「自分で感情に蓋」「苦しかった」俳優・高知東生さんが複雑な心境を吐露、ギャンブル依存症自死遺族会立ち上げセミナーで
7月20日に都内で開催された「ギャンブル依存症自死遺族会立ち上げセミナー」のパネルディスカッションで、俳優の高知東生さんが17歳の時に自死した母親について苦しい胸の内を吐露した。
公開日:2024/07/26 02:00
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公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会は7月20日、都内で「ギャンブル依存症自死遺族会立ち上げセミナー」を開催した。
セミナーの最後には特別ゲストである俳優・高知東生さんを招き、ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さん、精神科医の松本俊彦さんの3名によるパネルディスカッションも行われた。
高知さんはパネルディスカッションの中で、母親の死後は「自分で自分の感情に蓋をして、何も感じないようにすることに一生懸命だった」と明かし、苦しい胸の内を吐露する場面も見受けられた。
母の死後「何も感じないようにすることに一生懸命だった」
冒頭、田中さんは松本さんにギャンブル依存症自死遺族会が発足したことについてどう思うか尋ねた。
松本さんは「僕もたくさんの自死遺族のグループに顔を出したことがあるが、背景にアディクションの問題があると差別を受け、自業自得だと見做されてしまう側面がある」と指摘。その上で「依存症に特化したご遺族が集まる場所が必要だと考えていた」とした。
この日、特別ゲストとして参加した俳優の高知さんは17歳の時に母親を亡くした自死遺族の一人だ。高知さんは「ごめんなさい。今日ずっと話を聞いていて、もう頭がグラグラしちゃって…」と正直な思いを吐露しつつ、当時の心境を次のように打ち明けた。
「当時の経験を精一杯振り返ってみると、ぶっちゃけた話、はっきりと思い出せないんです。自分で自分の感情に蓋をして、何も感じないようにすることに一生懸命だったような気がしますね。だから、おふくろが死んだ後も、とにかくそこには触れないようにしていて。死んだ直後の出来事も第三者目線で見るような形で、日々を過ごしていたような気がします」
同級生からの慰めの言葉にも苛立ち、「素直に向き合うことができなかった」という高知さん。「じゃあ、おふくろを生き返らせてくれんのか」と怒りを爆発させたこともあったという。
「本当に一生懸命、自分の感情に蓋をしていた。でも、何気ない一言、良かれと思ってかけられた言葉が僕に突き刺さって、苦しかったですね」
逆境体験を経験、感情に蓋は「よくあること」
松本さんはこの日の講演で、依存症の当事者には子ども時代に逆境体験を経験している人が少なくないというデータを報告した。
そのような前提を踏まえ、逆境体験を経験した人が自らの感情に蓋をすることは「よくあることだ」と説明する。
「本人の口からは、当初はそのような体験は明かされません。でも、時間が経っていく中で、『実は…』とそのような逆境体験を明かしてくれることも多いんです」
子ども時代に逆境体験を経験した人の傾向について松本さんは「情緒的なものを避けたり、あえてクールに振る舞ったり、あるいはワーカホリックになったりする人がいる」と説明。また、「お酒が入ると変な酔い方をしたり、一見いい人なんだけど、キレると手がつけられない場合もある」とした。
こうした特徴は高知さんの若い頃にも当てはまる。高知さんの地元の仲間たちは、「キレると敵味方関係なく、ボコボコにされた」と口を揃えて言う。
「いま松本先生の話を聞いていても、俺はとにかく自分の気持ちに蓋をして、おふくろの死に向き合いたくないというか、それを隠すために一生懸命に喧嘩と女性に明け暮れたんだなと思いますね」(高知さん)
「街の人々にバレるのが辛くて怖くて」
2016年6月に逮捕され、薬物依存から回復するために12ステッププログラムなどを通じて「生き直そう」と努力を続けてきた高知さん。
幼少期は両親はいないと言い聞かされて育ってきた。自分に母親がいると知ったのは、小学5年生の頃だった。また、高知さんの父親とされてきた人物は地元では有名なヤクザの親分。しかし、後に本当の父親は別の組のヤクザの構成員であることも明らかになった。
このような何が本当か分からない状況で育つ中で、「大人というものは何一つ真実を教えてくれない」という疑念を抱くようになる。
生まれ育った地元を離れ、東京へと向かった当時の心境を高知さんは次のように語った。
「俺の親父とされている人はヤクザの親分だった。でも、それが街の人々にバレるのがすごく辛くて怖くて。それに、いまこうやって話してみると、おふくろが自殺したということも僕にとっちゃ恥のように感じていたのかもしれない」
「当時はシングルマザーが一人で息子を育てるというだけでも偏見の目があった。そこにさらに、おふくろの自殺なんて知られたら、俺にはもう自慢して言えることは何一つもない。田舎は好きだけど、そこにいられないような感覚だった。そこからいなくなった方が楽になるんじゃないかなとか、そんな考えで高知を出て行きました」
