バイト仲間は今で言うトー横キッズ? 今の夫とも出会った闇カジノの人間模様 ギャンマネ(21)
昼は東大医学部の秘書として働きながら、闇カジノのアルバイトを始めた私。バイト仲間の一部は機能不全家族に育った若者たちで、今で言うトー横キッズのようなつながりが生まれていきました。

公開日:2025/02/05 05:12
連載名
ギャンマネさていよいよ、昼間は東大医学部秘書、夜は闇カジノでフロント係という、まるで映画にでもなりそうな二重生活を送っていた私ですが、当時はそれほど変わったこととも思っていませんでした。
というのも、あの当時の闇カジノというのは、あまりにポピュラーに繁華街に存在していたので、それこそ「普通の」学生や社会人がバイトに来ていたのです。
現代の若者達が闇バイトなどに流れてしまうのを見て、TVのタレントコメンテーターが「今の若者達は、稼げるからと短絡的に闇バイトに流れてしまう」などと言っていますが、昔の若者も短絡的に稼げるバイトに流れていましたよ。しかも「闇」とも思っていませんでしたからね。その位敷居が低かったのです。
いつの時代も一部の恵まれた人を除いて若者というのは金の不安を抱え、金を欲しているものだし、さらにその中の一部の若者は、切実に金の問題に直面していて「危ない橋でも稼げるならやる」と考えてしまうのだと思います。
当時30歳で既に若くもありませんでしたが、バツイチの非常勤職員でろくなスキルもない私には、性的魅力に訴えずにすむ時給の高い夜職にありつけるのは、とても有難いことでした。
良いとこの大学生たちも多いバイト仲間
仲良くなってくると、バイト仲間の素性も分かって来ます。一番多かったのは、大学生で、それも早慶をはじめとする結構良いとこの大学生が多かったですね。バニーガールにも「こんな名門女子大生が、こんな激しいコスチュームで!?」と驚くような人もいました。
そして今思えば、男子大学生でディーラーになっている人はみんなギャンブル好きでした。ギャンブルが好きだから入ってきたと言っても過言ではないでしょう。
中でも慶応の子は「証券会社に就職が内定している」と言っていたので、仕事でもギャンブル性の高い職場を選ぶんだなぁと思ったことを覚えています。
一人だけ現役高校生もいて、詰め襟を着て店に通ってきていたので「同級生にこんなに稼いでる人いないでしょ?」と聞いたら、「うん、今日秋葉原で制服着て25万円現金で買い物したら驚かれたわ」と笑っていました。
街金に借金、街金社長の愛人......
そして学生以外のアルバイトの人は3つのタイプに分かれていました。まず1つはオーナーの街金業者に金が返せず、働きに来させられたタイプ。おそらく前回の面接編で登場した店長と部長もここに分類されます。
ここには水商売、ホスト、倒産した小さな印刷会社の社長、そしてなんと国会議員の元秘書という人もいました。私も東大秘書やってたくらいですから、他人のことは言えませんが、この人が私のすぐあとに同じくフロント業務で入って来た時には「杉山さん(仮名)、なんだって議員秘書がこんな仕事につくんですか?」と聞いたら、「議員秘書なんて全く安定のない仕事で、代議士が落選したら即無職です。潰しが効きません」と言っていたので、「へぇ!そうなんだぁ。わかんないもんだね」と驚きました。あの頃の私は、今以上に世の中のことに全くもって無知でした。
あとは街金社長の愛人。この人が多分従業員のお目付役的にいたんでしょうね。社長が「八千草薫に似てる」と言っているらしく、みんなに「千草ちゃん」と呼ばれてましたが、私はどこが似てるのか分かりませんでした。
「千草ちゃん、バイト代以外にも社長はお手当くれるの?」と聞いたら、本当か嘘かわかりませんが「あんなケチな人がくれるわけないよ」と言っていたので、「愛人稼業も割にあわないな」と思ったのと「ケチじゃないと、カジノをサイドビジネスでやっちゃうほど金は貯まらないよね」と思っていました。
