東大医学部の秘書に転身! 本物の「セレブ」と出会い広がる視野 ギャンマネ(10)
ひょんなことから東大医学部の秘書になり、これまでと全く違う世界があることを知った私。持ち前の交渉能力を発揮して可愛がられながら、視野を広げていきます。
公開日:2024/07/15 00:52
連載名
ギャンマネさて、楽しかったデパート時代も終わりを告げ、結婚という青春時代の総仕上げ的な一大イベントが終わった後は、祖母の介護もあり、望みどおりほんの一瞬だけ専業主婦になりました。
これがもう本当につまらなかった。
日中ヒマでヒマで、すぐに根をあげていたところ、丁度「東大医学部秘書」なんてカッコよい響きの非常勤職員の話が来たんです。
これ幸いにと、また働きに行くことにしました。
初めて面白いと思えた「知識」を得ること
この東大秘書ってのが、見るもの聞くもの全てが珍しくって、私はまたこの仕事に夢中になっていきました。
なんせこの私、この時はじめて東大卒という人達に出合うわけですね。
しかも理三。日本のトップクラスの天才秀才なわけじゃないですか。
そりゃあもう面白くって刺激的でした。
私が秘書を担当していた先生は当時助教授だったのですが、歴史がとっても好きな先生だったんですね。
それで時々同じ病気の研究チームの、同じ助教授の先生が部屋に遊びにやってくると歴史談義をはじめたりするわけですよ。
なんせこの秘書という名目の私のメインの仕事は、先生の御用聞きな訳で、話し相手になるというのも重要項目だと思っていました。
ゆえに先生方の雑談によくクビを突っ込んでいたんです。
ある日「江戸城を開城した後はさ」なんて先生方が話していたので、ふと気になって、
「先生、江戸城って今はどこにあるんですかぁ」と、あたくしが無邪気に質問すると、
「お前さんは本当に頭が悪いなぁ。江戸城は皇居だろ!」なんてお口あんぐり、先生方に心底驚かれました。
「えぇ!そうなんですか。なるほどぉ」なんて返すと、私のあまりのアホさ加減に、先生方も逆に面白くなったのでしょうか、ヒマさえあれば三国志から、日本の戦後の政治経済までありとあらゆることを教えてくれるようになりました。間違いなく東大秘書時代の雑談で偏差値が20はあがったと思っています。そしてはじめて勉強というか知識を吸収することを「面白い」と思えるようになりました。
生まれ育った環境の違いを実感
飲み会の時など、「O先生はいつだって模試で名前がTOPだったからさ、理三に入った時も『君がO君かぁ。君には絶対叶わなかったよ』なんてみんなに言われてたよ」ってな話しになるわけですよ。私なんぞ「へぇ!すごい!私、模試なんか受けたことないです」なんて言うと、全員がびっくりするわけですよ。
「えぇ!それでどうやって志望校を決めたの?」「はい、お嬢様学校で名が通ったところで試験日が重ならない大学を全部受けました」「えぇ!?」みたいな感じで、異次元の星から来た人みたいに扱われました。
「親は何も言わなかったの?」「親も無知だし、大体学校からの手紙は中学の頃から帰りに焼却炉で燃やしてましたから」と言うと、あっけにとられていました。
「まぁ、だから先生方の親と、うちみたいな親は全く違うんですよ。あはは」と言うと、なんというか発展途上国から来た子供をみるような目で見られていましたね。
「自慢じゃないですけど、数学は因数分解、英語は現在完了形が出てきた時点で挫折しましてましたから、受験なんかどこ受けても同じですよ」と、朗らかに言い放つと、「ずっ、ずいぶん早い挫折ですね」と教授に言われました。「えぇ、でもまぁ1校受かれば10校落ちても問題ないですから」と、東大理三に焦点を合わせて来た人達とは、全く会話レベルがかみ合わなかったですね。
「あしながおじさん」のように可愛がってくれた先生たち
その後、うちの先生は「りこ、本を読むと人間、頭が良くなるよ」などと本気で心配してくれ、先生が東大生協の本屋さんに行く時は必ず私も誘って下さり、「なんでも好きな本買いなさい」などと言ってくれるようになりました。
「いや先生、私は本好きで本だけはこれまでも沢山読んできたんですよ」と思いましたが、天才というのは、本読んでりゃなんでもわかっちゃうんでしょうね。私がこれほどモノを知らないのは、勉強も読書習慣もないからだと思われたようです。もちろん私は遠慮会釈なく、毎回大量に本を買って貰いました。すると先生は「うん、いい子だ」となぜか目を細めていました。そういう姿を見るにつけ、私は「あしながおじさん」という言葉が心に浮かんでいました。
