Addiction Report (アディクションレポート)

ワクチンで自閉症になる?〜反ワクチンや偽医療に依存する人の心理と付き合い方〜

先日出産したばかりの筆者。そろそろワクチン接種や保育園の申し込みの準備が始まるため調べ物を行う日々。しかし、育児情報にはデマも多くあると知り、育児に詳しい小児科医の森戸やすみ先生に「偽医療に依存する人たち」をテーマに話をうかがった。

ワクチンで自閉症になる?〜反ワクチンや偽医療に依存する人の心理と付き合い方〜
行政から送付された定期予防接種予診票(撮影:姫野桂)

公開日:2025/10/09 02:00

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偽医療という依存〜母になって初めて知った危うい情報〜

先日区役所から子どものワクチン接種の案内が届いた。たくさんのワクチンを受ける必要がある。しかし中には「ワクチンを受けず、おたふく風邪 にかかった子の家に遊びに行って“おたふく風邪パーティー”で免疫力を上げようとする親もいる」と語るのは小児科医の森戸やすみ先生。

眠る新生児(撮影:姫野桂)

ワクチンのなかった時代は多くの人が感染・死亡していた

 

――子どもにワクチンを受けさせない親もいると聞きます。

 

安易にワクチンを打ってはダメ、基礎的な免疫力を上げることが肝心だとSNSで発信している看護師もいます。でも、たとえば百日咳のワクチンができる前は、百日咳にかかる人が今の10倍以上もいました。2024年までコロナ禍で感染症対策を行っていたおかげであらゆる感染症が少なくなっており、百日咳もほぼゼロに近かったのです。

3密を避けるとかマスクをつけるといった感染対策が緩み、人流も回復して、百日咳は2025年半年だけで3000人以上報告されています。感染症対策やワクチンのなかった時代は年間数十万人〜百万人近くの感染者が推計されていて、何千人も死亡していました。

現在のように、百日咳が原因で亡くなることがめったにないという状態になったのは、免疫力が上がったからではなくワクチンと治療法の向上の成果です。それなのに、“おたふく風邪パーティ”や “百日咳パーティ”で子どもを集めて、後遺症を残したり亡くなったりしたら取り返しがつきません。

 

また、訪問助産師などから「ワクチンで自閉症になった子がいる」と言われた人もいます。今は、アメリカのケネディ保健福祉長官による誤情報が話題ですね。新型コロナワクチンも早く認可されたので本当に大丈夫なの? と警戒心を持つのは生物として仕方のないことだと思います。声の大きい人が「健康なのにワクチンを打つべきではない」と言うと、やはりそうなんだと思ってしまうのだと思います。でも、ワクチンは自閉症の原因にはなりません。

――HPVワクチン接種後に体調が悪くなったのはワクチンのせいだと主張する人がいて社会問題にもなりましたよね。

 

あのときの不調はもしかしてワクチンだったのではないか? と思うのは自然なことです。でも、報道された症状とHPVワクチンに因果関係ないことは大規模な調査、研究でわかっています。そのため、HPVワクチンの積極的勧奨が再開しました。予診票が家に届かないことが7年以上も続いたので、「これは国が、ワクチンが健康に害を及ぼすと考えているからに違いない」と思う人がいたのです。

このようにワクチンに限らず、行政が何か発信することは意図しないメッセージをとして受け取ってしまうことがあります。例えば以前はインフルエンザワクチンの助成は1歳から中学生までとする市区町村が多かったのです。すると、インフルエンザワクチンは生後6ヶ月から受けられるはずなのに助成が出ないということは、打っても効果がないからだと思ってしまう人がいます。

それは違うんです。おそらく予算の問題です。現在は、生後6ヶ月から高校生まで助成が出る自治体が増えました。検証の仕方がわからないと、ワクチンは良くないものだと避けてしまうことはあるかもしれません。

――新型コロナウイルスの流行により、知人でもマスク着用や新型コロナウイルスのワクチンに反対している人がいました。反マスクや反ワクチンの人は政府を疑い、偽医療を信じているのでしょうか

自分は感染しないから対策をしなくていいと思っている人と、自分がまさかウイルスを広める側にはならないだろうという変な自信のある人がいます。そのような人たちにとっては目に見えるものが全てなのではないかと思います。ウイルスは目に見えないものなので。政府に対しても不信感があるので国が言っていることを信じません。世の中のニュースはフェイクだと思っており、そういうのはとても生きづらそうだなと感じます。

