だまして、だまされて、逮捕された人も 闇カジノで出会った怪しげな常連客たち ギャンマネ(22)
東大医学部の秘書を続けながら、アルバイトをしていた闇カジノ。集まってくる常連客もクセの強い人ばかりでした。

公開日:2025/02/19 02:00
連載名
ギャンマネ今、日本では吉本の芸人さんが違法オンラインカジノに賭けていたとして、大騒ぎになっていますね。やっていたのは2019年から2020年のことだそうで、「CMなども流れていたので違法だと思わなかった」とのこと。それはそうだろうなと思います。
当時は、我々ギャンブル依存症の問題を支援する民間団体以外、「これは大変な問題になるぞ」と思っている人なんか、ほとんど誰もいなかったと思います。
さんざんバッシングをしている地上波テレビやラジオ他ネット番組だって、CMを流していましたからね。
違法オンカジ側が作り出した「無料版なら問題ない」という勝手な解釈に便乗し、有名Youtuberが次々とアンバサダーに就任し、サッカーチームは今でもスポンサー契約を結んでいます。
これらCMでの違法オンカジ加担などは、メディアやタレントたちが、無知でよく調べもせずモラルを持たぬまま札束に転んだということももちろんありますが、一番の問題は日本政府の対応が後手に回ったということだと思います。
そして今のような状況が、1990年代の後半には闇カジノで広がっていたのです。当時の私はまさに無知なまま、末端の人間として闇カジノでバイトをしていました。
現代の問題は、当時の規模やスピードどころではありません。こんな私だからこそ警鐘をならしているのですが、このあたりについては、別の原稿で詳しく解説しようと思います。
闇カジノに集まっていた社長さんや飲食店の経営者たち
さて、前回の記事で闇カジノに働きに集まってきた若者たちについて述べましたが、あの時代の空気感をお伝えするために、どんなお客さんが集まっていたかについてもお伝えしたいと思います。
私がいた闇カジノが、湯島という地域だったためにお客さんはどちらかというと泥臭い感じの地元の中小企業の社長さんや、上野の大店の旦那様なんて方が多かったです。中には日経新聞のコラムに載るような上場企業の社長さんもいらっしゃいました。
そしてもう1つの軍団は、上野の仲町通りにある飲食店のマスターやママさんたち。地域柄、韓国人の方も多かったです。韓国のママとか博打でめっちゃ熱くなるんですよね。一度なんか、負けが込んでいたのかわからないですが、怒鳴りながら首を絞められたこともありました。怖かったですね。
そしてこういう軍団以外に、驚くことには医者や政治家なんていう人もいましたし、普通のサラリーマンもいました。
ヤクザも常連さん
厄介だったのは、普通の顔をして入ってきてしまうヤクザですね。
一応フロントにいた私は、「ヤクザを入れるな!」と厳命されていたので、入り口でいかにもそれっぽい人が来たら「お客様、組関係の方ではないですか?」と聞いたりするんですけど、そんなこと誰も正直に言うわけないじゃないですか。
「あっ、俺?そうそう組関係だよ。ハザマ組ね(間組の皆様すいません)」
というのがヤクザの鉄板ネタで(ハザマ組が大林組になったりする)、怪しい人たちのことを結局阻止できぬまま「まっ、おとなしく遊んでくれる分にはいいか」なんて感じで、店長・部長らも黙認するしかありませんでした。
でも、まあこういう人たちが大人しく遊んでるわけないんですよね。いずれは暴れだし、店長や部長がぶん殴られるところを見る羽目にもなりました。
上得意の社長さんたちの遊び方
一番のメイン客である中小企業の社長さんたちは、ほとんど毎日のように軍団でやってくるか、店で待ち合わせをしていました。
お金の使い方も派手ではありましたが、毎日10万円から30万円くらいで、時々熱くなって100万円くらい使うこともある、といった感じでした。まぁ、銀座のクラブに通い詰めるのと、どっこいどっこいではないでしょうか。
この社長さんたちは、上客で従業員からも好かれていましたね。仲間たちとワイワイ騒ぎながら、ディーラーと冗談を言い、負けたら嫌味を言ったりもしますがサクッと帰る。とにかく明るくて、時々愛人なんかを連れてきたりするので、私なんかは「なるほど、金持ちというのはこういう遊びをしているんだな」と、観察していました。
今思えばギャンブル依存症?
