「コミュニケーションお化け」の才能が開花! バブルの競争社会で学んだ「仲間づくり」 ギャンマネ(4)
デパートに就職し、いきなり放り込まれた競争社会。持ち前のコミュニケーション能力を発揮させてナンバーワンの表彰も受けながら、のちに財産となる「仲間作り」の大切さを学んでいきます。
公開日:2024/04/23 02:00
連載名
ギャンマネさて、無事デパートの新入社員となり、新宿店に配属されることとなりました。
私は、1986年入社ですが、まさにここからの4年間がバブル時代であり、私は丁度この4年デパートガールとして過ごしました。(プロデューサー・田中紀子)
放り込まれた競争社会
社会人になってまず思ったことは「社会人ってなんてチョロいんだ」ってことですね。
だって、週休2日で夏と冬には2週間ずつの大型連休までくれるっていうんですよ!
バイトでそんなことしてたら、休んだ月は給料なくなっちゃうじゃないですか。
待遇を良くしないと、当時は人材を確保なんかできなかったからだと思います。
その代わり、仕事に関しては厳しかったと思います。
よく「バブル世代は使えない」なんて言いますが、それはバブル世代を知らない人達が、印象だけで言ってるのだと思います。
バブルというのは「頑張れば頑張るだけ金が貰えた」という時代なのであって、ものすごい競争社会に放り込まれるのです。
だってあの当時流行ったCMのキャッチフレーズは「24時間戦えますか?」ですよ。
今のように、ブラック企業なんて言葉もなかったですし、むしろあの頃なんかブラック企業しかなかった気がしています。
雑用をやりまくり、顔が広くなった新人時代
とにかく「目標!目標!目標!」目標達成が当たり前で、達成しなかったら朝礼などで「どうなってんだ!」と怒鳴りつけられます。パワハラなんて概念すらない時代です。
しかもその目標がですね、売り上げと自社カードの新規会員獲得はまだわかります。それ以外にですよ、シーズン事に「エアコン2台以上」とか、紳士スーツ2着以上とか、お中元お歳暮いくら以上とか、とにかくやたらとノルマが課せられるのです。
私なんか紳士服売り場に居たのに、「どうやってエアコン売るんだよ!」と思っていました。
ですがこのコミュニケーションお化けのような私、新入社員のうちからやたらと顔だけは広かったんですね。
なぜなら当時から共依存魂が炸裂していたんです。
例えば、商品が納品される。するとエレベーター前に段ボールが積み上がっているんですね。そんな時私は、自分の売り場以外の商品も全部持っていって、他店にも配ってあげちゃう。
とにかく新入社員ということもあって、雑用は率先してやりまくっていました。別に無理してるわけでもなくて、雑用をやっていると会社の仕組みが色々わかるので楽しかったんですよね。
帰りには毎日売り上げシートをフロア長に提出しなくちゃいけないのですが、DCブランドの店長が「今日、売り上げ目標達成してないの。怒られるわぁ、どうしよう」なんて言ってると、「じゃあ私一緒に行ってあげますよ」なんて言って、ついていく。フロア長が文句言う前にでっかい声で「すいませんでしたぁ~!明日は頑張りま~す!」と言って、売り上げシートをそそくさと机において、走って逃げるなんてこともしてました。
店長とあとで「あっけにとられてたね~」なんてゲラゲラ笑い転げました。
そのうち私はフロア長直々に、「退店時の報告にお前は部屋に入ってくるな!」と出禁を申しつけられましたが。
人間関係を駆使してノルマも達成
また、もちろん当時のことですから、社員もメーカーさんも若くて遊びまくっています。
しかも流行のDCブランドの店員達(当時は彼らをハウスマヌカンと呼びました)ですから、おしゃれなわけですよ。そんな人達と、「マハラジャ」のような流行のDiscoはもちろんですが、原宿の「クラブD」や新宿の「第三倉庫」みたいな、ちょっとスノッブな人達が集まるクラブなんかにもほぼ毎晩出かけていて、朝まで遊ぶ!なんてことをしていました。
そうするとですね、紳士フロアの先輩社員やメーカー社員さんから「資生堂の美容部員にすげ~可愛い子が入ったから、『今日D一緒に行こう!』って誘って来いよ」などと指令が出るんです。私は「はいはい」なんて感じで「あの~、5階の紳士なんですけど、今日みんなでDに行くんですが、一緒に行きませんか?」なんて、ナンパまでしに行っていました。
