投げ銭700万円、摂食障害になる人も 利用者をSNS依存に追い込むプラットフォームの責任を問う
SNSに没頭し、生活が乱れてしまったのはあなたのせいではない——。人をSNS依存に追い込むプラットフォーム事業者の責任を問うべく、公共訴訟が検討されています。弁護士の亀石倫子さんに話を聞きました。

公開日:2026/01/12 02:00
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TikTokを長時間見続けて、他のことが手につかない。InstagramやXでのやり取りに心が病んでしまった——。そんな悩みを持つ若者は多いのではないだろうか?
SNSに振り回されるのは自己責任と思っている人も多いだろうが、それに待ったをかけようとしている弁護士がいる。
公共訴訟を支える専門家集団「LEDGE」代表の亀石倫子さん。SNS利用者を依存に追い込むプラットフォームの事業者の責任を問えないか、訴訟を検討中だ。
なぜ事業者側に問題があるのか。
亀石さんに話を聞いた。
対策が立てられている海外、野放しの日本
——SNSの依存について、事業者の責任を問えないか検討が始まったのは何かきっかけがあるんですか?
「LEDGE」は訴訟によって変えられる社会課題についていつもリサーチしています。その中でSNSの事業者が自分たちの利益を追求するあまりに消費者保護の観点をないがしろにして、利用者がかなり深刻な被害を受けていることに気づきました。
単に、時間を浪費するだけではなくて、脳や心が破壊されかねないような重大な事態が起こっている。いろんなところでSNS依存については報道されていますが、それにSNS事業者としての責任があるんじゃないかと考えました。
実は、海外ではこのことは結構問題視されていて、訴訟がたくさん起こっています。でも日本ではほとんど対策が打たれていないんですよね。国も規制の動きはなく、未だに、「ネットリテラシーを高めましょう」と、個人の努力に丸投げされている。
例えばオーストラリアでは最近、16歳未満はSNSを禁止する法律ができました。世界中で若者だけじゃなく、利用者を守ろうとする政策や訴訟が行われている中、日本のユーザーだけが無防備なまま、アルゴリズムの実験台にされてるような状態がある。
実際、Metaが日本を実験台にして、詐欺広告を当局に摘発されないようにしていたことなどが報じられています。
先日も我々は夫がSNS依存になって、何百万円も投げ銭してしまっている妻の話を直接聞きました。
でも、そういうことがまだ日本では知られていないし、それが個人の責任にされています。
それは違うのではないかと、社会に問題提起をして、この問題をどうやって社会で解決していくべきなのか考えたい。そのために、訴訟という手段もあり得るのではないかと考えています。
海外ではMetaを訴えるケースも
——海外での同様の訴訟では、例えば、どこを訴えているのでしょうか?
アメリカでは40以上の州の司法長官が、FacebookやInstagramを運営しているMetaを提訴しています。
運営企業は自分たちのプラットフォームが利用者のメンタルヘルスに有害であることを知りながら、それを隠して利益を追求しているという理由で提訴しています。
——どちらかというと若者がハマっているのはInstagramでしょうかね?Facebookはもうおじさん、おばさんのリア充自慢合戦の場になってますが。
若者はやはりTikTokのショート動画でしょうね。あれは、かなり依存性を高めるところがあるようです。
あとはInstagramのアルゴリズムで過激なダイエットが促されることがあります。作家の雨宮処凛さんもTikTok依存体験をAddiction Reportに書かれていましたね。
——はい。TikTokに影響を受けて、すごいダイエットをされたんです。
そんな風にショート動画の影響が大きいんじゃないかと思っています。
イギリスやEUでも、このSNSの設計そのもの、アルゴリズムなどの設計を規制して利用者を保護するための法整備をしようとする動きがあります。
脳への刺激と報酬で依存するように設計されている
——例えば、どんなアルゴリズムが依存性を高めると言われているのでしょうか?
