Addiction Report (アディクションレポート)

求めても決して愛してくれなかった母 そして心は壊れていった

きょうだいの中で長女の遠野なぎこさんだけには冷たく当たりながら、自身と一体化して見ていた母。そんな母の愛を求めて、遠野さんは徐々に心を壊していきます。

求めても決して愛してくれなかった母 そして心は壊れていった
母から愛されたくても愛されなかったつらさを語る遠野なぎこさん(撮影・後藤勝)

公開日:2024/04/11 02:11

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摂食障害や醜形恐怖症、強迫性障害などを抱えていることをオープンにし、同じ悩みを持つ人たちを励ます発信を続けている女優の遠野なぎこさん。

その心身の不調は、子供時代に受けた母親からの虐待が影響しています。

どんな経験だったのでしょうか?3回連載の2回目。【編集長・岩永直子】

【1回目】虐待され、食べ吐きを母から教わって 「一人じゃないよ」と苦しむ仲間に伝えたい

自分にだけつらく当たる母 「私たち」と一体化

——子供時代の虐待について伺います。弟や妹はむしろ可愛がっていたのに、長女の遠野さんだけにつらく当たっていたのですね。

弟や妹には普通に接していました。私に関しては「私たち」という主語をよく使っていました。

——遠野さんを一体化して見ていた。

常に「私たち」と一括りにする。顔は似ていないです。私は猫系で、あちらはたぬき系だった気がします。「私たち」と言っていたのは、共依存があったのではないでしょうか。

大人になってからはそれが怖くなりました。「私たちじゃない、私は私だ」と思い出してきて、それに抵抗が出てきた時期が縁を切ろうと思った時期と重なります。

——「私たち」という主語を使う時、その後にどんな言葉が続くのですか?

なんでも使います。「私たちそういう人間じゃん?」とか、「私たちに似合う色だよ」とか「私たち、さみしがりやじゃん」とか。

——そういう意味では一番近しいけれど、一番近しいからこそ......

許せないのかもしれません。タイプは全然違うのです。彼女は自分のことを花に例えると、「かすみ草」と言うような女でした。私は間違ってもそんなことはおこがましくて言えない。「花でもなんでもないわ、その辺に生えている草だよ」と言うタイプです。どうしてそういうことを言うんだろうと思っていました。

——お母さんは言葉だけでなく身体的な暴力も振るっていました。鼻血が出るまで殴って、洗面器で血を受けさせていたと本に体験を書かれていますが、恐ろしい光景です。

今考えるとそうですよね。でもその時は全然怖くなかったんです。今でもその感覚を覚えていますけれど、殴られて家の部屋の角のところにうずくまっているとうっとりしてしまう。母に構ってもらえているからです。

——どういうスイッチが入るとお母さんは殴っていたんですか?

私が不安定になったり、学校行きたくないと言ったり、買い物に行けとかご飯を作れと言われても言うことを聞かなかったりする時に、殴っていました。引きずられて、真っ暗にしたトイレに閉じ込められたりもしました。子供心にただただ恐怖でしかなかった。

下の子の面倒をみなくても怒られていました。中学に入った頃から、不倫相手との行為の話を私が聞いてあげない時も暴力を振るわれていました。

性的なものを子供に見せる母

——不倫相手との話を長女である遠野さんだけに言っていたのですよね。

付き合いが長くなると家にも連れてきていたのですが、生々しい話は私にしかしていませんでした。子供を堕ろしたとか、不倫相手の性器の画像を見せるとかです。

——子供にそれを見せるのはおかしいですよね。

びっくりします。怖いし、気持ち悪い。だってこちらは子供だから何を見せられているかわからないんです。何、これ?この状態と思って。でも「すごいね」と言わないと機嫌を損ねるから、そう言わなければいけない。

母は弟にも裸になって股のところを見せたりしていました。吐き気がしました。ふざけてやっていたのですが、ふざけているうちに入らない。それでも私たちは笑って見ていなければなりませんでした。そういう性的なことにこだわりがある人でした。

——お父さんはそれに対して何も言わないのですか?

