心の穴を男性で埋めて 「人を愛したいのに、愛するのが怖い」
不調を今も抱えながらも、新しい仕事に前を向く遠野なぎこさん。短い結婚生活の理由や今後やりたいことについても聞きました。
公開日:2024/04/12 02:10
幼い頃からの虐待で徐々に心が病んでいった遠野なぎこさん。
15歳の時に出演したドラマをきっかけに精神を病み、今も不調は続いている。
それでも前を向いて歩く遠野さんの現在の心境を聞いた。3回連載の最終回。【編集長・岩永直子】
15歳でドラマをきっかけに精神を病む
——15歳の時に出演したドラマ『未成年』をきっかけに精神を病み、3年間休業したことを著書で書かれています。これが心が折れたきっかけだったのでしょうか。
きっかけにはなったと思います。ただ、すべてドラマのせいにするつもりはないです。監督も厳しい人で、ベッドシーンも「いつも通りやれよ」と言われたのですが、その時、私は処女で経験もなかった。ドラマでのキスシーンが、私の初めてのキスでした。
今振り返ると、援助交際をする女の子の役で、母親との確執も描いたドラマだったんです。でもドラマのせいというより、既に心がギリギリだったのだと思います。
——最後の1滴でコップの水が溢れたわけですね。
そうだと思います。それである日、違うドラマの時に母の精神薬をオーバードーズ(過量服薬)してしまったんですね。目が覚めたら病院で、ドクターストップがかかりました。「もう無理です」と事務所にも言われて、3年間お休みしました。
——精神を病んだ一方で、演じることの面白さにも開眼されたと書かれています。女優として別の人生を生きられる面白さなのでしょうか?
そういうところが面白いというより、誰かに求められたいのだと思います。撮影現場は、自分が自然に呼吸ができる場所です。人間は誰でも承認欲求がありますけれど、人間が生きる上で必要なものなのだと思います。
その承認を与えてくれるのが、私にとっては演技の現場なのだと思います。「遠野なぎこ」でいたかった。醜い「アキミ(遠野さんの本名)」ではなく。そこに行けば、自分の居場所があった。
だからドクターストップがかけられると、心がボロボロになりました。
——自殺未遂については「お母さんがこれで悲しむのではないか」と、母の愛情を求めて死のうとしたとも本に書かれています。
全部そうです。むしろ仕事で苦しんだことが理由ではない。でも母は病院にも来てくれなかった。
——今の自分から振り返るとどう思います?
「そんなことをしても無駄だよ」と自分に言いたいです。だって結果をもう知っていますからね。どうやったって子供に愛情はくれない人なわけで、さみしい、悔しいは一切思いませんでした。ふざけんなと思っただけでした。
ほら、これが結論でしょ?私が言ってきたことは虚言でもなんでもないでしょ?こんな身勝手な女なんですよ、と世間の人に知ってもらいたいと思いました。自分のことしか考えていない人でしょ?って。そこで母と決別することを決め、家を出て一人暮らしを始めたのです。
16歳で家を出て、アルバイトを何十個もやって生活しながら、いつか復帰しようと考えていました。
朝ドラで女優業復帰
——3年休んで、NHKの朝ドラで復活する。いきなりすごいですね。
それはちょっと自慢です。自分でも持ってるなと思います。何も演技の準備をしていたわけではありませんでした。休んでいた3年間は今までできなかったことをしようと、髪をベリーショートにして、金髪にして、男の子と付き合って、悪いこともいっぱいしていました。
「朝ドラは身辺調査入りますよ」と所属事務所にも言われたのですが、案外大丈夫じゃんと思っていました。
——実家から離れた頃から今度は男性依存が始まったということなのでしょうか?
