「いつかちゃんとする」「いつでも抜け出せる」 私たちがギャンブル依存から目を背けられていた理由 ギャンマネ(26)
どんどんギャンブルに依存し、借金が膨らんでいった私と後に夫となる田中君。なぜそんな危ない状態から目を背けられていたのでしょうか?あの頃の私たちを分析します。

公開日:2025/04/23 02:03
連載名
ギャンマネさて、いよいよ本格的にギャンブルにハマっていった、私と田中君。ハタから見たら十分ヤバい状況になっていたのに、本人たちは「これは今だけ」「いつかちゃんとする」「いつでもこんな生活抜け出せる」と思っていました。
まぁ、世の中のギャンブル依存症者は、全員一度はそう思うんですけど。
では、なぜ我々の認知はあんなにも歪んでいたのでしょうか?あの頃の私たちを分析してみましょう。
「他に比べて自分たちは優秀」というプライド
まず1つ目には「他の人と比べて自分たちは優秀だ」という間違ったプライドがあったからだと思うのです。
私は、人を惑わす最たるものは「他者との比較」だと今では思っているくらいです。
以前にも書きましたが、当時の闇カジノのバイト軍団の中には、家庭環境に恵まれなかったアダルトチルドレン群がいました。
この群は、早くから親元を離れ、当時の闇カジノという破格の給料がもらえる場所でたくましく生き抜いていた人達です。当時のことですから、事情を知らない人から見れば、一見不良少年たちのようにも見えます。
ものを知らないアダルトチルドレンの若者と働いて
で、この群というのが今思えば当たり前とも思うのですが、信じられないくらいモノを知らない人たちだったんですね。
例えば、この中の一人に16歳の少年がいました。以前書いた父親違いの兄を頼って家を出てきた彼です。彼を雇うのは、もちろん18歳未満の立ち入りを禁ずる風営法違反です。
店長や部長は「ヒサシ、もし誰かに年齢を聞かれたら18歳って答えろよ。干支と西暦を暗記しておけ」と、口を酸っぱくして言われていました。「はい!わかりました」と返事は良い。でも「ヒサシって何歳?」と聞かれると「16歳です」と答えちゃう。ミッションが全く覚えられなかったんです。
あとこのバイトは、景気はよかったのですが、やはりストレスフルなので、時々社員旅行みたいなガス抜きのイベントがあったんですね。1度はケチな社長が韓国旅行に連れて行ってくれたこともありました。
この時、若いディーラーたちは、パスポートを持っていないと騒ぎ出した。
「姐御、パスポート作るのわかんないから一緒に来て!」と、若者たちに頼まれ、私が引率してあげたんですね。そこで窓口の方が「そちらの見本をみて、こちらの用紙に記入してください」と言われ、みんな紙を持って記入し始めたんです。
で、見ていたら一人のディーラーが「日本・太郎」と、見本をそのまま書き写しだしたんです。慌てて「後藤ちん、この見本をみながら、自分のことを書くんだよ。見本のまんま書いちゃダメだよ」と、教えてあげると「あっ、そういうことかぁ!」と満面の笑顔です。こっちはもう胸がきゅーんとなりますよね。この子たちを守っていかねばという気持ちに拍車がかかります。
飛行機に乗れば、「姐御、これ窓はどうやって開けるの?」なんて無邪気に聞いてくる。これも内心仰天しましたが「飛行機で窓開けたら、気圧が急に下がって死んじゃうから、みんなが間違えないように開かなくなってるんだよ」と教えてあげると、「えぇ、そうなんだぁ!俺なんか絶対開けちゃうタイプ」とまたも笑顔。
よしよし、そうだよね。窓って普通は開けるためにあるもんね。うんうん、わかるよその気持ち。という学校の先生的な気分にもなりました。
若者のみならず、部長まで常識知らず
しかも若い従業員のみならず、部長に至っては、店の太客に金を借りるというあるまじきことまでやるようになりました。ある日「りこさんへ、これをよしゆきクンにわたして下さい」と、きったない文字でメモが書いてあって、封筒には「よしゆきクン ごめんね。きのは」と書かれてお金が入っていたのです。多分「よしゆき君。ごめんね、昨日は」と書きたかったのだと思います。
私は、「なんちゅう奴だ!」と怒りにうち震えながらも、これをこのまま客に渡すことはこの店の恥だ!と思い、新しい封筒に「よしゆき様 昨日は大変申し訳ございませんでした」と書き直しお金を入れました。自慢じゃないですが、私はものすごく達筆です。
こういう仲間たちと一緒にいたので「自分はこのレベルではない。大丈夫だ」と、面倒見のいい姐御としてふるまいながら、心の中でいやらしくも値踏みをしていたと思います。
でも実際は、仲間たちより私たちの方がずっと借金が多かったんですから、向こうから見たら「何言っちゃってんの?」ですよね。