当時、東大医局の秘書というのは、医者狙いの若い女子がそこそこいたような気がします。というのも、「実家が医者なんだけど、自分は医学部に入れませんでした」みたいな人ばっかりで、薬学部出身で医者の娘なんて人もいましたね。実際、医者と結婚していったお嬢様もいました。
ですから完全に私は浮き上がっていたのですが、逆に競争から降りていたので、秘書達から見ても安全パイな訳ですよ。
なんせもう主婦でしたし、この私「実家が代々デカイ開業医で、自分は私大出身だけど、親が東大医局出なので、箔付けのために自分も東大医局に来ました」とか「親は普通のサラリーマンですけど、とにかく小さい頃から天才と呼ばれ、現役理三合格ですが何か?」みたいな本物のサラブレッドとなると、「自分なんかに出る幕ないですよね」と、自信が全くなく最初から降りてしまいます。お陰様で医局では誰からも可愛がられましたね。
秘書連中には無害と判断され、皆と仲良くなり、あっちゃこっちゃの噂話や打ち明け話が耳に入ってきたし、医者からは完全にお笑い担当だと思われていました。デパート時代に、どこにいっても軋轢を起こしていたのとは大違いでした。
フルに発揮した交渉能力で重宝されて
先生方に可愛がられた理由の一つに、先生方が出合ったことのない図太さを私が持っていたということもあったと思います。
例えば、どこの会社もそうだと思いますけど、決算までに本年度の予算を使い切らなきゃならないじゃないですか。そしてできるなら有効に使いたい。そんな時にですよ、私は平気で実験動物とか実験備品を予算内で買えるよう業者に値切ったりしちゃうんですよ。「すみません、もう予算がこれしかないので、カニクイザルこれで1匹お願いできません?」「端数切ってもらって、液体窒素5本いけます?」なんて具合です。業者さんもそれほど無茶なことを言わなければ、値引きしてくれます。
だけどこんなこと、医者のお嬢様方である秘書さん達には発想すらないし、今までそんな秘書はどこにもいなかった。なので先生に「すごいね。そんなことできるんだ」と喜ばれ、他の先生方にも頼まれるようになって、経費を上手に使い切ってあげてましたね。「たくましいよね」と何度も言われました。
痛感した「格差社会」の現実
こうして氏育ちが全く違う世界があると思い知っていったのがこの東大時代でした。
ある先生がものすごいでかいベンツのSLに乗ってきたときのことです。「あれ?先生車変えました?」と聞くと、「うん、奥さん妊娠したからさ、うちの親が心配して、安全性の高い車にしろって言ってきてさぁ」なんて言われたので「じゃあ、もう戦車にでも乗って下さい」と思いましたね。
あそこにいると、自分は庶民というより、もっと蓮っ葉な気持ちになって、「いや、こちとら雑草っすからね。」とばかりに、どんどん面白女に徹していくしかなかったんですよね。「はい、私同じ価値観で生きてません」と演じてないと、現実を直視しなくちゃなりませんから。
おまけにこのエリート集団達は、金持ちで優秀なお父さんがいるわけで、そんな人は当然美人のお母さんを選ぶと見えて、子供達は顔も良いんですよ。美男美女の集まりでした。そんな人達はもちろん性格も良くなりますよね。「天は二物を与えず」どころか、二物も三物も下手すりゃ五物くらい与えています。
実際、医者の結婚式に何度もでましたけど、女子アナとか当時はスッチーと呼ばれたキャビンアテンダントと結婚する人、もちろん同僚医師同士と結婚する人なんかがいて、こうして代々賢く、金持ち、そして美しい人達が続いていくんだなぁと思うと、だんだん惨めで貧乏な自分が呼び起こされていきました。格差社会ってこうして生まれているんだなと、私はすでにそんな言葉すらなかった30年前に気づいていましたね。
こんなエリート達って本当にいるんだと、自分とはかけ離れた世界を知ってしまうと、セックスレスだったこともあって、もう絶対に子供なんかいらない、頭脳も経済も自分たちレベルの子供なんか作ってどうする!という気持ちになっていきました。勝ち組だと思っていた結婚も、自分の狭い視野ゆえの勘違いだったんです。他人と比較するって本当に不幸の始まりですよね。
こうして私は、ますます結婚に興ざめしながらも、どんどんどんどんセレブな人達と、セレブな遊びを覚えていきました。
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コメント
※先日投稿しましたが、上手く送信出来たか不明のため、再投稿します。
