪さもあったけど、一緒に飲んだ友人と朝まで語り合ってめちゃくちゃ楽しかった思い出があります。多幸感ですかね」

ハイになるわけじゃない。落ち着いた静かな幸福感で満たされた。

「どちらかというと、ダウナー系の感覚に近いかなと感じました」

「死にたい」という気持ちを抱えていた高校時代

この学校外のコミュニティとつながりを持ち始めた頃、ショウタさんは「死にたい」という思いを抱えていた。

当時交際していた彼女との関係悪化や、学校での人間関係のトラブルに悩んでいた。朝起きることができず学校に行かない日が増えて、成績が落ちた。

「このままでは希望する大学に行けないのに、頑張ることもできない。友達はいっぱいいるのにうまくいかなくなったりして、『自分は全てを失ってしまうのではないか』といつも不安でいっぱいでした」

今なら、受験や恋愛で失敗したとしても死ぬほどのことではないとわかっている。

「でもその頃は視野が狭くて、世界は自分の周りしかない。これが壊れたら自分も終わると思って、めちゃくちゃ病んでいました。学校内の人間関係があまりにもつらかったので、外部のコミュニティと絡み始めたんです」

改めて振り返ると、学校での人間関係のつらさも後押しして市販薬を使い始めた気がする。

「それまで酒を飲んだことはあったのですが、市販薬をオーバードーズするという発想はなかった。薬で頭をぼやかしている時は、つらさから逃れることができました」

海外から睡眠薬を並行輸入し常用

効果を感じながらも、その咳止めを常用はしなかった。

その後、大学に入ってからは、ネットで海外から並行輸入した睡眠薬を常用するようになる。「多めに酒と一緒に飲むと面白いことが起きるよ」と遊び仲間に言われて試した。5箱で1万数千円。「カフェ巡りと同じ程度の負担」だった。

その薬を飲むと、記憶が飛び、酒はそれほど飲んでいないのに泥酔したような感覚になった。無意識に英語でペラペラ喋り出したり、本音をストレートに語ったりもした。幻覚もあって、誰もいないのに誰かがいるように見えた。

「咳止めのODは覚めた後に体がきついのですが、これなら体も楽で、普通に睡眠薬としても使えるし、安い。処方された睡眠薬の補助や娯楽用の薬として使い始めました」

「寝る時は2錠飲むのですが、娯楽でO Dする時は5錠。それだけでイケるのも魅力です。咳止めは耐性ができてくると、40 ~50錠以上飲まないと何も起こらなくなる人も多い。数錠で効果が出るのはコスパがいいんです」

A D H Dの対処としても利用

ショウタさんは、子供時代をほぼ海外で過ごしてきた。現地で友達と大麻も吸ったことがあるし、少し治安の悪いエリアに行くと、違法薬物をうつ注射器が道端に転がっていた。薬物への抵抗感は、おそらく一般の日本人よりも薄い。

家庭環境は「ごく普通」だと思う。普通に会話があり、特段、学業で強い期待をかけられたわけではないが、トップクラスの私大に現役で合格した。

ただ、幼い頃から「落ち着きがないね」と言われ、A D H D(※)の傾向があった。朝なかなか起きることができず、大学の授業もあまり出席できなくて2回留年した。20歳になった頃、友人に「絶対にADHDだよ」と言われて受診し、診断も受けた。

※A D H D 注意欠如・多動症。注意散漫だったり、順序立てて行動することが苦手だったり、落ち着きがない、待てない、行動のコントロールが効かないなどの特徴がある。学校や家庭、職場での生活に困難を抱える場合に診断される。

大手企業に就職した今も、仕事中にソワソワしたり、歌を歌ってしまったり、落ち着かない傾向にある。治療薬もたまに飲む。初対面の印象はいいのに、遅刻したり「ルーズだ」と言われたりして、長期的な人間関係がうまく築けないのも悩みの種だ。

