Addiction Report (アディクションレポート)

オンラインカジノ—ひとを地獄に落とす手法—

日本では違法なのに、若者の間で広がっているオンラインカジノ。利用者を依存症に陥らせるように設計されているとの証言もありますが、どのような問題を孕んでいるのでしょうか? 刑法学者が分析します。

オンラインカジノ—ひとを地獄に落とす手法—
NHKスペシャル 「オンラインカジノ “人間操作”の正体」ではオンラインカジノの元経営者が衝撃の告白をした(NHKウェブサイトより)

公開日:2025/05/12 02:00

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先日放送されたNHKスペシャル「オンラインカジノ “人間操作”の正体」(初回放送日:2025年4月20日)は、衝撃的な内容だった。私も取材を受けていたので、事前に番組の概要は聞いてはいたが、実際に放送されたものは、恐怖すら感じるもので、想像していた以上の内容だった。再放送など、もしも観るチャンスがあれば、ぜひ観ていただきたい。

番組では、オンラインカジノの仕組みを開発した者が実名で登場し、衝撃的な内容を告白している。

「“人間操作”ですよ。あの恐ろしいモノを開発したのはこの私です―」。インターネット上の違法ギャンブル「オンラインカジノ」。関係者のひとりが内実を明かした。取材班は3年にわたり、その謎に包まれた運営組織を追跡。浮かび上がってきたのは、日本人を狙い、利用者のスマホから様々な個人情報を収集、自分の意志ではやめられなくなる状態へと追い込む仕組みだった。オンラインカジノの真の恐ろしさに、調査報道で迫る。(NHKのホームページより)

オンラインカジノの沼に引きずり込まれた者は、ギャンブルがみずからの破滅につながることを十分に承知しながら、強迫的に、後悔しながら繰り返すのである。

ここでいわれていることは、暴走した資本主義がわれわれの脳を乗っ取り、一部のヘビーユーザーを作り出し、かれらが業界全体の収益を支えるという構造である。このようなビジネスモデルは、最近「辺縁系資本主義」(Limbic Capitalism)と呼ばれており、われわれと社会に深い傷を与える病理となっている。

いったい何が起きているのか

「辺縁系」とは、私たちの素早い感情的反応、快感とその記憶などをつかさどる欲求にかかわる大脳の重要な部分である。

私たちは、長い年月を通じて過酷な自然から、苦を避けて快を見つけ、快を制度化し、その上に文明を築いて進化してきた。食料、飲料、住居はその典型的な例である。

辺縁系資本主義とは、大脳のこの部分をターゲットにして消費者の感情や快楽に訴えることで商品やサービスの過剰な消費を促進し、依存を商業的に活用するシステムのことである(デイビッド・コートライト)。

私たちは、長い年月を通じて過酷な自然から、苦を避けて快を見つけ、快を制度化し、その上に文明を築いて進化してきた。食料、飲料、住居はその典型的な例である。しかし地球上の一部で、不足という問題が克服された今、豊かさと過剰という新たな次元の問題に直面することになり、少なすぎるものから、多すぎるものへと問題が変化した。スーパーやコンビニにおける廃棄食品などは、その典型例である。

辺縁系はしばしば感情脳とも呼ばれ、感情の処理、記憶の形成、快の感覚の生成に極めて重要な役割を果たしている。企業がこのシステムを標的としてビジネスに利用する場合、それは本質的に脳の自然なプロセスを乗っ取り、強迫的な行動を促すフィードバックループを作り出していることになる。

今の世界は、科学、工場、産業、啓蒙主義の発展から生まれたものであり、多くの物質や機会の不平等性を解決しようとしてきた努力の結果である。しかし同時にその流れは、アルコールやタバコの生産、売春、砂糖のための奴隷貿易の創出、さらには現代では世界的なファストフードのサプライチェーン、影響力のあるソーシャルメディアシステムの設計などによって、快とそれにつながる効果を最大化しようとする努力でもあった。

そのために企業は科学的知見や脳科学の知識を利用し、快がもたらす記憶と行動の反復性を利用して、人びとが繰り返し消費せざるを得ない製品やサービスを作り出してきたのである。

そこではとくに、特定層へのマーケティングが強化されるのが特徴である。たとえばアルコール業界は、夕食時にほんの少しのワインを楽しむ消費者ではなく、過剰に消費する者、飲み過ぎる者に支えられている。ギャンブル業界も、負けが少なければ配当も少ないのは当然であり、大金を溶かしてくれる上客によって成り立っている。