依存はしていないんですよ。母を反面教師として、一人の人に母のように依存するのは嫌でした。だから色々な男の人と付き合いましたけど、一人の人にべったりはしませんでした。母と同じになりたくないという気持ちが強かったです。
心の穴を男性で埋める
——男性と付き合うことを「お腹に空いた穴を埋める行為」と本の中で表現されています。
それは今でも続いています。さみしいんです。心の穴です。誰かに求められていたいのだと思います。それで埋まらないのですけれどもね。埋まらないことはわかりきっているんですけれど。
一人も好きだし、男性に溺れもしない。今も彼がいるけれど、別に溺れてはいません。
——男性の方が遠野さんを好きになった頃に、一方的に別れを告げることを繰り返してもいます。それは愛を求めても得られなかった母への復讐とも書かれています。
そういう時期もあったかもしれません。でも今はそんなことはないです。あまり相手をしてくれないとさみしくなっちゃうのですね。
——朝ドラの時期も男性と遊ぶことを繰り返していたのですね。
よくバレなかったなと思います。あれはストレスが原因ですよ。大変すぎてやっていられない。でも若くてエネルギーがあるから、男性で発散していたんですね。好きな人が現場にいないと、ちょっと裏に連れていって「遊ぼう」と誘っていました。
俳優さんもスタッフさんにも行っていました。日本一ヤバい朝ドラヒロインですよ(笑)。朝ドラのヒロインは出ずっぱりだから楽屋がないのが伝統だったのですが、私の時になぜか誰かが用意してくれました。そこで鍵をかけて、そこで何をしていたのか(笑)。
付き合うと結婚したくなるが、息苦しくなる
——その後、様々な精神症状も発症するわけですが、治療は続けていらっしゃるのですね。
15歳の頃から色々なクリニックを渡り歩いています。今行っているところは1年ちょっとで一番相性がいいです。
——短い結婚生活も繰り返してきました。それぞれ違う理由があるのだとは思いますが、なぜこんなに短くなるのでしょうね。家庭を築きたかったのでしょうか?
元々結婚願望はないのです。でもお付き合いするとなぜか結婚したくなってしまう。でも別居は続けたいし、家庭を築く感覚は理解できない。なぜならば家庭を持ったことがないからです。
人とずっと一緒にいると息苦しくなってしまうし、夫は全員一般の人でしたから、具体的には言えませんけれど、全て違う理由があります。世間の人に笑われても仕方ないですが、文句を言われる筋合いはないなと思って生きています。
迷惑をかけた事務所の社長には申し訳ないと思っているし、なるべくもう結婚はやめようと思っていますが、またしちゃうんだろうなとも思っています(笑)。したくなっちゃうんですよ。
——なぜなのですかね?所属するところが欲しくなる?
所属って言わないで〜(笑)。形が欲しくなるのかな。この歳だから子供目的でもないし、あまり会わなくてもいいからその人の苗字になりたかったりします。それでも相手の金銭的な問題など、短い間に色々出てきてしまうことが多いですね。
——どちらから別れを告げるのですか?
ドクターストップがかかったりしています。
——結婚にもドクターストップ?
よっぽどですよね。付き合うと摂食障害が良くなるんです。結婚の一番大きなきっかけはそれです。感動しちゃう。過食嘔吐がピタッと止まる。なのに、結婚すると元に戻ったり、悪化したりする。病気に振り回されたことも離婚の理由の一つです。
相手の家族との関係の築き方もよくわからないし、要求も増えてしまう。一緒に暮らすのが嫌なことが相手から理解されない。そういうのが繰り返されたことも原因の一つです。
——なぜ一緒に暮らしたくないのですか?
私の家は私のものだから、入ってこないでほしい。入ってきてくれてもいいのだけど、侵さないでほしい。私の家は私と猫ちゃんのもので乱されたくない。近所に住んでもらうのは構わないので、私の家で勝手に行動をとらないでほしいんです。
キッチンにも入ってほしくないし、冷蔵庫も勝手に開けてほしくない。
——でも苗字は変えたいのですよね。
どうせ別れるから全部は変えないです。去年の3回目の結婚は2週間だったから大変だたのですが、マイナンバーと保険証しか変えていなかったから手続きはすごく簡単でした。あっという間に元に戻りました。
——笑
区役所の人に「またこの人来た」って思われて、え?って言われたんです。あっという間でした。
——初回の結婚は離婚届を同時に書いてもらったということでしたが、2回目も3回目もそうだったのですか?
