Addiction Report (アディクションレポート)

信頼できる医師と出会って 市販薬のオーバードーズに代わる何かを模索中

市販薬のオーバードーズで救急搬送され、精神科にも入院したミオさん。2回目の入院で初めて信頼できる主治医と出会います。

信頼できる医師と出会って 市販薬のオーバードーズに代わる何かを模索中
信頼できる医師と出会い、市販薬のオーバードーズに代わる安心できる何かを探すミオさん(仮名)撮影・岩永直子

公開日:2024/12/13 02:01

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朝に市販薬を90錠、夜に120錠を一気飲みして救急搬送されたミオさん(仮名、19歳)。

信頼する医師と出会い、市販薬のオーバードーズに代わる何かを模索している。(岩永直子)

悲しむ親の姿に「自分が許せない」

高校3年の6月、市販薬を一気飲みして救急搬送されると、駆けつけた両親は泣いていた。

そんな両親の姿を見て、病院のベッドの上で申し訳ないという思いでいっぱいだった。

「こんなに何回も迷惑をかけているのに、それでも泣きながら死なないでほしいと言ってくれる。それでも私はずっと死にたいと言っている。自分のことが嫌いになるし、治せない自分が許せないという気持ちが強まりました」

救急対応してくれた医師からは、「薬の成分は致死量を超えていた」と言われた。

学校に連絡すると「しばらく休んでください」と告げられた。それもショックだった。これで、委員を務めていた夏の学校イベントも出られなくなる。理想の自分からどんどん遠ざかってしまう苦しさが胸を覆った。

精神科に初めての入院

搬送された大学病院に通院することになり、主治医からは「入院した方がいい」と勧められた。

「私が物理的に市販薬から遠ざからないとこのまま死んでしまうからということで勧められたのだと思います。私も自分が何をするかわからないし、ちゃんとやっていける自信もないので、入院しますと答えました」

3週間、閉鎖病棟に入院した。医師や看護師と話し、集団精神療法を受けた。入院中も受験勉強はさせてもらえた。

主治医は治療の見通しについては一切話さない人だった。

「私は結局ずっとこのままなのかと思い、その先生のこともあまり信頼できずに終わりました。医療への信頼はないまま、退院しました」

退院後、しばらくオーバードーズは止んでいた。しかし、少し経つとまた苦しくなって使い始める。

「また搬送されるようなことがあったら、受験もできなくなる。錠数としては100錠を超える日もあったのですが、搬送だけは避けるようにコントロールして飲んでいました。そこからは今まで搬送されていません」

2 回目の入院で信頼できる医師と出会う

高3の冬には、受験のプレッシャーで頻繁にオーバードーズするようになった。頭が朦朧としている時間が増え、当然、成績は伸びない。不安でたまらなくて、1日1瓶市販薬を飲む悪循環に陥った。結局、志望する大学には受からず、浪人することになった。

そして今年の夏、再び入院する。

その頃、躁鬱の鬱期に入り、毎日生きているのがやっとの状態だった。

「私はオーバードーズしていることすら主治医に話さなくなっていました。どんどん疲弊していく様子を先生は感じていたようです。『処方薬を調節する』という名目で入院を勧められ、後から『ギリギリの様子だった』と言われました」

入院したとたん、「症状の改善が見られないので、主治医を変えます」と告げられた。その新しい主治医は、初めて信頼できる医療者だった。

「私の考えていることをそのまま理解しようとしてくれて、私と同じ言葉を使おうとする。例えばオーバードーズすることを『私にとってはこんな行為なんです』と説明すると、その後の診察でも同じ言葉を使って『この行為はどうなってる?』と聞いてくれる。私と同じ理解でいてくれて、私が話すと『それはこういうことで合ってる?』と確認してくださる」

「私の生きている世界をそのまま同じように見ようとしてくださっていることがすごくよく伝わりました。この先生だったら自分の心の中を話せると思った、初めてのお医者さんでした」

自分の知らなかった自分を教えてくれる先生

新しい主治医と毎日話をし、薬を調節していくうちに、先が見えてきたような感覚が掴めてきた。

「病気が治ったわけではないですが、こういう手順を踏んでいけばもう少し生きやすくなるかもしれないと思えるようになりました」

その主治医は自分の語ることをそのまま受け止めてくれるだけでなく、これまで気づかなかった自分の考え方の癖を指摘してくれた。

「自分はゼロヒャク思考をすると自分では思っていたのですが、先生は『三角形があるとして、あなたは3 つの角を大事にするけれど、中の面の部分を飛ばしてしまう。思考の手順として、角に辿り着くまでの中のモヤッとした部分を飛ばしてあなたの中でなかったことにしてしまうから、ゼロヒャクの思考になるんじゃない?』と指摘されました」

「そうやって自分の思考の癖を分解して教えてもらうと、思考するときにちょっと気にするようになる。『ああここを飛ばすからダメなんだ』と気づいていきました」

主治医は、「あなたはルーティーンにするのが得意だから、ルーティーンになっている自傷がやめられない。人に尽くすこととか、毎日考えることは当たり前のようにできるけど、オーバードーズもルーティーンになっているから、やめていかないといけないね」とも言った。

