「前例がない」なんて知ったこっちゃない! 上司と直談判して本社異動 ギャンマネ(5)
デパートの新入社員として活躍していた若き私。ところがある商品をきっかけに、営業以外にも広い世界があることに気づきます。本社異動を求めて行き着いた先は?
公開日:2024/05/06 05:19
連載名
ギャンマネさて、デパートで営業生活を満喫していた私ですが、段々心境に変化が訪れました。(プロデューサー・田中紀子)
夜遊びを満喫した青春時代
私は、どこにいっても長い青春時代を楽しんでいるような気分になってしまうのですが、
このデパート時代も、青春そのもののような気がしていました。
おしゃれなメーカーさんや若手社員で、毎晩のようにDiscoに行き、その後はカラオケやショーパブで朝まで遊ぶ。
ほとんど毎日眠くて「品出し」と偽って、倉庫で30分昼寝したり、時にはメーカーさんと結託して見張りを立て、試着室で交代しながら寝たりもしていました。
そして例の「24時間戦えますか?」の栄養ドリンクを飲む。それでもなんとかなっちゃうんですから、私の場合はまさに、「若さはバカさ」火事場のバカ力ならぬ、若さのバカ力を発揮していました。
ただ、そんな昼も夜も楽しい青春時代なことをしながらも、「でもなぁ、こんな遊んでる人たちと、結婚なんか絶対無理よね」と思っていました。
自分は洋服を買うのが好きだけど、だからと言って洋服代で給料が消えてしまうような男性と結婚するのは絶対嫌だ。当時の結婚適齢期は23才くらいでしたので、そろそろ適齢期に差し掛かっていた私は漠然と「ここには良い男いないなぁ」と思っていました。
喉を使い過ぎて声帯ポリープに
こうして昼間は睡魔と戦いながら、仕事も目標達成しながらちゃんとこなし、夜は大声で歌い、踊り、酒を飲み、煙草を吸いまくっていたら、なんと私、歌手でもなんでもない一般人のくせに声帯ポリープになってしまいました。
声はガラガラになり、かすれ声が魅力の歌手の森進一さんにちなんで「森しん子」と呼ばれるようになり、しかも痛くて仕方がないので、しょっちゅうこっそりのど飴をなめていました。結局手術をするまでの数か月の間、まさに体をかけて遊んでいる状況だったのです。
医者に言わせると私というのは常に声量が一定で、ひそひそ声でも声量同じということで喉に負担がかかるらしいんですよね。実際の私を知っている方なら納得すると思いますが、私はとにかく声がでかく、よく通るのです。
しかし、あまりの痛みで、声を出さなきゃならない営業店にいるのが嫌になってしまいました。
大好きなブロック長が異動 出世する人は本社に?
さらに、あの苦楽を共にし、みんなで一丸となって頑張ってきたブロック長が異動になってしまったのです。
もう異動発表の日は、メーカーさんも社員も女子はみんな涙涙涙。
お客様から「今日は何かあったの?」なんて聞かれてしまう始末です。
頭にきた私は、人事係長に社員食堂で会ったので「異動取り消してください!」なんて言ったのですが、もちろんそんなことは受け入れられず「人はね、出会いがあれば、別れもあるものなんだよ」なんて、相田みつをさんみたいなことを言われてはぐらかされました。
そして極めつけは、どうやらこの会社で出世している人は、みんな本社にいるらしいということを知ったことです。
大学出のエリートコースに乗る人らは、1年から2年くらい営業店にいたら、本社の人事や総務に行ったり、華やかなところだと企画とか広告、それに商品を買い付けるバイヤーなんていう部門もあって、そこに就いたりするらしいということが分かってきたのです。
このバイヤーっていうのが、何を買い付けてくるかは売り場にとっては重大問題なんですが、普段は別に店に来たりもしないので、私はそんな人が仕入れて、それを我々が売っているなんて全く知りませんでした。
ヘンテコな商品「フリース」を買い付けしてきたバイヤーとの出会い
ところがですね、一度だけあのバブルの高級志向の時代に「フリース」ちゅう変なモコモコのジャンパーみたいな代物が送られてきたことがあったんです。そう、みなさんご存じのあの「フリース」です。