高知さんは自らの体験をもとに、時に涙で声を震わせながら「17の時に(母が)亡くなって、もう今年で60ですよ。でも、いまだにしんどいんですよ。生きている時に『ありがとう』とか『愛してる』とか『綺麗だよ』とか、恥ずかしげもなく言ってあげられなかった。正直言って、ここに立ってる場合じゃないんです。すごく苦しい」と率直な思いを言葉にした。
「おふくろの分まで長生きするぞと言いながら、仲間たちの前ではまだまだ若干、根性論や精神論を言ってしまうこともある。生き直すということは、本当に自分の弱点や欠点に向き合うことなんです。ここまで支えてくれた皆さんに本当に感謝しています」
「今こういう気持ちも皆さんの前でさらけ出すことができるということが、俺の進歩かなと思うし、毎朝おふくろの写真に向かって『愛しているよ』『綺麗だよ』って言うことが、死ぬまでの俺の償いかなと思っています。これに関しては、俺もまだ1年生です。助けてください」
このような正直な言葉を前に、松本さんは「本当に大切な人を失って、もう何十年も『なぜ』と思いながら生きている方たちがいる。高知さんが戸惑いをここで正直に口にしてくれたことが、かえって他の誰かをこうした場に足を運んでみるのを後押しするかもしれません。高知さんに感謝ですね」と優しく声をかけた。
自助グループの役割めぐり議論、「負っている傷大きいほど抵抗感」
ここまでの話を振り返り、田中さんは「依存症家庭には特有のファミリーシークレットがある」と指摘し、次のように語った。
「子どものために良かれと思って隠していても、子どもは小さい頃からこれは聞いちゃいけないと色々と推測をして、どんどんと顔色を見ながら生き抜くようになるのではないか」
「そんな二重、三重の生きづらさを抱える中で、家族の中でコミュニケーション能力が養われない側面がある。社会人になっていきなり報告・連絡・相談が大事だと言われても、『できないならば、早めに言ってくれ』と言われても、『もっと他人に助けを求めろ』と言われても、できるはずがない」
その上で田中さんが強調するのは自助グループの役割の重要性だ。田中さんは自助グループの役割について「分かち合いをするだけでなく、生き方のスキルであったり、生きるために必要なことを学ぶことも重要ではないか」と問題提起する。
これに対し、松本さんは「回復のプロセスとは依存をやめる / やめないという話ではなく、やめた後に普通の人たちが経験している様々な体験を仲間と支え合いながら、経験し、生き方を学ぶことではないか。生き方を取り戻すことはリハビリだとよく言われますが、そのためには生き方を学ぶプロセスが必要で、そこに時間がかかるんです」とし、次のようにコメントした。
「自助グループについて分かち合いなどが中心で他の人を助ける活動が疎かになってしまっているのではないかという指摘については、全くその通りだと思います。ただし、注意しなければならないのは、負っている傷が大きいほど、誰かと分かち合ったり、誰かに助けを求めたり、さらには誰かを助けたりすることに抵抗感を持つということです」
「高知さんも自死遺族という言葉にやられてしまうと語っていましたが、そういう人たちもいるということを理解しながら、その人たちが扉を叩いてくれるまで長く店を開け続ける。それも大事なことかなと思います」
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コメント
高知さんのお気持ちが凄く分かります。隠し事をしていると、とても窮屈でその場所にいる事ができなくなりますね。本当の自分を出してしまうと誰も居なくなるのではないかと?そうやって新しい居場所を見つけてもそこもなんだか居心地が悪い、どこかふわふわしている感があり何が大切で何が不要なのか分からないまま生きている。
今の高知東生さんはとても素敵で真の安心、安全な場所に居るのだと思いました。いつもありがとうございます。
当日このセミナーに参加していました。あらためて読むと、当日は受ける衝撃が大きくて、受けとめきれてなかった事がたくさんあったんだと気づきました。ここでまた、高知さん、りこさん、松本先生の話を読めて良かった。自分に当て嵌まる事がこんなに語られていたことを知ることが出来ました。何度も参加する、何度も聞く、何度も分かち合うことが大切なんだなとまた気づきました。
共に暮らしていた方の自死で、残されたご家族の心情をお聞きして只々涙が溢れるばかりでした。私は大好きだった人が自死してしまい、何年も経ちますが、未だに何故?何か力になれる事は無かったのか?と思い心が痛くなります。
ご家族の心情と比べる事は出来ませんが、苦しく辛い気持ちを認め、前向きに歩んで行く選択をされた事に感動致しました。
そして私も救われました。
勇気あるお話を聞かせて頂き、本当にありがとうございました。
応援していきます。
高知さんの魂からの言葉に涙、涙です。
当事者の皆様の悲しみ、いかばかりでしょう。
どうかどうか、皆様の心の痛みが和らぎますように。