Addiction Report (アディクションレポート)

アンデルセンの「人魚姫」は、私の大好きな童話。 この世界に馴染めないすべての人の物語だから。

愛されたくて自分を改造して、それでも受け入れられなくて、痛々しい結末を迎えた人魚姫。私はそれに自分を重ねてしまう。そして、この世のすべての人魚姫たちへ。あなたはひとりじゃない。

アンデルセンの「人魚姫」は、私の大好きな童話。  この世界に馴染めないすべての人の物語だから。
撮影・黒羽政士

公開日:2026/01/20 02:02

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連載名

「失われた私」を探して

人間になりたくて自分を改造した人魚姫。

それは、愛されるために自分を変えようとした私の姿。

アンデルセンの童話「人魚姫」は、誰もが知ってる名作だ。

ディズニーアニメの「リトル・マーメイド」の原作だと思われてるけど、ストーリーはまったく違って、とても切なく哀しい物語。

人間界に馴染めない異形の者が、人間に愛されたくて無理して人間になろうと自分を改造して、でも結局は愛されることなく痛々しい結末を迎える。

私はあれを、まるで自分の人生のようだと感じるの。

人間の王子様に恋した人魚姫は、下半身が魚で、陸の人間界では生きていけない存在。

そう、人間にとっては人魚なんて、海に棲む恐るべき異形の化け物でしかないわ。

人魚と人間は別の世界の生き物で、決して理解し合うことも交わることも、ましてや愛し合うことなどできないの。

だけど彼女は人間になりたいと望み、魔女に身体を変えてもらうことにする。

人間に愛されたい一心で、本来の自分を捨てるわけ。

魔女に貰った2本の脚で、彼女は人間になりきろうとする。

必死で人間のふりをするのよ。

でも心の中では、自分が人間から忌み嫌われる化け物だってわかってる。

人間界では異質な存在だって自覚してて、だから自分は人に愛される資格なんてないんだという自己否定感と劣等感が、常に彼女の心を蝕んでるの。

私はね、そんな彼女に自分を重ねずにはいられない。

子供の頃からみんなとどこかが違ってて、異質な存在として疎外感を味わってきた。

私には、みんなの考えてることがわからない。

みんなの言葉や常識が通じない。

まるで異世界から来た化け物よ。

だから私は、嫌われないように必死で普通のふりをした。

人間に愛されたくて自分を改造した人魚姫のように、自分を変えようと努力したわ。

でも、心の中ではいつも自己否定感と劣等感に押し潰されてる。

こんな自分が愛されるわけがない、と思ってしまうのよ。

なのに、諦めきれない。

どうしようもなく、私は他者を求めてしまう。

傷ついても傷ついても、ふらつく脚でよろよろと、受け止めてくれる誰かを探して歩き続けるの。

人を喜ばせたくてついつい過剰なパフォーマンスをしてしまったり、かと思えば誰も寄せつけない鎧を着込んだり……いろいろと足掻いた末に、結局は、どうしてもうまくやっていけない自分に絶望する。

その繰り返しが、私の人生だった。

魔女は人魚姫に人間の脚を与える代償として、彼女の声を奪った。

人魚姫は脚のおかげで人間に化けることができたけど、口がきけなくなったの。

自分の気持ちを伝える手段を失ったわけね。

私も同じよ。

思っていることを口にしたら嫌われるんじゃないかとビクビクして、言葉と一緒に気持ちも封印した。

言葉を失くすと、人は自分の心を見失う。

だんだんと心が鈍って虚ろになり、自分が傷ついているのか、怒っているのか、悲しんでいるのかもわからなくなる。

心に蓋をして、いろんな想いを殺してしまうのよ。

人間になるために、人間に愛されるために、人魚姫は大事な言葉を失ってしまった。

愛する人に想いを伝えることもできず、自分の心を押し殺し、ただひたすら人間のふりをするだけの空っぽな生き物になってしまった。

そんな人魚姫を、王子様が愛してくれるはずもない。

彼は他の女性を結婚相手に選んでしまうの。

自分を捨ててまで人間に成りすましたのに、あんなに大きな犠牲を払ったのに、人魚姫はついに愛されなかった。

ねぇ、その時の彼女の絶望がわかる?

おまえはどこまでいっても化け物なんだ、と、思い知らされた気持ちが。

人間になんかなれっこない、ましてや愛されるはずがない、って。

それはもう、とてつもなく残酷な宣告だった。

打ちのめされた彼女の元に、人魚の姉たちがやって来る。

彼女にひと振りのナイフを手渡し、こう言うの。

「このナイフで彼を刺し殺したら、あなたは元の人魚に戻って昔のように海底で暮らせるわ。でも、もしそれができなかったら、あなたは海の泡になって消えてしまうのよ」

人間になることを諦めて化け物として生きるか、それとも人間のふりをしたまま死ぬか。

これ以上ないほど厳しい二者択一よね。

でも、人間界で暮らせない化け物は、自分を受け容れてくれなかった人間を憎んで殺すか、自分を憎んで死ぬか、どちらかしか道はないのよ。

人魚姫は、どうしても王子様を殺せなかった。

彼を殺すより、自分が死ぬことを選んだ。

そして、海の泡になって消えてしまう。

アンデルセンの「人魚姫」は、こんな哀しい結末を読者に突きつけて終わるの。

魔女を殺して王子様と結ばれるハッピーエンドの「リトル・マーメイド」とは大違い。

でも、私はこの原作の方が好きよ。

だって、こっちの方が心に刺さるもの。

人間界に馴染めないまま、受け容れられることも愛されることもなく、それでも人間を諦められなくて自らの死を選ぶ……そんな人魚姫だからこそ、私は自分の哀しみや絶望を重ねられるの。

この世のすべての人魚姫たちへ。

あなたはアンデルセンの末裔、そして私の仲間なの。

こんな物語を書いたアンデルセンは、どんな人だったんだろう?

きっと彼自身も、人間界に馴染めない異端者だったに違いない。

結婚せず、生涯独身だった。

ゲイだったのかもしれないし、相当な変人だったため女性とうまく付き合えなかったという説もある。

真相はどうあれ、彼にとって人間界が生きにくい世界だったのは確かだ。

孤独な彼は、人魚姫やマッチ売りの少女に己の姿を託した。

この世界では生きていけない、弱くて儚い者たちに。

生きづらさを抱えて孤独に生きている人たちは、みんな、アンデルセンの末裔なのかもしれないね。

愛されたくて一生懸命に自分を変えようと努力して、それでも世界に馴染めず拒絶され、叫ぼうにも声すら失って、絶望のうちに死を願う人たち。

命が尽きる瞬間までマッチを擦り続け、手に入らない夢を追って燃え尽きる人たち。

でもね、これだけは言わせて。

アンデルセンの時代と違って、現代はネットの世界。

人魚姫もマッチ売りの少女も、ひとりぼっちじゃない。

同じ苦しみを抱える人たちがこの世には必ずいて、その人たちはきっとあなたをわかってくれるの。

ほら、この「アディクション・リポート」だって、そんな繋がりのひとつよ。

依存症専門のオンライン・メディアだけど、依存症に限らずすべての生きづらい人たちの味方だと私は思ってる。

悪い魔女を倒して愛する人と結ばれればめでたしめでたし、みたいな脳天気なオチを人生につけられない人たちが、ここには大勢いるの。

あなたはひとりじゃない。

助けを求めて手を伸ばせば、その手を握り返してくれる人がどこかにいるのよ。

だから、助けを求めなさい。

ひとりで勝手に諦めて、海の泡になって消えてしまう前にね。

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