Addiction Report (アディクションレポート)

「もう一度、自分自身を愛そう」 田中聖さんが収監直前にレコーディングした新曲に込めた思い

収監前に新曲「Love Yourself Again」をレコーディングした田中聖さん。能登半島地震のチャリティーのために吹き込んだこの歌に、どんな思いを込めたのでしょうか。

「もう一度、自分自身を愛そう」 田中聖さんが収監直前にレコーディングした新曲に込めた思い
新曲「Love Yourself Again」をレコーディングする田中聖さん(撮影・後藤勝)

公開日:2024/02/19 02:00

収監直前、田中聖さん(38)は「Love Yourself Again(もう一度、自分自身を愛そう)」という新曲をレコーディングした。

能登半島地震のチャリティーのために、引き受けた仕事。

「弱さを知ることが強さに」「ありのままでいい」という歌詞からは、心境の変化が感じられる。どんな思いを込めたのだろうか?(編集長・岩永直子)

「まだ誰かの背中を押せる」

——今回は前回の逮捕後と違い、新しい音楽も作っています。自分を再び愛そうという「Love Yourself Again」というタイトルです。心境の変化があったのでしょうか?

たぶん、最初の逮捕の時はこんなに前向きな歌は作れなかったと思います。自分の今回の決意は強いし、今回は誹謗中傷だけでなくて「自分も同じことで悩んでいます」という人からのD Mも届いています。家族が俺と同じ状況になっているというDMも来ています。

それを読んで、「ああ、俺でもまだ誰かの背中を押せるかもしれない」と思えたのが大きいですね。

——やはり自分のためというより、人のために何かしたい人なんですね。

そうですね。自分が損をしても死ぬわけではないとどうしても思ってしまう。今は周りに頼りきりなのですが、それでも誰かのためになりたい。

前の逮捕後に曲を作ることができなかったのは、「自分が音楽を作ったとして、誰を支えられるんだ?」という思いが強かったからです。「俺の音と言葉に誰が何を感じる?」と思うと、作ることができなかった。

例えば「諦めなければなんでもできる」と書いたとしても、「お前は結果、薬物に走って逮捕されたじゃん」と受け止められてしまうと思っていました。作ったとしても、鬱屈の詰まった歌しか作れなかったと思います。

こういう前向きな歌が作れるようになったのは、自分がまだ支えられるかもしれないと思える人からのD Mが大きかったです。

「カッコ悪いことを見せるのもカッコ良さ」

——この歌の出だしは「孤独の闇を抜けてく 弱さを知ることが強さに 受け入れてくことが未来へと続く道に変わる」となっています。当初「弱みを見せられない」と話していましたが、以前より、自分の弱さを曝け出すことができるようになったのでしょうか?

曝け出せるようになっていると思います。カッコ悪いことを見せるのもカッコ良さなのかなと思えるようにはなりました。

カッコつけなければいけない商売をしてきたし、つらいことをつらいと言えない業界でずっと働いてきました。40度の熱が出てもケツに注射をうって笑顔で音楽番組に出てきたのです。

しんどいことをしんどいと言ってはいけない環境にずっといたので、いつの間にか言えなくなっていた。

ただ、それを言わなかったことで、結果的に家族を悲しませてしまった。自分の気持ちを隠し続けて成功していればいいのですが、自分のやり方が正しくなかったことに気づいてしまったのかもしれません。

——自助グループには通っていらっしゃるのですか?

一応、ミーティングに行ったり、今いる回復支援施設の準職員として手伝ったりしています。

——ダルクに行って自分を見つめようとした時に、写真週刊誌の悪意のある記事が出て、行けなくなったと聞きました。

逮捕後は悪意ある記事ばかりでしたね。

能登半島地震のチャリティーに 収監前に急いで録音

——収監前のレコーディング、能登半島地震のチャリティーのためということで引き受けられたと聞きました。

歌自体は前からできていたのですが、間もなく収監だし、レコーディングできないかもしれないと思っていました。

でも、急に地震も起きたし、東日本大震災があった時も僕は物資を持って現地に行ったことがあるんです。福島も宮城も岩手も行きました。仕事ではなく、自分の意思でワンボックスカーを借りて、受け入れてくれるところを探して、物資を積んでいきました。単純に知り合いや友達が心配だったのです。