そんなA D H Dによる「生きづらさ」の対処法としても、並行輸入している睡眠薬を使っている節はある。

「この薬は抗不安剤でもあるので、飲むと落ち着く。実際に飲んで気持ちよくなる実感も確かにある。ただそれが主目的ではないです」

処方薬と市販薬で乗り切るギリギリの日常

仕事ではまだ新人でみんなできなくて当たり前だから、それほどストレスを抱えているわけではない。恋人もいる。

ただ、中高生頃から、ずっと疎外感や寂しさを抱いてきた。大人数の輪にいる時、「自分がここにいる必要はないんじゃないか」とふと感じてしまう。

「友人たちもそんなことは思っていないとわかっているのですが、なぜか『自分がいなくても問題ないのではないか』とか『そんなに必要とされていないのではないか』とか感じて病むことはちょいちょいあります」

「周りはそれほど気にしていないことを気に病む。客観的に見れば大したことがないのですが、主観的に見るとすごくつらい。週の半分ぐらいは寝る前にお酒と一緒に薬を飲んでふわふわして、その状態で彼女や友達に電話するんです。でも、内容は覚えていないし、いつの間にか寝ている」

市販薬の乱用は、昔から優秀な若者たちの間でも流行ってきたことが知られている。通称「いい子の息切れ」。傍目には恵まれた子供が周囲の期待やストレスを和らげようとして、市販薬を使うパターンだ。

ショウタさんも一見、裕福な家庭に生まれ、一流大学を卒業し、大手企業で働くエリートサラリーマンだ。でも、本人は常に精神的な疲れを感じてきたと言う。

「いつもどこかが調子悪くて、お腹も弱くてしょっちゅう下しています。体の疲れが取れなくて整体も定期的に通っていますし、しょっちゅう動悸や息切れがする。そんな不調感は常にあります」

精神科の主治医には、「心因性の症状だろう」と言われ、動悸を抑える薬も処方されている。

「処方薬と市販薬を使い、いろいろな対策をうった上でギリギリ日常生活が成り立っている。なんとかこなしてはいるけれど、余裕はまったくない状態です」

「最近ではA D H Dと言わないまでも、『こんなことができない』と積極的に自己開示することで周りのサポートを得ています。それでも時々、しんどくなった時に薬を使っています」

SNSで他者と比較してしまう自分

市販薬はうまくコントロールしながら使えていると思っている。ただ、動悸などの不調はもしかしたら、この薬の副作用なのかなと思うこともある。

「でもその影響が怖いからやめようとは思わない。ただ身近な人からは『常用しない方がいいよ』と言われるので、頻度は減っています」

過去に市販薬のオーバードーズが原因で救急車で運ばれた友人もいる。幻覚剤の成分をいじったドラッグを使っている友人もいる。

「自分は強い薬物には興味がないし、毎日使いたいとも思わないのですが、そんな風に使っている友人たちもプロフィールだけ見たら、めちゃくちゃ充実した人生を歩んでいるように見える人が多い。たぶん、客観的に見ても苦しいような生活をしている人は少なくて、主観的な苦しさを抱えている人が多いのだと思います」

そんな苦しさはなかなか周りには理解されない。

「俯瞰してみれば、自分もどちらかと言えば恵まれていると認識しています。自分を被害者だと思ったり、『社会が悪い』と思ったりすることもない。それでも苦しいです。でもそれは誰のせいでもない」

「背が低いなどの身体的コンプレックスや、学習能力が人より低いと思ってしまう能力的なコンプレックスがあって、自分で好きなところは指とまつ毛ぐらいです。社会人になってから脱毛やジム通いにお金をかけられるようになったので、コンプレックスを減らして、自分を少しでも好きになりたい」

取材者の私から見ると、ショウタさんはむしろイケメンの部類に入る、爽やかな若者だ。背も極端に低いわけではない。

「今はS N Sなどでいろいろなものが必要以上に可視化されてしまう時代。僕はXを見るのが好きで、別にわざわざ見なくてもいいものを見て、勝手に人と比べて病んでいるところはあるのかもしれません」

ショウタさんがXの鍵垢で呟いている最近の言葉はこうだ。

自分のことが大嫌いで大好きで大嫌い

「普通の人が普通にできる」のに自分にはできないことが多すぎて本当に自分が嫌いになって、客観的に見たら本当に些細なことでしかないような事で俺の素敵な人生を自ら終わらせる選択肢を1ミリでも考えてしまう自分の精神性が本当に嫌いです。

