「弱けりゃ助け合って生き延びる!」 私がバリの人間関係に強烈に惹かれた理由 ギャンマネ(15)
バリ島の価値観に強烈に魅せられた私。そこには「弱けりゃ助け合って生き延びる」という温かい人間関係がありました。
公開日:2024/09/24 02:00
連載名
ギャンマネ私の価値観がひっくり返る、人生の大きな分岐点となったバリ島での日々。
もう少しお付き合い下さい。
弱けりゃ助け合って生き延びる
当時のバリ島に行ったら、ものすごく貧しいんだけど、
なんかみんな助け合って暮らしていて、結構楽しそう。
この「弱けりゃ助け合って生き延びる」。
おそらく当時の私はこの価値観に出会い惹かれたんですよね。
「勝ち組にいなくちゃ」と、一人で滑り落ちないように頑張っているより、「みんなで助け合ってなんとか生き抜こう」という社会にいた方が、安心感があって居心地が良かったんです。
「りこ、喉痛いね。治っちゃう葉っぱある」
ある日、私が扁桃腺を腫らして喉が痛くて仕方がないと、ビーチでマニキュア姉さんのカティちゃんに言うと、そこにいるマッサージおばちゃん達が、大声であっちゃこっちゃに話しかけだすんですね。でっかい声でビーチのおばちゃん達、Boys達に伝言ゲームのように広がっていく。
そして30分くらいすると「りこ、行こう」と、誰だか知らないお兄ちゃんが迎えに来た。
私は、「へっ?」という感じで「誰この人?」と思っていると、周りのおばちゃん達が、「一緒に行け」と言ってくる。訳がわかんないんですけど、まぁいいかと思ってついて行く。
するとそのお兄ちゃんが「りこ、喉痛いね。治っちゃう葉っぱある」と言うんです。
なんじゃそりゃ、どんな葉っぱだ?と思いますよね。
そして、クタの住宅街の方にどんどん入っていくんですね。
ビーチから離れ、水はけの悪い土の道に入っていく。ぬかるみながら歩いて行くと、小さなアパートのような建物が並んでいるんですね。暑い国なので、みんなドアを開けっぴらいたまま中が丸見えでゴロゴロしてる。クーラーはなく、扇風機が回っています。
外の路地にカセットコンロを出して何か調理をしている人もいれば、昔の怪談に出てきそうな、大きな丸い井戸端で桶から水をくみ上げては洗濯している人もいる。
ニワトリとかシャモがトコトコ歩いていて、野良犬なんだか、飼い犬なんだか、薄汚れた犬もウロウロしてる。
大きな木が生えてるかと思えば、そこに色鮮やかななんだかわからない果物がなっていて、子供達がそれをもいで食べている。観光地バリではなく、そこには庶民の暮らしがありました。
黒魔術かけられちゃう? 民間療法のおばあさんの元へ
「オイオイどこに連れて行かれるんだ?」と思っていると、1軒のおうちの前で、お兄さんが大声で誰かを呼んでいます。
するとですね、バティック更紗を巻き付けた痩せて小さなお婆さんが出てきました。
お兄さんが、何かを言うとお婆さんはうなずき、私を自分の小さなあばら家に招き入れます。
そして、タイルの床にひかれたゴザの上に、さらに更紗がひかれ、その上に寝ろと言うんです。
一体何が始まるのか?ここで段々不安になってきました。
当時、リゾラバに励む観光客の間では、神秘的なバリ島について色んな噂話が飛び交っていました。
その中でも女の子達にまことしやかに言われていたのが「白魔術と黒魔術」。
これは民間信仰の一つで、実際にバリ島やインドネシアの島々で行われていたようなのですが、(2022年に「黒魔術」禁止法案が可決されたくらいですから本当にあったことはあった)なんせ言葉も良くわからない若い女の子達のあいだの噂話ですから実に怪しいんですね。
バリの人の中には魔術を使える人がいて、それが「白魔術」なら幸せになれるけど、「黒魔術」なら病気になって死ぬ。
だけどその魔術をかける人が誰で、いつどこにいるかわからないから、知らぬ間に「黒魔術」をかけられてしまうこともある。なのでおいそれと男を変えたり、浮気をすると嫉妬に狂った男に黒魔術をかけられるかもしれない、というものでした。
バリの男の子の腕にもたれながら、真剣に怖がる女の子の話を聞き「へぇ、そうなんだぁ」と言いながら「そりゃお前の男がかけたニセ魔術だろうよ」と話半分に聞いていましたが、もしかしてこれからあの噂の魔術が始まるのでは!?と突然思いあたりました。
「あぁ、どうか白魔術でありますように」と、私は走馬灯のようにバリに来てからの素行を思い出し、悪いことしてないよな?へんなこともしてないよな?と、記憶をたぐりながら両手を合わせ必死に祈っていると、お婆さんが庭というか路地に生えてる葉っぱをちぎって持ってきました。