機能不全家族で育った若者たちも
そしてもう一つのグループ。本当に今思えばですよ、彼らこそ現代にも通じる我々の仲間にもありがちな、いわゆるアダルトチルドレン(AC)と呼ばれる、機能不全家族に育った人達で、金を自分で稼ぐしかない若者達でしたね。そしてもちろん私は、このグループと仲良くなっていきました。
飲み会になると、呆れるほど泥酔して「親父の血が」と言って、父親のアルコール依存症(当時そんな言葉は知らず、アル中とみんな言ってましたが)を呪っていた人。
小さい頃から、母親の恋人がコロコロ変わり虐待を繰り返されて来た男の子。彼は唯一の高校生ディーラーの幼なじみでしたが、彼の方は高校を早々に中退していました。
ステップファミリーで新しい父親とそりが合わず、中学卒業後から家を飛び出した不良少年の兄。新しい父親と母親の間に生まれた弟も両親とそりが合わず、父親違いの兄を頼って15,6歳からディーラーで稼ぎ始め、闇カジノを転々としながら助け合って生活する兄弟。
酒乱で飲むと同じディーラー仲間であり、同棲中の彼女をぶん殴ってしまう人、翌日顔を腫らしてくるので、その度にみんなが「別れたら?」と言うのに絶対に別れないカップル。
仲良くなってくると、こんな背景を知るようになりましたが、この学生以外の若者達は、ほとんどが家族関係に問題を抱えていました。
今思えば、あそこはACの巣窟で、私たちは今で言うトー横KIDSみたいなもんでした。
そしてもう1グループは不良外国人達です。現代でもいると思いますが、日本に留学で来て、ギャンブルにハマり、学校に行かなくなってしまったものの、帰国もせず不法就労をしながら、ギャンブルを続ける中国や韓国から来た若者ですね。
だいたいこんなメンバーがバイト仲間でした。
バイト仲間として出会った今の夫
そしてこのバイト仲間の一人が、今の夫だったのです。夫は私より3ヶ月ほど前に入店したディーラーでした。
当時夫は、早稲田大学の6年生で、医学部も薬学部もない早稲田になぜ6年もいたかと言えば、もちろんギャンブルで留年したからです。
1年生でまず速効でパチンコにハマり留年。そして5年生の時には一部上場企業に就職も内定していたのに、最後に受けさえすれば卒業が決まる英語の試験を、彼曰く「江戸川で鉄板レース(必ず勝てる固いレース)がある」と、試験をすっぽかして競艇に行き留年するのです。そしてもちろん鉄板でも何でもなかったレースも外し、「謝れば追試でなんとかなるだろう」くらいに考えていたのに、教授に強固にダメ宣言され、家にまで押しかけてお願いしたそうですが、あえなく留年。就職まで棒に振ったのです。
親は怒って「大学を続けたいなら自分で学費を払え!」と言われ、仕方なく時給が高く、しかもギャンブル好きには夢のような仕事ディーラーになったわけです。
夫は、大学生チーム、ACチーム、不良外国人チームの誰とでも仲良くしているような人でしたが、とにかくギャンブル好きが集まるカジノでも破格のギャンブル好きで、行動も破天荒でした。
店は、早番遅番があって、確か私は東大が終わった夕方5時半くらいから、夜中の2時くらいまで働いていましたが、店に最初に着いて鍵をあける担当だったのです。誰もいないと思って、鍵を開けごそごそフロントで準備を始めると、突然夫がにゅっと立ち上がってきて「りこさん」と背後から声をかけるのです。驚いて「ぎゃ~!」っと、叫ぶと「あっ、驚かしてすいませんけど、ナイター競馬が始まったんで有線つけて貰えます?」と言うのです。「えっ?競馬ですか?」と聞くと「はい、○○番にあわせて貰えば」と言って、有線で競馬中継を聞き、「よっしゃ~」とか「クッソぉ」とか叫んでいるんです。
「田中さん、どうやって入ったんですか?」と聞くと、
「あっ、家に帰ると親がうるさいんで、店が終わってここで寝てました」
「ここでって、床に?」
「まぁ、慣れれば案外平気ですよ」