でも80年代末期のバブル時代、ぴっちりとしたボディコン全盛期の時代にですよ。いくら男物とはいえ、もっさいモコモコの安い毛布みたいなへんてこりんな素材のジャンパーを初めて見た我々は「なんじゃこりゃ!」「クソだせ~」と、大ブーイングだったんですよ。
今思い出すと、流行というのは早すぎてもダメ「ちょっとだけ先を行っている」というタイミングが重要だなぁとつくづく思いますね。ここから「タイミングを計る」というのは、今の活動で私が最も神経を尖らせることとなりました。
先輩社員が「バイヤーは何考えてんだろうね」と怒ってたんで、
「なんすか?バイヤーって?」と聞いたら、商品を買い付ける人がいるんだというんです。
「もっと売れ筋仕入れてこい!って言いたいわよね」と怒っていたので、この私のことですから「じゃあ言ってやりましょう」と思って、本社のバイヤーに電話して呼びつけちゃったんですよね。
当時は、電話交換の人がいるので本社に電話して「新宿店の紳士の者ですが、紳士のバイヤーお願いします」みたいなバカみたいな連絡をしたんですけど、偶然うまいことそのバイヤーに繋がってしまったんです。
売り上げノルマがない「本社の仕事」を発見
で、その人がまた良い人で、文句を言ったら売り場までわざわざ来てくれたんですよね。
多分、私より4,5年上位の男性社員だったのですが、私が会って開口一番「こんなダッさい服売れないから返品したいんですけど」と強気にまくしたてたら、
「まぁ、そう言わないで、ちょっと置いてみてよ。だってこの値段で、この軽さで、この暖かさだよ。最高じゃない」と、商品をなでながらうっとりして言うのです。
私はマジであきれ果て、「バイヤーって売れるもの仕入れてくるんじゃないんですか?」と聞いたら「いや、そうだけどきっと売れるよ」なんて、完全に新入社員の私にビビりながら弱気の説明を繰り返すのです。
私は、心の底から不思議になって、なんでこの人がバイヤーをやっているのかなと思い、
「バイヤーってセンスなくても選ばれるんですか?どうして〇〇さんがバイヤーに選ばれたんですか?」
などと、信じられないくらいぶしつけな質問を、単刀直入に聞いていました。
それでも先輩は怒らずに「バイヤーやりたくて入社したからさ、希望出してたんだよね」と、当たり前の説明をしてくれました。「へぇ、それで選ばれるんですか。バイヤーって沢山いるんですか」などと本社のことを突っ込んで聞いているうちに、この会社には色んな裏方の部門があるんだなということも知りました。
「バイヤーって売り上げ目標とか、エアコン目標とか、カード獲得とかどうすんですか?」と聞いてみると「本社にはないよ、そんな目標」と言うじゃないですか。私は仰天して「えぇ!それで売れようが売れまいがどっちでもいい商品入れてきて、こっちはそれで苦労して、だったらバイヤーはめっちゃ楽じゃないですか」と突っ込んだら、さすがに「まぁ、そうだけど」なんてモゴモゴして、逃げるように帰っていきました。
今思えば、冷静で穏やかないい人ですよね。
多分、このフリースという新素材を見つけ、ここに賭けて勝負に出たんでしょうね。
でも、本当に全く売れず、結局すぐに返品になりました。
なんせU社がフリースで大ヒットを飛ばす12年も前の話ですから。先見の明がありすぎたのでしょう。その後、出世していることを祈ります。
本社への異動希望を上司に直談判
私は、この先輩との出会いで「いいこと聞いたぞ」と思い、次の人事考査で本社へ異動希望を出してやろう!と決めました。
営業店は毎月ノルマを必死にこなしてるのに、本社はノルマがなくて楽な仕事で、どうやら出世もしていく。そんな不公平なことがあるなら、なんとしても私もその楽な方に行かなきゃ!当時の私はこう考えました。
そして先輩社員らに「私、本社に行きたいんですけど」と、言ってみると「本社は大卒しか行かれない」と言われました。情報を仕入れてみると確かに短大卒は殆どいない。
