Addiction Report (アディクションレポート)

「見る福祉」としてのTik Tok〜ハマりまくって10キロ痩せ、我に返った顛末記〜

Tik Tokにハマって気づけば10キロ痩せた私。それを見ている間は嫌なことを忘れられる「見る福祉」の副作用を味わいました。

「見る福祉」としてのTik Tok〜ハマりまくって10キロ痩せ、我に返った顛末記〜
Tik Tokにハマって10キロ痩せた雨宮処凛さん

公開日:2025/02/01 02:00

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ある日、体重計に乗って愕然とした。

そこには「モデル体重」を数キロ下回る、これまでに見たことのない数字が表示されていたからだ。

モデル体重とは、標準体重、美容体重よりも低く、身長から割り出されるもの。その名の通り、モデルなどに多い体重比率だ。

そのことに喜ぶよりも、私はゾッとしていた。

これは、Tik Tokにハマって2年とちょっとで10キロ痩せた私の記録である。

振り返ると、Tik Tokにハマる前とその後で、私の脳は確実に変化した。

でないと、人は簡単に10キロも痩せるものではない(ホントに簡単だったのが怖い......)。2年ちょっとかけてはいるが、私も50歳。代謝は十分落ちている。

が、Tik Tokにハマるうちに、私は自分の体型が許せなくなっていた。

それだけではない。自分の思う「美」の「規格」から外れるものを脳が激しく拒否するようになった。

また、ドラマや映画などは、よほどテンポが良くないと見られなくなった。結論を先に言わない動画や余白のある動画も見られなくなった。

現在、選挙結果にも大きな影響を与えるといわれるTik Tok。

いったい私の身に何が起きたのか、はからずもリアルな人体実験となった顛末をお届けしたい。

コロナ禍、XにうんざりしてTik Tokに

Tik Tokを見るようになったのは、2022年のことだ。その後すぐに安倍元首相銃撃事件が起きたことを記憶している。

当時の私は、日々揉め事ばかりが起きているX(旧Twitter)にうんざりしていた。

が、コロナ禍で気軽に人とも会えないような時期。そんな頃、友人がTik Tokを見ているとのことで、スマホにアプリを入れた。

友人はアカウント登録はせず、ただ流れてくるオススメを見るというやり方だったため、私もそうして見始めたのが始まりだった。

そうしたら、一気に時間が「溶ける」ようになった。

流れてくるのは見ず知らずの男女がただ踊っていたりするだけのもの。そんなものを見ているだけで、気がつけば2、3時間とか経っているのだ。

しかし、いつからかそれは私にとって欠かせない時間になっていた。

X(旧Twitter)を開けば、「自分が批判されているのでは」「見たくもない諍いや暴言を目にするのでは」という緊張が常にある。しかし、私にとってのTik Tokは自分にまったく関係ない世界。構えなど一切なくただ受け身でいられて、目に楽しい動画ばかりなのだ。

そのうち私のTik Tokのオススメには、美容と整形とキャバ嬢とK-POPくらいしか出てこないようになった。K-POPはコロナ禍にハマったのだ。

ダイエット動画やK-POPスターの姿にハマる

そんな中でも驚いたのはダイエットもの。

「165センチ45キロの私の1日の食事」みたいな動画だ。その名の通り、若くて痩せた女性が今日何を食べたみたいなことを紹介するのだが、みんな鳥の餌みたいなものしか食べていないではないか。

そんな女性たちが「痩せたいとか言いつつ食べてる人は甘えてる」とか辛辣なことを言うのだが、彼女たちのスタイルの良さとその食生活に、私は軽い衝撃を受けていた。

ちなみに22年当時の私は人生マックスの体重を記録。なんとかしなければと思っていたものの、コロナ禍を理由に放置していた。それが「165センチ45キロの」みたいな動画に、喝を入れられた気分になったのだ。

そこからダイエットが始まったのだが、当初からそういうものに影響されて痩せようとする危険性は重々承知していた。が、あえて乗っかってみて痩せたらラッキー、くらいの気持ちだった。