その時はもう父はいませんでした。父がいた頃はそういうことはしていなかった。そもそも父は家に帰ってきませんでした。サラ金に手を出したり、酒を飲んだりして、母の話によると薬もやっていたようです。

ヤングケアラー 小学生の頃から下の子の世話

——両親ともそんな感じで、家は落ち着ける場所ではなかったのですね。

そうですね。中学の時は学校に行くふりをして、母が仕事に出かけたら戻ってきて、屋根裏に潜んでいました。誰もいない家に一人でいて、やっと落ち着けた。

夕方からは下の子たちの面倒をみていました。私は母が19歳の時に産んだ子でその3年後に弟が、さらに2年後に妹が、その下に12歳下の一番下の妹が生まれました。両親は私が小学5年生の時に離婚し、母は働きに出て家事をしない。私は小学生の頃から、みんなのご飯を作っていました。

でも子供だからうまくできないこともある。たとえば、下の子の誕生日会のプレゼントも私が用意をしていたのですが、弟に女の子っぽいものを持たせてしまったことがありました。弟は用意したプレゼントを持ち帰ってきました。

「からかわれた?」と聞くと、「大丈夫だよ」と笑って答えたのが今でもトラウマです。「私ってだめだ、親にはなれない」と悔しかった。今でも思い出すと泣きそうになります。

——でもそれは本来子供である遠野さんが抱えなくていいことですよね。ヤングケアラーだったと思うのですが。

そうですね。16歳から一人暮らしを始めたのですが、ひと回り下の妹をうちから小学校に通わせていました。実家は誰も家事をする人がいないから、ご飯を作って、お風呂に入れて寝かせて、という感じでしたね。

——そういう自分を当時はどう思っていたのですか?

撮影・後藤勝

当たり前だと思っていました。なんの疑問も持たなかった。下の子たちを一人にはさせたくなかったので、母のような感覚でした。動物園にも一人で連れていってあげました。

でも母が3人目の人と再婚するタイミングで、私以外のみんなが、その人の籍に入ったことで目が覚めました。私は母にはなれないんだと。すごく悲しかったですが、「みんな裏切った」と思ってすごくつらかったです。どれだけ面倒をみてきたと思っているんだよ、と。無力感でいっぱいでした。

助けてくれない大人たち

——親からそういう暴力を受け、ネグレクトで自分が家事を一手に引き受けていた時、誰か親戚とか、学校の先生とか相談できる人はいなかったですか?

家の中のことだから誰もみていない。虐待とかネグレクトという言葉も当時は身近ではありません。親は一番身近な大人でその人を信じられないのに、学校の先生なんか絶対相談できないし、親のことを売るわけにもいかない。

一番下の妹を中学生の私がおんぶして保育園に送り迎えしていたこともあるのですから、異様ですよね。そんな子を見たら、私だったら通報するかもしれない。でもそんな姿を見ても誰も何も通報もしてくれなかった。そういう時代だったんです。

髪の毛もぐしゃぐしゃでご飯を食べさせてもらえない痩せっぽちだった時も、誰も声もかけてくれなかった。1回だけ、私以外のきょうだいを連れて母が青森の実家に帰った時、近所のおばさんが炊飯器のご飯にもカビが生えているのを見つけてくれました。

何も食べるものがない状態が何日か続いていて、学校にも来ないのを心配した同級生のお母さんでした。小学校低学年の頃です。

今だったら、間違いでもいいから周りが通報しなければいけない案件ですよね。

母の嫉妬

——芸能界の仕事についても、最初は妹や弟が子役として劇団で活動していて、お母さんは遠野さんのことは入れようとしていませんでした。劇団のレッスンについていった時に、スカウトされたのですよね。

母も意外そうな顔をしていました。私のことを醜いと思っているからです。私も「母に認めてもらうのだったら」という気持ちだけが強くて、元々芝居に興味はありませんでした。でもオーディション受けたら受かるし、子役タレントはシビアだから事務所の子役名鑑でも有望な子は最初の方のページに載せられるんです。宣材写真もタダになる。

私は最初の方に載せてもらえて母も喜んでいたので、小学校1年生から電車でオーディションに通うようになりました。絶対勝ち取りたいと思っていました。

——勝ち取りたい、というのはお母さんに認められたいという思いですか?

