虐待され、食べ吐きを母から教わって 「一人じゃないよ」と苦しむ仲間に伝えたい
SNSやメディアで摂食障害などの不調について積極的に発信している女優の遠野なぎこさん。どんな思いで伝えているのでしょうか?
公開日:2024/04/10 02:00
子役デビュー後、NHK朝の連続テレビ小説のヒロインともなって、女優として活躍してきた遠野なぎこさん(44)。
だがその陰で母親からの虐待、摂食障害や強迫性障害、パニック障害などに苦しんできた。
メディアで積極的に自身の過酷な半生について語り、SNSでは同じつらさを抱える人たちとの交流も行っているのはなぜか。
Addiction Reportは遠野さんに話を聞いた。3回連載の1回目。【編集長・岩永直子】
苦しむ仲間に「一人じゃないよ」と伝えたい
——最近はどんなお仕事を?
最近ではこういうインタビューがすごく増え、MX(東京メトロポリタンテレビジョン)でコメンテーターの仕事もしています。
——女優さんとしてのお仕事は?
昨年末にNetflixのドラマを撮影して、公開を待っているところです。
——摂食障害や強迫性障害など、ご自身の体調不良について積極的に発信しているのはなぜですか?
母との関係や摂食障害について書いた本(『一度も愛してくれなかった母へ、一度も愛せなかった男たちへ』(ブックマン社、2013年)『摂食障害。食べて、吐いて、死にたくて。』(同、2014年)を出したのが10年ぐらい前です。
それが夢だったんです。摂食障害になってしまったならば、必ず公表して苦しんでいる人の力になりたいと思っていました。
どんな病気でも、孤独感に陥ることが一番良くない。私自身が欲しかった仲間や、一緒に戦ってくれる人、「一人じゃないよ」と言ってくれる人になろうと思いました。
母親との関係が根深いとされる病気でもあるし、摂食障害という言葉さえ当時は知られていません。「吐いちゃう病気なの?」「なんで太っているのに食べられないって言うの?」などと聞かれ、全然理解されていなかったので、世の中の人に正しい知識を知ってもらいたかった。苦しんでいる人が一人でも減ってほしいと思いました。
ずっと役者でやっていくのだろうと思っていたのに、たまたまバラエティの仕事を始めたのが30歳の時。知名度も上がったので、これを利用しない手はないと思い、母のことや病気のことを包み隠さず発信し始めたのです。
——最近インタビューが増えたのはなぜなんでしょう。
昨年、Instagramを始めたからだと思います。ブログも書いていたのですが、心の支えにしていた猫ちゃんたちとの暮らしが亡くなって終わってしまったので、みんなを励ますブログは難しくなりました。
Instagramでは病のリアルを隠さずに更新しています。「過食嘔吐してしまった」とか「今日は梅干し一つしか食べられなかったよ」とか「栄養ドリンク飲んでいるよ」とか。それをネットニュースなどが面白おかしく伝えてくれて、広がっていきました。
同じ苦しみを抱えている人のコミュニティに
——同じ苦しみを抱えている人に届いている実感は?
あります。フォロワーさんも増えてくるし、「なぎちゃん、一緒にいてくれてありがとう」とか、「私は今日こういう症状だった」とコメントを入れてくれる。こちらが心を開けば、皆さんも開いてくれる。「24時間365日、ここでは何を言ってもいいよ」と伝え、コメントも返せる時は返すようにしています。
私みたいな職業だからこういう風に言えますが、一般の職業の人はなかなか言えないし、言っても理解されず傷つくリスクがある。
でもここなら親の愚痴も、汚い言葉で吐き出していい。そんな場所を作りたかったのです。だから普通のタレントさんのインスタとは少し違うのではないでしょうか。
——同じ苦しみを持つ人たちのコミュニティができているのですね。
そうです。
——そんな反応をもらうことで自分にもプラスになっていますか?
私はネット民から責められがちです。読者の9割は優しい人たちですが、「何やってるんだ」というのが世間一般の病を抱えていない人の声です。たまにそういう声を見るとうーんと思いますが、放っておきます。
——傷つくリスクもあるのに続けているのは、ここが居場所になっている人たちのためなのですね。
そうです。この場所があることを喜んでくれる人の声で、もちろん自分も励まされているところがあります。
母から教わった食べ吐き 「狂っているなと思います」
——摂食障害は、思春期で体が丸みを帯びて来た15歳の頃、お母さんから「吐けばいいじゃない」と言われたのがきっかけだったそうですね。
そうです。強制ですね。「食べ物はこういうものをこれぐらい食べて、お湯を2リットルぐらい飲んで、指を突っ込んでトイレで吐きなさい」と具体的に指示されていました。
——その時はお母さんのその言葉をどういう風に受け止めていたのですか?
