「2年で50人来ても、残るのは1人」自助活動を継続するために必要なこととは?
飲酒に問題を抱える人が、自発的に自助グループにつながるには? 自助活動を継続するために必要なこととは? 行政・医療・教育分野の専門家とAAメンバーが一堂に会し、意見を交わしました。

公開日:2025/08/12 08:00
7月26日、静岡福祉大学で「AA(アルコホーリクス・アノニマス)広報フォーラム IN 静岡」が開催された。テーマは「AAをご存じですか?〜アルコール依存症からの回復〜」。
AAの日本における推定メンバー数は5800人以上だが、その半数以上が関東甲信越に集中し、中部北陸地域のメンバーは全体の8.0%にとどまる(AAメンバーシップサーベイ2022)。そのためグループ数が少なく、住む地域によってはアクセスが困難な上、もしそのグループが合わなかった場合に他の選択肢がないため離れざるを得ないという問題がある。さらに、「狭い地域コミュニティで匿名性を保てるか不安」といった、特有の課題も抱えている。
こうした課題を踏まえ、AA中部北陸広報委員会は、地域の人々に必要な情報を届けようとフォーラムを開催した。当日は、チラシを手にした依存症当事者の家族も会場を訪れていたという。
この記事では、イベントの様子を一部抜粋してお届けする。
AAをご存じでですか?
フォーラムは、AAについての紹介から始まった。1935年にアメリカで始まり、日本では1975年に活動が開始。今年、AA日本は50周年という節目を迎えた。

中部北陸地域(愛知、静岡、三重、岐阜、石川、富山、福井の7県)のセントラルオフィスは2014年に一般社団法人化され、アルコール依存症者やその家族からの連絡窓口として、ミーティング情報の提供、医療機関や行政機関との連携など、重要な役割を担っている。
「AAメンバーシップサーベイ2022」(総回答数:1696名)によれば、AAを勧められた場所でもっとも多いのは「アルコール専門病院」(33.6%)で、次いで「精神科の病院」(26.6%)、「AAメンバー」(15.9%)だった。
では、私たちが飲酒に問題を抱える人に出会ったとき、どのような声かけをすればいいのだろうか。AAメンバーはこう語った。
「飲酒に問題がある人に出会ったら、次の2つを伝えてください。アルコール依存症は回復できる病気であること、そしてAAという回復のためのグループがあるということです」

次に、3名のAAメンバーが自身の体験を語った。
一人目の男性は、「教員として働くなか、仕事のストレスからアルコールが止まらなくなり、仕事中にも隠れて酒を飲んだ」と語る。「アルコールはもっとも身近で手に入りやすい毒」と言い、「それでも気分が安らぎ、いつでも自分を戦闘状態にしてくれた」と振り返る。公務員である彼が2003年にAAにつながったのは、「プライバシーを明かさなくていいと知ったから」。
AAに通いながらも酒は飲み続けていた。ミーティングでは飲酒を続けていることを隠し、仕事の愚痴ばかりを吐いた。2015年に治療につながり、やっと酒が止まった。「アルコールは一人でやめようと思っても止まらなかった。酔っ払っても頭の隅にAAがあったから、生き残れている。そして今も教員を続けられている」と語った。
飲酒問題を自覚してから専門病院につながるまで10年以上かかった女性は、「人の目を気にする性格。酒を飲むと緊張が解けて、自分が強くなった気がしていた」と語る。子育て中も飲酒を続け、記憶をなくすこともあった。依存症と診断されるのを恐れて専門病院ではなくメンタルクリニックへ行き、抗うつ剤などを飲みながら9年間断酒したが、子どもの独立を機に再飲酒。専門病院でAAを紹介されたが、最初は馴染めなかった。しかし女性限定のミーティングで仲間と出会い、ミーティング後の立ち話などの何気ない時間が居場所となった。
スポンサーシップ(回復経験のある他のメンバーから助言や提案をもらうなど、個人的な支援を受ける関係性)を通じて過去と向き合った。縁を断ち切っていた大学時代の友人に20年ぶりに会い、謝罪もできた。「根本的な性格は簡単に変わらず被害妄想で悩むこともあるが、一人じゃないと思えることが何より嬉しい」と語った。
回復の仲間と雁の群れの飛行