また、衝動に対する制御や意思決定に関わる部分が未発達な子どもや青少年も、とくに辺縁系資本主義の影響を受けやすい。ファストフード、ゲーム、ソーシャルメディアといった業界は、この年齢層を特にターゲットにしている。悪い習慣は人生の早い時期に身につくため、長期的な習慣を形成しやすいのである。

依存とは

依存症とは、社会と個人に害のある行為や結果を、強迫的にかつ後悔しながら追い求めることである。依存といえば、タバコやアルコール、薬物、カフェインなど、物質への依存を思い浮かべるだろうが、仕事、SNS、メール、ゲーム、YouTubeなど、いわゆる行動依存と呼ばれる新しい依存も問題になっている。

共通するのは、強迫性とそれに抗う意志の弱体化、そして有害な結果である。私たちを掴んで引き込み、私たちの行動を引っ張り、快を宣伝し、誘惑的な最新情報を通知するようにデザインされた環境、つまりあらゆる方向から何度も何度も私たちの心を掴もうとする社会の中で私たちは生きている。

依存の中心にあるのは、脳内でもっとも重要な神経伝達物質、ドーパミンである。なんらかの刺激を通じて放出されるドーパミンは、良いこと、楽しいこと、刺激的なことなど、私たちが想定している行動に対する報酬(ご褒美)である。

しかしドーパミンの研究で最も魅力的な発見のひとつは、ドーパミンが報酬として放出されるだけでなく、報酬を期待するときも放出されるということである。私たちは快の記憶をもとに、確実な快の予測だけでも激しく興奮する。パブロフの犬である。旨い食べ物の匂いで唾液が分泌されるように、ギャンブラーは勝ち負け以前にカジノの雰囲気、音、光、スロットマシンの回転に興奮する。

これらすべてに共通するのは合図であり、それが快の記憶を引き出し、ドーパミンの分泌を促すのである。そして、ドーパミンが多く分泌されればされるほど、依存の度合いは高まっていく。

機械賭博

ギャンブル依存は古くからある問題だが、賭博が機械化されて以降、さらに深刻になっている。

1880年代にガムやチョコレートなどを販売する自動販売機が発明されたが、この機械はすぐにギャンブルに転用された。最初は葉巻や酒が出てくる仕組みだったが、すぐにそれは賞金に変わっていった。客がコインを投入口に入れることから、この機械は「スロットマシーン」と呼ばれた。

当り率は歯車で巧妙に調整され、報酬への不確実な期待が強い興奮を引き起こした。大当たりになっても賞金はすぐに酒に化けて、その場にいた友人たちの乾いた喉に消え、酒場の主人が唯一の勝者となった。「マックギャンブリング」(McGambling=Machine-Gambling)と呼ばれる機械賭博は、消費者の弱みを突きながら客をマシンの前に長時間釘付けにした。

機械賭博はのちにデジタル化されてカジノ業界を席巻した。スロットの回転は手動のときの10倍になり、早い勝負に客はマシンの前に釘付けになった。さらにビープ音、ブザー音、派手なギラギラした光、フラッシュ、アニメーションなどで客がその場から離れるのを難しくしていった。

日本では1980年代にパチンコの「フィーバー現象」が起こった。従来のパチンコは手打ちが主流で、演出も地味だったが、フィーバー機は電動式の自動打ち出し、ドラム式のデジタル演出を搭載したもので、「777」や「333」が揃えば大量出玉が当たるという射幸性の高さが評判を呼び、高齢者や主婦、サラリーマン、学生までもがパチンコに夢中になり社会現象となった。

経済的なインパクトもかなりのもので、パチンコ産業の売上が年間数十兆円規模に拡大し、地方都市の商店街が活性化するなど、地域経済にも波及効果が及んだ。しかし、依存が深刻化し、仕事や家庭を放棄する人も出たり、借金やサラ金問題も深刻になったりした。

イギリスでは、FOBT(Fixed Odds Betting Terminal=固定オッズ式賭博端末)と呼ばれる賭博機械が登場した。「固定オッズ式」とは、プレイヤーが賭けるときにルーレットやスロットのようにオッズ(倍率、配当)があらかじめ決められている形式のことである。

FOBTでは、電子式のルーレットやバーチャル競馬、スロットゲーム、カードゲームなどが提供された。FOBTではかつて1回で最大100ポンド(約2万円弱)を賭けることができ、しかも数十秒毎に新しい賭けが可能であり、短時間で大金を失うリスクがあった。

