Addiction Report (アディクションレポート)

私たちは「偽善の時代」に生きている。 でも、偽善って、そんなに悪いことでもないと思うの。「失われた私」を探して(53)

病気の夫や要介護の母へ尽くす行動が「偽善ではないか?」と悩む57歳のよしこさん。でも「偽善」ってそんなに悪いものなんでしょうか?偽善に助けられてきたという中村うさぎさんが答えます。

私たちは「偽善の時代」に生きている。  でも、偽善って、そんなに悪いことでもないと思うの。「失われた私」を探して(53)
撮影・黒羽政士

公開日:2026/07/05 02:33

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「失われた私」を探して

たとえ偽善でも、それで救われる人がいるのなら。

何もしないより、ずっと役に立ってるじゃないか。

前回に引き続き、読者さんからのお悩み相談です。

ご相談者は57歳の「よしこ」さんです。

私の悩みは、夫に対する自分の行動が「本心から思いやって行動しているのではなく、偽善的なものではないか」、そして、「結婚生活そのものが、この偽善の中に成りたっているのではないか? それは人間関係としてどうなのか?」ということです。

結婚して17年になる夫は、15年前に双極性感情障害の診断をうけ、入院歴もあります。しかし当初から服薬は断固として拒否しており、主治医も本人の意思を尊重して年に12回の診察による経過観察のみとなっています。

躁状態のときにつくった借金は、私の貯金を取り崩して返済しました。ここ1年は鬱状態のことが多くて、アルバイトには何とか行っていますが、家に居るときはほとんど寝ています。いつ躁や鬱状態になるかが予測できないので、長期的な計画は立てられません。

このような状況のなか、日々夫を気遣う生活に嫌気がさすときもあります。かつては離婚したら楽かな......と思うこともありました(今は無いです)。

一方で、夫との生活は楽しい事もあり、また夫を大切に思う気持ちはあるので相手が辛そうにしているのを見ると支えたいなとも感じます。

夫自身は、私に負担をかけていると感じていて「ありがとう」「ごめんね」という言葉は常にかけてくれます。

 さらに、一人暮らししている要介護の母のもとへ週1回通い、生活の手伝いをしていますが、この行動についても「自分は偽善的にふるまっているのではないか」と感じます。

相手を思う気持ちが自然発生して生じる行動と、偽善的な行動とがあるとすれば、私の行動は偽善的な行動ではないかと考えてしまい、「私って偽善者だな......」と、自分にあきれてしまうことも多いです。

自然に相手を思いやれる人間になりたいですが、難しそうです。相談にもなっていないですが、うさぎさんに話をきいてほしいと思ってメールさせていただきました。
ありがとうございました。

よしこさん、まずはあなたに質問です。

「偽善」って、そんなに悪いものなんでしょうか?

というのもですね、私、身体障害者になってからというもの、日々、人々の善意(偽善も含め)に助けられているからです。

たとえば、電車に乗りますよね。

うちから東京までは、京葉線の快速で約1時間です。

運悪く快速に乗れなかった場合は、2時間以上かかります。

足の悪い私は、1~2時間も立っていられません。

混んでる時間帯などは、「座れなかったら地獄だ」とドキドキしてしまいます。

でも、杖を突き突き電車に乗り込んできた私に、たいていの人が席を譲ってくれるのです。

もちろん、純粋な善意の方もいらっしゃるでしょうが、中には「偽善」の人もいるかもしれない。

周りに「いい人」と思われたいとか、「障害者に席を譲る私、優しい~!」という自己満足に浸りたいとか、席を譲ってくれる人たちの善意の底を探ったら、いろいろと不純なものが出て来る可能性も否めません。

でも、いいんです。

そんなの、純粋な善意だろうが偽善だろうが、関係ない!

私に席を譲ってくれて、ありがとう!

だって1時間も2時間も立ってたら、私、途中でぶっ倒れて東京に辿り着けないもん!

たとえ偽善であろうとも、その人の行動は私を救ってくれました。

ならば、善意の「質」に意味なんてあるでしょうか?

あなたは「結婚生活そのものが、この偽善の中に成り立っているのではないか?それは人間関係としてどうなのか?」と自問自答しておられます。

が、しかし。

人々が完全に「偽善」を廃してしまったら、それって幸せな社会でしょうか?

