他に趣味を持てば、ギャンブルを忘れられる? ギャンブラーカップルが試みた虚しい抵抗の巻 ギャンマネ(27)
ギャンブルで借金が増え続けていく生活にヘトヘトになった私と田中君。自然豊かな場所に旅行にいく、海水浴などで身体を動かす、など、ギャンブルを忘れるための様々な試みをしましたが......

公開日:2025/05/19 03:26
連載名
ギャンマネ前回の終わりに闇カジノで起きた事件を次に書きます!と宣言しましたが、ギャンブル等依存症問題啓発週間(5月14日〜20日)なので、急遽予定を変更してギャンブラーの心理について書きたいと思います。
段々、カジノや競艇といったギャンブルがひどくなるにつれ、お金も回らなくなるし、周囲の人からも呆れられるようになり、ダブルワーク、トリプルワークをしてヘトヘトになっても借金が増え続けていく生活に疲れ果てていきました。
私たちは少しずつ「ギャンブルを止めたほうがいいのでは?」という気持ちも持つようになり、様々な実験を行うようになりました。
「他に趣味を持つ」ができれば依存症じゃない
まず、一番最初に考えたことは「他に趣味を持つ」ということですね。依存症素人だった時は、この実験に一番お金と労力を費やしました。これ多くの人がやりがちだと思います。
でも、それができるなら病気じゃないんですよね。依存症というのは、他に趣味や興味が持てない、そこにしか依存できない病気だから依存症なんですよね。
もし周りに依存症の人がいたら「他に趣味を持てアドバイス」だけは止めてあげてくださいね。本人もそれを真っ先に考えますし、できない自分をますます責めていくことになります。もしどこか専門機関と呼ばれるところに相談に行って、そんな素人アドバイスをするようなところなら行くのを止めた方がいいです。
都会から離れればギャンブルを忘れられる?
さて、それが素人の浅はかな知恵だと全く知らなかった我々が試したのは「旅行」に出ることでした。「旅行が趣味」って実に爽やかじゃないですか。金にとらわれ都会の喧騒の中で生活しているから、ギャンブルに行ってしまうのだ。自然豊かな場所で、ゆっくり温泉にでも入って、美味しいものを食べれば、ギャンブルのことなんか忘れられるはずだ。本気でそう思いました。
そして平日にもかかわらず、1人5万円という伊豆の高級旅館に泊まりました。窓を開ければ眼下に鯉が泳ぐ池が広がり、20畳以上はあるかと思われる広い日本間。白魚の踊り食いに恐怖を感じ、まだぴちぴちと跳ねている小魚を眼下の池に逃がしてみる、そんなことを田中君とキャッキャと騒ぎながら楽しみました。
朝から湯豆腐を食べながら「田中君、たった5万円でこんな贅沢で優雅な休日を過ごせるんだよ。バカラは本当に馬鹿らしいよね」などとしみじみ話し合いました。そして、すっかり豊かな気持ちになった我々は笑顔で高級旅館を後にしたのです。
高級旅館を出て向かった先は......
そしてその1時間後。なぜか我々は伊東温泉競輪場にいました。
どうしてそうなってしまうのでしょうか?
旅館を出ました。さて何をしよう。せっかくの休日だし天気もいい。でもやりたいことが本当に何1つとしてないのです。
そして田中君がぽつりと言います。「近くに競輪場があるんだよな。」私はすかさず「えぇ!行こうよ!競輪って行ったことないから行ってみたい。」博打になると考えただけで急にドーパミンがドバっと出て、ワクワクしてきます。眠たかったものが、シャキッと元気になります。
そしてまんまと数十万を使うのですが、それでも「競輪だったから、そんなにお金使わずにすんだね。」「旅行がメインだしね」という言い訳をして自分を胡麻化すのです。
海水浴で身体を動かせば博打から逃れられる?