母に構ってもらえるだけでいいと思っていました。私のためを思って言ってくれていると思っていた。あとで考えれば母も摂食障害でしたが、その時は全く気づいていませんでした。当時は摂食障害という言葉も知らないし、良いことを教えてもらっているんだと思っていました。
——お母さんは妹や弟に接する態度とは違って、長女の遠野さんだけに暴力暴言をぶつけていました。そのお母さんが少しでも自分を思ってくれるのが嬉しいという感覚だったのですね。
そうですね。
——その母娘の関係を今振り返るとどのように感じますか?
狂っているなと思います。哀れです。子供だからとても狭い視野の中で生きていて、何が起きているのかわからないですよね。かわいそうだなと思います。でも誰も守ってくれる大人はいませんでしたし、私は4人きょうだいの一番上なので、下の子たちを育てなければいけないという責任感もありました。必死だったのでしょうね。生きることに。
それでどんどん心が壊れていったのだと思います。それが今でも続いていて、どうしようもないさみしがりやです。仕事の時は普通に振る舞えますが、まだ心をコントロールできないところがあります。
虚構の世界、芸能界を憧れてはいけない
——お母さんだけでなく、女優や歌手、モデルやスポーツ選手でも、女性雑誌やテレビでも特に女性は痩せた方がいいというメッセージであふれています。全然太っていない人までダイエットしなければと煽られていますが、それを見てどう思いますか?
芸能界は一般の人が憧れてはいけない世界だと思います。虚構の世界だし、大いに間違った情報が流れています。
無理しているに決まっているじゃないですか。もちろんみんなが摂食障害なわけではなく、健康的に努力されている方もたくさんいると思います。
でもやはり極端な食生活をしている方もいますし、自傷行為をしている人がいるのも事実です。個人的に見たこともあります。
薬に頼らなければいけない人もいますし、「ああやっぱり苦しんでいるんだな」と思います。ある意味異常な世界なので、一般の人はそれを目標にしてはいけない。特殊な世界です。
この世界にいながらこう言うのもなんですが、ああいうスタイルになりたい、あんなふうに綺麗になりたいと思う方が間違っています。
——メディアもそれを煽っていますよね。
仕方ないのかもしれませんが、罪深いと思ってしまいます。でも昔の女優さんやアイドルは割とふっくらした方がいましたよね。時代が変わってしまったのでしょう。
でも海外のモデルさんは最近、BMI(体格指数)がこれ以上でないとショーに出られないなどと基準が設けられています。痩せ過ぎて死んでしまうから、業界の基準も厳しくなっているのですね。
火の始末、電気を消したか、確認行為を繰り返す強迫性障害も
——他の障害についても教えてください。確認行為などを繰り返ししてしまう強迫性障害もあるのですよね。
私の場合は火の元とかコンセントが外れているか、間接照明を切っているか、消えているに決まっているIHコンロが消えているかの確認行為が止まりませんでした。写真を撮ったり、手で何度も触ったりしないと外出できなかったのです。
でも、今の病院に変わって薬を変えてから、数値で言えば10苦しかったのが、1ぐらいに落ち着きました。出かける前の確認も1回ぐらいで済む。薬でこんなに改善することもあるので、同じ悩みを持っている人には希望を持ってもらいたいです。
昔は出かける前に2時間ぐらいかけて300枚〜400枚コンロなどの写真を撮って、汗だくになって地獄でした。「なんのためにこんなことをやっているんだろう?」と死にたくなってしまう。舞台の本番前にも始まってしまうし、それを笑われるともっとやめられなくなる。「誰か私を殺してくれ」と思い詰めていました。
今でも街中でおそらくこの人は強迫性障害だと思う人を見かけると苦しくなります。なるべく見ないようにしてあげています。
——いつ頃からその症状はあったのですか?
20代半ばぐらいからです。実家から離れて一人暮らしを始めてからです。母も強迫性障害があったんですよ。唾を出してまた飲むことを繰り返す。あとは決まり文句を繰り返す。不思議なことに、母に会わなくなってから私に出てきました。
鏡が見られない 醜形恐怖症も
——醜形恐怖症もあるのですね。いつ頃からですか?
小学校の頃からずっとです。鏡を見たくなくて、メイクさんが大きな鏡を差し出すと「ごめんなさい」と顔をそむけて見ない。現場でも「鏡が苦手なので出さないでください」と最初に伝えます。そうするとスッと受け入れてくれるメイクさんばかりです。おそらくそういう方がたくさんいるのだと思います。
ある女優さんでまったく同じ方がいらっしゃいます。私はしていませんが、整形を重ねている女優さんもいます。
——女優さんをしていると「綺麗ですね」と褒められることがたくさんあると思います。パートナーにもよく言われたと思いますが、どう受け止めていたのですか?
