Addiction Report (アディクションレポート)

「母乳が完璧というわけではない」過度な推奨のあまり赤ちゃんの具合が悪く…

この夏出産したばかりで初の育児中の筆者。母親学級や入院中の助産師からの指導では強く母乳を推奨された。しかし、体質によっては母乳が出ない人もいる。母乳に関する育児デマは多い。育児に詳しい小児科医の森戸やすみ先生に過度な母乳信仰について聞いた。

「母乳が完璧というわけではない」過度な推奨のあまり赤ちゃんの具合が悪く…
粉ミルク缶(撮影:姫野桂)

公開日:2025/10/30 02:00

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偽医療という依存〜母になって初めて知った危うい情報〜

筆者は現在3〜4時間おきに授乳を行っている。妊娠37週に入ったときから健診の際に助産師から痛みを伴う乳頭マッサージを受け、出産翌日からは1日3〜4回、乳頭マッサージに加え頻回授乳が始まった。生まれたての子もまだ乳を吸うことに慣れていないため乳首を齧られてしまい傷ができ(まだ歯がないのに)、授乳のたびに涙が出るほど激痛だった。

 

幸い筆者は母乳が出る方だったが、母乳が出なくて苦しんでいる母親もいる。過度な母乳信仰は母乳が出ない体質の母親への精神的負担になるだけでなく、赤ちゃんにとって良くない場合もあると森戸やすみ先生先生は指摘する。

粉ミルク缶(撮影:姫野桂)

母乳の量がじゅうぶんでも不足する栄養素がある

――最近また、母乳育児が見直されていると聞きました。WHOは生後6ヶ月までは母乳のみで育てることを推奨していますが、初めての出産だと最初のうちは母乳が出る量が少ないのでミルクを足す人が多いと思います。

 

自分では母乳が出るかどうか産まれるまではわかりません。事前に乳頭マッサージをしなさいとよく言われますが、マッサージで母乳が出るかどうかはあまりエビデンスがないんです。私自身もマッサージをしたことがありません。

 

母乳が赤ちゃんの食べ物として一番良いというのは確かなのですが、言われているほど完璧ではありません。母乳の量がじゅうぶんでも不足する栄養素があります。例えばビタミンK。ビタミンKが不足すると頭蓋内出血を起こすことがあります。それを予防するのがビタミンK2シロップです。

 

――ビタミンK2シロップは私も週1回与えています。

 

他にも、離乳食を適切な時期に始めないと必ず鉄が不足します。また、お母さんが厳格なヴィーガンだったりするとタンパク質が不足になったり、ビタミン類も不足することがわかっています。母乳中に含まれるビタミンDは個人差が大きいことから、完全母乳栄養で離乳食が進まなかった場合、くる病や低カルシウム血症になり、小児科で報告が相次ぎました。母乳栄養だけだと完全ではないし、出なかったら仕方がありません。

哺乳瓶(撮影:姫野桂)

母乳を求めて衛生面で危険なネット通販を利用する事件も

――完全母乳育児を目指して頑張っているお母さんも多いですが、母乳が完全栄養というわけではないのですね。

はい。でも過度に母乳育児が推奨されたためでしょう。2015年に母乳をネット上で通販した事件が起こりました。その母乳は冷凍で送られてきたそうなのですが、水で薄められていた上に雑菌が混入されていました。そんなものを与えるよりミルクを与えた方がよっぽど安全です。

 

今、母乳のボランティアの母乳バンクというものがあります。母乳を寄付する人には必ず感染症のチェックがあります。でもネット通販ではそのようなチェックをしていることはないでしょう。母乳でなくてはいけないと言ってしまうと思い詰めて、ネット通販のような危険な母乳を買って与えてしまう人も出てきます。

子どもが成長できているならミルクでも母乳でもどちらでもいいじゃないかと言う人もいますが、それはそれで母乳育児を頑張っているお母さんを蔑ろにしてしまう可能性もあるので、これはとてもセンシティブな問題なんです。

 

――私は母乳とミルク、混合育児ですが、母乳を与えたら喉が乾くので毎回授乳前にコップ1杯の水を飲んでいます。体力を奪われているのを感じるので完全母乳育児のお母さんは本当に体力的にも精神的にも頑張っていると思います。

母乳推奨のあまり、赤ちゃんが十分な量が飲めていなくて脱水状態に陥って水すら与えず、赤ちゃんが脳梗塞になった症例もあります。母乳を求めてミルクを忌避して子どもに障害が出たら何のための母乳なのかという話です。

 

それに産んだばかりはあちこち体が痛いし、胸が張るばかりで量は全然出ないしでつらいです。それなのに母乳育児の指導をしすぎるのは新米のお母さんにとって過酷なことだというのを自覚してほしいです。

哺乳瓶の消毒ができる機器(撮影:姫野桂)

特定の食べ物や飲み物で母乳量が増えるエビデンスはない

――母乳の分泌量を増やすためにこんな食べ物や飲み物が良いと言われることもありますが、エビデンスはあるのでしょうか?

 

世界中ではさまざまな食べ物や飲み物が良いと言われています。日本ではお餅が良いと言われていますし、韓国ではわかめスープが、ベトナムでは青パパイヤや豚足が良いと言われたりするようです。でも、特定の食べ物や飲み物が母乳の分泌量を増やすというエビデンスはありません。分泌量を増やすには母乳を乳房から、赤ちゃんが飲んでくれたり搾乳したりすることが大事です。出産後すぐから頻回にこういったことを行うことで分泌量が増えます。

 

母乳を出すことを指導する側は自分が良いアドバイスをしていると信じ切っている人もいますが、自分の危険性を自覚していない点がとても危険です。頻回に母乳をあげていないと母乳の量は減っていくので、痛いところがあれば授乳しやすい姿勢になれるようサポートするとか、赤ちゃんのくわえ方を見てあげたり、お母さんの体勢を整えてあげたりするのがいいと思っています。

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