目指すのは「今日一日」やめること 回復に役立つのはつらい刑務所暮らしではない
刑務所暮らしは再使用の歯止めにならないという田代まさしさん。回復し続けるためには何が必要なのでしょうか?
公開日:2024/02/06 02:00
2022年10月まで入っていた福島刑務所はとてもつらかったと話している田代まさしさん。
しかし、二度と戻りたくないと誰もが思う刑務所生活を送っても、覚せい剤の使用者は再使用を繰り返し、歯止めにはならないと言う。
薬物依存症の人が回復し続けるために必要なのは、何なのだろうか?
回復には役立たない刑務所生活
——最後の福島での服役はかなりつらかったと話していらっしゃいますね。
刑務所はどこも一緒ですけれどもね。福島は寒かったんです。暖房がないんですよ。半端なく寒かった。冬場がきついのです。府中とかは冬場でも毛布は2枚ですけれども、福島は4枚出る。そのぐらい寒い。それでも耐えられない。
またそこで水を使う仕事をしていたんです。それが冷たい。
——何をやっていたんですか?
だるまを作っていました。紙粘土みたいなものを水で溶かして、だるまの形にする。絵を描く仕事だったらもっと楽しかったんですが、熟練した何年も服役しているような人たちが絵を描けるんです。入ってすぐはやらせてもらえない。「俺は絵がものすごく得意です」ってアピールしましたが、ダメでした。
——もう二度と戻りたくないと思うのに、それでもそのつらさを忘れるのが人間なんですね。
だから再犯率が高いのですよ。喉元過ぎれば熱さ忘れちゃうんですから。刑務所に入れたらみんな改心するならば、再犯なんてしないですよ。
——刑務所でのそのつらさは自分の回復に役立ったと思いますか?
全然思いません。法務省には申し訳ないけれど、まったく役に立っていない。悪のコネクションが広がるだけなんですよ。
薬物で刑務所に入ると、大体の人が「どこから買っていたの?」と売人の受刑者から聞かれるのです。どこから買ったか言うと、「ダメだよ。そんなところで買ったから捕まっちゃうんだよ。俺から買えば捕まらない」って言う。お前今、捕まってるじゃねえか、っていつも思うのですけれど、毎回言ってくる。
中には「もう二度と行きたくない」と思って改心して真面目になった人もいるのでしょう。何%なのか知らないけれど。でもこれだけ再犯率が高いということは、刑務所が何も役に立っていないからじゃないですか。
金もかかり、回復につながらない刑務所より、ダルクを
——経験者からすると、どんな対策があれば再使用を防げると思いますか?
刑務所は一人当たりかかる費用がだいたい月30万から40万円だそうです。ダルクのような施設に生活保護で入ったら保護費は16万円で、光熱費や寮費も引いた残りは自分がもらえます。それでいてプログラムを受けながら、仲間たちと一緒にミーティングをして、楽しくやめ続けていける。
それなのに、なぜより高いお金がかかる刑務所に入れてはい終わり、とするのだろうと思います。
——刑務所では回復プログラムはありませんでしたか?
やるのですが、最後にいた福島は薬物に関しては一切ありませんでした。窃盗など基本的な犯罪に対するプログラムはあります。府中刑務所は通称「シャブ教」というプログラムがあって、ダルクからも講演にきていました。でも福島はなかった。
だけど刑務所でそのプログラムを受けるのはなぜか知っていますか?行状がいいと、早く出られるからですよ。受けておくと心証が良くなって、仮釈放の期間がたくさんもらえる。そう打算的に考えて受けるだけで、本当に治したいと思って受ける人はいないですよ。
——それよりも、ダルクのような施設でプログラムを受けた方がいい?