それを小さなすり鉢でスリスリし始めます。一生懸命私に何かを話しかけてくれているのですが、もちろんさっぱりわかりません。さっきの道案内の男の子もどこかに行ってしまいました。一人取り残された私は、せめて感じ良くしようと、ニコニコ笑顔でうなずき、わかってる振りをしました。
そしてお婆さんが古ぼけた小さな瓶から、何やら訳のわからない液体を少量混ぜます。液体は無色無臭ですが、それを混ぜると粉々になった葉っぱにちょっと粘りが出てきました。お婆さんは、その小さなすり鉢を持ち「ほにゃららほにゃらら」と、話しかけてくれてんだか、呪文なんだかわかりませんが、何かを言いながら私の首に塗りたくってくれました。
そして、それが終わると、本当に優~しく身体の色んな所を撫でてくれたり、時々ツボっぽいところを押してくれる。
それがめちゃくちゃ気持ちいい。「大丈夫。これは絶対白魔術よね」と思いながら、体調が悪かったこともあって私はうとうとと眠ってしまいました。
そしてしばらくすると、またあの知らないお兄さんが迎えに来てくれて、ビーチまで送ってくれました。私が、謎の葉っぱ液(見た目はキュウリをすりおろした感じ)を首に塗りたくってビーチに戻ると、カティやビーチのおばちゃん達は「やれやれよかった。これで安心」と言った風に、ニコニコとうなずいています。
カティによれば「なるべく長い間貼っておいて、シャワーを浴びるときは流してもいい」とのことでした。
そして本当に不思議なのですが、これで扁桃腺の痛みが治っちゃうんですよね。
実際、バリではちょっとの風邪くらいなら、薬草湿布で治していたみたいです。
どうやらお婆さんは魔術師ではなく、民間療法の使い手といった感じの方だったようです。
この時のお婆さんにはもちろんお金も取られず、私が「トゥリマカシー(ありがとう)」と言うと、お婆さんは無言で微笑みながらうなずいていました。
こんな風に、バリでは何か困ったことがあっても、それを誰かに相談すれば、見ず知らずの人が大体なんとかしてくれます。
だから他の海外旅行では得られない、なんとも言えない安心感があって、とても居心地が良かったのです。
日本人に対する相反する感情
と、同時に、みんながみんなこのリゾラバ状態を良く思っているわけでもないということもわかりました。
ある日の夕方、すっかりバリの庶民の暮らしが楽しくなった私は、従姉妹と一緒にちょくちょくビーチボーイズやビーチ姉さんらが住むアパートのような自宅にも遊びに行くようになりました。Boys達は、「ここが俺の家」というより、その時々の都合で適当に住んでいる。誰かがふらりと来て、しばらく一緒に住む、なんて感じでした。
そこでみんなと一緒にインドネシアのテレビドラマを観ていると、たまたま戦時中の話しで日本兵がインドネシアで威張りちらし、現地の人をとことん苦しめているドラマだったんですね。
そんな内容のものを日本でみることなんかないじゃないですか。もちろん作られてもいない。思わず私達はショックを受け「昔の日本人が意地悪して、ごめんね」と言いましたが、私は「ダイジョウブ、ダイジョウブ」と笑う男の子達を見て、「あぁ、でもこういう作品を観ながら育ったこの人達は、日本の女の子のことを本当はどう思っているんだろうな」と思いました。
一度は、私達がぺちゃくちゃおしゃべりしていると、水をぶっかけられたこともありました。Boysから「あのお婆さん、日本人が嫌いね。もう行こう」と言われました。
インドネシアの人達は、日本人にアンビバレンツな気持ちがあるんだなと理解しました。
おそらくそれは戦後の日本人がアメリカ兵に思った気持ちのようなモノではないでしょうか。
インドネシアはとてつもなく優しく、そして少しだけ切なく、たくましいエネルギーに満ちあふれていて、私は知れば知るほど帰りたくなくなり、今回は2週間の予定で来たのですが「パスポートをなくした」と嘘をつき、帰国予定日が来ても帰りませんでした。
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コメント
弱けりゃ助け合って生き延びる!家族の会、依存症界、ひいては人生全般にも通じる名ゼリフだと思いました!
あの時代、私もずいぶん1人旅をした経験があります。カナダを1人旅していた時、ビーチで知り合った方の広いプール付きのお家に招いてもらい、ご飯をごちそうになり、ホテルに車で送ってもらった経験を思い出しました。今振り返るといい人達で素敵な時間を過ごさせてもらって無事だったからよかったけど、この時代にあって今の自分なら絶対出来ないかもとも振り返りました。若い頃のリコさんの冒険心(今も変わらない!)が今も活きていて、その壮大な海原に壮大なビジョンがあって次々と実現していく様はまるで映画でも見ているよう。リコさんの人生そのものの映画化がますます楽しみになってきたバリ編でした!