若い時は、いちいちイラッとして、バカにされていると思っていました。私が綺麗なはずがない。でも最近は自分の育て直しをしていて、笑顔でいようと決めています。褒めてもらったら、「ありがとうございます」と受け入れるように努力しています。
容姿だけでなく、病院に行っている自分を褒めるとか、仕事では迷惑をかけない自分でいようとか、自分で自分を受け入れられるようにしているつもりです。ここ1~2年のことです。猫ちゃんたちが亡くなって支えがなくなり、自分が変わらなくちゃ潰れてしまうと思ったからです。
——醜形恐怖症は親との関係が関係していそうなのでしょうか?
まさに母親に「気持ち悪い」とか「蛇みたいな顔だ」と言われ続けてきましたから。怒られたり、殴られたりすると、泣くことがありますね。そうすると、母からその様子や体型をけなされ、目つきが悪いとか鼻が低いとか、ずっと容姿をけなされてきました。
——お母さんは綺麗な方だったのですよね?
元々は美人だったと思います。記憶から母の顔を消しているのでもう記憶がありません。でも最後の方は男性依存になって、最後の夫と一緒になった頃から身なりに構わなくなっていきました。
全部を受け入れてくれる夫だったから、安心感があったのかもしれません。でも摂食障害は最後まで止まっていなかったようです。スナックに出勤する前にバーっと食べて、風呂にビニール袋を持ち込んでいました。上がる時にタプタプの袋を持って、トイレに捨てていました。
母も病んでいた
——お母さんも病んでいたのですね。
病んでいました。母の父親、私にとっての祖父が校長先生で厳しかったようです。妹がとても優秀な人で、中卒の母親はコンプレックスも抱いていました。教育熱心な祖父の言うことを聞かずに駆け落ちして、18歳で妊娠し、19歳で私を産みました。
母は自殺して亡くなったのですが、祖父は葬式の時「恥ずかしいから香典をもらうな」と言っていたそうです。祖母は祖父の言うことになんでも従う人。祖父は娘が死んでも、悲しみに暮れるよりも、「恥ずかしい」と世間体を気にするような人でした。
だからといって、こんなに病むのか?と疑問に思います。病んだとしても、子供にまでこんなひどいことをするのは許されることではありません。
母も母で苦しんだのでしょうけれど、だったらその分、子供には自分が受けてきたような苦労はさせないようにするのが親だろうと私は思います。自分がしてもらいたかったことをするのが母親の役目。繰り返してどうするのか。母親というより、人間のやることではないと思います。
(続く、11日公開の2回目では、遠野さんが母からどのような虐待を受けてきたのか聞いていきます)
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【遠野なぎこさんインタビュー特集】
コメント
凪子さん、インスタフォローさせて頂いてます。見守ってるだけで、コメントはしていません。
幼少期から想像を絶する育ち方をして、戦ってきた凪子さんに、まだ外から意見を言ってくる人がいることに驚きです。
凪子さんは、全部分かっている。
私はそう感じます。
愁くんを迎え入れてくれてほっとしました。(生きようとしている)ことが分かったからです。
他人ですが、生きててほしい、母親を見返すほど幸せになって欲しい、と願っています。
凪子さんがテレビで泣くと、心の中でそっと手を握っています。
私も親に愛されなかった人間です。
ほんの少し、凪子さんの気持ちが理解できる気がしています。
インスタフォローしています
その中では理解できない事が、今回理解できました
インスタが荒れる事があっても発信し続けるのは、同じ様な人たちのコミュニティーになればと考えての事なんですね
うちの娘も強迫性障害あります 職場から帰る時に、窓の鍵を閉めたか、エアコンは止めたかと何度も何度も写真を撮るそうです 薬で改善されたのですね その辺も具体的に伺いたいと思いました
病院に行っても中々自分に合った医師に出会えない事が多いと思いますし、まだ生活に支障は出てないので病院には行っていませんが心配しています
強迫性障害は何が原因なのか?知りたいです
とても苦しくなるお話
同じように苦しんでいる人へのメッセージ
心強いと思います
「食べ物はこういうものをこれぐらい食べて、お湯を2リットルぐらい飲んで、指を突っ込んでトイレで吐きなさい」と具体的に指示されていたなんて…
遠野さんよく生きてこられた。
摂食障害を既往に持っています。現在別の診断名で障害2級です。
実家は機能不全です。
深く頷いたお言葉が幾つもありました。私が発すると気味が悪いものを見るような目で見られる言葉です。
それが世間一般です。
そんな世間の中、このような発信をしてくださること、本当に本当に救われる思いです。仲間がいるんだ、と感じました。
本当にありがとうございます。
遠野なぎこさんの事は最近、ネットニュース等で拝見していて、壮絶な経験をされ、今でも苦しみながら頑張っていらっしゃることを存じておりました。
ここでさらに詳細にその様子を知り、本当に胸が詰まるような感覚を覚えます。
お母さまの影響がどれだけ大きいのか・・・
次号でどんな事が語られるのか、とても興味深いし、摂食障害についての事を知りたいです。
遠野なぎこさん、陰ながら応援しています。。