Addiction Report (アディクションレポート)

市販薬のオーバードーズで救急搬送を繰り返した女性が、弁護士を目指すようになるまで(上)

リストカットや家出を繰り返してきたヤマユウさん。誰かと比べられることで自傷するスイッチが入り、市販薬のオーバードーズも覚えていきました。彼女が弁護士を目指すようになるまでの道のりを聞きました。

市販薬のオーバードーズで救急搬送を繰り返した女性が、弁護士を目指すようになるまで(上)
ODの背景について語るヤマユウさん

公開日:2026/01/07 22:00

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 市販薬のオーバードーズ(OD)依存は深刻化している社会問題の一つで、特に若年の女性を中心に広がりを見せている。厚生労働省の研究班によると、過去1年間に市販薬を乱用目的で使用した15〜64歳の推計人数は約65万人。鎮痛剤や咳止め薬などドラッグストアで誰もが購入できる身近な市販薬が、依存の入り口となっている。

 ヤマユウさん(27、仮名)もそんな若者の一人だ。現在では、弁護士を目指して勉強中のヤマユウさんに、ここに至るまでの歩みを聞いた。

高校2年の時に初めて市販薬をOD

ヤマユウさんが初めて市販薬をODしたのは、高校2年の頃だった。リストカットを常習的に行っていたこともあり、すでに精神科に通っていた。診断名は「適応障害」と「発達障害」。家にいるのが嫌で、家出を繰り返してもいた。警察官の世話になることも多かった。

「虐待を受けて児童養護施設に保護されるような人と比べると、私のように児童相談所等に保護もされず、わかりにくい被害を受けている人たちは、当時、埋もれていたと思います。保護されている人に目を向ける政治家とかも、『どうせ票目当てだ』と思っていました。子どもの貧困問題の支援をするソーシャルワーカーとも病院でつながっていたのですが、その指示には従いませんでした。なぜなら、貧困を抱えていなくても大変だと思ってほしかったからです」

誰かと比べられることが自傷のスイッチ

ヤマユウさんの話に耳を傾けてくれたのは、ある警察官だった。そのうち、その警察官に依存していった。

そんなある日、ODのきっかけになるような出来事があった。その警察官に「もっと深くリストカットをしている子がいる」と言われたのだ。ヤマユウさんは当時、誰かと比べられることで、自傷や家出のスイッチが入っていた。警察官の言葉は、かなりショックだった。

「帰宅後、屋根に登って『死んでやろう!』と思ったんです。この頃、家出をしないように、家族から監視されていました。外出できないので、自宅の屋根に登ったんです。そのときに、カッターも持っていたから、通りがかりの人に通報されて、警察沙汰になってしまいました。家に来た警察官に『覚醒剤やシンナーを使っている人もいる。少年院に入る人もいる。リストカットしている女の子もいる。ある子は(手首等を)縫うぐらいやっている。君のリスカは浅いからまだ戻れる』などと言われたんです。今考えれば、その警察官による励ましの言葉なんだと思いますが、当時は人と比べられてショックでした」

当時、ヤマユウさんは両親から虐待を受けていた。証拠が残るような身体的暴力ではなく、心理的な虐待だったために、誰かに気づかれることはなかった。ヤマユウさん自身も虐待とわかっていなかったが、名付けられない自身の傷つきについて、「もっと深い自傷をして、傷ついたことを証明したい」と思っていた。

はじめての市販薬ODで救急搬送

「それと同時に、ODならリスカと違って痛くないし、自分でもできると思った」とヤマユウさんは振り返る。

「自分は苦しんでいるからリスカしていたし、家出を繰り返したんです。それでも警察官は『あなたのは軽い』と言うのかと腹が立ちました。親にもいつも『もっと辛い子がいる』などと言われたり、テストの点数で比較されたりしていたんです。警察官の発した言葉を聞き、午後6時ごろに、家の近くの公園で初めて市販の解熱鎮痛剤を86錠飲んだんです。

当時、ODは流行っていなかったのですが、Twitter(現在のX)のリスカ仲間がODをしているのを知っていました。私の場合、処方薬はきちんと飲んでいたので溜めていなかった。でも、この時は『すぐに薬を飲みたい』と考え、また、睡眠薬よりも鎮痛薬がいいと思いました。初めてのODだったんですが、『飲めた』、『自分でもできるんだ』と、精神的な達成感があり、そこからODにハマりました」

弁護士を目指して勉強をするヤマユウさん。民法が楽しいと話す(撮影:渋井哲也)

初めて市販薬を大量に飲むと、耳鳴り、めまい、吐き気などの症状に襲われた。救急搬送される事態になった。

「ODした公園から帰宅後、思っていたよりも吐き気がすごかったので、母親が異変を感じ、119番通報されました。市販薬を飲む前から、リストカットの傷が浅いと言われたことに私が怒っていたことや、『薬を大量に飲めばいいんでしょ』と言っていたのを聞いていたので、察したようです」

ODした約1時間後、運ばれた病院で胃洗浄の処置を受けた。鼻からチューブを入れられ、吐き気やめまい等の症状が激しかった。医師には正直に「市販薬でODした」と伝えると、「処方薬を飲んで運ばれてくる子はいるけど、市販薬を飲んで運ばれてきたのは初めてだ」と、驚かれた。

「症状が辛かったため、一瞬、“ODは、もうやめよう”と考えたんです。でも、処置をした医師に『事故とか病気とかのほうがずっと大変』と言われ、『(今後も)もっと飲んでやる』と思いました。私にとってのスイッチは、誰かと比べられることですから。痛いのでリスカの傷は浅くなるし、家出をしても、不良と思われるだけでした。誰も辛さに向き合ってくれなかったんです」

最初のODでは吐き気が辛かった。別の解熱鎮痛剤を飲むようにした。

パパ活してまで市販薬を購入

「高校のときはODで繰り返し運ばれた。ただ、最初のODで気持ち悪くなったこともあり、(1箱分をすべて飲まない)プチODに変えました。ODをすると、回復までに2週間はかかっていたので、頻度は月1回くらいでした」

市販薬を購入する費用はどうしたのだろうか。

「薬はお小遣いで買うか、パパ活、当時の言葉で『援交(援助交際)』をして稼ぎました。ただ体を提供するのは嫌だったので、下着を売ることもありました。話を聞くだけの場合もあれば、薬を買ってもらうだけのこともありました。ネットで薬の詰め合わせを買ってもらって、相手に『え?薬を買うだけでいいの?』と言われたこともあります」

比較されることを常に嫌がっていたヤマユウさん。ODする背景には、歪んだ親子関係もあった。

「親からすれば、“児童養護施設に保護された子はかわいそうな子”で、よく『かわいそうな子が家出をするのは許されるが、あんたが家出するのは許されない』と言われていました。とにかく、父親は、“家庭は幸せ”と見られたくて、外面をよく見せて、自分たちは『理想の家族』だと見られたがっていたんです」

(続く)

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