今回も被災地のために何かできるのならと思いました。

田中聖さん(撮影・後藤勝)
撮影・後藤勝

——「ありのままでいい」とか「愛される価値があるよ」と肯定的な歌詞が目立ちます。「自分に価値はない」「いくらでも代わりはいる」と考えてきたと話されてきましたが、変わってきたのですね。

そうですね。今回、病院と回復支援施設でいろいろな依存症の方を見てきました。社会的には「クズ」と言われるような人たちですが、本人たちはいろいろなものを抱えて、つらいことも経験して、家族にも見捨てられてきたのです。

そんな人たちと出会って、今の自分だから歌える歌なのかなと思っています。そういう人たちの背中を押せたらいいと思ったのです。

——やはり、自分のためというより、人のためなのですね。

正直、自分のことは本当に好きではなかったのです。それでも今は少し好きになってきている。

——それは何によって変わってきたんですか?

そういう意味では逮捕をきっかけに変わってきたと思います。逮捕されて良かったという言い方もなんですが、家族も「そのまま進んでいたら、廃人になっていたかもしれないし、死んでいたかもしれない」と言います。

だから「逮捕されて良かった」と言ってくれる。自分もそう思います。病院で幻聴・幻覚が聞こえるような人もたくさん見てきました。俺はそこまでどっぷり行ってはいなかった。

この段階で逮捕されたおかげで、これからの人生をやり直せるなら良かったのかなと思います。

戻ったら、薬物依存症の啓発活動を

——刑務所から戻られたら何をしたいですか?

薬物依存症の啓発活動はしたいです。実刑も、閉鎖病棟での入院も、施設の準職員も経験した人はなかなかいないと思います。

それを伝えるのは自分にしかできないことなのかなと思うし、その啓発をすることが自分の中で薬の抑止の一つになるとも思うのです。

何度も失敗した自分だからこそできることですし、言える言葉もあるのかなと思います。

具体的にどういうことができるのかはまだ分かりません。2年ぐらいあるので、中で考えようと思っています。獄中記も書きたいです。

——Addiction Reportでぜひ連載をよろしくお願いします。

そうですね。獄中記と自伝を書きたいです。中に入ってもできることは限られていますが、できることの一つです。中の生活がどんなものか知らない人もいるでしょうし、実際にじっくり見た人間だから書けることはあると思います。

——もちろん音楽もやるのですよね?

今までとは違う形にはなると思います。ライブハウスを守るために、年間90本ライブをやるのはもう正直無理です。その結果薬物にも走ってしまったので、誰のためにもなりません。何かを守ろうとして、結局周りの人を泣かせてしまった。

今までとは違う形にはなると思うのですが、伝え方も、闘い方も、吐き出し方も、俺は音楽しか知りません。音楽がなくなったら何も表に出せなくなってしまう。だから音楽はなんらかの形で続けると思います。

——復帰を待っています。

ありがとうございます。

田中聖さん(撮影・後藤勝)
撮影・後藤勝

——メディア不信が強いと思いますが、依存症に対する理解と当事者や家族に対する偏見を払拭するために立ち上がったAddiction Reportに期待することを教えてください。

本当のことをありのままに知ってもらうメディアになってくれたら、自分も取材に応えた意味があると思います。もちろん悪いことはしてしまったのですが、現在の日本には、薬物使用者に対する不必要な偏見があると思います。

これから変わろうとしている人の言葉をありのままに伝えるメディアであってほしい。そう願っています。


「Love Yourself Again」(作詞作曲 田中聖)

孤独の闇を抜けてく

弱さを知る事が強さに

受け入れてくことが未来へと続く道に変わる

怖くはない

ねぇ恐れる事なく自分を愛すから

ありのままでいい

細い糸に見えたとしても今を生きる

愛される価値があるよ 

無条件の愛を強さに

皆ぶつかるから恥じなくていい

繋がり直すことで明日が来る

さぁ恐れる事なく自分を愛すから

ありのままでいい

細い糸に見えたとしても今を生きる

今日泣いても強がっても明日は晴れるよ

さぁ前を向いて

ねぇ恐れる事なく自分を愛すから

ありのままでいい

消えて無くなりそうに見えて

それでも

さぁ恐れる事なく

皆を愛すから

ありのままでいい

細い糸に見えたとしても今を生きる

田中聖さんによる新曲の歌詞(撮影・後藤勝)
撮影・後藤勝

(終わり)