こんなことをしていたので、どこの売り場にも知り合いがいたんですね。ですのでシーズンもののノルマが来た時は、そこの売り場の人と密約を交わし、「エアコン名前つけといてあげるよ」「ありがとうございます!じゃあ紳士スーツの時は任せといて下さい」なんて、各売り場の社員やメーカーさんと裏取引をしてノルマを達成していました。
もちろん口八丁手八丁な私、個人売りあげやカードノルマは目標を割ったことなどありません。目標が行かなくてガミガミ怒られてる人もいましたが、当時デパートガールは私の天職だと思うくらい、チョロかったのです。
上司に恵まれて、仕事でも表彰
それと私の所属先のブロック(班のようなもの。売り場が幾つかに区切られブロックと呼ばれた)が本当に恵まれていました。
とにかく競争競争あらゆる数字を競争させられるので、気が休まる時なんかありません。やっと今月目標達成した!と思ったら、またすぐ新しい月になってしまいます。
でもうちのブロックは、毎月「優秀ブロック賞」として表彰され続けていました。
それはなぜか。
ブロック長が反権力的で、めちゃくちゃ口は悪いのですがあったかい人だったのです。
上には愛されず、下には愛される。全く出世していない人だったのですが、私たちはあのブロック長のために!と一丸となって頑張っていました。
例えば、売り上げが達成できないメーカーさんがいる。朝礼では「お前どうなってんだぁ!」と怒鳴りつける。けれども客を接客したらさりげなくそこのブランドに誘導して貢献してあげるような人でした。
ボーナスが赤字になって大目玉
あと私は、新入社員の時に社員割引が嬉しくて、買いまくっていたんですね。すると夏のボーナスで社割の枠がなくなったばかりか、ボーナス一括払いがボーナスより上回ってしまい赤字になっちゃったんです。そもそも新入社員の夏のボーナスなんて雀の涙じゃないですか。でも、そんなことこっちは知ったこっちゃないので「いや、まさかこんなにボーナスが少ないと思わなかったんですよ」と、呼び出された時に総務部長だかなんだか偉い人に文句を言ってしまった。
「ボーナスが赤字になる」。そんな奴いなかったものですから、色んな人から怒られた。もちろんブロック長からも怒られたのですが、秘かに人事規定集を見てくれて「赤字分返せば大丈夫だ」と、言ってくれるような人でした。
口うるさいフロア長や、もっと偉い店長なんかが、売り上げが悪いと現場に八つ当たりで小言を言いに来るのですが、そうするとこの私「店長って小姑みたいですね」なんて言っちゃう。仮にも新宿店の店長って会社の役員な訳ですよ。で、また大目玉を食らう。フロア長なんか慌ててペコペコしに来るわけですよ。でもうちのブロック長は「もう、こいつはバカなんで構わないで下さい」なんて言ってくれる人でした。
「他人のための方が頑張れる」資質が開花
あの時の経験で、目標を達成するチームワーク術を肌で学んだ気がしています。とにかく「ブロック長のために」「ブロック長を守ろう!」「ブロック長に対して上の奴らに文句を言わせないぞ!」我々平社員とメーカーさんはこんな風に団結していました。
結局、年間の「最優秀ブロック賞」を受賞でき、ブロック長が社員を安い居酒屋で驕ってくれました。No2の女房役の社員の方が「おめでとうございます」と口火を切り、みんなそれぞれに嬉しさをかみしめていました。何より、照れ屋で口が悪くて、不器用で出世もできず、いつもブリブリ文句を言ってるのに、嬉しそうにしているブロック長を見て、私たちもほっこりしていました。
そんな時ふいに「今年は新入社員に恵まれた」と私のことを褒めてくれたのです。
いまでも記憶に鮮明に残っているくらい嬉しかったです。多分これが人に褒められた最初の経験だった気がしています。
「他人のためのほうが頑張れる」私のそんな資質が開花していたのだと思います。
私個人も、新入社員No1賞で表彰されることになりました。
「とんでもなく生意気な性格だけど、成績は良いらしい」ということが広まってくると、上の人からもあまり文句を言われなくなりました。
勝ち過ぎるよりも大事なのは人間関係
そしてさらに気づいたことは、もちろんそうやって売り上げや、カードのノルマを達成していくと、私のことを面白くないと思う先輩社員もいるわけです。口も聞いてくれない、無視される、そんな人もいました。
