このお悩み相談は、私の自分セラピーです。 誰かを救おうと真剣に考えることが、自分を救う道になるから。「失われた私」を探して(52)
今回も読者からのお悩み相談です。何不自由ない生活をしていると周りから思われる境遇でも、虚しさから逃れられない。そんな自分を救う道はあるのでしょうか?

公開日:2026/06/20 03:31
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「失われた私」を探して結婚生活が息苦しい。だけど離婚する勇気がない。
そんなあなたは、どこに行けばいいのでしょう?
さて、今回も読者さんからのご相談コーナーです。
転送されたメールにお名前がなかったので、仮にAさんとしますね。
では、Aさん、どうぞ。
私はなんて惨めなのでしょう。
私は40代、子なし、扶養内パートで周りからは幸せそうに見られます。
実際、旦那は高収入で、衣食住は保障されているし、世界を見ればただの平和ボケなのかもしれません。
でも私は、籠の中の鳥なのです。
衣食住を保証される代わりに、私に自由のないカードを与えられ家事やお世話をする、表面上お利口に生きていくことを理想とされる飼い鳥。
でも本当の私はそんな自分の存在意義などとうに見失い、タブーとされる事(不倫、整形、売春、買春など)にコソコソと依存して生きてきました。
私は結局卑怯者で外の世界に飛び立つ勇気もないくせに、現在は飼い主が不在の時に、不倫のようなお金をいただく異性関係を持ち続けています。そして手に入れたお金で大して何をするわけでもなく、こんな惨めな思いの代償になるほど欲しい物などないと虚しさを感じるのです。
見た目だけ取り繕い整形で貼り付けた顔で愛されたと感じても結局、私自身が信じた愛には選ばれず飢えて、己を傷つけ、依存の先にただ絶望を見ているだけなのです。
生きる意味などそもそもないと理解しています。
自分が選択してきた事で悲劇ぶるなと冷笑されるかもしれませんが、自分が惨めで、何もかもに絶望した私の今後を少しでも照らすアドバイスを頂けたらと思い相談させていただきました。よろしくお願いします。
まず、あなたが悲劇ぶってるなんて、まったく思いませんよ。
確かに外から見れば何不自由ない生活で、「いったい何が不満なんだ?」と言われそうなお悩みですが、私は冷笑なんかしません。
だって「贅沢な悩み」なんて言い出したら、今の日本人の悩みのほとんどは、飢餓や戦闘に苦しんでいる国の人たちから見たら、取るに足らない悩みになってしまいます。
じゃあ、恵まれている人たちは悩んじゃいけないのか?
そんなはずはないでしょう。
その人には、その人の苦しみがある。
他人には、その苦しみがわからない。
わからないくせに、安易に「甘えてる」とか「くだらない」などと批判する人たちをネットでよく見かけますが、傲慢だなぁと感心してしまいます。
君に、人の心の何がわかるんだ。
そんなわけで、あなたのお悩みに真剣に答えたいと思います。
まず、あなたのその息苦しさ、私にもよくわかります。
足枷ばかりの結婚生活の中で、自分の存在意義を見失ってしまったこと、私にもありますからね。
いっそ離婚してしまえばせいせいするのですが、そこで踏み切れない人たちが大勢いるのも知ってます。
だって「結婚生活」を手放してしまったら、いよいよ居場所がなくなってしまう。
不自由であることを嘆きながらも、ほとんどの人は自由が怖い。
自由とは、孤独を意味するからです。
もちろん、今の結婚生活も孤独でしょう。
夫はあなたの苦しみを理解できないし、あなたも夫に愛を感じられない。
ふたりで一緒に暮らしていても、心は何万光年も離れていて、まるで広大な宇宙にぽつんと浮かんでいる惑星のようだ。
だけど、別れてしまえば、そこにはまた別の孤独が待っている。
人は、自分の知っている孤独よりも、知らない孤独の方が怖いものです。
だから、あなたは踏み出せない。
籠の中から出られない。
そして、とりあえず今の孤独を紛らわせるために、不倫を繰り返している。
でも、そんなのは一時的な応急処置なので、あなたが満たされるはずもない。
適当な絆創膏を取っ替え引っ替え貼っているようなものですから、すぐにめくれて傷口からジクジクと血が滲んでくる。
痛いよね、苦しいよね。
じゃあ、どうすれば、その傷が癒えるんでしょう?
愛の欠乏でできた傷は、別の愛によって癒やされるか?
