Addiction Report (アディクションレポート)

市販薬の依存、どう治療する? 医療以外での道も模索して(3)

若者に広がる市販薬のODは長く続くと危険な状態にも。どんな対処法、治療法が考えられるのでしょうか?

市販薬の依存、どう治療する? 医療以外での道も模索して(3)
沖田恭治さん(撮影・岩永直子)

公開日:2024/09/25 02:10

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若者の間に広がり、通常の薬物依存とは様相が異なる市販薬依存。

それではどう対処したらいいのだろうか?治療法はあるのだろうか?

引き続き、国立精神・神経医療研究センターで市販薬を乱用する若者を診ている病院精神診療部医長、沖田恭治さんに話を聞いた。(岩永直子)

対処法は?

——市販薬の依存は放っておくとどんどん量が増え、自殺願望も出てくるなら、早めに対処したほうが良さそうですね。

それが僕らもすごく難しくて悩んでいるところです。長くなると量は増えていきます。そして治療は難しくなる。

沖田恭治さん提供

——治療が難しいのは、本人が依存症という意識が薄いからですか?集団療法が続かない若者が多いようですが。

市販薬に依存している子が集団療法に行って、隣が覚醒剤依存のおじさんだったら、若い子にそこにいろという方が無理だよなと想像できます。患者さんにインタビューしたスティグマに関する研究でもそんな言葉が出てきます

沖田恭治さん提供

何度も覚醒剤を使ったとか、キメセク(薬物を使って性的興奮を高めるセックス)がどうのこうのという話をされても、20歳の女の子だったらその場にはいたくないでしょう。つながったとしても続かない。行かなくなった理由を聞いたら、たいていそんな話をされます。「そうだよね。もう行かなくていいよ」と答えざるを得ません。

沖田恭治さん提供

——だから、市販薬や処方薬の人向け、女性グループだけの集団療法を導入しているのですね。

そういうことです。対象を限ってやる。でもこれも難しい。依存症としての病態は一緒なんです。でもつながるまでの道筋を考えて上げなければいけません。

ただ、女性グループだけなら患者さんたくさん来るかなと思ったのですが、来ないのですよ。最初は5〜6人きていても、回を重ねるごとに3人、2人と減っていくのが今までの流れです。

——なぜでしょうね。

おそらく十把一絡げにされるのが嫌なんです。「女性だから」とか、その見え透いた感じが嫌なのかなと思います。

なるべくフラットな場にするためにどうするか。まずは僕らは、依存症についての治療を集団療法ではやります、という態度をぶれさせないようにしないといけないのでしょう。トラウマをことさら取り上げるのも、決めつけられるようで抵抗感があるようです。

依存症としてだけでなく、もう少し広くメンタルヘルスの問題として診る。精神科全体で診られるようにすべきなんだろうなと思います。

もっと広く言えば、そもそも精神科で診ない方がいいかもしれません。医療化しない方がいいこともある。

医療で扱わない方がいい?

——医療が関わらない方がいいのですか?

それこそ、トー横キッズのあの集団は、おそらく自助グループ的なところがあります。ただ、そこには悪い大人もいて、買春などの危険な行為に誘い込むのが問題なのですが。

そうではなく、彼ら、彼女らだけの集団であれば、自助グループとして働くところがあるかもしれません。

患者さんにインタビューした市販薬乱用のスティグマに関する研究で、患者の一人が言っていたのは、中にはもう市販薬を使うのをやめた少し年上の人たちがいて、「これは絶対に続かないから、そろそろやめた方がいいよ、あんた」と言ってくれたりする。

先ゆく仲間が同じような問題を抱えていて、今はあまり使っていない。そんな人が言ってくれた言葉なら、受け入れられることがあるかもしれません。

——でも、それは運のようなところがありますね。たまたまそういう人に出会わないと。

たまたまですね。善意を持って、この子大丈夫かなと思ったら声をかけてくれる。

——いわゆるNPOなどの組織ではなく?街を彷徨う女子に声をかけて、支援する団体はいくつかありますね。

組織ではなくて。

——ただその運に任せるのは心許ないですね。

心許ないですが、元々NA(ナルコティクス・アノニマス 薬物依存症の自助グループ)だって、自然発生的に始まっています。あまり医療や国が旗を振ると、見透かされてしまう。

——先生のお立場でそれを言っていいのでしょうか(笑)。

笑。まあ医療じゃない方がいいなと思うんですよね。医療化するから余計話がややこしくなっている気がします。

もちろん確実に医療につながった方がいい人もいます。でもつながり続けている人は依存症の意識はなく、「自分はメンタルヘルスの問題を抱えています」という意識の子です。そういう人たちは医療にかからないとどうしようもないです。

——でも医療にかかるほどではなく、似た悩みを抱える仲間の人間関係で解決する方がいい人も多いのですね。

そういう方がボリュームゾーンだと思いますし、それでいいのだとも思います。市販薬の問題を抱えた人が皆病院を受診しているとも思えません。もしそうなら僕らの外来にははるかに多くの患者さんが来ているはずです。医療につながらなくても自然と良くなっていく人だって多いと思うのです。

将来は薬物療法も?