続いて、静岡福祉大学副学長であり、社会福祉学部長の長坂和則教授が講演を行った。
長坂教授は冒頭、自身の家族について語った。親が亡くなった際の葬儀で、初めて祖父がアルコール依存症だったことを知ったという。親戚たちは「戦争に2回も行ったから、逃げ道として飲んでいたんだろう」と話し、「薪の隙間に焼酎の瓶を隠していた」「外に出ると言っては、こっそり飲んで戻ってきた」といったエピソードを明かした。これらの話を聞いた長坂教授は、「まさにAAメンバーの体験談そのものだった」と振り返る。
依存症の当事者やその家族は、実は私たちの周りに数多く存在しているが、「恥」として隠されてしまうことも多い、と長坂教授は指摘する。
講演の最後には、回復の仲間関係を雁(カモ科の大形の水鳥)の群れの飛行に例えた話が紹介された。この話は、長坂教授が、アメリカにある薬物依存症の治療機関「ベティ・フォード・センター」で聞いたもの。作者不明ながら深い示唆に富んだ内容で印象に残った。
雁は寒い冬を南で過ごすため、V字の隊列を組んで飛んでいく。V字で飛ぶことによって、前を飛ぶ鳥の羽ばたきが後ろに続く鳥に上昇力を与え、1羽で飛ぶ場合と比べて71%の飛翔力が加わる。
時に、1羽の雁が隊列から外れることがある。すると途端に風の抵抗を感じ、前を飛ぶ仲間の上昇力の恩恵がいかに大きかったかを実感する。先頭を飛ぶ雁が疲れたときは隊列の後方に回り、別の雁が先頭を交代する。後方を飛ぶ雁たちは、前の仲間に向かって鳴き声でエールを送り、スピードを落とさないよう励まし合う。
1羽の雁が病気になったり、怪我をしたり、隊列から外れてしまったりしたときには、他の2羽がその雁に付き添って降下する。そして、その雁が再び飛べるようになるまで、あるいはその死を見届けるまで、決して離れることはない——もし私たちに雁のような感覚があれば、互いをこのように助け合っていけるでしょう、という内容であった。
上記の話を紹介した長坂教授は、次のように講演を締め括った。
「みんなが同じ方向を向いたとき、つまり『酒をやめて生きる』という目標を共有したとき、そこに意味が生まれます。酒をやめて生きること、そして仲間と共にいること、体験を分かち合い、メッセージを伝えていくこと——これこそがAAの原点なのです」
ディスカッションミーティング「自発的に自助活動につながるには」