「周りの人を苦しめてもO Dをやめられない自分を許せなかったのですが、ルーティーンにする性格があるからやめられない。『別のルーティーンを作っていけばやめられるんじゃない?』と言われて、頭ごなしに自分を否定していたのが、気持ちが楽になりました」

「『あなたはここが悪いかもしれないけれど、ここは悪くない』と分解して説明してくれるので、もう少し冷静に自分を見られるようになりがとうた。ただ自分のことを肯定してくれるのもありがたいのですが、正しい自己理解を促してくれる。治療とカウンセリングを一回でやってもらっているようでした。そんな先生に初めて出会いました」

自分の考え方の癖を使って、変わる試み

自分の考え方の癖がわかってくると、その癖を活かして、これまでとは違う生き方をする試みもできるようになってきた。

「ルーティーンが得意なら、市販薬のオーバードーズというルーティーンを変えるにはどうしたらいいのだろうと考えました。学校に通っていた時は、頭をぼやかすことが目的でODをしていました。今は塾に行く日は毎日飲んでいますし、ODをしないと外に出られません。ODという行為自体に安心感を持っています」

「だから今は、安心感を得られる他の行為を探しています。そして、それをルーティーンにできるように頑張る。例えば、母親と一緒に家を出る。仕事をしている母は家を出るのが早いのですが、一緒に出てしまえば不安にならずに済みます」

音楽が趣味なので、ライブを聴きに行ったり自分で演奏したりして、気分転換することもある。

「それでも衝動的に『ああ、無理だ』となってしまうことはあります。でも少しずつ、変わっていけたらと思うんです」

記事を通して、同じ悩みを持つ人と繋がる

今もしんどい日はたくさんある。

「ODもやめられていないし、最近も危ない日がありました。過去のしんどかった自分を思い出したり、いますぐ死のうと思った時や救急搬送された時の気持ちを思い出したりしてしまう。そんな時はひたすら横になったり、薬を飲んでいたりしています」

同じ苦しみを抱える当事者と交流はしたことがないし、SNSでいわゆる「病み垢」を持って、市販薬をODする人と連絡を取ることもない。ただ、市販薬をオーバードーズしている若者の記事はよく読んでいる。

昼間は今日1日を生きるだけで精一杯だが、夜寝る前にはなぜ自分の人生はこうなのか、何のために生きているのか、考えることがある。

「そんな時、他の人がどんな人生を送っているのか知りたくなる。だから記事を読むんです。いろんな人の人生を知ると、明日からの自分の人生を生きるきっかけになることがあるんです」

「ビビリなのでS N Sなどで交流はしないのですが、同じ悩みを持つ人の背景を知りたいし、その人の人生が知りたい。完全に同じとは思いませんが、いろいろなきっかけがあって同じ行為をしている人が他にもいると思うだけで、多少救われます」

ミオさんは自分自身の行動を異常だと感じ、それが自分を卑下する気持ちにつながっている。だが、市販薬依存の人が紹介されているのを見ると、「人によっては取り得る手段なんだな」とわかり、少し落ち着くことができる。

「私もまだここにいていいんだなと思うし、取材してくれる人がいることを知ると、分かろうとしてくださる人がいるんだなと思えます」

今回、ミオさんは性同一性障害で市販薬のオーバードーズをしている善太郎さんの記事を読んで、取材協力を申し出てくれた。

「私はいまだに自分が苦しむことが傲慢だと思うことがあります。環境に恵まれているし、発達障害があるわけでもない。勉強もできるし、成功者の仲間に入ろうと思えば入り得る立場にいます。環境のせいにできるわけではないと思うので、自分の人生を客観的に描写してもらい、昇華できたらと思ったんです」

自分の経験がどのように受け止められるかわからないが、自分の物語が共有されることで、同じ悩みを持つ人に役立てたら嬉しいとも思う。

「こういうことがきっかけで市販薬を使う人がいると伝わって、自分が異質ではないと思ってもらえたらいいなと思います」

(終わり)


なぜ市販薬に頼りながら生きている人がいるのか、取材を続けています。楽になるため、しんどさを忘れるため、楽しむためなど、市販薬を使った体験をお話しいただける方、市販薬に依存している人の支援についてお話しいただける方を広く募集しています。ご協力いただける方は、岩永のX(https://x.com/nonbeepanda)のDMかメール([email protected])までご連絡をお願いします。岩永が必ずお返事します。秘密は守ります。

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コメント

8日前
匿名

環境に恵まれてるからといって苦しむのがおかしいというのはたぶん論理に飛躍があります。たとえば、バリヒンズーではすべての物事は正と死、善と悪などというように必ず相反し、それらのバランスが維持され共存することで世界が成り立つとされています。この思想は、たとえば一つの家庭の中で親御さんがよい人すぎるとこどもがいろいろ悪いことをすることでバランスが取れる、という世界観です。ですからよい環境なのに自分は・・・という考えに追い詰められることもありません。正しいかどうか、ミオさんの家庭がどうかは別にして、こういう哲学の中で生きている人も世の中にはいます。世界は広いです。