私たちが問題だと考えているのは、脳を標的として中毒になるよう、意図的に無限の刺激と報酬が設計されている面です。ギャンブルと同じように、予測不能な報酬で脳の報酬系を刺激しています。いつ来るかわからない「いいね」やコメント、利用者の興味・関心にぴったりと合う投稿が不規則に現れることによって、やめられなくする設計であったり、無限スクロールや自動再生の機能があったりします。
自発的に利用を中断するきっかけを奪って、中毒を加速させるような仕掛けとなっています。
広告収益を基盤としているビジネスモデルだと、私たちが画面に釘付けになっている時間が長ければ長いほど、事業者の利益は増える。だから、収益の最大化を目的にして、できるだけその画面に長く滞在させる仕組みを組み込んでいます。
そして、SNSに依存している人は、物質依存やギャンブル依存と共通するような脳の変化が見られるという研究結果もあります。
そういう風に、自律的な意思決定が事実上奪われるような、自己決定が侵害されるような状況になっている。そして、利用者として当然持っているはずの権利や健康が、奪われている状態になっています。
問題なのは、誰もがSNSを使っていながら、おそらくそういう認識がないことです。自分の責任だと思っているし、自分が選んでいると思っている。実はそうじゃないんだということを訴えていきたいですね。
不登校、抑うつ、摂食障害などの被害も
——そういう企業の誘導によって、どんな被害が出ているのでしょうか?
私たちが知る限り、被害は10代の若者から60代まであらゆる世代に及んでいて、その影響は日常生活の基盤を揺るがしかねないようなものとなっています。
例えば、自己肯定感の低下や、不登校や、昼夜逆転の生活が続いて無月経の診断を受けたとか、不眠、不安、抑うつの症状も報告されています。
——無月経というのは、急激なダイエットの結果ですか?
私たちが聞いた無月経についてはそうですね。そのほか、SNSに夢中になりすぎて、休日に10時間以上画面を見続けて、無気力、無関心、もの忘れがひどい、仕事をすることがつまらなく感じる状態になって、適応障害と診断されたケースもあります。
数分おきにSNSをチェックせずにはいられないとか、自分を誹謗中傷するコメントがないかどうか探し回ってしまうような強迫的な行動を取る、とかも報告されています。バッシングを過剰に見過ぎることで人間不信になってしまい、希死念慮が出ている人もいます。
私たちの調査への回答では、10代のお子さんがSNSに流れるコンテンツの影響で美容整形を望むようになったという話もあります。
あとはダイエットです。痩せている体を理想化するような動画ばかりが次々と流されてきて、摂食障害になってしまう例もあります。
経済的な被害については、投げ銭させるための仕組みも色々あって、投げ銭したうちの何十パーセントがプラットフォームに行く。だから、プラットフォーム側も、投げ銭をするように誘い込む仕組みを作っている。
スマホで何を見ているかって、周りの人にわかりません。ガンガン投げ銭していても、家族も気づかなかったりする。今はお金も簡単にスマホで借りれるので、気づいた時にはもう700万ぐらい夫が投げ銭してたという妻の話を先日聞きました。見えないところでどんどん依存が進んでいる怖さもあるのです。
あくまでもターゲットは「保護義務」を負うべき事業者
——訴訟を起こすとしたら、相手はプラットフォームの事業者になるわけですか?
現時点で訴訟提起まで視野に入れている方とは接点がないので、具体的にどのような内容の訴訟になるかは分かりませんが、プラットフォームの責任を追及する可能性はあると考えています。
——これでお金を稼いでいる利用者もいますよね。投げ銭をもらったり、登録者を増やしたりすることで稼いでいる人も共犯のようにみていらっしゃるんですか?
いえ、私たちが主に問題があると考えている対象はあくまでもプラットフォームですね。
私たちは事業者が「保護義務」というものを負っていると考えています。
——保護義務ですか?
はい。事業者は、利用者を保護する義務を負っていると考え、企業が提供するサービスを利用する人が、その人たちの生命、身体、健康などの大切な利益を害されないように、信義則上の保護義務を負っていると思っています。そしてプラットフォームの事業者は、そういう重要な保護義務を怠っていると考えています。
——その保護義務は、どの法律に基づいて義務付けられているのでしょうか?