ディスカッションミーティングには、長坂教授、各務原病院(岐阜県)の天野雄平院長、静岡県精神保健福祉センターの村上希美さん、聖明病院医療相談室の石川桃果さん、そして2名のAAメンバーが登壇。「自発的に自助活動につながるには」「継続的な参加のために必要なことは?」「AAへの要望」をテーマに意見を交わした。
まずは、最近各地で始まっている「減酒外来」の話題からスタート。聖明病院の石川さんによると、同院では今年6月から減酒外来を開始したという。「最初から断酒を目的としているわけではなく、健康のために自ら受診を希望して、お酒の害を減らしてもらうのが目的です」と説明する。カウンセリングを続ける中で、患者自身が「なかなか減らせない」「本当は断酒の方がいいとわかっているけど自信がない」といった発言をするようになったときが、AAを紹介するタイミングだと話す。
天野院長は、減酒と断酒の関係について医学的観点から補足。最近では「アルコール使用症」という診断名が使われ、生活に大きな支障は来していない人を含む軽症から重症まで、対象を広げていることに言及した。「減酒から始めることで断酒につながる人も。僕の病院でも、減酒外来を受診した人の2〜3割が断酒に至っています」と話す。
「自発的に自助グループにつなげるには」というテーマに対し、天野院長は「従来の“底をついて自分でやめたいと思うまで待つ”という考え方では、本人も家族もダメージが大きい。自主性がなくても、周囲がとにかくきっかけをつくって治療や自助グループにつなげる。その後、自主性を上げる方向に持っていくことが大切です」と述べた。
長坂教授は、自身がアルコール医療病棟に務めていた頃の経験から、独特のアプローチを紹介した。患者と院長が飲酒をめぐって喧嘩になったとき、仲裁に入る際に「飲みたかったら飲んできたら」と言うこともあったという。これを1週間ほど続けると、患者の方から「このやりとりをいつまで続けるのか」と言ってきて、「3日だけ酒をやめてみるか」という流れになったそうだ。患者のタイミングを待つアプローチについて長坂教授が「押し付けられると嫌な病気ですからね」と笑顔を見せると、会場から笑い声があがった。
「継続的に自助グループに参加するためには」
続いてのテーマである「継続的に自助活動に参加するためには」について精神保健福祉センターの村上さんは、センターで実施している「リカバリーミーティング」という回復プログラムについて語った。このプログラムの特徴は、アルコール、薬物、ギャンブルなど様々な依存症の当事者が一緒に参加し、回復者もスタッフとしてミーティングに入ること。「依存の対象は違っても、孤独や孤立という共通の問題を抱えた仲間が集まることに大きな意味がある」といい、「専門家がどんなにプログラムを工夫しても及ばない、仲間の力がそこにはある」と語る。実際、自助グループに通う仲間が、まだ参加していない人を「一緒に行こう」と誘い、参加につながる場面を何度も目にしてきたという。
また村上さんは「AAを患者さんに勧める立場でありながら、AAの魅力をまだ知らないのかもしれない」と自省を込めて話し、「AAの本当の魅力を語れるようになるためには支援者自身がもっとAAを知る必要がある」と述べた。
AAメンバーのひとりは、「継続のためには正直に話せる場があることが大切」とし、AAにつながって半年後にスリップ(再飲酒)した経験を語った。「最初は黙っていようと思ったが、黙っているのが苦しくなってついに正直に話した。すると仲間は笑って『アルコール依存症は飲んじゃう病気。飲んでもいい。でもミーティングだけは来てね』と言ってくれた。その一言で酒が止まり、AAにつながり続けることができた」と笑顔を見せた。
あるメンバーによると、会場の施錠やコーヒーの準備といった「役割」を与えることで、「億劫だが役割があるから行く」という動機づけから、徐々に定着していくメンバーもいるという。
最後に、AAへの要望が語られた。村上さんは「一人ひとりの『酒をやめたい』という願いが50年間AAをつないできた。これからも50年、60年、70年と『今日一日』という気持ちで続いてほしい」と期待を寄せた。
天野院長は「50年続く会社は1%未満と言われるなか、こうしてAAが残っているのはそれだけの意味がある」と評価し、「最終的に社会の役に立ちたい、仲間のために何かしたいという思いが自然に出てくる。そういう場としてもAAは本当に素晴らしい」と語った。さらに「お酒だけの問題じゃなくて、人生が救われる。トラウマを超えて成長できる場としてのAAであり続けてほしい」と述べた。
広報フォーラムに参加して考えたこと
今回のフォーラムには、会場・オンライン合わせて約80名が参加したが、そのうちAAメンバーが大半を占め、医療従事者や当事者家族などの関係者(ノン・アルコホーリク)は13名にとどまった。開催にあたっての広報はチラシの配布のみで、SNSなどによる告知はほぼ行われていない。あるメンバーは「外部に向けてもっと情報を発信すべきだ」と指摘する。確かに、苦しんでいる人に広く情報を届けるためには、より積極的な発信が必要だろう。しかし、「AAの基本原則である『アノニミティ(匿名性)』を守ることとの両立は容易ではない」と語るメンバーもいる。実際、以前新聞にメンバーの後ろ姿が大きく掲載され、個人が特定されてしまった事例もあったという。そのため、メディアへの露出や情報発信には慎重にならざるを得ないのが現状だ。
こうした制約があるなかで、AAは地道な活動を続けている。聞いた話によると、ある地域のグループでは「2年間で40〜50人の新規メンバーが訪れるが、継続するのは1人程度」。この数字が継続することの難しさを物語っているが、それだけに、何年も、何十年もAAに通い、飲まない生活を続けている人たちの存在は、苦しんでいる人にとって確かな希望となる。筆者自身がそうだったように。
この人たちの語りが、必要な人に届いてほしいと願う。彼らの姿をどのように伝えていくべきか、メディアに関わる者として、アルコールに依存する母を持つ当事者として、今後もしっかりと考えていきたい。
コメント
良い記事をありがとうございます。
素晴らしい記事です😊これからもよろしくお願いいたします。私も長坂さんの出会いを滋賀ニュースレターに投稿しました。
素晴らしい内容です😊これからもよろしくお願いいたします。私も滋賀ニュースレターに長坂さんの出会いを投稿しました。
遠路取材においでくださり深く感謝します。
AAにはPRよりも惹きつける魅力でと言う考えも有り、またアノニマスという根本理念との兼ね合いも有りAAを知っていただくことへのアプローチはまだまだこれからです。皆で考え実行していきたいと思います。
この意味でもこのアディクション レポートで取り上げていただき改めて感謝します。
ギャンブル依存症者の家族です。ある時、自助グループに繋がるきっかけをくれた仲間が「私は仲間のために何かできているのだろうか」とミーティングで話していたのを聞き、その時は伝えられなかったものの、「私はあなたのおかげでここに繋がることができた、あなたは私にとって一筋の救いの光だった」と思いました。
これから自助グループに繋がり続けることで、私も何か少しでも仲間の助けになれればと思う日々です。
AAをまだ知らず苦しんでいる本人や家族や問題飲酒者と関わる医療や行政の関係者の皆様に知ってもらう、まずは理解されることより知ってもらうことだと思っています。今回取材をしていただきありがとございました。
これからも今日一日で、自分なりにまだ苦しんでる未来の仲間達の為に出来ることをやっていきます。
AAをまだ知らず苦しんでいる本人や家族や問題飲酒者と関わる医療や行政の関係者の皆様に知ってもらう、まずは理解されることより知ってもらうことだと思っています。今回取材をしていただきありがとございました。
これからも今日一日で、自分なりにまだ苦しんでる未来の仲間達の為に出来ることをやっていきます。
AAをまだ知らず苦しんでいる本人や家族や問題飲酒者と関わる医療や行政の関係者の皆様に知ってもらう、まずは理解されることより知ってもらうことだと思っています。今回取材をしていただきありがとございました。
これからも今日一日で、自分なりにまだ苦しんでる未来の仲間達の為に出来ることをやっていきます。