もちろんそうです。

撮影・後藤勝

——お母さんは自分も女優になりたかったのですよね。

そうみたいですね。

——自分が憧れていた世界で遠野さんが認められていくのを喜びながらも、足を引っ張るようなことをしていたそうですね。

そうなんです。人には自慢したがるのです。自分の働いているスナックに朝ドラのポスターを貼ったりする。でもそれは周りに見せたいだけ。それ以外では私の粗ばかり探す人でした。たとえば新しい洋服を買って来ていくと、「太って見える」と笑う。褒めてくれるのに、突き落とすのも好きなんです。

——嫉妬心があったのですかね。

そうだと思います。当時は嫌な気持ちにはなっていたけれど、嫉妬とは気づかなかった。愛されていると信じたかったのでしょうね。

今もみる下の子たちを守る悪夢

——弟さんとは今も仲良くしていらっしゃるんですよね。

皮肉なことに、2022年5月に母が死んだのをきっかけにまた付き合うようになりました。母が自殺した時、事務所に連絡がきて、こういうことになったと言われたのです。母は再婚相手ががんで亡くなった翌日、自殺しました。それを発見したのが弟です。

弟は今も深い傷を負っていますが、今ではふざけた話もできる関係になっています。「俺らって双子みたいなもんじゃん」というその一言だけで、「一緒に頑張ってきたね」って言える。やっぱり可愛くてたまらないのです。もう41歳のおっさんなんですが。

私は弟にした仕打ちを考えても母のことは許せない。あの子を傷つけたのだから。許されることじゃない。地獄に堕ちろと思っています。

——今も虐待されていたことがフラッシュバックすることはあるのですか?

夢にはみます。下の子たちを必死に守っている夢を定期的にみます。それが母なのか何かわからないのですが、悪魔のような存在から壁になって守っている。落ちそうになっていたり、溺れそうになっていたりするのを必死に引き上げている夢はよくみます。

——自分を守る夢じゃなくて、下の子を守る夢なのですね。

そうです。

——先ほどから下の子の面倒をみるとか、下の子を守る、ということばかりで、自分を守る感覚があまりなかったのですね。

ないですね。

——だってこの家族の中で一番大変な思いをしているのは遠野さんだったのに。

でもあまり自分が不幸だと思ったことはなくて、割と勝ち組だと思っているんです。もちろん傷は負っていますよ。だから病院にも通っているし、人と違うところがあるのも自覚しています。

だけどそういう感性があるから芸能界の仕事にも入れたし、「遠野なぎこ」という人になれたわけだから、不幸だと思ったことは一度もない。ということは幸せなのだと思います。

(12日公開の3回目に続く)

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コメント

7ヶ月前
しえ

遠野さんの本は読んだ事はありませんでした。テレビやインスタでなんとなく遠野さんについての勝手なイメージを持っていました。

精神的な病気については周りに患者さんは増えていますが身近に情報がなかったので正しい認識を持つにはこういう情報発信はありがたいと思います。

今この瞬間にも同じような辛い目にあっている子供がいるかもしれない、身近にそのような状況に置かれた子供がいるかもしれないと常にアンテナを張り、できることをしたいと思いました。また自分も子供に同じような思いをさせていないか、改めて考える必要があると感じました。

親が何気なくしている事が子供の一生に傷をつける可能性があることを心に留めて生きていきたい。

そしてこれからも、遠野さんの投稿を拝見しながら、陰ながら彼女の幸せを願い応援して行きたい。

辛かった日々の記憶が少しでも薄れ、幸せな記憶で埋め尽くされるといいなと思います。

明日の投稿もまた読ませて頂きます。

7ヶ月前
猫ちゃんLOVE

よく話してくれました。このインタビューを読んで私、気持ちが楽になりました。私も遠野さんも生きていて良かった。

7ヶ月前
ヨーコ

遠野さん、こんなに話してくださってありがどうございます。お話聞いて丁寧に書き起こしてくださった岩永記者にも感謝を。遠野さんが今この世に生きてくださっていることが希望です。

7ヶ月前
はな

遠野さんには失礼な事かも知れませんが、読んでいて何度も涙が溢れそうになりました。

いろんなエピソードを聞いたり読んだりしたことがありましたが、インタビュー形式のこの記事を読むと、まるで遠野さんの声が聞こえてくるようで、その壮絶な様子がまざまざと目に浮かぶようです。。。

幼かった遠野さんが、誰にも守られていなかった事が悔しくてなりません。

7ヶ月前
キャサリン

大なり小なり母娘の葛藤を経験を持つ人は多い。私にもある。

しかしながら、1回目に続き遠野さんの想像を絶するお話しにずっと痛みを感じながら読みました。

「不幸だと思ったことは一度もない。ということは幸せなのだと思います。」

最後の言葉に、母の娘であり、子どもたちの母である私は、なんだかうろたえてしまっています。

3回目が待たれます。

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