8日前
ゆうたろう

とても貴重なお話が聞けました。

人は変われる。

やり直せる。

応援します。

私はクロスアディクションでアルコール、ギャンブル、クレプトマニア、タバコと止められませんでした。

以前にコメントさせて頂いたことが有ります。

クレプトマニアで2度刑務所へ。自分ではどうする事も出来ないと悟り警察に逮捕されるように窃盗をして刑務所へ。

2度とも1年二カ月の刑。

2度目の刑務所で出会った受刑者に違反薬物常習者が多数居て、多く常習者は運が悪かったと言う。 此の言葉から自分一人では依存症、特にクレプトマニアは治せないと実感しました。

私の窃盗は女性の下着とインナーです。肌に触れる多くの物を身に付けたり、マチの部分の陰部の染みが堪らなく恋しいのでした。

盗んだ下着を常に身に付け、洗濯もします。

下着を慕うのは母を慕う気持ちで母に抱かれるイメージでした。

更にベランダから盗む緊張感や高揚感が病みつきとなり、ルーティンと成ってしまったと考えてます。

ギャンブルもまた、当たりハズレの緊張感、当たった時の高揚感にドル箱を積み上げた優越感が堪らなく誇らしい。

負けたら取り返す。

自分には取り返す能力と技術が有ると自負してました。

トータルすると負けていることはわかっていても、自分に言い聞かせて大枚をはたく、借金まみれ。自己破産。

ホームレス。スーパー、コンビニ万引き。

2度目の出所でクリニックに通院しながら、パートの特養ホームの清掃パート。

今は止めました。

生保で生活させて頂いてます。

クリニックに毎日通院し、ミーティングに参加し、体験談と自分が今、感じている事、生保でいられる感謝を込め社会に対して、小さな恩返しを毎日すると

頑張ってます。

沢山の依存症の仲間、アルコール依存症者と共に回復を目指してます。

今も下着は通販サイトやフリマアプリから購入し、嗜好品として愛用してます。

身に付けていない自分では、不安や物足りなさ、詫びしさなどが複雑に絡み合い、毎日クリニックにも身に付けて通院してます。

これだけは誰にめ言えないままです。

いずれはカミングアウトするべきと考えてますが、其の時は決めてません。

きっと、突然カミングアウトすると感じてます。

身に付ける事が悩みであったり、苦しいことは全くなく、むしろ安心感で一杯です。

私のルーティンは下着毎日着用です。

其れか私を前向きにし、社会に恩返ししたくなり、人と触れ合う必需品です。

少し話しが変わりますが、

ソバーキュリアスと造語。

シラフてアルコールを飲まずに愉しむ会話。

アルパ飲み。

明日が変わるトリセツショー。

アルコールの1杯目の飲み方を変える事で、飲み量が格段に減るアルパ飲み。

此の女性の回復には役立つとは思いませんが、ルーティンを変えると云う点では物凄く共感してます。

依存症も精神疾患ですし、〇〇を止めてるだけでは治療は回復は進まない。

何故、アルコールに頼るしかなかったかを棚卸しして、自分を変えルーティンを変える。

習慣化されてしまうと、無意識にルーティンが染み付き、無意識にやってしまっている自分がいる。

ODの事は無知ですから、知恵は湧きませんが、

一つの方法として、ODをしている生活習慣を改める、止める事から始められたらと思います。

クリニックの仲間たちに私はメッセージを送ります。

アルコールを呑まない生活を送る為には、アルコールに付随するタバコを先ずは変える事。

一番は禁煙ですが、禁煙は1日中クリニックにいると喫煙は癖に成ります。

私も通院したては喫煙者でしたから良く分かります。

でも、今派喫煙者では有りません。 禁煙者でも無い。

タバコを吸わないは人です。

此の方のODに付随した生活習慣を変える事は、無駄には成らないと思います。

そして、必ず回復出来る自分がいる事を信じる事。

今日は服薬しなかったなら、

凄い、出来る、大丈夫、私には回復する力が備わっている後は、その手順を見つけるだけなんだ。と云う模索だけです。

また、スリップも有ります。

私は恵まれていてスリップした体験は無いのですが、仲間たちに言いますスリップは恥では無いしスリップが自分を変える有意義な体験なんです。

失敗としたなら何故失敗したのか考える事、そして糧にし繰り返さないこと。

繰り返さなければスリップの回数はやがてゼロに成ります。

そして、大事なのはスリップした経緯と反省を誰かに聞いてもらうこと。出来れば多くの共有者の方々に。

共感や意見を聞く。

カミングアウトすることで、心が軽くなるし安らぎます。

私も、あなたも、

絶対に回復します。

絶対に!

と伝えて頂けたら有り難いです。

可能なら、此の方に読んで頂けたら幸いです。

誤字があったら申し訳ありません。

ご自身を大切に、

御自愛。

そして、頑張る事だけが回復を進める理由ではないです。

頑張らない時期も必ず必要です。 

弱いと思う事があるなら、

其れはしっかりと自分を見つめられている証です。

是非、一緒に回復しましょう。

長文で申し訳有りません。

ありがとうございます。

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