Addiction Report (アディクションレポート)

デリヘル嬢になると言ったら、大勢から反対された。 でも、私の身体を私が売って、何が悪いの?「失われた私」を探して(14)

デリヘルをやると宣言したら、多くの人から批判が殺到! 特にノンケ男性の言葉には、隠れた偏見や差別の心が透けてみえました。

デリヘル嬢になると言ったら、大勢から反対された。  でも、私の身体を私が売って、何が悪いの?「失われた私」を探して(14)
撮影・黒羽政士

公開日:2024/11/21 08:07

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セックスワーカーへの根深い偏見と差別。

それが、ますます私を奮い立たせる結果となった。

デリヘルをやると宣言したら、多くの人々から批判を浴びた。

そのほとんどは、ノンケ男性である。

「デリヘルの意味がわかってるの?売春だよ?それって男の排泄場所になるってことだよ?それでいいの?」

「作家という立派な職業があるのに、なんでわざわざ身体を売る必要があるんだ?話題作り?売名行為?だとしたら、作戦ミスだよ」

「売春は心が壊れる。男たちから性的に搾取されて人間性が踏みにじられるんだよ」

どの文言も、私には、偏見に満ちた的外れな意見としか思えなかった。

男の排泄場所だなんて、あなたがそう思ってるだけでしょ?

要するに「公衆便所」だって言いたいんだよね?

でも、私は場所じゃなくて人間だし、私という人間が自分を排泄場所だと思ってなければ客がどう思ってたって関係ないね。

私はあくまで自分の身体を「性的主体」として捉えてるから、女の身体を「性的客体」として捉えてるあなたとは視点が違うのですよ。

自分の視点が「唯一絶対の視点」だなんて勘違いしないでね。

ほんと、こういう男ってバカで傲慢だよなぁ~。

さらに、売名行為説に関しては、あまりの見当違いっぷりに思わず噴き出してしまった。

私の言動にはすべて私なりの理由や動機があるわけだけど、「売名」なんてものが動機になったことは人生で一度もない。

買い物依存症もホス狂いも美容整形も、私の中から生まれた欲求なのだ。

自分がやりたくてやったことなのよ、その結果、やり過ぎちゃっただけなのよ。

有名になりたくてやりたくもないこと嫌々やるなんて、私の場合はあり得ない。

それってさ、あなたがそういう人間だからこそ生まれる発想だよね?

売名したいという欲求を抱えているのはあなたであって、私ではない。

自分の中の欲求を私に投影してるだけで、それは単に「あなたらしい解釈」でしかないの。

そして、最後の「売春は心が壊れる」説については、これまた事実無根の妄想としか思えなかった。

セックスワーカーの友人知人は何人もいるけど、べつに誰も心が壊れたりしてないよ。

そりゃ仕事だから嫌なこともあるし心が磨り減ることもあるだろうけど、そんなこと言ったらどんな仕事だって同じでしょ?

嫌なことがまったくなくて、心が全然磨り減らない仕事があったとしたら、ぜひ紹介していただきたいくらいだ。

みんな、生活費を稼ぐために多少の嫌なことは我慢してるし、お金を得る代償として心も身体も磨り減らしている。

それが労働ってものだろう。

そんなの当たり前のことなのに、ことセックスの仕事となると、途端にみんな「心が磨り減る」とか「人間性が損壊される」とか騒ぎ立てるのは何故?

一流の会社に勤めてたって、企業のモラルと自身の良心の狭間で葛藤したり、下げたくもない頭を下げて屈辱を味わったり、心もプライドも磨り減って人間性が大いに傷つく局面なんかざらにあるでしょ。

何が「性的搾取」だよ。

労働ってのはそもそも「搾取」の構造じゃないか。

金を得るために何を代償とするかは、各自が自分で決めればいいことだ。

セックスワークだけを特別視する人々は、ただセックスワークが不快なだけでしょう。

そんな個人的な「快/不快」を、社会良識やイデオロギーの衣に包んで語るから、ますますセックスワーカーは差別される立場に追い込まれるんだよ。

嫌なら自分はやらなきゃいいだけで、他人の選択にまで偉そうに干渉するなっつーの。

何様ですか、てめーらは。

職場として選ばれたのは「となりの奥さん」という箱型デリヘル。

いよいよ中村うさぎ無謀プロジェクトが始動する!