「ギャンブルのクラック・コカイン」といわれ、ギャンブル依存を急増させるとして社会問題になり、イギリス政府は賭け金を100ポンドから2ポンドに制限したが、これによるFOBTの収益が大幅に減少し、多くの業者がオンラインに移行したといわれている。

オーストラリアには「ポッキー」(pokie)と呼ばれるスロットマシン型の賭博機械がある。ボタンを押すとリールが回り、揃った絵柄に応じて賞金が支払われる。カジノだけではなく、パブやクラブなどの日常的な場所にも多数設置された。低額から賭けられるが、プレイ速度が速く、短時間で大金を失うことがある。

しかも、負けているのに勝っているかのように錯覚させる演出(擬似的な勝利音)が多用されている。このような仕組みがギャンブル依存の大きな原因となっているとして、賭け金や速度の制限、キャッシュレスの制限、顔認証による本人確認などの規制が検討されているが、抜本的な改革は難航している。

インターネットと結合した機械賭博

問題はこのようなデジタル化された機械賭博が、インターネットと結合して、オンラインギャンブルとなったことである。ラスベガスは場所を広げることはできなかったが、夜の時間をできるだけ引き延ばそうとした。ギャンブルがインターネットに移行したことによって、夜の時間だけではなく、場所も地球全体に拡張されたのであった。

これにさらに、スマートフォンとSNSが加わる。これらが行動依存の形態を根本的に変えた。SNSは、可変報酬(不確実な「いいね!」や通知)によって、ユーザーの脳内報酬系を刺激し、常時接続を習慣化させた。

スマートフォンがカジノの入り口になったことで、24時間、だれにも見られずにギャンブルを行うことが可能になった。ギャンブルサイトは、著名なスポーツ選手や芸能人を広告塔に、勝ちやすくしたゲームをまずは無料で提供し客を釣る。

リアルなカジノでは、客があきらめて帰るポイントが近くなると、「幸運のアンバサダー」や「幸運の女神」が派遣され、無料の飲み物や引換券を渡し、できるだけ長くカジノにいてくれるように誘う。同じようにネットでは、アプリやゲームにしばらくログインしていないと、ちょっとしたアップデートや通知が届き、眠りかけた射幸心を呼び起こすのである。

オンラインカジノの客は犯罪者?

刑法の賭博罪の規定(刑法第185条から第187条)は明治時代に作られたものであり、賭博が健全な勤労道徳を害するというのがその理由である。

ここから賭博罪は風俗犯と呼ばれるが、1990年代にインターネットが大ブレイクして、個人が国境を越えてダイレクトに他国の文化・習慣に触れるようになったことから、風俗犯の問題がクローズアップされる。

性表現(ポルノ)もそうだが、世界には賭博規制がゆるい国もあり、日本からもそのようなホームページにアクセスすることができる。ギャンブルに対する考え方が国によって大きく異なるために、地球を覆うインターネットと国内法である刑法との確執が表面化してきているのである。

犯罪の中には、殺人や放火など、国民が海外で犯した場合にも処罰される「国民の国外犯」(刑法第3条)があるが、賭博罪はこのリストには入っていない。だから、海外旅行中に合法なカジノはもちろん、現地で違法なカジノで遊んでも日本刑法の適用はない。

しかし、たとえばAが外国にいるBを殺害しようとして、日本からB宛てに毒物を郵送した場合のように、犯罪行為の一部でも日本国内で行なわれた場合には国内犯の扱いとなり、日本の刑法による処罰は可能となる。しかも、賭博罪は勝敗に関係なく賭博行為を行なっただけで処罰される犯罪(専門的には単純行為犯という)だから、国内から海外のカジノサイトにインターネットを利用してアクセスして、賭けた段階で国内犯としての賭博罪が成立する。

海外のカジノに実際に出かけて行って、そこで何億賭けようとも賭博罪で処罰されることはないが、国内からネットを通じてカジノサイトにアクセスしてギャンブルを行なえば犯罪となる。この違いを合理的に説明することは難しい。

しかしそもそもオンライン・カジノの巧妙な仕組みを考えると、ユーザーを「犯罪者」として処罰することがはたして正しい評価なのかについて疑問が湧いてくる。かれらは「犯罪者」ではなく、巧妙に金をむしり取られた「被害者」と思えてくるのである。