ところがですね、今思えばですよ。こういう軍団の中にも必ずギャンブル依存症を発症してしまう人がいるんですよね。
まず、我々の間で最も嫌われていたのがアカギさん(仮名)。闇カジノというのは、サービスがたくさんつくんです。今のオンカジが、初回ポイントプレゼントなんてやっているのと同じです。例えばうちの店でやっていたのは、来店時に買ったチップの1割プレゼントですね。
するとこのアカギさん、10万円最初に買って、もらった1万円のサービス分でルーレットに行ってちびちび遊ぶ。バカラやブラックジャックですと、1000円以上のチップしかなかったのですが、ルーレットなら100円からチップがあるので、かなり長持ちするんですよ。しかも闇カジノというのは、お酒を含む飲み物、食べ物、タバコまでなんでも無料ですからね。1銭もお金がかからないで、飲み食いまでできるんです。
若い、それこそ高校生ディーラーにまで「アカギさん、もう帰んなよ」と言われてもずっといる。周りでは札束が飛び交っているのに、ぽそっと100円とか賭けているんですよ。口の悪い私たちは「サービス〇〇〇(差別用語)」と呼び、蔑み態度もつんけんしていたんです。
アカギさんは、それこそぼろぼろの身なりで、靴もすり減っていて、鞄はなんと持ち手が切れたのか?ビニールテープでぐるぐる巻きに補修しているようなものを使っていたんですね。私もなんでアカギさんは、この店に来るのか不思議でなりませんでした。
でも唯一店に古くからいるディーラーが、優しく接していたので「アカギさんって、なんで店にしょっちゅう来るんですか?逆にみじめにならないんですか?」と聞いてみたことがあったんです。するとそのディーラーは、
「アカギさんはさぁ、昔この店ができる前の店の時、上顧客だったんだよ。それこそ太い張り方しててさぁ。もう毎晩のように100万、200万って落としてくれたんだよ。で、博打で会社潰しちゃったんだよね」
「お金なくなってもさ、博打やめられないんだろうね。あぁやって座り込んで、人のハリを見てるんだよ」
「昔はさ、びしっとしていてお金持っていてさ、カッコよかったんだよぉ、アカギさん」
と、教えてくれました。私は驚いて「だから優しくしてあげてるんですか?」と聞くと「まぁ、俺はその頃からよく知ってるからね」と笑っていました。
当時の私は、その話を聞いてますます「バッカじゃねぇの。だったら遊んでないでバリバリ働いて金稼げや!惨めったらしい情けない男だわ」と思ったものでした。
今思えば、アカギさん、仲間でしたね。すみません。
談合や詐欺で捕まった客も
他にはですね、茨城弁丸出しで大バカラが大好きなおじさんがいたのですが、その人が「俺はぁ、脱税して金節約してよぉ、そんでもってその金博打でみんな溶かしちまってよぉ、どうしょうもねぇよ」なんて本気かウソかわかりませんが、そんなことをぼやいている人もいました。金の使いも大きければ、体もまんまると大きくて、可愛らしい人で店側にも愛されていたお客さんでしたが、あのぼやきは真実だったのか?しばらくすると本当に捕まってしまいました。ただし、新聞によるとそれは脱税ではなく談合でした。
あと忘れられないお客さんとしては、土屋さん(仮名)という、よく店に来ている正体不明のお客さん。年齢は50歳過ぎくらいだったんですが、偶然店で知り合いにあったらしく、その人と席を立って二人で話し始めたんです。
それが、フロントの横で話していたものだから、全部私に丸聞こえだったんですね。
「いつ出てきたんですか?」「いやぁ、あれが売り抜けていたら、今頃こんなことやってなかったんだがよ」「いや、惜しかったですよね」「裏切られて」とかなんとか、ある事件の話をしているらしいんです。聞き耳を立てている私はゾクゾクしました。
なんとこの土屋さん、90年代初頭に大騒ぎになった現役の証券会社社員と組んで、地上げの帝王と呼ばれた社長から仕手戦の偽情報を流したかなんかで、詐欺で捕まった人だったんです。私は、当時この事件をよく覚えていたので、登場人物の名前でピンときました。思わず突っ込んで詳しく聞きたくなりましたが、必死に自分を押さえました。