そうです。機嫌のいい時に書いてもらって、事務所に保管してもらっていました。2週間後に一人で出しに行きました。LINEをずっと未読スルーされていたので、「もう出しますよ」と告げて、出しました。不受理届も出ていなかったので助かりました。
相手を愛することができない
——そんな思いをしてもまた結婚したくなっちゃうんですね。
好きだとそうですね。
——今お付き合いしている人とも結婚したくなっているのですか?
相手が忙しくてあまり会えないんですよ。だからマッチングアプリもやっちゃう。でも悪さはしていないです。ご飯を一緒に食べるぐらい。昨日も一昨日も梅干ししか食べていないので、「一緒に飲める人いますか?」と募集をかけてしまうんです。
でも明日、精神科の先生に相談します。「マッチングアプリ依存症からどうやったら抜けられますか?」って(笑)。
——相手の男性を「愛する」ことがしづらいのですか?
相手を愛する、という感情は持ったことがない。猫ちゃん以外に愛したことがない。愛するという感情は知っています。私は猫ちゃんに命もあげられる。今でも。でもこの感情を人間に対して持ったことが一度もないんです。
愛されたことのない人って、愛することがわからないんですよ。愛してみたいけど、愛するのが怖いのかもしれない。愛してしまったら、愛されなかった時に壊れてしまうのではないかという思いがあるのかもしれません。
弟のことは愛しているのかもしれませんが、認めたくはないし、弟には弟の家族があるから怖いのだと思います。猫ちゃんたちへの愛は本物だと思います。
——でも怖いかもしれないけれど、傷つくかもしれないけれど、愛したいという気持ちはあるのですか?
もうここまで来たらいい。だって傷ついた時の自分のメンタルを面倒見切れないです。ストーカーのようになったり、依存したりしたら、母みたいになってしまう。母のようにはなりたくないです。
——その呪縛があるのですね。
ずっとあるんじゃないですか。だから子供も作らなかったし、作りたいとも思いませんでした。愛しすぎたらどうしようと思っていましたから。異常に母性が強いんです。人の子供を見るだけで可愛くて泣けてくるんです。赤ちゃんが大好きなんです。
でも作らなくてよかったと思います。愛し過ぎて何もできない子供になっちゃったと思います。
——欲しいなと思ったことは?
迷ったことはあります。結婚した時に。だけど結果的にやめてよかったと思います。動物に対する愛は無償の愛じゃないですか。いくら愛したっていい。だから私はにゃんこともう一回暮らしたいなとは思っています。もう少し体力がついたら。
亡くなった時はもう一生無理だと思ったんです。愛し過ぎて別れがつら過ぎたから。拒食症も酷くなりましたし。でももう一回ママに戻りたい。そうしたらマッチングアプリ依存症から治るかなと思います。今、異常ですもの。この1年半、100人ぐらい会っている(笑)。
人と愛し愛されることは贅沢 全部手に入る人なんていない
——今40代半ばで日本の女性の平均寿命が87歳だとすると、これだけさびしんぼうだと、この先、一緒に過ごせるパートナーが欲しいと思いませんか?
そんなに生きないと思います。自分がおばあさんとなった姿は想像できないですもの。早くおしまいでいい。もう十分色々な経験をしたもの。あとは老けていくだけでしょう?もう十分面白かった。
もし死ぬんだったら、「幸せでした」と書き残して死ぬと思います。なんの悔いもないです。女優もできたし、バラエティもできたし、恋も結婚もできたし、にゃんこたちに会えた。お金もちゃんとある。
——でもお母さんの愛情をずっと求めたけれど得られなかった。
でも私は猫ちゃんを愛することができた。ゆうくんとれんくんという男の子たちです。
——人間と愛し愛されたいと思いませんか?