しかし、体重は順調に落ちていった。当たり前だ。突然1日1・5食にしたのだから。

そこに毎日見るTik Tokが駄目押しとなった。ダイエット動画だけでなく、そこには完璧なスタイルで元気一杯に歌い踊るK-POPスターの姿が続々と流れてくるのだ。

自分の姿や「おじさん」の姿にギョッとし、許せなくなる

そんなものばかり見ていたある日、私は鏡に映る自分の姿に驚愕した。K-POPスターの身体と、まるで違うからである。いや、そんなことは当たり前なのだが、毎日Tik Tokで完璧なスタイルばかり見ているうちに、その規格から外れるものを異様に醜く感じ、許せなくなっていたのである。

それでもどこかで「美意識の向上」くらいに思っていた。

しかし、その頃から明らかに、日常に「びっくりすること」が増えていった。

Tik Tokにたまに「おじさん」などが出てくると、あまりの場違いさというか、無防備に無加工でメイクもしていない姿が「剥き出し」すぎるように思えて、「ぎょっとする」ようになったのだ。そして反射的に、0・1秒でスワイプ。

そんなことをしているうちに、ニュースなどで目にするおじさん政治家などにもぎょっとするようになった。何か、直視できないのだ。テレビはスワイプできないので、チャンネルを変えるか消すかした。

政治や社会問題は一切登場しない空間

そんなふうにして、私は自分好みの動画ばかりを見て過ごすようになった。

Tik Tokを見ている時間は至福だった。

ちなみに私のTik Tokには政治ネタや社会問題などは一切、登場しない。安倍首相暗殺事件の時だけ少しニュース動画が流れてきたくらいで、以降、世の中が選挙真っ盛りだろうと災害が起きようと世界で虐殺が繰り広げられようとまったくの無風。毎日見知らぬ若い女性がクネクネと踊り、K-POPスターが完璧なスタイルで客を魅了する。

そんな、仕事とも雑事とも世界の悲劇とも隔絶された世界。それを見ていると、脳からいい感じの汁が分泌されているのが自分でもわかるのだ。

Tik Tokで大食いを見ながらダイエット?

そんなふうにTik Tokライフを送っていたのだが、いつからか、私は大食い系の動画も見るようになった。Tik Tokにはその手の動画も溢れている。が、これにも私なりの基準があり、男性や、食べ方や音が激しかったりするのはNG。しかし、Tik Tokにはそんな私の要望に応えてくれる、清潔感溢れるビジュアルの大食い動画も多くある。そんなものを見て、自分の代わりに食べてもらっているような気になっていた。そう、自分が1・5食にした分、大食い動画を見て食への欲を満たしていたのである。

ちなみにこの頃の私の1日はと言えば、午前中に起きて原稿数本を一気書き、そのまま何も食べずにジムやヨガに行って午後3時頃に1食目を食べるという生活だった。それが私の生活スタイルにハマった。物書きの私にとって、食事は常にストレスの種だったからだ。昔から朝起きて一気に書くスタイルなのだが、それは空腹との闘いだった。食事をすることで一旦集中が切れてしまうし、眠くなる。とにかく空腹を気にせず一気に書けるところまで書き切りたい。そんな私にとって、1日1・5食はハマったのだ。空腹は変わらないものの、1・5食と決めてしまえば諦めがつく。

0・5食分はと言えば、毎日の飲酒をやめる気はなかったので、そこでのおつまみ的な感じだ。会食などがある時は普通に食べた。次の日以降で調整するのだ。

そんな中、一時は「さけるチーズ」にハマった。さけばどこまでも細くなり、「増えた」気がするからだ。

髪の毛ほどの細さのさけるチーズをほんの少しずつ口にしながらワインを飲み、Tik Tokで大食いを見る——、今思えば何やってるんだかわからないが、それが至福の時間だった。

そのうちに、私は自分が生きる世界——政治や国会や社会問題や選挙とかがある世界——がものすごく特殊な場所なのだと思うようになった。なぜなら、私のTik Tokにはそんなものは最初から存在しないからだ。

Xの「おすすめ」欄に広がる別世界

相変わらず、X(旧Twitter)の治安は悪かった。「心理的安全性」という言葉ともっともかけ離れた場所にそれはあり、毎日毎分毎秒、人を傷つけていた。

しかし、いつからか自分がフォローしている人を見られる「フォロー中」の欄の他に「おすすめ」という欄ができていて、私のX(旧Twitter)だと、そっちの治安はそれほど悪くないことに気がついた。