【田中聖さん独占インタビュー】

  1. 「代わりはいくらでもいる」 一人ですべてを抱え込んだ田中聖さんが覚醒剤に頼らざるを得なかった理由
  2. メディアのバッシング、SNSの誹謗中傷 「もう歌えないかもしれない」絶望で再び薬へ
  3. 「絶対に治せる。私たちがサポートする」 面会室で一緒に泣いた家族がかけてくれた言葉
  4. 「もう一度、自分自身を愛そう」 田中聖さんが収監直前にレコーディングした新曲に込めた思い

【田中聖(たなか・こうき)】ミュージシャン

1985年、千葉県柏市出身。12歳からジャニーズ事務所に所属し、アイドルグループ「KAT-TUN」のメンバーの一人として活動。2013年9月、「度重なるルール違反」を理由にジャニーズとの契約を解除された。その後もバンド「INKT」のメンバーとして活動を続けたが、2017年大麻取締法での逮捕(不起訴)をきっかけに活動を休止。その後、2022年2月、同年9月、覚醒剤取締法違反で逮捕。最高裁で上告が棄却され実刑判決が確定した。音楽活動を続けており、収監前に再起を誓う「Love Yourself Again」をレコーディングした。能登半島地震のチャリティーソングとして公表する予定。


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コメント

1ヶ月前
匿名

この歌詞を見てまず感じたことは「ご自身への言葉なのかな」でした。

他者に弱さを見せる方法がわからず、抱え込んで薬に逃げることを重ねてしまったようなので。

出所されるまでの期間が色々とご自身のことを見つめ直して考えられる時間になることを願ってます。

また、次に大きく報道される時には逮捕以外の事柄であって欲しいとも思いました。

1ヶ月前
匿名

3月中リリースとのことでずーっと待ってる!早く聴きたい。聖が一番!!

2ヶ月前
匿名

生きていてくれて本当によかったです。ひとりではないことを忘れないでほしいです、復帰待っています。

2ヶ月前
匿名

間違ったことをする事は人生の中でたくさんあります。

でも、間違えたらそれを正してやり直せなかったら、もう終わりなんですか?

やり直そうと 自分を顧みている人を

応援する社会になって欲しいと願います

2ヶ月前
田中聖しか勝たん

結局この曲はいつ聴けるのかな?

2ヶ月前
匿名

回復のためのプログラムにしっかり向き合っていないと書けない歌詞だと感じます。ここまで仲間に支えられて歩んできた回復の道を収監によって断たれることは惜しいことです。

ただ、聖さん自身が収監中も自分を見つめ続けていく覚悟がおありのようなので、獄中記や自伝も楽しみにしています。関係者の方やファンの方はぜひ手紙等で支えてあげてほしいです。

2ヶ月前
さくら

4回目の更新ありがとうございます。

知らなかった聖くんの気持ちを知れて、Addiction Report様に本当に感謝しています。

2ヶ月前
あーこ

聖の新しく作ったこの曲歌詞見て感動しました。いつかこの歌聖の声から聞けるのを楽しみにしてる‼️

聖が前向きになってホント良かった‼️これからは絶対無理しないでね‼️聖のペースでゆっくりのんびり復活に無理せずに復帰に向かって前を向いて一歩ずつ進んで行ってね‼️

私は待ってるよ!

2ヶ月前
匿名

こきたん、絶対大丈夫だからね!こきたんの声でLove Yourself Again聴かせてね。ありのままでいいし、世界一愛される価値あるからね!みんな大好きだから一緒に頑張ろうね!

2ヶ月前
匿名

音楽活動の話になったとき、少しどきっとしたけど「年間90本ライブをやるのはもう正直無理です」に少し安心した。自分が心地よくいてほしい。海外のヒップホップアーティストはトラックメイキングが主流です。マイペースに、いい音楽を、ちょっとずつでいいんです。

2ヶ月前
あゆみ

今の思いを素直に語ってくれてる聖くんここまで来るのに大変な日々を過ごしてたんですね。

歌詞も素晴らしいです。

とても、感動しました。

また出てきてからゆっくりで良いので、顔見せてくださいね

待ってます。

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