次に私たちは、身体を動かすことをやってみよう!と、海水浴にも行きました。
青い空、広い海、そこに集まる若者たち。あぁ、青春そのものです。もう博打なんて不健康なものにはうんざりだ。博打さえやめれば、こんなに色鮮やかな、明るいキラキラした世界があるんだ。毎日、あんなに暗くて空気の悪い闇カジノに閉じこもっているなんてばからしい。競艇場より海の方がよほど広くてすがすがしいじゃないか!
まだ、スマホがない時代。ビーチにいたらさすがに博打はできません。我々は海水浴を堪能しました。泳いで疲れてぐっすり寝る。なんて健全なんだ!
そう本気で思いました。
そしてその日ホテルで1泊すると、なんと田中君が気胸を発症してしまいました。救急車で九十九里の病院に緊急入院。ドレーンをつないで、回復を待つことになったのです。海で青春を堪能した後、急遽病人となり入院した田中君。「息ができない。くっ苦しい……」と、死ぬんじゃないかと大騒動になったわけですが、現代の医学は素晴らしい。このドレーンをぶっさしたら、不便ではあるけれども至って元気になったのです。
入院中なのに、競艇三昧
私の方は、こんな遠く離れた病院に入院されたんで、そりゃもう大変でした。見舞いに行くのも一苦労。それでもせっせと通っていたのですが、田中君は殆どいつも病室にいないのです。何をやっているのかと思うと、病室で顔なじみになったおじさんが「お宅の彼氏はギャンブル好きだね~!」と感心してるのか、呆れているのかわかりませんでしたが、私にこう言ってきたのです。即座に嫌な予感がしました。
慌ててベッドの周りを探ししてみると、ベッドのマットレスの下に1冊のノートが隠されていました。そこには、競艇の結果が書かれていて、なんとその日までに200万円の赤字を出していたのです。入院してまだ1週間も経っていません。九十九里のひなびた景色の自然豊かな環境に囲まれ、潮の匂いがする場所の海水浴帰りでも、ギャンブルを止める力など1ミリもないのです。もちろん私は田中君に「なにやってんのよ!」と怒鳴りつけ、大げんかになりました。
そうです、都会のギャンブラーとその家族が考えがちな実験「田舎暮らし」そして「スポーツ」。依存症はそんな甘いものでは治りません。今ならよくわかります。だって、そもそも田舎にも依存症者は沢山いますからね。一度、セミナーで沖縄に行った時に「私もこんな風に海に囲まれた綺麗な景色の所に生まれたら、人生変わってたかもな」とつぶやいたら、沖縄の仲間に「沖縄は依存症者めっちゃ多いけど」と突っ込まれました。
仲間にも借金、家賃も滞納するように
そして、闇カジノのバイトを長期休暇になった田中君。バイト仲間は思っていた以上にとても心配してくれました。なぜならみんな金を貸していたからです。
「姉御、田中さんに50万円貸してるんですけど」「田中さん、大丈夫ですか?次の給料で絶対返すって言われて20万貸しているんですけど」あとから入ってきたバイトの若い新人君達にこう問われ、蔑むような、哀れそうな目を向けられ、私は顔から火が出るほど恥ずかしく、「えっ!そうなの!?ごめんね~」と謝りました。そしてもちろん手持ちの金なんかこっちもなかったので、慌てて借金をして尻ぬぐいをしたのです。
この頃になると、私、田中君、ホンブラザーズ1号、2号の4人で住んでいた、6畳一間の家賃8万円のワンルームマンションの家賃を滞納するようになりました。8万の家賃を4人で割るんですから1人頭2万円です。給料100万円位貰うようになって、2万円が払えない。しかも田中君が借りた際に、保証人を店のディーラー長にしていたため、滞納していることがバレたんですね。
こっぴどく怒られた上に、あまりにも我々が店の中で借金トラブルを起こすので、「他店のカジノに行くのは禁止」という通達が出されたんです。
「カジノ禁止令」も効果はなく
