依存症とは「自分探し」なのではないか? ならば、この病にはとても重要な意味がある。「失われた私」を探して(18)
ホストの後は、ウリセンに恋をしてしまった私。懲りずに依存を繰り返し、本当に求めていたものとは?
公開日:2025/01/20 04:18
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「失われた私」を探してデリヘルの後に続いた性の迷走。
でも私にはセックスの才能がまるでなかった。
デリヘルでわかったことが、もうひとつある。
私にはセックスの才能がない、ということだ。
こんなに頑張って整形してるんだからもうちょっと指名が入るかと期待していたのに、まったく人気がなかったのである。
何より大きいのは、リピーターの客がつかないことだ。
リピーターがないってことは、要するに「良くなかった」ってことですよね?
なるほど……客は正直だなぁ。
自分では普通だと思っていたのだが、どうやら私はマグロというやつらしい。
若い頃はそれでも何とかなったけど、40代後半にもなってみると、セックスの下手なおばさんなんかに需要があるわけないのであった。
いやはや、反省しきりである。
これまで宿題をサボって来たから、そのツケが回ってきたのだろうか。
確かに私は、セックスに関してあまり熱心ではなかった。
周りの女友達は、私よりも遥かにセックスに対して貪欲かつ真摯である。
「あの男が凄かった」とか「こんなことしたら最高だった」とか熱く語り合う彼女たちを見ていると、自分が大人の話についていけない小学生みたいに思えてきて、ひどく惨めな気分になった。
この人たちは、何故、こんなにセックスを楽しめるんだろう?
これまでの男たちがポンコツだったのか、それとも私が悪いのか?
いや、どう考えても、自分のせいだ。
私は変態が羨ましくて仕方なかった。
少なくとも彼らは、自分がどんなセックスで快感を得られるのかを明確に知っている。
でも私は、自分の欲するセックスをイメージできない。
もしかしてマゾなのかなと思ってSMクラブに行き、女王様にお願いして縛られたり吊されたりしてみたものの、痛いばかりで全然気持ちよくなかった。
出張ホストにもお手合わせ願ったが、めくるめく体験など望むべくもない。
いたって普通のセックスをして、事後に「うーん」と考え込む始末。
やっぱり「匿名性」がないと萌えないのかと考えて、ハプニングバーで見ず知らずの男に抱かれようとした時などは、「ゴムをつける、つけない」で口論になった挙げ句に怒って帰ってしまった。
ねぇ、男って、どうしてあんなにゴムをつけるの嫌がるの?
最低限の礼儀じゃないのか?
ホストの次はウリセン。
懲りない私が辿り着いた答とは?
と、まぁ、このようにさんざん試して芳しい結果を得られなかった私は、自分にほとんど絶望しかけていたのであるが、そこで思いも寄らぬ事態が勃発した。
なんと、数年ぶりに恋をしてしまったのだ。
相手は、ウリセンである。
ホストの次はウリセンかい!と、自分でもツッコミ入れずにいられないんだけれども、こういうのは出会い頭の事故みたいなもので、自分の意思で防げるものじゃないからな。
それまでにもウリセン遊びは盛んにやってて、今さら恋などするとは予想だにしなかったのに、いきなりひとりの男にハマってしまったのだった。
私の目には「FF7(←ファンタジーRPG)」の主人公クラウドそっくりに見えたのだが、他の人々の意見はまったく違ったので、たぶん頭がイカれたついでに視力にも問題が生じていたのだろう。
とにかく、私は彼に夢中になってしまった。
そう、またあの悪夢だ。
金でセックスできる相手に本気で恋をしてしまうという、永遠に報われない泥沼。
相手は私から金を引っ張れる限り、甘い言葉や優しい嘘をやめてくれない。
ホス狂いの時よりは金額がひと桁少なかったものの、心の痛みがそれで軽くなるわけでは決してなかった。
むしろ、払えない金額じゃないだけに、いつまでもずるずると夢を見続けてしまうのだ。
彼に同棲している女がいるのも気づいてたし、「好きだよ」という言葉が大嘘なのもわかっていた。
でもでも、やめられない。
私にとって「恋」は、もっとも厄介な依存症なのだった。
ああ、手に入らないものを、どうしてこんなに欲しがってしまうのだろう?