過去の裁判例では、例えば国が公務員の健康を守る義務だったり、事業者が消費者を保護する義務だったり個別に法律がある分野もあれば、それがなく信義則上の義務としてだけある場合もあります。これもご自身の被害について訴訟提起を考える方の具体的な被害態様に応じて、個別の法令が使える場合があるかもしれません。
——事業者を訴えて、どういう対策を講じるべきだと主張されるのですか?
利用者の脆弱性を利用するアルゴリズムを用いるべきではない、ということが中核になると思います。それを超えて、依存性を回避するための具体的な措置として、「最低限こういう措置を講じるべきだった」という主張ができないか、実際に被害に遭われた方の具体的な被害態様に応じて主張する内容を検討していきたいと思います。
——強制終了とは、例えば何時間視聴したら、それ以上は使えないようにするとか、そういうことですか?
依存性を回避するための具体的な措置として、こちらから「こういう措置を講じろ」とまで言えるかどうかは現時点では確定していません。原告になってくださる方の具体的な被害に応じて、被告および求める具体的措置を定めることになります。
人には「愚行権」もある、という反論にどう答える?
——例えば2時間見ていたらもう見られなくようになれば、「もっと見たかったのに余計な対策立ててくれるな」と思う利用者もいるかもしれません。「愚行権」のように、自分の健康が害されても、やりたいことは自由にやる権利があると主張されて、反論されたらどう返されますか?
この問題の本質は、その人の知らないうちに、その人の認知過程に侵入して操作することが許されるのか、という点にあります。
利用者の弱いところ、例えばこの人はギャンブルに弱いとか、美容に弱いとか、詐欺に弱いとか、そういう脆弱性をプラットフォームは把握することができます。サービスの特性から把握できるそのような情報を、利用者に不利に利用して、自分たちの金儲けに使うことはおかしいのではないかという問題提起です。
利用者の愚行権を、利用者自身が主張するならともかく、プラットフォーム側がそれを主張するのはおかしいのではないかと考えています。もちろん、アルゴリズムが変えられることで一部の利用者にとって不便になる部分もあるかなとは思うのですが、企業として果たすべき責任を取りきちんと措置を講じることと、利用者の側がその中でどう選び取ってどう行動するかは、切り離して考えるべきだと思います。
先日、直接話した方もそうでしたが、なかなか事業者の責任を追及しようという人がいないのは、自分がSNSに依存しているという認識がまずないのですよね。
——そうでしょうね。
自分は好きでこのコンテンツを見ていて、自分で決めて投げ銭していると思っている。そういう人が、自分が原告になってプラットフォームを訴える気持ちには全然ならないわけです。
だけど、客観的に見て、それは依存している状態にあるかもしれない。上から目線のパターナリズム(父権主義)のようなところはあるのかもしれません。だけど、例えば「ストロング系チューハイ」の話と同じで、「飲む需要があるだろう」と飲む側からすれば思うかもしれませんが、企業として、ああいうアルコール依存に繋がりやすい商品を安く売っていいのかと、企業倫理が問われる面があると思います。
——なるほど。その例はわかりやすいですね。
プラットフォームの場合、利用者はアルゴリズムの中身を知ることができませんし、利用者の脆弱性を狙い撃ちにする点で、それよりも倫理的に問題があると考えています
——Addiction Reportでは、違法なオンラインカジノの問題もよく書いているのですが、まさに依存させるアルゴリズムを作って、どんどんお金を落とさせることをやっています。でもそれは「被害」がすごくわかりやすい形で見える。被害額がかさんで、闇金で金を借り、横領や犯罪に繋がっていき、破滅がすごくわかりやすい形で見えます。でもTikTokやInstagramなどのSNSは、その被害がとてもわかりにくい。
そうですね。本人たちが、どこまで被害と思えるのかも含めて、難しさがあります。
私たちの調査に回答してくださった方の中には、10代の子どもがいる親であったり、最近そういう相談がとても増えているお医者さんであったり、夫が投げ銭にハマってしまったご家族であったり、周りにいる方からの回答も多いです。
——調査にはどれぐらいか回答が届いているのですか?
