Addiction Report (アディクションレポート)

ギャンブル等依存症対策基本法の改正で何が変わる? 刑法学者が解説

ギャンブル等依存症対策基本法の改正案が可決されました。この改正で何が変わるのでしょうか?

ギャンブル等依存症対策基本法の改正で何が変わる? 刑法学者が解説
園田寿さん

公開日:2025/06/26 02:00

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はじめに

ギャンブル等依存症対策基本法の改正案が、2025年6月18日の参院本会議で与野党賛成多数で可決、成立しました。今回の改正の目玉は、違法なオンラインカジノの規制が強化されたことです。

具体的には、SNSなどインターネット上でオンラインカジノに誘導する情報を発信することや広告の禁止、カジノサイトの開設、運営を禁止する内容です。月内にも公布され、公布から3か月後に施行されます。

そこで今回の改正の内容について、FAQの形にまとめてみました。

なお、改正案の内容については、下記を参照してください。

衆法 第217回国会 37 ギャンブル等依存症対策基本法の一部を改正する法律案

ギャンブル等依存症対策基本法について - 依存症対策全国センター

1. そもそも、ギャンブル等依存症対策基本法(平成30年法律第74号)はどのような目的で制定され、今回の2025年改正で何が最も大きく変わったのでしょうか?

ギャンブル等依存症対策基本法は、ギャンブルにのめり込んで仕事や学業など日常生活に支障をきたしているにもかかわらず、後悔しながらも止めることができないような状態になっている(ギャンブル等依存症)ことに対し、総合的かつ計画的な対策を推進し、国民の健全な生活と社会の安心を実現することを目的として2018年に制定されました。

また、ギャンブル依存が、多重債務や貧困につながり、それが、虐待や自殺、財産犯罪等の重大な社会問題を生じさせていることも問題視されています。

この法律によって、IR(統合型リゾート)推進法との関連で、パチンコを含めギャンブル等依存症が社会全体の問題として認識される契機となりました。

今回の改正で最も大きく変わった点は、オンラインカジノの広告・誘導行為が明確に違法とされたことです。すなわち、日本国内でのオンラインカジノサイトの開設・運営に加え、インターネット上でのあらゆる形態の誘導(利用者を違法なサイトに誘導するリーチサイト、SNS投稿、有名人やスポーツ選手などが広告するアフィリエイトリンク、体験談を装う行為など)が禁止の対象となりました。これは、違法ギャンブルへの「入り口」を塞ぐことで、依存症への予防を強化するという意図があります。

2. オンラインカジノは危険だといわれますが、具体的にどのような危険性があるのでしょうか?

オンラインカジノの規制が強化された背景には、その利用者の急増と深刻な社会問題化があります。警察庁の推計では、国内のオンラインカジノ利用経験者は300万人を超えるとされ、プロ野球選手や芸能人による利用が報じられるなど、その影響が顕在化していました。

オンラインカジノは、次のような点で危険性があるとされています。

(1) 24時間365日いつでもどこからでもアクセス可能

オンラインですから時間や場所の制約がなく、とくにスマホなどで手軽に参加できてしまう。

(2) 未成年者も利用しやすい

本人確認が不十分な場合があり、アクセス障壁が低い。

(3) 没入感が高く匿名性や孤立性が伴う

リアルな場でのギャンブルよりも、デジタル化されたギャンブルでは1回の勝負が数秒で決着し、これが何度も何度も繰り返し表示されることで利用者が没入しやすく、またそこから離脱することが難しい。

(4) 複数のゲームに同時に参加可能

一度に多くの賭けを行うことができ、金銭的な損失が拡大しやすい。

(5) 「海外サーバーだから合法」という誤解

利用者の多くが違法性を認識しておらず、規範的な障害がないケースが多い。

これらの特性から、オンラインカジノは従来のギャンブルよりも依存に陥りやすく、多重債務やそれに起因する財産犯罪に繋がるリスクが高いとされています。短期間で数百万円の借金を抱えるというケースは珍しくありません。

3. 今回の改正法にオンラインカジノの広告・誘導行為に対する直接的な罰則がないのはなぜですか?