例えば私がフォローしている人のポストを見ると、そこにはさまざまな社会問題や世界の悲劇があるが、「おすすめ」ばかり見ていると、まったく違う世界が広がっているのだ。

ちなみに24年夏、世間が「石丸現象」一色だった頃、私の「おすすめ」の方では、「ひめか」と「かけるん」の話題で持ちきりだった。人気キャバ嬢だった「ひめか」について、その客だった「かけるん」が暴露するということが大変な話題になっており、タイムラインはそれ一色。

また、兵庫県知事のパワハラ疑惑や職員の死などでワイドショーが持ちきりだった頃、私の「おすすめ」のタイムラインは、アイドルの戦慄かなのが「レペゼンフォックス」の元DJまるに暴行を受けてDJまるが逮捕、という話題のみで埋め尽くされていた。

そんなものを見ながら、思った。

同じ国に住みながら、私たちはこれほどに違う世界に生きているのだと。

そりゃあ保守の声もリベラルの声も届かないわけだ、とひどく冷静に思った。とっかかりとかきっかけが、もう見事に、本当にまったく一切全然ひとつもないのだ。

最近、世界では「分断」などとことさらに言われるが、あるのは左右の分断とかじゃなく、政治クラスタとそれ以外の分断だ。もうここが、本当に絶望的なほどに広がっている。

Tik Tokダイエットで体調悪化

さて、そんな中でもダイエットは続いていた。

体調はどんどん悪くなっていた。まず、異常な疲れやすさ。以前は取材のあとに別のイベントとか行ってたのに、とてもじゃないけどそんな体力はなくなった。

一度しゃがむと、一瞬視界がブラックアウトし、立ち上がれなくもなっていた。

また、歯の根っこがいきなり膿んで緊急手術という目にもあった。

今思えばどれもダイエットが原因だろうが、それでも私はやめなかった。自分の身体がまだまだK-POPとは遠いからだ。

そうして1月はじめ、無理な姿勢がきっかけで頸椎を痛めた。ひどい痛みが2週間以上続き、整形外科に行くとストレートネックも原因のひとつだろうと言われた。スマホの見過ぎなどでなるアレだ。

この頃から頸椎を痛めたことによる吐き気が原因で食べられなくなり、体重はさらに減少。そうして本日、モデル体重より数キロ下回っているのを見て、やっと我に返ったという次第である。

この世の嫌なことから逃れられる「見る福祉」

そんなこの2年ちょっとを振り返って思い出すのは、数年前、ストロングゼロが「飲む福祉」と言われていたことだ。

それに照らすと、Tik Tokは私にとって「見る福祉」なのだと思う。

それを見ている間は現実の嫌なことを全部忘れられてキラキラした世界だけが広がっていて多幸感が得られて現実逃避できて癒される場所。その時に分泌される汁によって脳が喜ぶ場所。

だけど見ているうちに私の「美」の基準はいびつになり、長い動画を見る耐性は著しく低下。先に結論を言わない人間を瞬間的に「無能」と判断するようになっていた。

美容やダンスばかり見ていただけでも、人はここまで変わるのだ。

もし、私が若い頃にTik Tokがあったら。そしてなんの耐性もないまま、政治や陰謀論系のものに触れていたとしたら。

世界はこうなのだと言い切り、これをこうすれば良くなると先に結論を言ってくれた上、実行力のありそうな人に心を鷲掴みにされていたかもしれない。それが嘘か真実かなど関係なく。なぜなら人は、「脳が喜ぶ」ものにあっというまに飛びついてしまうのだ。

Tik Tokをはじめとした動画は、今後の選挙や政治に大きな影響を与えると言われている。私は兵庫県知事選を通して「選挙の推し活化」をまざまざと感じた一人だが、一体、次の選挙でTik Tokはどんな活用のされ方をするのか。非常に気になるところだ。

さて、今日から1・5食をやめて、体重を少し戻そうと思う。だけど私は今日もTik Tokを見てしまうだろう。

っていうかここまで書いて、そこしか安全な逃避先がないことが問題なんだよな......と今、気づいた。

 

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