しかし前例なんてものでこの私が諦めるわけがないんですよ。
ここで私は一計を案じます。
なんせ今の私、声帯ポリープで喉がガラガラ。しかも痛くて痛くてたまらないわけです。
手術をすれば治っちゃうんですが、これを利用しない手はない。
早速、人事の係長だか課長だかよく判りませんでしたが、店で一番偉そうな人事の人に「お話があります」と直談判に行き、
「私はもう声を酷使する営業店勤務は無理です。声帯ポリープの手術をしても、私の声の出し方が普通の人と違っているらしく喉を酷使してしまうらしいのです。ですからしゃべり続け、セールの時は大声を張り上げるような営業店から本社に異動させて下さい!」
と、なんとも珍妙な理屈で訴えたのです。
もちろん人事の係長だか課長だかは、そんな1年目の女子社員の訴えなどさらりとあしらい「半年ごとに提出する人事査定の用紙に書いて出してね」と言われて終わりました。
今につながる債権処理の部署へ
でも、この冬の人事査定の用紙に、同じことを長々と書いて訴えて出したら、2年目の夏でなんと本当に本社に異動になったのです。
その頃には声帯ポリープも手術してすっかり元気になっていたのですが、私は希望が通ってガッツポーズをしました。
でももちろんバイヤーのような花形部署ではなく、当時としては完全窓際部署で、クレジット払いが滞った人と最後の最後のところで、弁護士を通じて和解したり、裁判所に支払い命令を出したり、償却処分をしたりという、敗戦処理のような部署に異動になったのです。
80年代のあのバブル時代にこんな部署に来るのは、飛ばされた以外の何者でもありません。
でも、なんという運命のいたずら。
ここで私は今の仕事に繋がる、債権者側の論理を学ぶのです。これが今になって仲間達を助けていくことに大いに役立つこととなります。
「昔追う側、今追われる側」
追う側の知識を吸収できたことは、今の私の大きな自信に繋がっています。
最大のモテ期到来!
こうして本社に異動すると、この私に信じられないほどのモテ期がやってきました。
ここでいよいよ結婚相手を見つけたのです。
(続く。隔週の月曜日に更新しています)
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連載「ギャン妻が教える お金の心配をしないですむ方法」
コメント
おもしろすぎます!
Z世代手前の息子に
【バブル時代ってどんな?】
と、聞かれても
【皆、羽振りが良くて浮かれててとにかく活気と野心に満ち溢れてたわ。】くらいにしか回答出来ないでいましたが、りこさんの具体的な話があの時代を全て物語っています。一番わかりやすいです。
是非、書籍化してほしいです!
思わず声が出てしまうくらい笑いました。巻き上げすぎの前髪も、一周回ってかっこいい(笑)
先見の明のありすぎたバイヤーへの配慮の言葉にりこさんの愛を感じました。
次回も楽しみにしています。
今井美樹さんばりの巻き髪と
平野ノラちゃんばりのスーツで
お仕事バリバリ りこさん
憧れます!
しかーし
大型店や本店異動は 大大リスク有
手放しで喜べない
どうなる りこさん??
続きが楽しみです。
ギャンブル依存症、ギャン妻・・・それらがテーマなことを忘れてしまうくらい、まるで連載小説!
「声」の想像がつくのでにやけてしまいました。
どんどんグレードアップしていくりこさんを、わらしべ長者みたいだな、と思いました。ずっとパワフルなのも、機を逃さないのも、「どこにいっても長い青春時代を楽しんでいる」ことができるからなんですね。
チャンスを逃さない瞬発力、絶対学びたい。次回が待ち遠しいです。
よねっちさん、私が間違えてコメントを消してしまいました。ごめんなさい。もう一度、ご投稿いただけませんでしょうか?どうぞよろしくお願いします。
私は今回、写真に魅せられました。美しい!!
お話も面白くて、ついさっきまで悲しくてちょっと泣いてたんですが、元気になれました。
「昔追う側 今追われる側」
神様のお導きだと感じます。
次回も楽しみです!