闇カジノなのに....仕事は真面目に
そして2つ目。仕事に対してはすごく真面目だったことですね。
今考えてみると、私と田中君はなぜあんなにも闇カジノのバイトに対して真面目に取り組んでいたのかわかりませんが、とにかくまるで1部上場企業の営業マンかのように私たちは真面目に働いていました。
店に来る社長たちにはユーモアを忘れずに話しかけ、熱くなりすぎないようにしながら、お金を使ってもらう。時に入り口でヤクザをやっつけ、すぐに遊びに行ってしまう店長・部長に代わって店を切り盛りする。田中君の方も、ディーラー長にも気に入られ、バイトリーダーになっていました。
何よりも、突然休んだり、バックレたりしないし、身体も丈夫。シフトが入っていれば、必ず守り遅刻もしません。
そしてこんな闇カジノにいると、みんなお金については麻痺してくる。客と組んで金を抜いたりと、悪さをする奴らは沢山いましたし、実際やろうと思えば何でもできたと思います。でも、私たちは経理に関してもきっちりと間違いなく計算し、ごまかさずに1円単位まで報告していたんです。
「環境のせい」と、依存しているのを否認
そして3つ目は、環境のせいだと思っていたことです。
こんな特殊な闇カジノなんかでバイトしているから、今は借金だらけだけれども、カタギの仕事をすれば真面目になるし、ギャンブルからも足を洗えると思っていました。
いつでもやめられるんだけど、今は新しい世界観が面白くて仕方がないから、もう少し楽しもう。
大丈夫カタギになれば、我々クラスは十分社会で通用する人間になるんだからさ。
だって、今までだってちゃんと社会人としてやってきたんだもん。またそこに戻ればいいだけじゃん。でも、今じゃないの。今はもう少しこの暮らしがしたいんだよね。大丈夫、借金なんてあったってなんの問題もない。むしろ借金はあるのが当たり前だよね。借金は返せていれば自分のお金と同じ事じゃん。前借にすぎないもんね。借金は返せなくなるのは問題だけど、返せているなら何の問題もないよね。
それにさ、お店も人手不足だし。私や田中君がいなくなったら回らなくなっちゃうよね。この店を仕切る人もいなくなっちゃう。店長や部長は頼りにならないし、今は、私たちは辞められないよね。
まっ、こんなことを考えていましたね。
つまり否認しているギャンブラーそのものです。
普通の企業に勤めているギャンブラーも、大体同じようなことを言います。
自助グループに1~2回来ても「俺は、こんな奴らとは違う」と思ってこなくなってししまう。自分は仕事ができる、だからどこでもやっていけるし、だらしなくて、頭が悪くて、使えないギャンブラーなんかじゃないと思う。そして「会社に迷惑はかけられない」「今、自分が抜けたら仕事が回らない」などと環境のせいにして、施設や自助グループ、病院に繋がろうとしない。
はい、我々もそうだったんです。
結局ですね、元気なうちは否認するんですよね。
弱り目が変わり目 自尊心が削られて
借金していても、他人に怒られたり、あきれられたりしても、自分でまだ何とかなると思っているうちは、やり続けるんです。逆に借金が減ってきてもですよ、生活に疲れ切ったりしてくると、「もういい加減変わりたいかも」と思えるようになるんですよね。
弱った時が変わり目なんです。この「もういい加減こんな生活は嫌だ」と、早めに思えること、ギャンブル依存症者を助けるためにはここが要なんです。
そのためには金銭トラブルを自分で体感することが重要です。
我々もそうでした。学歴だって、社会常識だって、就労経験だって自分の方がずっと上だとプライド高く思ってるわけですよ。でもそんな同僚たちにですよ「姐御、せっかく働いた金、博打に使うなんてばかばかしくないの?」と、バニーガールの女子大生に蔑まれた目で見られる。日本・太郎とパスポート申請書に書いちゃうディーラーに「もう、いい加減ヤバくないっす?自分はもう博打やめましたよ」と言われる日が来る。
さらには、我々があまりに借金しまくっていたため、(特に田中君がですが)あの仕事もしない、どうしようもない店長・部長にまで「田中カップルはもう他のカジノに行くこと禁止!」などと言われてしまうようになっていくのです。
こういうことで自尊心をすり減らしていくことが、段々ボディブローが効いてくるんですよ。そして本当に身を粉にして働いているのに、まったく1銭も手元に残らない。さすがに3年もそんな暮らしを続けていると、心身共に疲れてきます。
楽しくも、元気もなくなっていくんです。
そして段々と闇カジノにうんざりするようなとんでもない事件が起こるようになり、私たちはこの暮らしに見切りをつけるのですが、それはまた次回に!