僕はそう思います。なぜ国はそちらを推奨しないのだろうと思います。
——しかし、最近、日本は大麻の使用罪を新たに設けるなど、厳罰化に進んでいます。国連や海外の国々は、刑罰よりも回復支援に舵を切っている中、日本は刑罰でどうにかなるとまだ信じているようです。
日本はかなり遅れているのだと思います。オランダなどは薬物がやめられない人に対し、体に害が少ない軽いものを使わせながら少しずつ減らす方策をとっている。裁判も、その人に対してどういう処遇が回復につながるかを考えてやっている。
日本では「覚醒剤で捕まるのは何回目だから、刑期は2年半。次にやったら今度は3年半」とか機械的に増やしていくだけで、その人がどうやったら回復に結びつくかなんて何も考えていません。
「今日一日」やめることを繰り返して
——そういう社会のあり方や人々の意識を変えていくために、Addiction Reportも頑張ろうと思っています。当事者として、この新しいメディアに期待する役割を教えてください。
たぶん、最初のうちは専門メディアだから、関心のある人しか見ないと思います。
でも、僕が取材を受けた記事を読んでくれた人のうち、一人でも役に立ったと思ってくれたらいい。それがちょっとずつ広がっていくことを望んでいるし、そんなメディアであってほしいと思います。
それから依存症の人に言いたいのは、人間は何かに依存しないと生きていけない生き物だということです。それがたまたま僕は法律で禁じられている薬物だったけれども、法律で禁じられていない依存もたくさんあります。ギャンブルやお酒は法律で禁じられていないのですから、やめることもすごく難しいでしょう。
そんな人に、一番自分が言いたいのは、今日一日やめられたら、ということです。今日一日をとりあえずクリーンで過ごす。そして一日が終わったら、また次の日やめる。夜寝る時に「今日一日やめられてありがとうございます」と感謝の気持ちで寝る。
そういう一日が続いていったら、ずっとやめ続けることができる。
依存症はゴールはないし、特効薬もないけれども、やめ続けることはできる。生涯マラソンなんですよ。
今日、診察を受けた時に、先生に「今年どんな年にしたいですか?」と聞かれて、「今日一日です」と答えました。
ダルクでは「Just For Today」というのです。創設者の近藤恒夫さんが教えてくれたのですが、すごく美味くてお金のない人も食べたい蕎麦屋があって、入り口に「今日は貸しません。明日貸します」と張り紙がある。明日ならツケで食べられるというわけです。
明日ならいいんだと思って、次の日に来たら、やっぱり「明日貸します」で今日ではない。
「そういうことなんだよ」と近藤さんが俺に教えてくれました。「ああなるほど」と思いました。
——近藤さんはあれだけやめ続けていても、「死ぬ前に一度やって死にたい」とおっしゃっていたそうですね。どれだけやめていても使いたい気持ちはなくならない。
そう言っていたのですが、側近の人に聞いたら、がん治療をして痛みがある時も、みんなの手前、モルヒネは使わなかったそうです。最後まで飲まないで死んでいった。あんなに「最後は俺はやって死ぬんだ」と言っていたのに、それさえもやらずに死んでいった。素晴らしいなと思いました。
だから、俺も「今日一日」なんです。「今日一日」を続けていこうと思います。
(終わり)
【田代まさしさんインタビューシリーズ】
- 3年やめていても囁く悪魔「ちょっと休憩しませんか?」 田代まさしさんが語る薬物の本当の怖さ
- 笑いで紛らわせてきた子供時代の寂しさ 「自分で解決する癖」が裏目に
- 「本当に反省しているんですか?」 世間の疑いの目、足を引っ張るメディアやSNSに晒され続けること
- 目指すのは「今日一日」やめること 回復に役立つのはつらい刑務所暮らしではない
【田代まさし(たしろ・まさし)】歌手、タレント
1980年、鈴木雅之とシャネルズとしてデビュー。デビューシングル「ランナウェイ」がいきなりのミリオンセラーを記録して以降、数々のヒット曲に恵まれる。その後、志村けんさんにギャグセンスを認められ、お笑いにも進出。「バカ殿様」や「志村けんのだいじょうぶだぁ」などでお茶の間の人気を不動のものとするが、2001年から覚醒剤などの使用の罪により3度の刑務所服役生活を余儀なくされる。2022年10月福島刑務所を出所後は、保護観察所と日本ダルクに定期的に通いながら、依存症で苦しむ仲間たちの為に、ライブ、You Tube、講演など、精力的な活動を続けている。
コメント
あなたが転んでしまったことに関心はない。
そこから立ち上がることに関心があるのだ
~ アブラハム・リンカーン ~
日本は早く
刑罰ではなく回復に向けての舵をとって頂きたい。何故それができないのか?