今回の改正法には、オンラインカジノの広告や誘導行為に対する直接的な刑事罰や行政罰の規定は盛り込まれていません。この点について実効性を疑問視する声も存在します。

罰則がないのは、違法性をはっきりと宣言することによって、自主的な対応を促進する狙いがあると考えられます。つまり、オンラインカジノの広告・誘導行為の「違法性」を明確にすることで、情報通信事業者(SNS運営会社や検索エンジンなど)が警察からの要請を受けた場合に、違法とされる広告や投稿を削除しやすくなったことはあります。

また、広告やサイトの通報が増え、削除されやすい環境が整備され、SNS上での誘導投稿の減少やプロバイダーによるアクセス遮断(ブロッキング)の促進が期待されるということはあるかもしれません。

しかし、違法サイトが匿名で簡単に作成され、別のドメインやアカウントに移行する「イタチごっこ」の課題も指摘されており、ブロッキング技術の導入や国際連携といった追加的な措置が不可欠だとされていますが、実効性の点ではなお疑問だとする見解も多く見られます。この点はなお今後の課題です。

4. 改正法で国や地方公共団体に「違法性の周知徹底」義務が課されていますが、具体的にどのようなものですか?

改正法では、国や地方公共団体に対して、違法オンラインカジノの存在と違法性を国民に周知徹底するための措置を講じることが義務づけられました。

具体的には、以下のような活動が想定されています。

(1) 啓発チラシの配布

各地の消費生活センターなどでの情報提供。

(2) 注意喚起ポスターの掲出

映画館や駅など、公共の場での掲示。

(3) リスク教育

教育現場や成人式などでのオンラインカジノの危険性に関する教育。

(4) SNSでの情報発信

SNSなどを活用し、オンラインカジノに関する「正しい知識」を発信する啓発アカウントの開設。

これらの多角的な周知活動を通じて、国民のオンラインカジノに対する認識を向上させ、違法行為への加担を未然に防ぐことを目指しています。

5. 日本のオンラインカジノ規制は、米国と比較してどのような特徴がありますか?

日本と米国のオンラインカジノ規制は、対照的であり根本的に異なります。

(1) 日本の政策アプローチは:全面禁止と抑制

日本では、刑法に賭博罪の規定があるため、海外で合法的に運営されているオンラインカジノであっても、日本国内からアクセスして賭博を行うことは国内犯としての犯罪行為そのものであり、利用者が摘発の対象となります。つまり、刑罰という威嚇を背景にして、賭博という悪癖を正すという発想です。

今回の改正法は、このオンラインカジノの「違法性」を前提としつつ、特にオンラインカジノの広告や利用誘導行為を明確に禁止することで、違法ギャンブルへの「入り口」を塞ぎ、依存症の発生を防ぐ「社会的なバリア」を強化することを目的としています。

つまり、日本はあくまでも賭博行為は違法だとの前提で、オンラインカジノの利用を「取り締まる」ことで牽制して抑制し、そして違法な情報流通を遮断することで依存症対策を強化しようとするものです。

(2) 米国の政策アプローチ:合法化、管理・監督

これに対して、米国では2018年に連邦レベルのスポーツ賭博禁止法が憲法違反(州の権限に対する連邦の過剰介入)だとされて以来、各州がオンラインギャンブルの合法化を独自に決定できるようになりました。現在、30以上の州でオンラインスポーツ賭博が合法化されており、オンラインカジノやオンラインポーカーなども一部の州で合法です。

規制という点では、米国では、各州が独自のゲーミング管理委員会を設置し、厳格なライセンス制度、マネーロンダリング対策(AML)、そして「責任あるギャンブル(Responsible Gambling)」対策(入金・時間制限ツール、啓発活動など)を通じて市場を厳しく「管理・監督」しています。

拙稿:アメリカでギャンブルはどのように広がり、規制されてきたのか?  | Addiction report

どちらが良いのかとなると議論はあるでしょうが、日本が「原則禁止によるギャンブルの抑止」を目指すのに対し、米国(合法化された州)は「ギャンブルを合法化して厳格な管理」を目指している点が、最も根本的な違いです。

6. ギャンブル等依存症対策において、医療・相談支援体制はどのように強化されていくべきですか?

ギャンブル等依存症対策基本法は、医療、保健、福祉、教育、法務、矯正といった多岐にわたる分野の連携を重視しています。オンラインカジノ問題の深刻化を背景に、これらの連携をさらに強化する必要性が浮き彫りになっています。

今後の医療・相談支援体制の強化の方向性としては、以下が挙げられます。

(1) 専門医療機関・相談拠点の拡充

依存症の専門医療機関や治療拠点機関の整備をさらに進め、地域における医療・相談支援体制の「点の強化」から「面の強化」へとシフトし、包括的な連携体制を構築することが重要です。