というわけで、周りのノンケ男たち(ほとんどがおじさん)と一部の女性(優等生ぶってるけどすごく視野の狭い人たち)の猛反対や批判に晒されながらも、私の決心は揺るがなかった。

他人の批判で生き方を変えられるほど器用な人間なら、こんな人生そもそも歩んでねーですわ。

ただ、ゲイの夫に反対されたのには、ちょっと困惑した。

というのも、彼の反対はモラルや良識ゆえではなく、私の身の安全を心配しての意見だったからだ。

「デリヘルって相手の家に行くんでしょ?監禁されたり暴力振るわれたりしたらどうするの?下手したら殺されちゃうかもよ」

うむ、それは確かにそのとおり。

見ず知らずの相手の車に乗ったり家に入ったりすることには、とてつもないリスクが伴う。

「それなら、箱で営業してる店を選べばいいんですよ」

新潮社の中瀬氏に紹介された風俗ライターが、そうアドバイスしてくれた。

「客の家に派遣するのではなく、自分の店の箱でサービスする形態です」

「そんなのあるんですかー」

「あります、あります。僕がいい店を見繕いますよ」

「いい店って?」

「バックにヤクザが付いてない店ですね」

「なるほど!」

数年前にホストに怒鳴り込まれた時も迷惑だったのに、今度はヤクザに怒鳴り込まれたりでもしたら、また大騒ぎになっちゃうもんな。

「ではぜひ、いい店を紹介してください」

「はいはい、少々お待ちを」

カタカタとノートパソコンを叩いて、彼が選び出したのは、「となりの奥さん」という熟女デリヘルだった。

となりの奥さん……エロいな、おい!日活ロマンポルノのタイトルみたいだ。

たちまち私の脳内に、けしからん妄想が広がる。

自宅の庭で洗濯物を干してる私に、隣家の住人が垣根を越えて飛びかかってくる。

「奥さん!」

「え、何するの!?やめてください!」

「奥さんがいけないんだ、こんな色っぽい身体して。もう我慢できねぇよ!」

「嫌ぁーーっ!」

なーんてね。

色っぽい顔も身体も持ってない私だが、「となりの奥さん」という属性が付与されただけで、なんか一気にエロい存在になれた気がする。

言葉のマジックって大事ですね。

「わははは、となりの奥さん!」

「あんたみたいなのが隣に住んでたら嫌だー」

店名を聞いたゲイたちは大笑いしてたが、ノンケ男にはこういうのがグッとくるに違いない。

なにしろモーゼの十戒にも「汝の隣人の妻を貪るなかれ」という戒めの言葉が記されてるじゃないか。

神がわざわざ禁じるくらいだから、隣人の妻はよっぽど美味しそうに見えるんだろう。

ふふふっ、明日から私は汝の「隣人の妻」よ。

存分に貪ってちょうだい!

あ、でも、その前に面接受けなきゃ。

そう、当たり前だけどデリヘルには面接がある。

それをクリアしなければ、デリヘル嬢にはなれないのだ。

いくら「熟女」を謳うデリヘルとはいえ、そこで働く女性たちは30歳~40歳がメインだと聞く。

既に50歳に手が届かんとするおばちゃんが、はたして面接に受かるのか?

「もちろん、年はごまかした方がいいよ」

「でもさ、面接で『高校生の頃に流行った歌は?』とか訊かれたらどうしよう!一発でバレるよ!」

「受験勉強ばかりしてたから音楽番組なんか観てませんって答えれば?」

「えー!そんな言い逃れ、通用する~?」

「しないわね、たぶん」

「…………」

さぁ、中村、どうやって面接という関門を切り抜けるのか!?

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コメント

10日前
なっち

凄い自由な考え方が、清々しいと思いました!

田舎者の私には見たことない世界に、引き込まれていきます。

続きが楽しみです♪

10日前
匿名

ーーー

自分の視点が「唯一絶対の視点」だなんて勘違いしないでね 

ーーー

私は自分と違う視点を持ってる人は

「変わったやつ」だと、本気で思って

た。ほんと傲慢な考え方しかできなかった。

にしても、こんな考え方はうさぎさんにしかできないなぁと思ってしまう

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