頭悪すぎて情けない
なんかすごく心に響きました。
今日一日という生き方は全ての夜寝る時に「今日一日やめられてありがとうございます」と感謝の気持ちで寝る。
自分は窃盗で福島刑務支所に4回服役してきたクレプトマニアです。
依存症治療を続け、今は盗りたい欲求が出ない状態を7年以上続ける事が出来ています。
確かに刑務所は再犯率が高く、服役生活で辛い思いをしても、更生に繋がる人は少ないと、自分も感じました。
自分は裁判を抱えながら入院治療をしたので、罪を繰り返さないためには治療が必要だと、刑務所の教育の先生に話した事がありました。
しかし先生から、刑務所は犯した罪を償う場所だから、そこまでは難しいと言われ、それも最もだとも感じました。
回復のための治療を刑務所内で行う事は難しいとは思いますが、治療に繋がる方法等を教える事なら出来るのではないかと思います。
補足ですが、田代さんの服役していた福島刑務所の女区である福島刑務支所では、自分が服役していた時は、各種教育の仲間に薬物教育も行われていました。
(自分は薬物依存もあったのでNAクラブに参加していました)
時間も僅かですし、社会の自助グループに比べれば内容も薄いものかもしれませんが、服役経験者として、そのような場から、同じ様に苦しみ再犯を繰り返している仲間達に、回復の方法がある事を伝えられればいいと考えています。
田代さんのインタビュー記事、正直にお話してくださっている感じがひしひしと伝わってきました。
依存症専門のメディアだからこそでしょうか。
再犯を防止するためにどうしたらいいかという法務省のシンポジウムがありましたが、田代さんの「刑務所暮らしは再使用の歯止めにならない」という言葉を伝えたいと思いました。
刑罰より治療へ、古い日本の体質がこのメディアによって少しでも変わっていけばと願っております。
素敵な記事、最後まで拝見しました。
田代氏の云う様に刑務所では、治療、回復には繋がらないと私も思います。
ただ、治療回復は何処であろうとも当人が治療しよう、回復するんだと云う意志が無ければ周りが幾ら支援したところで無理でしょう。
私も2度刑務所に収監され、一度目は群馬県、2度目は長崎県。
2度目の刑務所は内装と云う工場で、刑務所内の清掃や草取り、寝具乾燥など刑務所内を動き回る刑務作業でした。
内装は禁止されている会話が刑務官から見えてない場所で出来ました。
受刑者は盗犯、薬物犯で7割が薬物犯。
薬物犯の多くは運が悪く逮捕された。
車内で職質にあい逮捕された。
など。薬物を止めようとする話は聞きませんでした。
仮に治療プログラムが刑務所に有っても治療に繋がるのは一握りでしょう。
社会でも、同じだと思います。
依存症自助グループに参加しようと、精神科に通院しようとも、当人が回復する為の計画的治療方法を実行出来るか!