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コメント
間違ったプライドはギャンブラーの母の立場の私にもありました。
歯切れ良く、体験が書かれていていつも読むのが楽しみです。
仕事は真面目にする、はギャンブラーの家族が一様に感じていたこと。
またまた、次の展開が待たれます。
「他者との比較」
私もアカンと思いつつやってしまってます。
今回も名文でした!
ギャンブル依存症の当事者です。
共感しかありません!
闇カジノから現在はオンラインカジノと恐ろしい時代になりました。未来の人達へ被害が拡がらないよう今後予防対策を進めていって欲しい願います。
ギャンブル依存症の人が自助グループに参加し始めたばかりの頃によく口にするのが、「俺はこいつらとは違う。俺のほうがまだマシだ」という言葉です。でも、いずれそれが間違いだったと気づくようになるんですよね。
次回のりこさんの“底付き体験”、とても興味深いです。
やったー最新号、と思ったら、今回胸に刺さる!
他人と比べるのがまぁやめられないでいます。
本当の自分を受け入れられれば、いちいち比較して一喜一憂せず、ランキングの中に身を置かずとも生きられるのに!
でも、りこさんにも似たような苦しみを抱えた時代があったと思うと、変われる未来を信じてみようと思えます。次回もまた楽しみです。
田中さんはいつもギャンブラーの気持ちを代弁して、当事者はみんな「そうなんです」と言っている。今の田中さんしか知らないから、ホントにギャンブラーだったんだなと納得。それにしても、同じようにギャンブルをする職場の人たちが揃ってやめた方がいいと言うぐらい、依存症になると周りが見えなくなるんだな。そんな風に思うんだな。とすごくギャンブラーの心理が理解できた気がします。続きが楽しみです。
私も、「他人とは違う、私はできる」と、他人をどこかで蔑んでた…自分はあの人より大丈夫って思わないと、自分が保てないんですよね。無意識にいつもそうしてる自分に気がついた時に、胸がぎゅっとなりました。
なるほどー。自分は違うと感じていたんですねー。ギャンブラーの息子も病院やクリニックで先生に当事者のミーティングにでることを勧められても頑なに拒否してました。否認の病ですね。
リコさんの姐御っぷりが逞しく面白すぎて大笑いしちゃいました。ギャンブラーの思考がよ〜くわかりました。リコさんがこのようなとんでもない人生を歩んで来たのに、見事に回復して、今どれだけ多くの方を救い回復に導いているかと考えるだけで、リコさんの使命の偉大さを感じます。すべてはハイヤーパワーに導かれてのことなのでしょう。こんな面白くてスリリングな体験、そうそうしたくても出来るものではありません。そして今この病と闘っている当事者や家族がどれだけ励まされ勇気をもらえていることでしょう。書籍化ドラマ化映画化!心から願っています!
『闇カジノの旅行第二弾は済州島』
に少し笑えました。
仕事では笑えない状況で、
ガス抜き旅行はなんてキラキラした写真なんでしょうか…
お仕事依存症の人も同じと思いました。
私がいなければ、職場が回らない
私がいなければ、周りがきっと困る
親切心から自分自身を
いつのまにか疲れさせてしまうんですね
我慢が無力なんですね、われわれ。
ユーモアを忘れず、お客さんに話しかけ、熱くなりすぎないようにしながら、お金を使ってもらう。店長・部長に代わって店を切り盛りする。突然休んだりしない。シフトを守り遅刻もしない。サービス業の基本が徹底している。ギャンブル依存症は否認の病と言われますが、否認したくなるような事実が、たくさんあるということなんだと思いました。同時に、自尊心を無くしていくこともとても印象に残りました。日本・太郎のエピソードは愛おしいと思いました。
とんでもない事件!次回は何が起こるのか楽しみ。
家族側の私も認知の歪みがあるよなぁ。
私もまだ大丈夫と思い込んだり、環境のせいにもした。
家からお金が無くなっていく恐怖。安心できない生活。いつもいつもギャンブラーの機嫌をうかがう、行動監視、鞄や服を漁る。
そんな生活でも「子どもはパパが好きだから」とか「両親揃っているのがいい家族」という幻想を手放せなかった。
「もういい加減こんな生活は嫌だ」と私も思えるようになってよかったです。
ギャンブラーの否認の心理が手に取るように分かりました。
うちのギャンブラーも充分ヤバいのに、大丈夫だと思ってます。
闇カジノで起こる事件、なんだろう!?続きが早くも気になります!
回復し続けている人の自己分析ほど説得力のある病気の解説は無いですね。
しかも病態が凄まじい。病気を認め易くなり回復への覚醒も起きやすいと思います。
連載から目が離せない。連載が終わる前から映画化のオファーが来る予感がします。