不倫、ゲイの夫との結婚......歌舞伎町で再び直面した運命の岐路 「失われた私」を探して(3)
離婚後、しばらく妻子ある男性と付き合っていた中村うさぎさん。ある時、男性の妻に思わぬ対応をされて、人生を見つめ直しました。
公開日:2024/06/05 02:00
連載名
「失われた私」を探して不倫相手の妻に思わぬ対応をされて人生を見つめ直す
離婚後しばらくは、妻子ある男と付き合っていた。
でも、不倫は私の精神をひどく蝕んだ。
恋愛当初は「好きになっちゃったんだから仕方ないじゃない!」などと開き直っていたのだが、気持ちが落ち着いてくると徐々に罪悪感が重くのしかかって来るようになったのだ。
私の恋は、他人の幸福を犠牲にして成り立っている。
がむしゃらな熱愛時期を過ぎると、そんな自分がなんだか薄汚い存在みたいな気がしてきた。
少なくとも彼の妻にとって、私は家庭内に侵入してきた害虫のようなものではないか。
彼の妻は、私の存在に気づいていた。
薄々ではなく、明確に私の名前や職業も把握していた。
私もそれを知っていて、申し訳なく思いつつもずるずると関係を続けていた。
そんなある日、どうしても仕事の件で連絡を取りたくて、彼の自宅に電話をかけた。
当時はまだ携帯電話が普及していなかったのである。
電話口に出た彼の妻は、私が名乗ると、弾んだ声でこう言った。
「あ、こないだの連載読みました! すっごく面白かったです!」
おそるおそる電話をかけた私は、この予想外の反応にひどく面食らい、顔面にガツンと不意打ちのパンチを食らった気がした。
憎しみをぶつけて来たのなら、こちらも憎しみで対抗できる。
が、これは……!
無理だ、私は自分の読者を憎むことができない!
彼への想いや不倫の鬱屈や、あらゆるものがさぁーっと瞬時に色褪せていって、「私、何やってんだ?」という気分になった。
バカバカしい、やめたやめた!不倫なんて、誰も幸せにしやしないよ!
彼との別れを決意して、心機一転、麻布に引っ越した。
恋にも男にもうんざりして仲良しのゲイと結婚する
麻布には高級ブランド品の並行輸入ブティックが何軒かあって、そこでシャネルやエルメスを買い漁ってる女客と知り合い、あっという間に仲良くなった。
で、夜はその女友達と連れ立って、新宿2丁目で飲み歩くようになったのである。
もう男は懲り懲りという気分だったので、ゲイたちと色恋抜きで遊ぶ毎日は楽しくて仕方なかった。
そんな中、2丁目で仲良くなったゲイの男友達と二度目の結婚をすることになる。
それが、現在の夫だ。
相手はゲイだから、もちろん恋愛感情もセックスもない。
ただただ一緒にいて楽しいという友達気分で結婚した。
結婚する際、「お互いに恋愛とセックスは自由」というルールを設けた。
私はとにかく自由がいいの、夜遊びを制限されたりヤキモチ焼かれたりするんなら結婚なんかしたくない、という理由だ。
むろん、相手も束縛なんかされたくないから、このルールは双方にとってウィン・ウィンである。
それぞれが自由に生きて、どちらも傷つかないし損もしない。
ただ相手が困った時には、互いに力になろうと決めた。
この結婚スタイルは非常に私の性に合ってたようだ。
居心地よくて楽しくて、前回の結婚とはまったく違う快適な毎日だった。
夫は猫と家にいるのが好きで、私は外で遊ぶのが好き。
それぞれがしたいことをして、文句も不満も喧嘩もない。
なんだ、こういう結婚もありじゃん!
ああ、最初っからゲイと結婚しとけばよかったぜ!
ところが3年ほど経った頃、そんな結婚生活に突然、暗雲が立ちこめる。
きっかけは、私が2丁目の夜遊びに飽きて、歌舞伎町に足を踏み入れたことだった。
出来心から歌舞伎町のホストクラブに迷い込む
何年も同じ街で遊んでると、行く店も交友関係も固定化してくる。
要するに、マンネリだ。
私と女友達は、以前のように楽しんでない自分に気づいた。
「最近、つまんないね」
「どっか新規の遊び場所を開拓しようか」
そんなわけで、行ったことのない街に冒険に出ることにした。
それが「新宿・歌舞伎町」だったのである。
歌舞伎町は、私たちが毎晩遊んでる2丁目の目と鼻の先にありながら、まったくの異世界であった。
何しろそこは、異性愛者たちの色恋とセックスの街。
男に懲り懲りだから2丁目で遊んでたのに、なにゆえこんな街に迷い込む気になったのか。
今でもその理由を明確に述べることはできない。
本当に単なる好奇心だったのだ。
「ホストクラブってどんなとこだろうね?」
「行ってみよ!」
そんな軽いノリで、自分がホストにハマるなんて思いも寄らなかったのである。
街中にホストクラブの看板がでかでかと飾られている今と違って、25年前の歌舞伎町ではホストクラブがどこにあるのかもよくわからない。
仕方なく一番有名な老舗に行ってみたのだが、これがびっくりするほどつまらなかった。
中条きよしみたいな昭和のイケメン顔の年配ホストに囲まれて愛想笑いをしているのは、地獄の責め苦に等しかったので、私たちは早々に店を出て2軒目を探し歩いた。
そして、とある店の前で足を止めたのである。
「トップダンディ」という店だった。
「流星」という名のホストの顔写真が貼ってあって、その見たことないほどの美貌に、ひと目で心を奪われたのだ。
「よし、ここにしよう!」
私たちは吸い込まれるように、その店に入って行った。
思えばこれが、シャネルに続く第2の「運命の岐路」だったのである。
※隔週で連載します。
コメント
不倫相手の妻のくったくのない電話の対応もすごいけれど、「自分の読者を憎むことができない」うさぎさんもすごいなあ。
破天荒なようで、繊細かつ他者への配慮というか仁義みたいな、筋を通す感覚を持ち合わせるうさぎさん。
ますます好きになる。
ああ、とうとうホストに出会っちゃうんですね。
中村うさぎさんのお話、本当に興味深いです!
第2の運命の岐路…続きが気になる!