だと思います。
私の通院する精神科クリニックでも看護師が多く、アルコール依存症患者が多くAAに参加する事を推奨しています。
月2回、AAの皆さんがミーティングに参加されます。
彼ら達の多くは依存症の経緯を話て今止め続けている事を話されます。
私達依存症者は仲間の話を聞き共感したり、自らの体験と照らし合わせながら今後に活かそうとしてます。
ですが、私達は依存症回復、止める事が多く依存症者の目標に成っている人が多く感じます。
私は依存症回復が目標では有りませんし、残りの人生を楽しく幸せを感じる生き方をする為に依存症の回復が一つの目的にあるだけです。
楽しく幸せに生きる為に必要な事が、タバコを吸わないこと、アルコールを呑まないこと、犯罪を犯さないことなのです。
とはいえ、毎日、タバコは吸いたいし、ビールも呑みたいです。
その感情を抑えることより我慢すると云う感情になり兼ねません。
でも、呑みたい、吸いたいは無意識に現れるものです。
要因として、「引き金」があり引き金は様々なかたちで現れます。
殆どは避けるのは難しく引き金を回避出来るか引くかです。
私もそうでしたが、回避出来る様になる迄に成るには意識的に回避する努力が必要です。
要は学び、勉強するしか有りません。
食事をする時、さあー箸を持とうとか、茶碗を持とうとかいつの日か意識せずとも持つ様に成ります。
既に学び勉強して無意識な動作に脳が動いてくれているからです。
依存症回復もこの学び、勉強無くして無意識な回避が難しいのです。
例えるなら、居酒屋や繁華街を通るとき引き金が沢山あり、「呑みたい」と云う無意識が脳から指令され意識して呑みたい感情が湧く。
此れを止めることがほぼ不可能な人が依存症者でしょう。
ですから、無意識意識に反応し意識して呑みたい時、理性で抑え込もうとする時には努力が必要です。
「今日一日呑まないんだ!」
と云う意志を強く持つ。
しかし、毎回此れでは疲労してしまいます。
其処にムクムクと一回だけなら、 少しだけなら、誰も見てないから、と囁きが脳から発せられ随分我慢してきたんだから、一回だけなら問題無い。
と云う都合の良い解釈をします。
此れがスリップの始まりであり、スリップを繰り返すことで依存症再発になり、身体を壊して入院する。
ゼロどころかマイナスに。
私はクレプトマニアですが、と同時にアルコール、タバコ、ギャンブルがセットに成っていました。
ですから、全てを止めています。
2度目の出所後直ぐにコンビニに行き、買ったのがタバコです。
クレプトマニアだから、タバコは依存症に関係ない。
だから喫煙は良いんだ。
と決めつけてました。
では、何故、喫煙を止めたのか? ですが、
依存物を利用していた時、セットだと言いました。
引き金はセットにも関連してると考え直しました。
出所後、公正施設に入居しました。
生活保護受給の条件でした。
厚生ではなく公正する。
立ち直るかを判断される施設です。
一定期間居住し認められたらアパートなどで一人暮らし可能に。
一度、医療機関で喫煙プログラムを受けていましたが、プログラムが終了した途端喫煙して仕舞いました。
喫煙パッチン治療でした。
失敗した理由を考え、他力本願ではダメなんだととわかりました。
自ら禁煙する意志が有ること。
禁煙に繋がり易い場所や友人知人とは疎遠にすること。
其れでも、喫煙感情は収まりません。
ですから、
クレプトマニアを止めル為に意志や自助グループ、クリニックは治療の助けにはなりますが、最も大事なことは無意識の意識が引き金に対応でき回避出来る様に成るまで、努力すること。
箸を持つ時、最初から上手に操作出来ないのと同じで、繰り返し練習するしか上手になりません。
引き金に遭わない行動、引き金を引いてもどうしたら、渇望しないのか?などの練習と訓練。
無意識な行動回避に効果があるなが、楽し生きていること。
誰かの役に立てていると感じられること。
生きていていいんだ。と思えること。
依存症者回復に重要なのは、役立つ人間で要られること。
其れを実感出来ること。
小さなことからコツコツと。
ありがとうも少しづつ、感謝されてくる。
最高の喜びと希望。
マーシー、田代氏も
目指すは同じだと思います。
ただ、喫煙はやめましょう。
長文、申し訳ありませんでした。
「人間は何かに依存しないと生きていけない生き物だということ」
これがとても重要ですね。覚醒剤や賭博に依存しないで済んでいる人は、運よく、法に触れない何かに依存しているんでしょう。例えば、家族とか、仕事とか、趣味とか。こういった合法的な存在から、「あなたは立派だ、あなたはそれでいい」と承認してもらって、毎日を耐えているんでしょう。