と、飄々として言うんですね。そして競馬を聞きながら、店のシンクにある流し台で、顔や髪を洗い出す。「変な人......」と心の底から思いました。
「今日は早番なんですか?」と聞くと「金ないから通しですね」
「えっ、6時から6時?12時間労働ですか。学校大丈夫なんですか?」と聞くと、
「あっ、行ってないんで大丈夫ですね」と、全く話がかみ合いませんでした。
当時の夫は、ギャンブルの事以外ほとんどが上の空で、深い話しなど一切しませんでしたが、その夫と恋に落ちるのですから、人生は摩訶不思議です。
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コメント
りこさんと夫さんの出会いってこんな感じだったんだ〜!と不思議な気持ちで読みました。にゅっとたちあがって「りこさん」と声をかけられる箇所、全く話が噛み合わなかったと断言されていた箇所、どちらも面白くて何度も読み返してしまいます。笑
東横キッズという言葉ができ、世の中で注目を浴びていますが、昔から家庭に居場所がない若者たちが一定数いるということ、彼らを助ける社会的な仕組みがまだまだないんだな、と考えさせられました。
ご主人登場!
ハラハラとワクワクが混じっています(笑)。
ついに今の夫さんとの出会いが…!
不思議なWワークは都会ならではなのかしらと考えたり、楽しみが尽きません。
昔から今の生きづらさを抱える若者と同じ様な居場所はあったんですね。
時代が変わっても、同じなのが切なく感じたりしました。
続きが楽しみです!
ギャン妻って、エリートなんだけどちょっとワルそう…という二面性に恋に落ちるのでしようか?
少しの違和感なら、私に素直な部分を見せてくれてる!気取ってなくていいわーくらいに思ってました、当時の私も。
ご主人との馴れ初めは、まさにりこさんらしく、りこさんならではのものですね。拝読するたびに、りこさんの深いお人柄を実感いたします。
アカデミックな世界とアングラな世界を行き来する生活って考えると本当にフィクションみたいですね。
でも自分自身を振り返ると学生時代、ギャンブルや援助交際などは「簡単にお金が稼げる(ややハイリスクな)手段」というくらいの認識で、実際当時一番仲の良かった女の子からしていると打ち明けられた時も「うそ!ちょっとカッコいいかも」とさえ思ったものでした。
まさに今のオンラインカジノも、そんなふうに受け止められているのかもしれませんね。
とはいえ私だったらコワモテのガタイの良いおじさんたちに面接されたら、それだけで回れ右で帰っちゃいそうな場所で寝泊まり?できる強メンタル田中さんと、どんな風にりこさんが恋に落ちるのか、次回も楽しみです!
旦那様との恋の行方
気になります!
次回も楽しみです😊
事実は小説よりも奇なり。現実に起こる出来事は、小説よりも、複雑で、波瀾に富んでいるとは言いますが、急な展開に、驚きながら、読んでしまいました。お金の問題に直面している若者の気持ちについても、とても印象に残りました。
りこさんと旦那様!すごい世界で生きてきたのですね!まるで映画でも観ているかのような今回の章。そんな世界を生きてきて、今お2人が依存症支援の先頭に立って仲間を救うために日々闘っているなんて素敵過ぎるし、なんてすごい使命を持った方々なんだろうと思いました。りこさんの人生まだまだ予想を遥かに超えるドラマが待っているのだろうけど、本当に書籍化ドラマ化映画化されるのをただただ楽しみに待っています!こんなに頼もしい面白い素敵な人生を歩んでいるりこさんに出会えて私本当に幸せです。
今回も面白すぎるしびっくりな話だらけで椅子からずり落ちそうになった!
りこさんもりこさんだが、田中さんも田中さんだ!試験をすっぽかして競艇に行き、謝ればなんとかなるだろうという思考が小市民である私には考えられない。
これフィクションなんですよね??
魅力満載で2週間が待ち遠しいです!