便秘の乳児に「キャラメル浣腸」食品だから安全のはず?〜育児デマに依存しないために〜
一ヶ月前に出産した筆者。入院中に助産師から育児の指導を受けたり、自分で育児書やネットで調べたりして、初めての育児に追われる日々だ。妊娠や出産、育児に詳しい小児科医の森戸やすみ先生に「偽情報に依存する人たち」をテーマに話をうかがう連載第2回目。
公開日:2025/10/07 02:00
子どもにできるだけ安全なものを食べさせたり使用したりしたいと思うのはどんな親も同じ。しかし、そんな安全を追い求めた結果、偽医療にハマってしまう人も。小児科医の森戸やすみ先生に誤った育児情報について聞いた。
「自然だからいい」「手作りだから安心」という証拠はない
――前回の記事では主に妊娠中のデマ情報について聞きましたが、育児における偽医療にはどんなものがありますか?
よく、手作りだから安全、有機栽培されたものだから安全、添加物が入っていないから安全、医薬品でなく食品だから安全と言う人がいます。でも、手作り有機栽培した農産物の方が栄養価が高いというわけではないし、味が良くなるわけでもありません。アレルギーが減るわけでもないです。
日本にはオーガニックの定義はないのですが、有機栽培された作物は有機JASマークを受けます。それをオーガニックと呼ぶ人が多いようですが、有機JASは農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないことを基本として、自然界の力で生産された食品について農林水産大臣が定める国家規格です。つまり、国が製造方法を保証したのが有機JASマークで、これがついているものが、栄養価が高いとかアレルギーにならないという証拠ではないんです。消費者は割高な方が体に良いと思って買うのでしょうけど、「自然」や「手作り」といった言葉を少し疑ってみませんか?と思っています。
離乳食教室の講師が豆腐でもなんでも手作りをしないといけないと言うこともあるようですが、子どもが産まれたばかりでやらなければいけないことがたくさんある人に、手作りをする余裕なんてないことが多いでしょう。
――特に新生児は3時間おきの授乳が必要で、実際に育児をしてみるとオムツ替え、授乳、寝かしつけ、哺乳瓶の洗浄や消毒をしているとあっという間に時間が経ち、すぐにまた次の授乳の時間が来てしまうので手作りしている暇などありません。SNSでは食品を体に塗っている人も見かけますよね。
2010年に話題になった茶のしずく石鹸の話をご存知でしょうか。この石鹸には、加水分解された小麦が保湿成分として入っていました。肌に塗ることで経皮感作(※)が起こり、小麦アレルギーになったりアナフィラキシーを起こしたりする人が出てしまったのです。
※湿疹などで肌のバリア機能が失われた皮膚に食べ物や花粉、ハウスダストなどがついて侵入すると、免疫細胞と反応して身体が異物と認識し、アレルギー反応を起こすようになること。
食品だから安全というわけではありません。2023年頃、便秘の乳児に温めたキャラメルを浣腸して排便を促す「キャラメル浣腸」が話題になりました。そういう治療法がより自然だし食品だから安全と思っている人もいます。でも、キャラメルの乳成分でアナフィラキシーショックを起こした症例がたくさん報告されています。
アレルギーの心配のない保湿剤やグリセリン浣腸といった安全な治療薬があるのに、あえて食品を使う必要はありません。最近は減ったように感じますが、このような情報を医学が嫌いな医者が発信していたことがありました。
偽医療を信じると追い込まれてしまう
――他に信じてしまいがちな偽医療があったら教えてください。
信じている人が多いと思うのは「睡眠のゴールデンタイム」。夜の10時から深夜2時までの間に寝ていないと成長ホルモンが出ないとか、これを守っているとお肌がつやつやになるとか、痩せて背が伸びるとか言われていますよね。でもこれは都市伝説です。成長ホルモンというのは寝る時間に関係なく、寝るたびに出ます。分割して寝ても出ます。
忙しいお母さんたちが子どもを保育園から連れて帰ってきて、そこからご飯を作ったりお風呂に入れたりしていて10時には寝かせられないとすごく焦ります。身長が伸びないかもしれないと。でも、そんなことを信じなくていいんです。寝かしつける時間が遅いからキレる子になるかもしれない、子どもが泣き止まないと不安になる親もいます。早く寝かせられない自分を責めたりします。睡眠時間は1日のトータルで考え、だいたい同じ時間に寝て起きるようにすればいいのです。
ーー小さい子どもがいると本当に時間に追われる毎日です。睡眠のゴールデンタイムは私自身も信じていたので迷信だと気が楽になります。うちの子はそこまでギャン泣きしないのですが、SNSを見ると何時間も赤ちゃんが泣き続けて精神を削られているお母さんの投稿も見かけます。
赤ちゃんは原因がなくても泣くものです。それを知らないでいると必要以上に揺さぶってあやして、揺さぶられ症候群になってしまうかもしれない。どんどん親はイライラしてきます。「私はちゃんとやっているのになんで寝ないんだろう」と。そういうのは虐待に繋がりかねません。実は、子ども家庭は「子どもが寝ない場合はこうするといいですよ、揺さぶられ症候群を起こさないためにはこういう対処法がありますよ」とホームページに掲載しています。厚労省のYouTubeにも紹介されています。
国はすごく良い情報を出しています。育児における偽医療に騙されないために、厚労省やこども家庭庁など、公的機関が提供する信頼できる情報を活用してみてください。総務省の「上手にネットと付き合おう!安心・安全なインターネット利用ガイド」もお勧めです。
コメント
私もゴールデンタイム信じてました。何とか22 時までには寝かせたい!と思って、子供を急かしたり怒ったりしたなぁと。
デマに振り回されず、正しい情報を見極めて、育児できたら良いなと思います。
子なしなので、乳幼児が泣く背景には何かしらの不快感・不安感があるのかと思ってましたが、まさか原因がなくても泣くとは知りませんでした。
子育てに悩む多くの人へ、この記事が届きますように!
いいと聞くと強迫的にやるようになり、出来ない事でイライラしたり不安になる方が問題があるのですね。やらねばになると苦しい。