またまた今回も面白くて、ワクワクしながら読ませていただきました。昼も夜もパワー全開!今もお変わりないですね。
異動で債権者側の理論を学びその知識が今に活かされている。豊富な人生経験が役立っていますね。転んでもタダでは起きない(別に転んでないけど)りこさん、たくましいです。
面白いです!さすがの文章力で情景が目に浮かびます。
行動力の大切さが伝わりました。
モテ期編も楽しみに待っています!
面白すぎる!全て導かれていたんですね〜
続きが待てません。
まさかの展開すぎて、現実は小説より奇なり、だなぁと思いながら楽しく読ませて頂きました。
今でさえ、大手企業の店舗・支店から本社への異動は運次第か成績次第、もしくは何か問題を起こしたか、なのに、
その当時はもっと階級的な認識が強かったはずです。
りこさんの怖いもの知らずさは認識していたはずですが、若い頃から本当に怖いもの知らずだったんだなと改めて驚きました。
そして何よりも、男になんぞ頼らずとも全然生きていける切り開き力があるじゃないか!と感じました。
次回も楽しみです!
自分の手で未来を切り開いていくりこさんの原点ここにありという感じ…痛快で面白くてあっという間に読んでしまいました。
次回が待ちきれない、楽しみです!
ほんとに面白いです。
そして爽快で読んでいて気持ちがいいです。
テレビでドラマにして欲しい😍
次回も楽しみにしています。
やりたい事をやるために、分からないことは即、聞く!誰にでも聞く!そしてすぐ動く!迷う時間無し。
面白くて、面白くて、元気になります。毎回次が待ち遠しいです。連載、ずっと続いて欲しい。
もう、めちゃくちゃおもしろい!
まるで田中さんの「声」が聞こえてくるようです!
田中さんの人生にたくさんの伏線が張られていたようで、そのことも不思議な力を感じます!
続きが楽しみ〜!!
どんな経験も今の自分に無駄な事はないんだと教えてもらいました。そしてピンチをチャンスにするエネルギッシュさはさすがです。
そしてとにかく当時の記憶が蘇る(ほぼ同世代)文章に引き込まれます。
写真の髪型が景気の良かった時代を思い起こさせます。みんなソパージュ。
会社の中を忖度無しで渡り歩いていく姿がとても痛快です。あんだけ思った事を言ったり、やったりしてたら人生楽しそう。次回も楽しみです。
田中さんのバイタリティー
世の中を泳ぐ力が文章から伝わります。
あのバブル時代、ソバージュやワンレン、ボディコンのファッションでイケイケで突っ切っていたんだろな
モテ期のお話楽しみ
いつも読みながら全てにおいてチャンスをモノにする、今に繋がる人生を送ってこられたんだなぁと感じています。
過去の事を包み隠さず知れるこの記事が毎回楽しみで仕方ないです。
懐かしいバブル期、あの輝いてた頃、憧れの都会を感じます。
あのフリースが12年も前に売られていたなんて衝撃です。U社が初めて出した物だと思っていました。早く出すぎて売れなかったとは、流行を掴むって難しいですね。
そして本社に異動、モテ期到来の次回も楽しみです。
今回も度肝を抜かれました。
なんて率直なんだ。
だから、いろんな人が驚きつつも、ちゃんと応えてくれるんだなあ。
私には1ミリもない率直さ、チャンスを逃がさない行動力にハラハラしながらも魅せられます。
債権者側の理論、結婚相手、もう今から楽しみで、楽しみで。
りこさんの、みんなを元気づけるエネルギッシュなパワーは、この頃から既に溢れんばかりの勢いで周りを元気にしていたんだろうなぁと感じましまた。
面白くて、あっという間に読み進みました。とても興味深いです。モテ期到来、楽しみにしています。
おもしろい!
思ったことが言えるなんて羨ましい限り。物怖じしないところが天性ですね!
そしてなんと債権処理の仕事!まさか20代の仕事が今に繋がっているなんてまさかの展開。毎回目が離せません!
田中さんの行動力に本当に凄いなと思います。最大のモテ期早く続きが読みたいです。