偽医療にハマる人を否定せず、孤立しないようにする

 

――医師の中にもワクチンは危険だと主張している人がいます。

 

そうですね。そういう医師の書いた本ばかり読んでそっち側にこそ真実があると思ってしまう人がいて、そういう人たちは自分を「目覚めた人」「気がついた人」と感じているようです。

いいことだからみんなに知らせなきゃという善意があるため、そういう使命感や正義感のある人を論破するのはほぼ不可能なんです。

 

――そのような偽医療にハマらないためにはどうすればいいですか?

 

孤立することや相談相手がいない状態はよくありません。また、ネットのフィルターバブル(※)にも注意が必要です。何かについて検索すると、アルゴリズムで似たような情報ばかり出てくるようになります。その中に陰謀論や偽医療があると、「こんなにたくさんの人が言っているし、YouTubeでこんなに再生回数が多いから正しい」と思ってしまうんです。

 ※ネットで自分の興味があることばかりに触れていると、透明な膜に包まれたかのように異なる意見や価値観に触れにくくなること。

また、不安になったときに夫婦内で話せたらいいですね。自分の求める情報だけで固まってしまった人とコミュニケーションをとってほぐしてあげることが大事だと思います。自分が求めていない答えだと聞く耳を持たないので、否定はしないけど孤立しないよう共感してあげるのがいいのかもしれません。

 

――幼稚園に行くようになると自然派ママが寄ってくると言いますよね。

 

幼稚園の送り迎えの後、みんなでお茶をしないといけない雰囲気があると、自然派のママと交流することもあるようです。ワクチンを打たせないとか市販のお菓子を食べさせないといったママもいるようですが、「そういう考え方もあるよね」と波風を立てないように付き合わないといけないので難しいですよね。

行政から送付された『予防接種と子どもの健康』

ワクチンはテスト勉強と同じ

 

――ワクチンを打っていない子どもがいる場所に自分の子どもを連れていきたくありません。

 

あえて感染症にかかって免疫力を上げるという考えの人もいます。でも、かかった方がいい感染症なんてありません。予防接種の目的は免疫力を上げることではなく、重症化しないこと、合併症や後遺症を起こさないこと、死なないことです。

統計によって多少違うのですが、おたふく風邪にかかると200人に1人くらいの割合で耳が聞こえなくなってしまうという後遺症があるんです。おたふく風邪にかかってもあまり腫れない子もいるので、感染していることに気づかずに登園して周りの子に広めてしまい、後遺症が残ってしまう場合があります。3〜4歳の子は片耳が聞こえなくてもそう伝えられないので、就学前健診の聴覚検査で発覚することもあるんです。また、成人してからおたふく風邪にかかると、4分の1の男性が不妊症になってしまいます。

私はワクチンをテスト勉強にたとえています。テスト前に「こんな問題が出るよ」と過去問を知らされるのと、ノー勉強でテストを受けるのとでは違いますよね。もちろん、ノー勉強で試験をパスするもたくさんいますが、勉強をしておいた方がスムーズでうまくいくことが多いでしょう。上手にウイルスを追い払ってくれるのに、なんでぶっつけ本番で子どもに過酷なことをさせるのだろうと思います。予防接種で予防できるものはみんな注射を受けた方が有利です。 

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コメント

12時間前
れお

>>あえて感染症にかかって免疫力を上げるという考えの人もいます。

この考え方の人、身近にもいました。

本人は「自分は丈夫だから大丈夫」と言うけれど、周りにはお年寄りや子ども、基礎疾患のある方もいるのに…。

「そういう考え方もあるよね」と波風を立てずに付き合うのって、本当に難しいです。

12時間前
トコトコ

今から30年くらい前に、アメリカで生活していたころ、予防医療が進んでいることに驚きました。子供のワクチンは生ワクチンは口から左右の腕にはそれぞれ違うワクチン注射(3混など)と一度に5種類となることもありました。日本ではワクチンにないものもありました。日本では副反応?があったらすぐに取りやめになったりと予防に対する考え方が大きく違うと感じました。その病気になったほうがはるかに危険なのに。

ワクチンは大切です。予防する事ができるんです!

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