Addiction Report (アディクションレポート)

「ギャン太郎」はしっかりと理解しているのか?オンラインギャンブルの深刻な問題

大阪府が若者向けに作ったオンラインギャンブルの対策動画が専門家らからの批判を浴びて炎上中です。そもそも彼らは問題の本質をわかっているのでしょうか?

「ギャン太郎」はしっかりと理解しているのか?オンラインギャンブルの深刻な問題
大阪府の違法オンラインギャンブル等対策啓発動画「ギャン太郎」より

公開日:2026/01/27 23:12

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オンラインギャンブルの本質的な問題は、デジタル技術(特にスマホの普及)によってギャンブルの物理的・時間的制約が完全に取り除かれたことにより、従来の法規制が機能不全に陥り、無防備な個人が構造的な搾取と急速な破滅に晒されている点にある。

このようなオンラインギャンブルの問題性について、最近大阪府が作成した啓発動画がある。

違法オンラインギャンブル等対策啓発動画「ギャン太郎」

しかし、この啓発動画に対しては、専門医や支援団体から強い批判が提起されている。すでにAddiction Reportにも、同編集長である岩永直子氏による「大阪府の若者向けオンラインカジノ啓発動画に待った! 『偏見を助長する』支援団体や専門医が批判」という問題点を指摘する記事が掲載されている。

批判の論点は?

批判の主たる論点は、次の三点に要約される。

第一に、動画はギャン太郎を「楽して生きたい」人物として描いているが、これは依存症を道徳問題として捉え、個人の怠惰さに矮小化し、誤ったステレオタイプを強化し、当事者の尊厳を傷つけるおそれがある。

第二に、その延長線上で回復の鍵を「自分の中の鬼に勝つ」という道徳的な精神論に求めている。一般に依存症は脳の機能不全によるコントロール障害だと理解されており、いわば根性論での解決を示唆することは、当事者を自責と孤立へ追い込む。

第三に、回復プロセスの過度な単純化である。一度の相談での解決を示唆する結末は、長期的な治療や自助グループへの参加を要する臨床的実態と乖離している。

動画の製作過程では、専門家の監修が欠落しているという欠陥もあるが、本動画は啓発としての妥当性を欠き、かえって有害なコンテンツとなるのではないかという点が懸念されているのである。

オンラインギャンブルの本質的な問題

このような批判は筆者もその通りだと思うが、さらにオンラインギャンブルについては、以下のような点が本質的な問題であり、その点を掘り下げた啓発とすべきである。

1. 「常時接続」による依存症の劇症化と若年化

一番の問題は、スマホを通じて時間と場所に関わらず、賭博の機会に24時間どこからでもアクセスできる環境が作られていることである。

従来のパチンコや公営競技には、「店舗に行く」「開催時間がある」という物理的・時間的な断絶が存在していた。しかし、オンラインギャンブルはその障壁を取り除き、日常の隙間時間を賭博の機会へと変質させてしまうのである。

さらにオンラインギャンブルは、プレイにのめり込んでいく進行スピードが極めて速く、短期間で莫大な負債を抱えるケースが頻発している。また、「無料版」の広告やインフルエンサーによる宣伝が「(合法な)ゲームの延長」という誤った認識を植え付け、判断能力の未熟な若年層を無自覚なまま違法行為へと誘導しているのである。

2. 法的責任の非対称性

法的な本質的問題は、「利益を得る運営者(胴元)」と「処罰される利用者(客)」の間に存在する法的責任の非対称性にある。

刑法的には、日本国内からのギャンブルサイトへのアクセスは、国内で賭博行為を行っていることから利用者は賭博罪の対象となる。しかし、オンラインギャンブルの運営主体はカジノ合法国に拠点を置き、サーバーも海外にあるため、日本の捜査権が及びにくく、摘発が困難である。

この司法権の壁によって、運営側は安心して利益を吸い上げ続ける一方で、利用者のみが刑事罰のリスクと経済的破綻のリスクを一方的に負わされるのである。これは、賭博と賭博の機会の提供を共に処罰するという、従来の刑法が予定していた処罰構造を、国境という概念によって空洞化させるものである。オンラインギャンブルの利用者は、賭博罪に手を染めた「犯罪者」というより、まさに「被害者」と見るべきではないか。

3. 消費者保護の欠落と「アルゴリズムによる搾取」

特別法がある公営競技や風営法の規制下にあるパチンコとは異なり、オンラインギャンブルには、射幸性を抑制するための法的規制や、公正性を担保する監査システムが存在しない。

しかもオンラインギャンブルのプログラム自体が、プレイヤーの脳をハックし、依存状態に陥らせるように意図的にデザインされている(人間操作)。例えば勝利の演出や高速なゲーム展開によって脳の報酬系を過剰に刺激し、冷静な判断力を奪う仕組みが組み込まれている(辺縁系資本主義)。すなわち、オンラインギャンブルの空間では、アルゴリズムによる一方的な収奪が行われているのである。

多額の借金を背負った若者が、返済のために「闇バイト」などに関わって転落するケースも報告されており、オンラインギャンブルは単なる個人の遊興を超え、治安悪化の深刻なトリガーともなっているのである。

オンラインギャンブルの深刻な問題、ギャン太郎は気づいてる?

以上、要するにオンラインギャンブルの本質的な問題は、テクノロジーによって欲望を解放させ、それが伝統的な法規制と倫理の枠組みを凌駕してしまったという点にある。それは、従来のギャンブルに見られた時間的物理的制約を取り払うことで、人間を純粋な「搾取対象」へと貶め、国家の主権が及ばないデジタル空間において、個人の資産と精神を破壊するシステムとして機能しているのである。

はたして「ギャン太郎」は、このような問題に気づいているのだろうか?

*以下の拙稿も参照していただければと思います。

意志の弱さを嘆くのは間違っている―巧妙に仕組まれた「自己責任」—| Addiction report(2026/01/14)

ギャンブル等依存症対策基本法の改正で何が変わる? 刑法学者が解説 | Addiction report(2025/06/26)

オンラインカジノ—ひとを地獄に落とす手法— | Addiction report(2025/05/12)

アメリカでギャンブルはどのように広がり、規制されてきたのか?  | Addiction Report(2024/04/01)

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