不仲だった両親への不安と、彼女が去るかもしれない不安

今の彼女との交際も順調なのに、「いつか自分のもとを去ってしまうのではないか」という不安が常にある。最近も「一生一緒にいたい」と思いを伝えると、「重い」と言われて落ち込んだことがあった。

「だから結婚したいんです。結婚すればそう簡単には離れない『保証』のようなものが生まれる。結婚は一生涯の友達を見つける行為でもあると僕は思っているんです。でも彼女の方はそんな深くは考えていないので、難しい。この関係性はそんなにかっちりしたものではないのかなとめちゃくちゃ不安を感じている自分がいます」

両親は仲が悪いわけではないが、自分が幼い頃は、海外暮らしの人間関係のストレスもあるのか、しょっちゅう夫婦喧嘩をしていた。

「父親は母親にはあまり向き合えてなく、直接手を上げることはなかったけれど、壁に穴は空いていました。そんな関係を見てきた不安がどこかに残っているのかもしれません。母が辛そうにしていたので、それを見て僕も傷ついていました」

そんなことに思い悩んでいた頃、市販薬を使い始めた。

「逃げようと意識してやっていたわけではないですが、もしかしたら、無意識にそんな気持ちが働いていたのかもしれません」

「自分は大丈夫」

今は処方薬と市販薬を組み合わせて、つらさを紛らわす方法を覚えた。こんな使い方をしていることを彼女も知っている。

「酒と一緒に飲んでラリることを『パキる』というのですが、『パキっている時に電話しないで』とは言われています。ただ使うこと自体を止められたことはありません。僕が飲まないと生活できないことがわかっているからです」

若者の市販薬乱用をニュースで見かけることもある。

「やめた方がいいとか、あいつらはクソだという気持ちはないです。遊び半分でやるならいい。でも本当に病んでいてやっているなら、あるべき姿じゃない。そういうことをせずに済む社会であってほしいとは思います」

「自分はあの人たちとは違う、というか、正確に言えばそう考えたこともない。ニュースで見る『若者の市販薬乱用』と自分の行為を結びつけたことがないです。これが過剰になったら危ないけれど、そうならずに済んでいます。たぶん自分は大丈夫です」

しばらくの間は、たまに市販薬を使いながら生きていこうと思っている。


Addiction Reportでは、なぜ市販薬に頼りながら生きている人がいるのか、取材を続けていきます。楽になるため、しんどさを忘れるため、楽しむためなど、市販薬を使った体験をお話しいただける方、市販薬に依存している人の支援についてお話しいただける方を広く募集しています。ご協力いただける方は、Addction Reportのメール[email protected])かX(https://x.com/addiction_rpt)、岩永のX(https://x.com/nonbeepanda)のDMまでご連絡をお願いします。岩永が必ずお返事します。秘密は守ります。

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コメント

4日前
QOO

一見何も問題があるようにみえず、むしろ恵まれているとも見える人でも自分の生きづらさを内側で抱えてる。

私は、正直に話せる場所がある事が有難いし、その時間を大切にしたい。

4日前
匿名

アメリカ在住です。高校だけで無く、今では中学生のあいだでも,dextromethorphan、acetaminophen 、ibuprofen、pseudoephedrineなどなど、風邪薬、解熱剤,鎮痛剤、咳止め,点鼻薬等の市販薬のアディクションは増えてます。手軽に買えるし,持っていても安全なので。お金持ちのエリアでは,質の良い(!)ドラッグを売買しているのが日常化していると思います。marijuanaのクッキーやグミなどは成人しか買えないので。大らかに思えるアメリカの若者ですが、ストレスレベルは相当なものだし、ドラッグに依存するティーンは多いです。ただ薬に近づけないということは,現実的ではないので、addictionからの解放は難しい感じですね。

5日前
はな

長女は市販薬の問題を抱えているので、やはり市販薬の記事にはとても興味があるし読むと色々な感情が湧いてきます。

発信して下さりありがとうございます。

5日前
匿名

お話ありがとうございます。生きづらさを忘れさせてくれるものなんですね。日常をがんばっていらっしゃるこそ、ODが必要なときがあるのかな…と思いました。

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