でも、もちろんその後、結婚前の夫を含む仲の良い人達にこのことを教えたんですね。みんな驚いていましたけど、あの当時の我々は今よりさらに馬鹿で無知なので、なんか「すごい人だ!」とちょっと尊敬もしてしまったんです。
この辺に、現代のネットワークビジネスにはまってしまう若者の心理も解明できる鍵があるんじゃないかと思いますが、とにかく土屋さんのことを「頭がよくて度胸がある、色んなことを知っている大人」と思ってしまったんです。
従業員も騙されて
そして、ある日土屋さんが我々にこんなことを言い出しました。
「おい、東証2部上場に〇〇って会社があるだろ。あの会社今つぶれそうで風前の灯火だが、俺たちが〇〇という会社(誰でも知っている上場企業)と組んで、立て直すことになっている。今、株価は〇円だが、これ数10倍になるから今のうち買っとけ」と、インサイダー取引情報を流してきたんですよ。
もちろん我々若者たちは色めき立ちました。そして土屋さんはこうもいいました。「お前ら貧乏人は現物で買うんだろ?そんなもん大した利益にならない。俺が信用で買ってやる。そうすれば利益は何百倍にもなる。ほしい奴は言え」と。もちろん私たちは金を預けました。みんなそんなにお金を持っていませんけど、それこそ、20万円、30万円と個人個人が渡したので、なんだかんだで300万円くらいにはなりました。
はい、そうです、そのまま土屋さんは姿を消しました。でも、しばらくは騙されたことにも気がつかず、我々は毎日株価欄を見ながら、取らぬ狸の皮算用でワクワクしていたんです。若いころの私は「こうやって人は騙される」という見本のような人間でした。
欲と金の渦巻く闇カジノ。若者で馬鹿者であった私の青春記はまだまだ続きます。
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コメント
おもしろい!街の不動産屋さんで働いていた私は、似たようなディープな方々をよくお見受けしました。
今のオンラインカジノは個人で黙〜って1人でどえらい金額を賭けれてしまう。当時の何倍も恐ろしい‥
若い時は、やはり金儲けしたいわかります。わかってそうで、理解してなかった自分もそうでした
私の全く知らない裏社会が、まるで映画でも見るように映像が浮かんできます。私にとって1990年代後半は子育てと仕事に追われ、夫の借金の発覚が繰り返されていた頃。あの頃はまだギャンブル依存症なんて言葉すら知らなかった。そんな時代ですよね〜。
闇カジノ、今盛んに報道され、やっと違法ということが大きく認識されたと思いますが、この時代は全く違法との認識は無かったのでしょうね。
りこさんの記事を読むと、自分が分からないこと知らないことが沢山出ていてワクワクします
闇カジノ時代の話、色々聞いてみたい。
ギャンブル依存症の病気末期の姿がボロ姿なだけであって、
病気になる前は優秀な方が多いですよね。ダラシないダメなやつ、そんな偏見を持っているのは病院の実態を知らない私たちなんでしょうね
映画やドラマにできそうですねー。
すごい体験です❣️
りこさんの闇カジノ体験!本当に貴重な体験だけに読んでいてドキドキスリル満点でした。こんな体験があるからこそ恐れることなく今のりこさんがあるんですね〜。この先の人生に多くの依存症当事者と家族を救っていく未来があるとは誰が予想したでしょうか。人生本当に無限の可能性を感じます。私もりこさんと共に依存症支援の活動頑張ります。
談合、詐欺、地上げ、株への投機、蕩尽。金持の遊び方を観察したり、事件に関与したひとに突っ込んで詳しく聞きたくなったり、好奇心の強さに驚きました。また、記憶力の良さにも驚きました。上野恩賜公園の階段を降りた先のかつての感じも伝わってくる感じがしました。
身なりが整っていて言葉のキャッチボールが上手い人は信用されがち。
あるデータに対して「このデータは間違いないようだ」と自分で判断をくだすのは難しいし、そうなると見識がありそうな人の話は自分より正しそうって思っちゃいますね。
アカギさんの背中が見えるようで切ない回でした。