それは違うよ。恋愛はあなたを救わない。
「私が信じた愛には選ばれず」と、あなたは書いています。
婚外恋愛の中で本気で愛した人がいたけど、その人には選ばれなかった、ということでしょうか?
もしかしたら、その人と一緒になれるなら離婚してもいいと思ったのかもしれません。
つまり、その人を突破口にしようと考えたわけです。
わかります!
私も前の結婚で苦しんでいた時、他の人を好きになりました。
でも、相手も結婚していて、彼には離婚する意志がなかった。
結局のところ、私は自分で自分を救うしかなかったの。
ねぇ、Aさん、あなたもわかってるんだろうけど、男はあなたを救えないのよ。
私は離婚というシンプルな解決法を選んだけど、離婚に踏み切れないあなたは、別の方法で自分を救うしかない。
婚外恋愛や美容整形、不倫相手からお金を貰う行為は、すべて、あなたが自分を救おうとして模索してきた試行錯誤なんでしょ?
で、どれもあなたを救えなかったから、あなたはこんなに絶望してる。
じゃあ、他の方法はないのかしら?
男も整形もお金もあなたを救ってくれないのなら、いったい何があなたを救ってくれると思う?
その突破口を、子供に求める人もいるでしょう。
確かに子育ては、虚しいなんて言ってられないほど忙しいし、あなただけを切実に求めてくれる赤ん坊に充実感を味わえるかもしれない。
子育てをしない昔のヨーロッパ貴族の夫人たちは、慈善活動で心の穴を埋めていた。
要するに、誰かに必要とされることが、一番の妙薬だったりするわけよ。
もちろん、あなたに「子を産め」とか「ボランティア活動しろ」とか言ってるわけじゃないのよ。
ただ、あなたの心の空隙を埋めるもの、あなたを必要としてくれるものは何なのか。
それを真剣に考えることが、救済に繋がると言いたいの。
あなたと同じ悩みや苦しさを抱えている人たちは大勢いる。
そういう人たちと繋がって、互いの話をするような場を探してみるのはどうだろう?
ひとりで苦しんでるより、仲間がいた方がずっと心強いでしょ?
それに、あなたと同じ悩みを持つ人は、決してあなたを批判しない。
私はね、そこに救いのヒントがあると思うのよ。
たとえば、この記事を掲載してくれてる「アディクション・リポート」は、依存症の当事者や家族を繋げて、互いに心の裡を曝け出し、助け合い支え合っていく組織。
ここで繋がった人たちは、ひとりで苦しんでいた頃よりも、ずっと救われた気分になってると思う。
で、こういう場所の重要なポイントはね、誰かが一方的に救われるんじゃなく、他の仲間たちを救いながら自分も救われる、ということ。
救われたくて集まった人々が、互いに支え合ううちに、自分も誰かを救えるんだと気づくの。
これ、すごく大事なことだと私は思う。
あなたには誰かを救う力があるのよ。
そして、誰かを救うことで、あなた自身も救われるんだ。
今のあなたに必要なのは、そういう人間関係なんじゃないかなぁ。
恋愛よりもお金よりも、真摯で切実な繋がり。
自分の視野が開かれていくような、新しい体験。
あなたの価値を、本当に実感できる場所。
私のこのお悩み相談も、私にとっては一種の自分セラピーなんです。
他人のお悩みに答えながら、その人の幸せについて真剣に考えながら、私は自分についても想いを巡らせる。
その行為がいつの間にか、自分を救う道にも繋がるの。
だから、絶望しないで。
あなたもきっと、自分を救える。
誰かに救われ、誰かを救い、そんな自分自身に救われる。
人間は、本来、そういう生き物なのです。
私はあなたに、自分の価値を知ってほしい。
結婚でも恋愛でもない、新たな場所で。
そうすれば、あなたを閉じ込めていた鳥籠に、別の出口が出現すると思うのです。
どうか、幸せになってね。
【中村うさぎさんに答えてもらいたい人生相談募集】
中村うさぎさんに答えてもらいたい人生相談を募集します。「『失われた私』を探して」で扱うテーマに絡むお悩みがありましたら、担当編集の岩永宛([email protected])に、【1】お名前(ニックネーム可)【2】年齢(掲載時にこちらでぼかします)【3】相談内容(400文字以内)を書いてお送りください。医療相談や経済相談は受け付けておりません。この連載で回答を掲載します。
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