——先生は薬物療法の可能性も示唆されていますね。市販薬ODに使われている成分の薬を、医療の管理の下、処方して安全に使う方法です。

デキストロメトルファンは抗うつ作用がとても強い「ケタミン」に似た薬理作用があります。これを安全に使えるようにできないかという期待です。

実際にアメリカでは咳止めの成分であるデキストロメトルファンとブプロピオン(ノルエピネフリン・ドパミン再取り込み阻害薬)の合剤(Auvelity®)が2022年から売られています。

デキストロメトルファンだけだと、脳内へ入り込む量が少ないのです。だから延髄に作用して、咳止めとして効く。でもこの合剤だと、咳止めの成分だけより、30倍脳内に入り込みやすくなります。脳内に入ると、抗うつ作用が働きます。

沖田恭治さん提供

30倍とは、市販薬依存の患者さんがオーバードーズする量と同じぐらいです。ひょっとしたらこの合剤を使うことで、安全な量で彼らが市販薬のODに求めている抗うつ作用が期待できるのではないかと思います。

この方法を使えば、息が止まるなどのリスクを背負わずに、抗うつ作用を求めることができる。ODにつながらない薬物療法なんじゃないかと期待しています。

——これは日本で臨床試験を始める動きがあるのですか?

不勉強ですが、知らないです。現時点では可能性の段階です。

——ただ、先日アメリカの人気ドラマ「フレンズ」に出ていた俳優が薬物依存症からの回復途中、メンタルヘルス対策で飲んでいたケタミンの中毒で亡くなった事件がありました。代わりになる薬で亡くなった、というショックな事件ですが、この合剤もそういう風にまずい使われ方をする可能性はないですか?

だからこそ医療が介入しなければなりません。介入することで、咳止めのODに求める作用を、安全な環境で再現することができれば、ODに至らない可能性があります。

——ただ処方薬も飲まずに溜めておいて、一気飲みしたらやはり同じ問題が起きる可能性がありますよね。

そうですね。でもそれを言い出したら、ゾルピデム(商品名・マイスリー)のような依存性の高い睡眠薬も普通に処方されていますし、何もできなくなります。

飲み過ぎたら依存症になると啓発を

——では、そんな薬もない日本で、今、何から手をつけたらいいと思いますか?

教科書的に言えば、まずは啓発が必要だと思います。

市販薬の使用は依存症につながりますよ、ということを市販薬の箱に書いてほしい。たばこの箱に肺がんのリスクが上がると大きく書いてあるように。

普通に教育を受けた大人からすると、「たばこを吸えばがんのリスクが上がるのは当たり前じゃん」と思います。でも吸い始める14、15歳の頃はそこまでわかっていない。不健康になることもまだ意識していない時期です。

でもそこにデカデカと肺がんになると書かれていると、少し考えたりする人はきっといる。市販薬にも不適切な使用はダメだと書いてありますが、もっとはっきり書いてほしい。依存症で苦しんでいる人はいるよ、とか、過量服薬は危険です、とはっきり書いてもらえるといいなと思います。

——でもそもそも「危険になってもいいや」「楽になるならついでに死んじゃってもいいや」という感覚で飲んでいるなら、その表示でドライブがかかりませんか?

ただそういう方は医療につながりやすい。倒れたり、救急搬送されたりして、つながってきます。そういう人を依存症として扱うのではなくて、広くメンタルヘルスの問題でどの病院でも診てもらえるようになってほしい。そうなると受け皿は増えていきます。

「あんたはODしたから診ません」というクリニックもたくさんあります。でも精神科医だったらちゃんと診てほしいと思います。

大事なのは信頼できる大人がいること

——先生の守備範囲ではないと思いますが、市販薬を使うまでの問題に手をつけないと、根本解決にはなりませんよね。何をすることが必要だと思いますか?

それぞれ皆さん抱えている問題が違うので難しいです。

でも、共通して思うのは、その人がいい人かどうかは別として、親御さんがいい人かどうかも関係なく、信頼できる大人が彼らの周りにいないなとよく感じます。困った時にこの人なら絶対助けてくれるだろうと思える大人があまりいない。

そもそも親はそういう人にはなれません。自分の個人的な経験を思い出すと、うちは親父の友達がしょっちゅう家に出入りする家庭でした。その中で何人か、「このことで困ったらこの人に相談できるな」とか、「こういう話はこの人としたいな」というおじさんがいました。

実際相談するかどうかは別として、いるかどうかが大事です。困った時に頼れる何かがある。それは安心感につながります。

その子を値踏みする立場の人はそういう人になれないかもしれません。医師や学校の先生は値踏みする立場の職業です。中にはうまくできる人もいると思いますが。

——親戚のおじさんとかおばさんとか。本屋のおじさんとか。

話しやすくて、しかも自分に危害を加えない人がいてくれるといいなと思います。

——S N Sでは優しいふりをして近づいて、性的に搾取するとか、殺しちゃうとか悪い大人がいそうで怖いですね。

すぐそれが浮かんでしまいますよね。難しいですが、医療だけでは限界はあります。相談窓口もあまりないのですが、学校では今臨床心理士が配置されていますので、そこが一つの窓口として機能してくれればと思います。

(終わり)

【沖田恭治(おきた・きょうじ)】国立精神・神経医療研究センター 病院精神診療部医長

2007年、浜松医科大学卒業。千葉大学病院、カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学、千葉県精神科医療センターを経て、2018年1月から2022年9月まで国立精神・神経医療研究センター脳病態統合イメージングセンター室長。2022年10月より現職。2024年1月より岡山大学医学部医学科臨床教授兼務。専門は脳神経画像、物質使用障害。


Addiction Reportでは、なぜ市販薬に頼りながら生きている人がいるのか、取材を続けていきます。楽になるため、しんどさを忘れるため、楽しむためなど、市販薬を使った体験をお話しいただける方、市販薬に依存している人の支援についてお話しいただける方を広く募集しています。ご協力いただける方は、Addction Reportのメール[email protected])かX(https://x.com/addiction_rpt)、岩永のX(https://x.com/nonbeepanda)のDMまでご連絡をお願いします。岩永が必ずお返事します。秘密は守ります。

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