ところがですね、カードだったか、売り上げだったか、ノルマ商品だったか忘れましたが、私の成績になるものだったのですが、その先輩がレジ打ちをしてくれた時に、「あっ、私もうこの目標達成したので、先輩の社員番号でどうぞ」と言ったら、その後、急に親切にしてくれるようになったのです。
なるほどなぁとその時思いました。
会社の成績で評価やボーナスは多少変動しますけど、長丁場働くことを考えたら人間関係が良い方がいい。結局、金の多少の違いよりも、そっちの方がお得じゃないか、勝ちすぎるってのも、また良くないんだなということを学びました。
実際、違う店舗に異動したら、カード獲得のとんでもないモンスターがいて、嫉妬のあまりいじめられて退職してしまいましたからね。
「個を競わせる」社会で学んだ仲間づくりが財産に
そんなことから私はなんとなく「個を競わせる」というのは、全体の福利としてはマイナスだよなと思っていました。当時はもちろんこんなに言語化できたわけでもないですが。
昭和の時代はとにかくこの「個を競わせる」という考えがはびこっていました。
でも確かに私の成績は良かったですが、人気ブランドを担当してもいた。そして営業に向く資質を持っていた。人見知りをしないコミュニケーションお化けでもあった。こんなことを考えるとですよ、もうそれって運の世界じゃん!?と思うんですよね。自分の実力ばかりじゃないんじゃないのと思っていました。
けれどもまぁ、そんなことを平社員が漠然と思っていても、あの当時の風潮、会社の方針にはなんの効力もなかったし、「競う」ということは社会人なら当たり前なんだと自分に言い聞かせていました。
そして成績も良かったし、売り上げも絶好調だった当時のデパート勤務。40年前のあの時代に、冬のボーナスがおよそ80万円、その1ヶ月後の1月末に手渡しでくれる決算ボーナスが130万円だったことを鮮明に覚えております。
「チョロい!社会人ってなんてチョロいんだ!」
貧乏人の私は舞い上がりました。
「これで幸せになれる!」
でもご存知の通り、金だけで幸せなんか掴めないんですよね。
そしてこのデパートでの経験が今の仲間作り、ひいてはお金の心配をしない生き方に役立つとは、この時の私はもちろん知る由もありませんでした。
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コメント
今のリコさんは、私の中では
メスを持たないDr.(ドクター)と勝手に
呼んでいます。
この頃のリコさんは、さながら研修医
上司、同僚や仲間の心を当時から
往診していた、ように思います。
愛を惜しみなく与えられる方
これからも、治療薬を振り撒いて
いかれると想います。
リコさんパワーは周りの人を活性化する!この頃のリコさんと一緒に働きたかった!いや、後輩になりたかった!
私の方が年上ですが。
今も昔もよく働くりこさんだなぁ〜と、思いました。「チョロい」とか仰ってますが、真面目で全力で仕事をしてる感じがよく伝わります。
そして、自分以外の誰かの為に…の精神が、元々備わっていたのですね。
そういうところが大好きです。
「コミュニケーションお化け」
確かにコミュニケーション能力が高ければ、どんなところでも働けると思います。羨ましいと思いました。
今回の話は
「個を競わせる」というのは、全体の福利としてはマイナスだよな
という部分と
反権力的で不器用だけど、上には愛されず、下には愛される。全く出世していないブロック長のために団結するというエピソードが
心に残りました。
りこさんがコミュニケーションお化けであるのは羨ましいなぁとか、自分自身が電話営業をやっていた時は仕事が嫌いだけど実家を出るためにひたすら努力でしんどかったし、それで鬱とアルコール依存症になったんだよねと思い出したり、
クラブDって、私は中3の頃にyummy(ユミー)という何を目指しているのか謎の女子高生、女子大生向けのちょっとエロめな雑誌に載ってた奴だと思いました(エロめだったのか?時代背景で性的なことは早熟な方が良いという流れだったのかは今となれば謎でした。表紙が後藤久美子さんだったような?)。
このエピソードの2、3年後の悪女(わる)って漫画がドラマになったのですが、その漫画の主人公を少し思い出しました。
頑張れば頑張るだけ結果で返ってくる、借金をしても人徳と時代がバブルだから何とかなるというのが、ボーナスが赤字になるという部分で、私だとしてもやりそうだと思いました。