オンラインカジノの運営者と賭博罪

さらに、オンラインカジノについては、条文の適用じたいにも疑問がある。

オンラインカジノについては、一般に運営者経営者に対して常習賭博罪が適用される。たとえば、「常習として、店内にパーソナルコンピュータを設置し、ウェブサイトを利用して、賭客を相手方としてバカラの賭博をした」といった事案や、(オンラインでなくとも)「店内設置のスロット機を使用して、賭客を相手方として賭博をした」といった事案など、店の経営者や従業員らは常習賭博罪、賭客は単純賭博罪で検挙されている(警察庁生活安全局保安課「令和4年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯等の取締り状況について」令和5年5月訂正版)。国内のオンラインカジノの運営者も常習賭博罪として検挙したケースもある。

しかし、経営者や従業員らははたして常習として「賭博」を行なっているのだろうか。

賭博とは、偶然の事情に金品を得るか失うかを委ねることである。確かにかれらは客との勝負でその都度勝ったり負けたりすることはあるだろうが、最終的には勝つように(儲かるように)仕組まれている。つまり、全体として財産的なリスクをかれらは負担していないのである。このような行為をそもそも「賭博」(ギャンブル)とは呼べないのではないか。

また、バーチャルなオンラインカジノを設定したということが、「賭博場を開いた」(賭博場開張図利罪)ことになるのか、あるいは「博徒を結合した」(胴元として賭博を生業[なりわい]としている者を集めて寺銭[場代]を徴収した)ことになるのか(博徒結合図利罪刑法第186条2項)についても、「場」とは物理的な存在だったはずだし、かなり古風な言葉である「博徒」などはそもそも今の社会に存在するのか疑問は晴れない。

そこで結局、オンラインカジノについては、利用者の行為を非犯罪化することを前提に、国の許可を受けない「違法な賭博経営」(無許可営業)という観点から犯罪化するのが妥当ではないか。

この「違法な賭博経営」という観点は、合法的な賭博と違法な賭博との本質的な違いを明らかにし、さらに海外ではライセンスを得た合法な賭博(カジノ)であっても、ネットを通じて日本から顧客を募っている場合には、それを日本での無許可(違法)な営業活動と評価することができる点でもメリットがある。このような観点から、刑法の賭博罪規定を改正することが望まれるのである。

資本主義の「善き双子」と「邪悪な双子」

近代資本主義の中には、「善の双子」と「悪の双子」がいるといわれる。前者は繁栄と啓蒙であり、後者は依存と悪徳である。啓蒙主義的な市場は人権・教育・健康を拡大させたが、他方で快楽と衝動を刺激する商品やサービスもまた拡大し、社会に新たなリスクをもたらした。悪意なき技術開発であっても、収益の最大化を追求する限り、人々の注意力・意志力を食い物にする構造が生まれてしまう。

オンラインカジノは、単なる「デジタル時代の警鐘」ではない。行動依存というレンズを通して、現代資本主義の構造そのものをも問い直しているのである。テクノロジーの発展が必然的に生む「設計された悪徳」にどう向き合うべきか、私たち一人ひとりの倫理的想像力が問われているのである。

【参考文献】

カール・エリック・フィッシャー『依存症と人類』(小田嶋・松本訳)(2023)

アンナ・レンブケ『ドーパミン中毒』(恩蔵絢子訳)(2022)

アダム・オルター『僕らはそれに抵抗できない―「依存症ビジネス」のつくられかた』(上原裕美子訳)(2019)

DAVID T. COURTWRIGHT, THE AGE OF ADDICTION(2019)

カンツィアン他『人はなぜ依存症になるのか』(松本俊彦訳)(2013)

M.Griffiths & A.Parke, Internet Gambling(2007)

【web資料】(2025年4月に確認)

William H. Davidow, Dopamine Capitalism

Lewis Waller, How New Addictions Are Destroying Us

Martha Gill, Can you resist all the addictions modern life throws at you? Only if you’re rich enough

Daniel Dashnaw, The Deep Mechanics and Consequences of Limbic Capitalism: A System of Exploitation

コメント

4時間前
めぐみ

辺縁系資本主義のなかで行なわれていること、その身勝手さに、許可なく他人の脳を手術するような印象を受けました。

自分たちは安全なところにいて、その行為の危険性まで知っているのに、利用者にはリスクを伝えず、より身近に感じさせ、取り込んで、結果には責任を持たない。完全に詐欺でしかないと思います。

なぜ政治が動かずにいるのか、国民を守るどころかギャンブルの餌食に差し出すような姿勢には怒りを感じます。

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