現時点で18件きています。
自己肯定感の低下や不登校、昼夜逆転、無月経で婦人科に受診した未成年の方とか、平日は1~2時間、休日はひどいと10時間くらいXやYouTubeを観続けて、無気力、無関心、物忘れがひどくなった40代の方とか、やる気や集中力が徐々に低下し、一日のうち集中できる時間は、単位を落とさないための勉強に充てるのが精一杯だった20代の方などが回答してくださっています。
調査に回答してくださって、被害実態を話してくださるのですが、そこからなかなかプラットフォームを訴えるところまでいけない。まさに今、自分や自分の家族が依存で苦しんでいる中、プラットフォームを訴えることが、直接の救いにならないからなのでしょう。
私たちは、SNSを世の中から消し去りたいと思っているわけじゃありません。SNSは、人と人と繋ぐ良い側面もあると思っています。でも、アルゴリズムに操られて、人間としての尊厳を失くしつつあるような状態から、自分の意思で選び取る、決めるということを取り戻したいと思っているのです。
そういう意味で、こういった訴訟は、今まさに苦しんでいる被害者の方のためだけではなく、日々スマホを手にしている私たち、そしてこれからの子供たち、次の世代が、テクノロジーの奴隷にならずに、テクノロジーを使いこなす社会にしていくためのものでもあります。そのための一歩になると考えています。
訴訟費用は団体が負担
——こういう訴訟では、お金は請求しないのですか?
こういった訴訟で原告になる可能性のある方は、何らかの健康被害や経済的な被害を受けていると思うので、その損害賠償請求をすることになると思います。
——訴訟費用は、どこが持つのですか?
私たち「LEDGE」は、いろんな寄付や支援によって成り立っています。我々が関わる全ての訴訟に共通することですが、原告の方の負担はなく、私たちの財政基盤の中でやっています。だから、万が一負けたとしても、訴訟を起こした本人が金銭的な負担を負うわけではありません。
——ただ、原告は記者会見に出てもらったり、自分の声で訴えてもらったりはやっていただくことになるのでしょうか?
そこは希望に応じてグラデーションがあって、名前も顔も出さない、取材にも一切応じないパターンもあり得ると思っています。
実際私たちがプロデュースしている8件の訴訟の原告たちも、色々なグラデーションがあります。実名、顔出しで取材を積極的に受けている人もいれば、仮名で顔も出さないけれど、取材には応じる方もいれば、何も応じていない方もいらっしゃる。そこはご希望に応じて、となります。
訴訟を起こすと、たくさんの司法記者の方々が記事にしてくださるので、情報を広める効果は抜群です。こういう訴訟が起きたことが多くの人に知られるので、社会に対する問題提起にもなるし、自分自身が企業の意図的なアルゴリズムの影響でこうなってるのだと初めて気づく人もいると思います。
——SNSに限らず、依存症の人は何かしらの生きづらさを抱えていて、その心の痛みを埋めるように何かに依存している方が多いです。企業はそういうところにつけ込んでいるところがあるのでしょうね。
本人は気づかないかもしれないけれども、そういうところに付け込まれている面も多分あるんでしょう。本当に搾取されていると思います。
SNSの依存による被害を実際にご経験され、訴訟提起の可能性も含めてお考えの方がいらっしゃいましたら、まずはご連絡ください。
ご連絡先は、[email protected]です。
【亀石倫子(かめいし・みちこ)】弁護士、一般社団法人「LEDGE」代表理事
2009年大阪弁護士会に登録。刑事事件を中心に経験を積み、2016年にクラブが風営法(ダンス規制)で摘発された事件の無罪判決(最高裁)、2017年に令状なしでのGPS端末を使った監視捜査は違法とする判決(最高裁)、2020年にタトゥー彫師医師法違反事件の無罪判決(最高裁)を弁護人として導いた。2023年からLEDGEで公共訴訟に取り組む。著書に『刑事弁護人』(講談社現代新書)。