でも、そもそもいきなり大胆にはやれなくて、少しづつみたいな感じに借金を膨れ上がらせそうだなと思いました。
AAの元スポンサーが性依存症とのクロスアディクションの人だったのですが、同じ行動依存だから、ギャンブル依存症の人の気持ちが分かると言ってました。ただ、コミュニケーションがどこに向いていたかの問題なのかな?と。
私の場合は人見知りだったり、コミュニケーションのためにお酒を飲んで仕事をするようになっていたので、シラフでそれが出来るのはすごいなぁと思いました。
共感が今のところはほとんど出来ないし、時代背景や舞台が東京であることを羨ましいなぁと思ったり、文章が面白いために物語として楽しんで読んでいる感じです。続きを楽しみにしております。
色々な場面を想像できる所が面白いです。
今は共依存だからだとわかるけど、当時は人のお世話して当たり前、それが親切だと信じてました。
なんか、懐かしいなと読んでいて思いました。
次回の話楽しみにしてます。
「チョロい!社会人ってなんてチョロいんだ!」
思いっきり笑える~。
そう言っているリコさんが目に見えるようだ。
「もう、こいつはバカなんで構わないで下さい」というブロック長に愛を感じるなあ。
きっとリコさんが引き寄せたんですね、素敵な上司を。
ますます目が離せない。
今回は凄く勉強になる内容でした。
私もずっと営業としてノルマを追いかける仕事をしていますが、今回の記事を読んで、仕事が辛いと思う事の方が多いのにやって来れたのは仲間や上司に恵まれてきたからだ、と振り返る事ができました。
ここ2~3年は、自分の実力と周りの実力の差にばかり目がいってしまう自分で、上司からも理解されてないなと思っていたので、自らな会社仲間の輪から外れるような態度をとってしまっていた(いじけていた)んですが、
夫のギャンブル依存症の問題で自助グループや家族会に繋がるようになり、そんな自分の問題に気づくことが出来ました。
ギャンブラーの夫と生きて行く以上、自分で自分の人生(仕事もひっくるめて)を楽しくしてける、逞しい人間になりたいです。
過去から得る教訓…というものは、この年になってしみじみ思うところ。人生の出来事すべてが繋がってくる。
あの当事、田中紀子さんと生きる世界は違えど、確かに同じバブル時代を謳歌した者として、共感の連続。多くの人との交流から得るたくさんの気づき、また仲間を思いやる気遣い、また率直に自分の思いを周りに伝えることで、私自身も本当に上司や同僚など仲間に恵まれていたことを田中紀子さんのおかげで思い出させてもらった。今振り返っても楽し過ぎたCA時代。
そんな時代を過ごしながら、今、田中紀子さんに出会えて、再び私が知らなかった当事の世界ものぞくことが出来て、この連載を読むのがとっても楽しい!皆、色々な場所で一生懸命生きてたんだな~と何処か懐かしささえ感じる。様々な時代を経て、今、世界を舞台に活躍する田中紀子さんからたくさんのことを教わりながら生きている!そのこと自体すごく楽しいし幸せ!と思える。今もどれだけ多くの人達が田中紀子さんに救われているか、と感謝の思いは尽きないけれど、あの当事だって、田中紀子さんにたくさんの人達が救われていたんだな〜。心温まりました。
痛快で爽快でめちゃくちゃおもしろい!
コミュニケーションお化けというワードに吹き出しそうになりました!
目先の利益よりも人間関係の方がよほど重要だと、リコさんはこの頃から経験していたんですね。
人間関係がいいと自分の日常が何倍も豊かに感じられます。
続きが楽しみです!
一気に読んでしまいました!今回もまた、楽しませていただきました!
多才なりこさん、尊敬しています。
過去あっての今なんですね。これからも仲間をぐいぐいひっぱっていって下さい。
連載楽しみにしています!
新入行員時代を思い出した。
毎回優秀テラーの先輩に
いつもいつも怒られていた。
残念ながら りこさんの記事のように
私は先輩から 愛を感じる事はできなかった。
愛を持って言わないと響かないんですよね。
次 りこさんはどうなるの??
続きが気になる〜
面白い!エネルギーに満ち溢れ、仕事が楽しくて、楽しくてという若い時代の話。その中で他人を蹴落とそうとか自分だけよければではなく、周りの人を気遣う愛ある生き方、今に繋がっていますね。
この先を早く読みたい!
今日もありがとうございました♪