(2) 人材育成

医師だけでなく、精神保健福祉士などの医療従事者の対応能力向上のための研修を継続的に実施し、専門人材を育成します。

(3) 多機関連携の強化

医療機関、精神保健福祉センター、保健所、市町村、民間団体、回復施設、保護観察所などが相互に連携し、地域ニーズに合わせた総合的な支援を提供できる体制を構築します。

(3) 社会復帰支援の充実

就労支援や生活困窮者支援など、依存症からの社会復帰を支えるための支援を充実させます。

(4) 消費生活相談・多重債務相談との連携

オンラインカジノの違法性の周知徹底に伴い、これらの相談現場における適切な対応も一層重要になります。ただし、上記のように、日本ではギャンブルじたいが犯罪行為であり、オンラインカジノの利用者も、犯罪被害者ではなく、あくまでも犯罪者としての位置づけが大前提です。この点が、相談や治療のハードルの高さにもなっています。

7. 今後、ギャンブル等依存症対策の実効性を高めるために、どのような継続的な取り組みが求められますか?

ギャンブル等依存症対策は、社会状況の変化に応じて継続的に見直し、強化していく必要があります。

今後の実効性向上に向けた継続的な取り組みとしては、以下が挙げられます。

(1) 技術的対策の導入と国際協力

罰則がないことによる「イタチごっこ」の課題に対処するため、ブロッキング技術の導入や、海外に拠点を置くオンラインカジノ事業者に対する国際連携の強化が不可欠です。警察庁も、ブロッキング技術の導入など、より強力な対策の実行を見据えています。ただし、ブロッキングについては技術的な問題もあるほか、そもそも憲法上の問題(通信の秘密の保護)もあり、反対意見も多く、慎重な議論が必要です。

(2) 国民への継続的かつ効果的な啓発活動

改正法で義務づけられた国や地方公共団体による多角的な周知活動を継続し、オンラインカジノの違法性や危険性に関する国民の意識を一層高める必要があります。特に若年層への予防教育や、SNSを活用した情報発信が重要です。

(3) 医療・相談支援体制のさらなる拡充と連携強化

依存症の早期発見・早期介入、そして本人や家族への切れ目のない支援体制を構築するため、専門医療機関の整備、人材育成、民間機関を含めた多機関連携の強化を継続的に進めます。自助グループをはじめとする民間団体への経済的支援も不可欠です。

(4) ギャンブル等依存症対策基本計画の見直し

基本計画は少なくとも3年ごとに見直しが行われることになっており、社会の変化や新たな課題に対応するため、継続的な検討と変更が必要です。

これらの多岐にわたる団体や関係者が密接に連携し、総合的かつ継続的な取り組みを進めることが、国民の健全な生活と安心して暮らせる社会の実現に不可欠です。

8. 今回の改正は、オンラインカジノの利用者や事業者、また公営競技・パチンコ業界にどのような影響を与えますか?

(1) オンラインカジノ利用者・事業者への影響

これまで「海外にサーバーがあるから合法」といった誤解や著名人による宣伝で利用が拡大した状況に対し、広告・誘導行為が「グレーゾーンではない」明確な違法行為とされたことで、違法性が利用者にも浸透しやすくなります。しかし、海外に拠点を置く運営者の取り締まりの難しさや、「イタチごっこ」問題は依然として課題として残ります。

(2) 公営競技・パチンコ業界への影響

今回の改正は主にオンラインカジノを対象としていますが、違法オンラインカジノの規制強化は、国内の合法的なギャンブル市場に間接的な影響を与える可能性があります。オンラインカジノからの利用者のシフトや、依存症対策全体への社会的な関心の高まりが、既存の公営競技やパチンコ業界にもさらなる対策強化を促す可能性があります。

そもそも、現在の賭博規制は明治時代にできたもので、国民の健全な勤労意欲の保護といった道義的な根拠のうえに成り立っています。それが戦後になって宝くじやいわゆる公営ギャンブルの例外的な正当化によって、賭博規制の根拠があいまいなまま現在まで推移してきています。この点がオンラインカジノの問題を複雑にしている理由の一つだと思われます。

刑法は、「一時の娯楽に供する物を賭けた」(刑法185条1項但し書き)場合は賭博ではないと明言しています。「一時の娯楽に供する物」とは、その場で消費されるような食事や茶菓のたぐいです。金銭はその場で消費されるものではないので、たとえ少額であっても金銭を賭けることは賭博だとの見解もありますが、多くの専門家は食事代程度の金銭も「一時の娯楽に供する物」に含まれると解釈しています。そこで、この条文を今の社会状況を背景にで解釈し直せば、依存症のリスクや社会的な影響を考えると、適切に管理され、個人の責任においてリスクを認識した上で行われる限り、ギャンブルは健全な娯楽となりうるものだということではないでしょうか。

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