文中の、「住む世界が違う(ハイソな)人達の中でお笑い担当になっていた」というところ、(ギャンマネで共感できなかった回が無いので、もう毎度の事ですが) 私も同じような経験をしたため、大変共感できました。
私は浪費依存症(借金をしてでも旅行、遊び、趣味等にお金を使うタイプ)なのですが、より浪費が加速する切っ掛けになったのは、社会人2〜3年目で入った"高学歴男女が集まる社会人サークル"でした。
女子大に所属し、インカレサークルにも入らずバイトに勤しむ学生時代を過した私にとって、ハイスペックで頭の切れる彼等との交流はまるで自分も"そのレベル"になったような錯覚に陥るもので、あっという間にサークル活動にのめり込みました。
開催されるあらゆるイベントに欠かさず参加し、どんどんサークルの中心メンバーになっていく自分が本当に気持ち良くて、みるみると借金も膨らんでいきました。
平日の会社では思うように輝けない自分を、そのサークルを使って引き上げていたんだなと思います。
格差を感じながら、でも憧れてしまう。等身大の自分を見たくない私が居たことを、ギャンマネを読みながらしみじみと思い出しました。
人としての賢さは学歴じゃない
本を読まない奴はバカだ
悩む時には歴史の本を読めば
人生の答えは先人の本が教えてくれる
歴史の本には 人生の戦いの
勝敗の原因が書いてある
と、夫は言っていた
私は行き過ぎた節約志向で
子供をよく市立図書館に連れて行ったが、
本は買ってこそ
その人の知識となる
知識は金を払って本から身につけろ
ホンマモンのケチやな
言われていた。
りこさんは 色々な場面で
いつも賢い女性だなと思う
『上着をお預かりして、かけておいてね』など 、その場に応じた細やかな心配りは 今だに 仕事がデキる秘書そのもの。
境遇は異なりますが、私も子どもについて似たような考えを持って生きてきました。
「自分は虐待を受けてきたし、世代間伝播で不幸な子どもを作る位なら産まない!」と。
リコさんの中で、子を持つことに対する考えが変わった時期なども、今後ぜひ書いてほしいです!
生きる力って、どんな場所でも、どんな人の中でも渡り合えて、その中から何かを得てパワーアップしていく力だと!リコさんの逞しさと、素直さが読んでて気持ち良いし、おもしろーい。
次回も期待しちゃいます。
今回の「東大医学部秘書」
どんな仕事なの、何何って
興味津々であっという間に読み終えちゃいました。
そして、これが格差社会の現実か〜まあそうでしょうねって。
あと、りこさん本当に経験豊富だし、なんせ人を惹き付ける力がすごい!
文章にも勢いがあって面白いです!
セレブのお遊び。
次回、楽しみにしています。
りこさんが今も昔も、皆から愛される理由が随所に書かれていて、心温まるエピソード満載でした。あのバブリーな時代に、CAだった私。語学が堪能で美しく教養豊かで憧れるCA仲間もたくさんいて、自分の視野もどんどん広がった。確かに医師やパイロット、野球選手など年収高めの方と結婚した仲間は多かったけど…この30年。人生色々です。あの若かった頃には考えられないくらい私もCA仲間も、痛い思いもいっぱいして(笑)成長したな~と思える。そしてあの頃より私達ずっと逞しくなったよね(笑)と久々の再会で笑い合える。今は久々に会ったCA 仲間にも、依存症のこと、リカバリーカルチャーのこと、りこさんの活躍なども話せて話題は尽きない。りこさんのこの連載を毎回笑いながら楽しみに読んでる今の自分が大好き。書籍化ドラマ化トオル様がどんどん近づいている!!
今回も、また面白い!!
りこさんは、どんな仕事でもそこで、持ち前の能力を発揮して全力でハマる人なんだな〜と、あらためて感心いたしました。
東大医局秘書なんて、そうそうなりたくてもなれるものではないし、ホンマもんのエリート、セレブ達と付き合っていけたりこさんが並外れた才能と魅力のある人だと思います。
お話を読んでいるこちらがワクワクします。
次回も楽しみ〜。
とにかく面白い!比喩、言葉選びが巧みで文字面からの風景が浮かびます。
1冊の本としてまとまって欲しい
かっこいい響きの仕事の話が丁度きた、ってなかなか無いですよね。それまでの何でも楽しんでどこでも可愛がられるりこさんだから繋がって行くんだなと思いました。
私もOL時代、上司が引き出しに文庫をたくさん持ってて、何でも読んで良いよ〜って言ってくれて通勤時間読みまくったこと思い出しました。
さあ、次はどこに繋がって行くのかな〜楽しみ
早く続きが読みたくなる!!