今の日本では考えられない人間関係、地域ネットワーク(と言うべきか?)にとても驚きました。
みんな生き抜いていくためになるべくしてそうなっているんだと思いましたが、本当に映画の様な世界感だなとしみじみ。
また、日本では学歴や職場や結婚などで武装をして、他者と自分を比較する事が当たり前だったのに、バリではそんな競走なんぞ無く、リコさんにとって本当に大きな衝撃だっただろうなと改めて想像しました。
観光客なんていない現地の家に連れていかれ、首に緑の汁塗られてる姿を想像しました(笑)
リコさんのコミュニケーション能力
ほんとすごすきる!賜物です。
戦争がまず犠牲にするのはそれを扇動した者でなく、現地に生きる人々の生活ですね。
バリというリゾート地が陽気さの中にそんなショッキングな日本との過去を持っていることさえ、今回読む前まで知りませんでした。
しかし見ぬふりせず受け止めて気持ちを伝えられるリコさん、そして過去の出来事で傷ついていても目の前の困っている人を助けようとするインドネシアの人々の優しさ。
バリ編はいつも心を揺さぶられます!
"弱けりゃ助け合って生き延びる”
まさに「ギャンブル依存症問題を考える会」の方針そのものですね!まさかルーツがバリだったとは…。
私も滑り落ちないよう一人で頑張って生きてきて辛かったなあって思います。周りは「何かあったら言ってね」と声を掛けてくれ、実際協力してくれたと思いますが、頼って拒絶されたら自分がもっと傷つくから最初から頼らないみたいな思考でした。
でも依存症の家族の会につながって、りこさんや仲間が口だけでなく本当に行動で助けてくれた事を体験し、経験したことがない安心感を得られていることに本当に感謝です…。
続きが楽しみです‼︎
弱いなら助け合って生き延びる、この心をずっと持ち続けていらっしゃるのだと感じました。
でも黒魔術?白魔術?わからないところに飛び込んでいく勇気?読んでいてドキドキでしたが、民間療法で危なげなものではなくてほっとしました。
また現地の人の親切さにもほっこりしました。
続きが楽しみです。
エキゾチックな怪しい雰囲気に、パイレーツオブカリビアンの一場面を思い出しました。
魔法使いのおばあさん(ホントは民間療法の使い手)を前にして、せめて良い感じを見せようとニコニコしていたって。
そういうりこさんはあまり想像できないけど、相当怪しかったのでしょうね。
表面だけサラッとではなく、場所の、人の、ディープなところに自ら入って行く
今の、りこさんの原点がバリにあった!?
「弱けりゃ助け合って生き延びる」
この言葉、心に響きました。人間1人じゃ生きていけない。手を取り合って、助け助けられて生きていきたいです。
りこさんの天真爛漫なひとがらが現地の人に愛された、いい話ですね。
私にも身近な家族が戦時中、ある国で現地の人を差別をしなかったことで慕われ戦後も民間交流ができていた様子を見て育った体験があります。
それにしても若い時のことをこんなふうに楽しく語れるりこさん。今後の展開を早く読みたいです。
今回は笑いがなかったですが、バリの方々の心温まる話ですね。「助けるものが助かる」が村中に浸透してたんですね。ちょっと感動しました。
弱けりゃ助け合って生き延びる
ビッグブックにも通じる考え方。
りこさんが依存症界に、社会に、伝え続けて下さっている事ですね。
私自身、沢山の方々に助けて頂いたので、これから少しでも誰かを助ける事で返していきたいです。
服も
カバンも
ブランドものも
いろんなものを手放して
世界で仲間を手に入れるりこさん
心の中に神様を入れていく事ですね?
なかなかできないから勉強になります。
貧しかったり、災害の多かったりする所の人々は、みんな助け合ってるから優しいんですね
優しいおばあさんで良かった!
白魔術?で良かったです!
私の祖父は南の島で戦死したというのを思い出しました
次回も楽しみにしています
怖いもの知らずにも程がある?とおっかなびっくりで読みました。
ほんま、すごいなぁ〜。
さらに、
パスポートをなくしたと嘘をつく?
いやいやもう、この頃から大物ではないですか?
すべて生の体験だなんて、信じられないけど、これらの経験が今のりこさんの土台にあると思うと何気に納得できたりして。
続きも超楽しみにしております。
毎回爆笑だけど、今回は少し様子が違った。
「弱けりゃ助け合って生き延びる」この価値観が生まれた土壌を考えるとワハハって笑ってはいられないが、所詮それは私の想像に過ぎない。
私にはそこに飛び込む勇気はないけれど、迷うことなく飛び込み、居心地がいいと思ったらそこに居続けるリコさんならではの体験。
日本人に対するアンビバレンツな気持ち、なんとも複雑で、切ない。
ごめんね、と謝るリコさんもすごいな。
さて、日本に帰国しないで、その先どうなる?