贅沢でしょう。そんなのは。全部手に入れられる人なんていないですよ。もう私は十分。あと数年、女でいられたらそれでいいです。
——お母さんが亡くなった時も悲しくなかったとおっしゃっていますが、お母さんの携帯にずっと出演番組を送っていらしたんですよね。
30代の頃までは一方的にずっと送っていました。
——返信はないのにそれでも送り続けたのは、お母さんの愛情を求め続けていたのではないですか?
求めていましたよ。母の再婚相手が「もうかけてくれるな」と言ってきたから、そこでやめました。私も母を責めていたりしましたから。「病気にしてくれてどうしてくれるんだ」と。
「ずっと手を繋いで歩いていこう」
——今は不調の時もあるけれど、ある程度症状もコントロールできているのですよね。
摂食障害はコントロールはできていないです。でも栄養ドリンクを処方してもらって、それでカロリーはとっています。でも主治医はゆっくり考えていきましょうと言ってくれています。今後はカウンセリングも含めて考えていきたいです。
希死念慮はたまに起きますね。でも母と同じことはしたくない。
——どうやって死にたいという気持ちから逃れているんですか?
泣く。睡眠薬を飲んで寝る。インスタを更新する時もあります。「一緒にいようね、みんな。私はこれぐらいつらいよ」と書くことが自分をつなぎ止めている。でも昔買ったロープとかは捨てられない。しないですよ。
——お守りがわりですね。
そうです。そういう人は結構多いです。それも私ですから。この1~2年は結構落ちていました。コロナ禍で仕事が減りもしましたから。でも神様は見ていてくれるから、戦う時期なのだろうと思います。
——今後、してみたい仕事はありますか?
なんでもしたいです。来るものはほぼ拒まずです。役者業もバラエティも振り幅があった方がいい。役者業は子供の頃からやってきたことだから、いつでも忘れずにできることです。芝居力が落ちることはないと確信しています。
バラエティなど自分の気持ちを伝える仕事は14、15年ぐらいしかしていないので、やりたい。誤解されてきたところもたくさんあるので、そういう印象を変えていけたらいいなと思います。
こういう障害や病気の啓発は、一人でも救われる人がいたらいいなと思うし、生きやすい世の中になってくれたらいいなと思うから、続けていきたいです。
——最後に同じように苦しんでいる人に一言お願いします。
「一人じゃないよ」って伝えたいです。孤独感を感じると思うのですが、一人じゃないし、私も一緒に戦うし、それでも仕事をして笑顔でいる姿を見てほしい。ずっと暗闇の中に居続けるわけではないから、ずっと手を繋いで歩いていこうねと伝えたいです。
だから仕事も頑張りたい。病気と共存しながら仕事もできるんだと伝えたい。病気は敵ではありません。自分の一部で個性でもある。抱え込まないで私のInstagramでもよければコメントしてほしいし、返せる時は返します。
おうちの中で膝を抱えて泣かないでほしいな、と伝えたいですね。
(終わり)
関連記事
【遠野なぎこさんインタビュー特集】
コメント
同じ境遇にいる人達の希望です。勇気ある発信、遠野さんの思いが伝わってきました。遠野さんにはたくさんの使命がある!これからも遠野さんにしか出来ない使命を果たし続けて、こんな素敵な美しいおばあちゃんいるんだ!って私達に思わせて欲しい!!
素晴らしいインタビューでした。
遠野さんほどではもちろんないのですが同じような境遇で私も病気と戦っています。症状だけじゃなく、偏見や差別の言葉をネットで見て「たまたま母の元にうまれただけなのに」と辛く思う時もあります。ネットでこの記事を読めたことを、とても嬉しく思います。インターネットはこうであって欲しい。
遠野さんは
同じ苦しみを抱える人や遠野さんご自身への愛を感じました。あまりに壮絶なエピソードに読んでいて胸が苦しくなりつつも引き込まれました。「病気は敵ではありません。自分の一部で個性でもある」とても心に残りました。私もそんな自分になりたいです。
遠野なぎこさんの抱えているものがすごく複雑だなと感じました。
ご自身の気持ちに誠実に語られていることがすごく伝わってきて。。
困っている誰かの為に発信し、エールを送り続ける遠野さんを私は応援したいです。