他のバイトの子たちは、不服そうでありながらも「まっ、これで金が貯まるからいいか」といった感じでしたが、もちろん我々クラスになるとそんなこと知ったこっちゃありません。恥ずかしいという気持ちもあったとは思いますが、その感情を隠すには、常に強がって振舞うしかありません。店の人たちにバレないように、上野や錦糸町の店は避け、新宿や六本木に遠征したり、しばらくの間、実際にカジノ通いは辞めて、競艇だけに絞ったりしていました。ですからギャンブルは全く1ミリも減ることはありませんでした。
しかも通達を出した側の店長や部長も、そのうちコソコソカジノに一緒に行くようになり、この通達はなし崩しになっていきました。
あの頃、それこそ毎日1分1秒まで考えていることは博打のことで、仕事中も競艇の新聞を見て予想をしていました。こんなばかばかしい悪循環からは抜け出したいという気持ちも嘘じゃない。やめるための実験もしてみました。
けれども周りには博打好きの人間しかいないんです。店の太客の中には、上場企業の社長や医者や公認会計士もいました。1日5万円くらいしか使わないお客様でも、毎日来ていれば150万円です。
私たち以外のところでお金は回っている。でもやり続けていれば、いつか我々も金を掴むことができるはず。私はいつの間にか、博打こそが人生を豊かにする仕事のような気がしていました。
「博打で負けた金は博打で取り戻す」ギャンブル依存症の典型的な思考
店の通達に大人しく従うような腰抜けどもに栄光などつかめない。「いつか私は、世界で最初にバカラの法則を見出し、大金持ちになってやる!」この頃の私は、ギャンブル依存症を発症した者が陥る典型的な認知のゆがみ「博打で負けた金は博打で取り戻す」と、本気で考え、精進していました。
「今に見てろよ!これまでの負けは研究費であり、貯金にすぎない。もうすぐ利子をつけて返して貰うからな。」負けが込んで、ギャンブルを辞めたいと弱気になる自分、そしてそんな考えを打ち消そうとする自分。アンビバレンツな気持ちに引き裂かれ、気分が1日で目まぐるしく変わり、感情が上がったり、下がったりとジェットコースターのようで、自分と付き合っていくことが何より一番疲れました。
そしてこの頃、寝る間もないくらい博打と仕事に追われていたのに、本当に全く寝られなくなり、不安と不満が爆発しそうで、私はついに精神科の門を叩き、精神安定剤と眠剤を貰うようになったのです。
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コメント
ギャンブル依存症の理解は、当事者家族にとってとても大切な事ですが、本人から同じ事を言われても、「そっか、病気の症状なんだね」とはなれない。
そもそも病人の見た目でもない。
ギャンマネを読むと、成程そうなんだ。そういう事だったのか!と、とてもわかりやすく病気を理解できるなといつも感じます。どんなに借金があっても、素敵な旅館に5万円出して泊まるとか、命が危うい所だったのに、ギャンブルやってるとか、信じられないけど、これが依存症になるっていう事なんだと。
とはいえ、毎回ハチャメチャな展開に驚かされ、釘付けになります。
僕は35年ほど前、パチスロに狂い嫁に内緒の借金が400万以上ありました。親に泣きついて尻拭いしてもらった後、一度だけスリップしましたが、その時心底ギャンブルが馬鹿馬鹿しくなったのです。その頃独立して商売を始めたのですが、そっちの方がはるかに儲かるし楽しいのでそれ以来一切パチスロは打っていません。
僕は仕事に打ち込むことでギャンブルから離れることができましたが、リコさんによるとギャンブル依存症者はギャンブル以外に興味がもてないはずですから、僕はギャンブル依存症ではなかったのでしょうね。オヤジと息子はギャンブル依存症でしたが🤭
いろんな実験をしてみる、言い訳をして誤魔化す、弱気になったり強気になったり、、、依存しているものに振り回されながら自分の力でなんとかしようとする過程が、分かる分かる、と頷きながら読んでました。同時に、切ない悲しい気持ちにもなりました。あの、「自分じゃどうにもならないのかもしれない」という不吉な直感というか、ゆっくりと絶望に落ちていく感覚を思い出しました。
ギャンブル版ビッグブックを読んでいるみたいです。