ぜひぜひ書籍化、そしてドラマ化してほしい!
次回も楽しみにしています😊
天は二物を与える人もいるのに、自分は何にもないと嘆いてた事を思い出しました。りこさんも思ってたと思うと嬉しいというか、同じ仲間なんだなと感じました。続きが楽しみです。
周りの言うことを素直に聞き、行動していくりこさんはこの頃からも健在だったんだぁと思いながら読んでました。たくさん本を買ってもらい、「うんいい子だ」と目を細められたシーン、とてもほっこりしました。
本当に上品で実家が太い人って嫌味なく育ちの良さが会話から滲み出ていて、多感だった時の私はそれに圧倒されました。そういう人たちに一歩でも近づきたかったけど、全然ダメだった。近づこうとすればするほど自分のバックボーンが浮き彫りになり惨めで辛かった。
自助グループや12ステップに繋がって初めて、自分は自分でいいのかもと思えたのでそれまではずっと比較ばっかりで辛かったなぁ〜と思い出しました。
あと、単純に、いろんな教養や知識をっている人の話を聞くのは脳の違うところが刺激されて楽しいよなぁ!とそのわくわく感も思い出しながら読んでました。
次はどういう展開なのか、楽しみです〜!
他人と比較するって本当に不幸のはじまり。あーー本当にそうですね。人を羨ましく思ったらまけなきがして、いやわたし大丈夫ですしと面白おかしくしてみたり。同じことしてるなと思いました。ありのまま自分からいろんな形ではなれていくことは、どんどん苦しくなっていくよなーと色々思い出しながら読みました。
戦車にのればは吹きました(笑)このシリーズ本当に大好きです!!
一般庶民からしたら、憧れの世界で働いたりこさん。その経験も現在の活躍の原動力の一つですね。
この回は特に楽しく読めました。
持ち前の明るさと物怖じしない性格が今日までずっと保たれて、沢山の仲間を救ってくれています。
この時代のりこさんにも感謝です。
どんどんいろんな世界を見ていくリコさんが楽しみです。
私は夫の海外赴任について行った時、そこで知り合った大手商社などの奥様方があまりにも今までの自分の世界とかけ離れた価値観を持っていて、ついていけなかった事を思い出しました。私は尻込みしてしまい後半はお誘いをやんわりお断りしてましたが、今思うともったいなかったと思ってます。
次もすぐ読みたいです!
ありがとうございます‼️
今回もめちゃくちゃ面白い‼️
コンプレックス感じて自分を卑下したくなるから私ならそんなところで働く選択肢はなかったと思う。
人にどう思われるかではなく、人に興味を持ち向かっていくところが、私からみるとまるで別の星からやって来た人のよう。
過去そんな風に生きてみたかったなぁと読んでいて思ったけど、考えてみると絶対できなかったな〜と、選択肢はなかったと思う。
ここからセレブ編?
同時代を過ごした私だけど、全く知らない世界のことが書かれていそうで、今からドキドキです。
へぇー、りこさんはこんな経験をしたんだ。実に面白い。りこさんの言う「格差」は30年前より今の方がひどくなっていると思います。田舎やイマイチの家庭環境から有名大学へ、という若者は減っているという実感があります。これをぶち壊したいと思いますが、事態は逆方向か。こういう格差固定の社会は「落ちちゃいけない」プレッシャーと「どうせ上がれない」あきらめが蔓延すると思います。そして世襲政治家がはびこる。なんとかならないか💦
この好奇心の凄さが今のりこさんを作り出したのでしょうか。人への洞察力や先生方を虜にする才能は元々お持ちなのですね。
毎回本当に面白く、今回は私は兄が医師で秘書の話があったけれど受けなかって後悔した人なので
やはりりこさんは、それを受けて尚且つ他の人とは違う事をし、それが受け入れられ、可愛がられる
私からしたら羨ましいの一言でした。
年代も近いせいか、文章を読むごとにその情景が、浮かぶ。
本をよむのが苦手な私ですが、毎回引き込まれていきます。