少なくとも私は、3回に1回くらいは席を譲ってもらえず、脂汗を垂らしながら電車の中で足を踏ん張り続けた挙句、東京に着く頃には体力を使い果たして仕事どころじゃなくなるでしょう。

あなたの夫は苦しい精神障害を抱えながら誰にも支えてもらえず、あなたのお母さんは要介護の身体でよろよろと家事をこなさなくてはなりません。

たとえあなたの行為が偽善だとしても、その行為によって救われている人がいるのなら、何を恥じることがあるんです?

弱者本位の現代社会は「偽善の塊」だけど、

弱者が無視された時代よりはマシだと思うの。

そもそも、「純粋な善意」と「偽善」の境目って、どこなんでしょうか。

その境目を誰が決めて、「これは純粋だから良し、こっちは偽善だからダメ」などとジャッジできるんでしょうか。

そんなの、その人の主観に過ぎない。

それは「善意」だけじゃなく、「愛」だって同じでしょ?

打算的な愛を軽蔑する人がいるけど、たとえ打算であっても相手をハッピーにしてるなら、べつにいいじゃん。

他人がどうこう言うことじゃないよ。

同様に、たとえ本人が心から愛してるつもりであっても、その愛が相手の重荷になってたら、そんな愛なんか要らねー!

私が思うにですね、「愛」も「善意」も、ちょっと打算だの偽善だのといった不純物が入ってる方が、互いにハッピーだったりするもんです。

でないと、片方だけが損してしまう。

現代は「偽善の時代」だと、私は感じてます。

弱者に寄り添わなくちゃならない、弱者を思いやらなくてはならない……そういう気遣いによって、逆に弱者ヅラした人々が周囲に「傷つきやすい私を気遣って!」と強要するような、おかしな事態になってる気がする。

セクハラ、パワハラ、モラハラ、アルハラ、カスハラなどなど、数限りないハラスメントが「傷ついた私」を量産し、うっかり説教でもしようものなら、たとえそれが真っ当な指摘であっても、加害者みたいに批判を浴びる。

だけどね、セクハラという概念もパワハラという概念もなかった時代が幸せだったかというと、それはない。

断じて、ないです。

現に私は80年代に20代の小娘だったから、めちゃくちゃ悔しい想いや屈辱的な扱いを受けましたよ。

女性差別なんて普通にあったから、「女のくせに」とか「これだから女は」とか、性別に関係ない事案でもしょっちゅう言われた。

とある広告代理店のCD(クリエイティブディレクター)には「仕事やるからキックバックしてね」などと持ちかけられて、嫌だったからきっぱり断ったところ、ひどく心外だったらしく「女はすぐ裏切るからなぁ」などと罵られたよ。

そもそも「裏切り」なんかじゃないし、そこで「女」を持ち出すかぁ?

腹が立ったけど、あそこで訴えても相手にされなかっただろうし、そもそも訴えるという発想すらなかった。

だから私、今の若者がめちゃくちゃ羨ましいっす。

確かに「弱いもの勝ち」みたいな風潮は行き過ぎかなとも思うが、弱者が泣き寝入りする時代よりは全然マシだ。

たとえこの「弱者に寄り添いましょう」精神が偽善であったとしても、いや間違いなく偽善としか思えませんが、そんな偽善精神すらなかった頃に比べると、救われている人たちは格段に多いはず。

ならば、ハッピーな人が増えたというわけで、めでたいことじゃありませんか。

偽善オーライですよ、大歓迎ですよ!

というわけで、よしこさん、あなたが罪悪感を抱く必要なんて全然ない。

むしろ、どんどん偽善を遂行してください。

あなたの偽善が、周りの人たちを救っている。

それって誇らしいことじゃありませんか。

で、その偽善が負担になってきたら、「やーめた!」でいいんですよ。

「もうこれ以上は救えません」って言っちゃっていいんです。

誰かの幸せのためにあなたが犠牲になる必要はない。

周囲の評価とか自分の心地よさとか、そういう報酬あってこその偽善です。

偽善による報酬が負担を下回ったら、いつでも手を放しなさい。

あなたを非難する権利など、誰にもありません。

自分のために生きてくださいね、よしこさん。

偽善があなたに生き甲斐を与えてくれるのなら、それで良し。

喜びが感じられなくなったら、新たな幸福を探していいのよ。

後悔だけはしないでほしい。

私たちは、自分を幸せにするために生まれてきたのだから。

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