傷つくことがわかってて、どうして飛び込まずにいられないのか?
私は自分を痛めつけたいの?
自分が憎いの?
罰しているの?
答はわからない。
わからないから、やめられないんだ。
もしかすると「依存症」って、極端に歪んだ「自分探し」なのかもしれない。
私は「私」が欲しいのだ。
私が愛せる「私」、私が誇れる「私」、私の理想の「私」が。
でも、そんな「私」は手に入らない。
私はいつも未熟で欠陥だらけで、どうしようもなく無力だ。
それが悔しくて歯がゆくて、私は手近な何かを追い求める。
ブランド物を身につけたら、なりたい「私」になれるかもしれない。
若いイケメンに愛されたら、私は「私」を愛せるかもしれない。
そんな切なる願いを込めて、私は届かない星に必死に手を伸ばし続けるのだ。
欲しい欲しい!と際限もなく。
「依存症」とは、なんと哀しい病だろうか。
これは、自分を赦せない人たちが罹る病だ。
自分から逃げ出したいのに逃げ出せない人たちが、自分と向き合う道を模索する病だ。
だけどね、これだけは言えるんだ。
いつか、自分を赦せる日がきっと来る。
その日が、依存症の終わる日だ。
長く苦しい日々が、そこでついに報われるんだよ。
届かない想いも、出口の見えない苦しみも、無駄なものなんか何ひとつない。
すべては、自分と和解するために。
自分に向かって「もういいよ」と言ってあげられる日のために。
もういいよ、完璧じゃなくていいよ、ちっぽけで無力で弱くていいよ。
だって、それが私なんだもん。
私たちは、自分をしっかり抱えて生きていかなきゃいけないんだもん。
私が私を支えなきゃ、いったい誰が支えてくれるって言うのよ?
そうやって、あなたが自分を赦すために必死で辿ってきた道が、無駄なわけないじゃないか。
依存症には、ちゃんと意味がある。
依存症の先には、ちゃんと答がある。
それさえわかっていれば、あなたは大丈夫。
どんなに苦しい経験でも、いや、それが苦しければ苦しいほど、その先にあるものに価値が生じると私は思う。
簡単に手に入るものより、苦労して手に入れたものの方が尊いでしょ?
依存症は、あなたがそれを手に入れるための通過儀礼なのだ。
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コメント
なんかすごく刺さった。
依存症は、自分を赦せない人たちが罹る病。
自分を赦せる日がきたら治るのか。
自分に「もういいよ」っていってあげられる日が、来るのかなぁ
イメージは出来ても、実際やるのは難しい。
でも「依存症にはちゃんと意味がある」といううさぎさんの言葉に救いを感じました。
依存症は、自分を赦せない人たちが罹る病。凄くわかる。私も完璧を求めて、自分にはその力が無いのに…いつも苦しくて。
12ステッププログラムをやって、ありのままの自分を認めて、楽になりました。それでも、ふっとした時に元の考え方が出てきて自分を責めるんです。
そんな時、中村うさぎさんのこの言葉
もういいよ、完璧じゃなくていいよ、ちっぽけで無力で弱くていいよ。
だって、それが私なんだもん。
心に刻んで生きていきたいと思いました。
ありがとうございます。
「これは、自分を赦せない人たちが罹る病だ。」まるで今の私に向かって語りかけてくれたかのようで滂沱の涙。
本当に「いつか、自分を赦せる日がきっと来る」んだろうか、もうずっとそんな日を待ち望んでいたのに、ずっと同じことを繰り返し続けているのに。でも少しだけ、うさぎさんの言葉を胸に、希望を持ちたい。
この連載全てを印刷して、日記に挟んでおきたいです。
中村さんの言葉だから心にズドンと響くものばかり、、、!