大麻由来の医薬品 抗てんかん発作薬の可能性と開発状況
昨年12月に改正大麻取締法・麻薬及び向精神薬取締法が施行されました。大麻の成分を使った医薬品が使えるようになりましたが、開発状況や課題は?聖マリアンナ医科大学脳神経外科学教授、太組一朗さんの講演詳報です。

公開日:2025/07/12 03:12
昨年12月に改正大麻取締法・麻薬及び向精神薬取締法が施行された。大麻の成分を使った医薬品が使えるようになり、大麻使用罪が創設された。
影響はどのように現れているのだろうか?そしてどんな意義と課題があるのだろうか?
日本精神神経学会学術総会で6月20日に、「改正大麻取締法・麻薬及び向精神薬取締法の意義と課題、ならびに薬物依存症臨床への影響」と題するシンポジウムが開かれた。
演者一人ひとりの報告と議論を連載で詳報する。
まずは、難治性てんかんに効果が期待される大麻由来成分を使った医薬品の臨床研究を進める、聖マリアンナ医科大学脳神経外科学教授、太組一朗さんの報告から。

3割のてんかん患者は今ある薬で発作を抑えきれない
私は、てんかんの手術を専門の1つにしています。「この手術だったら僕が世界で1番うまいよ」。こんなことを言うやつは大したことはないかもしれませんが、そういう風に言っています。本日はカンナビノイド医薬品の抗てんかん発作薬の可能性と開発状況ということで、お話をさせていただきます。
てんかん診療を専門にしている者としては、「万能な抗てんかん薬は存在しない」「3割の人は発作を抑制することはできない」と考えています。こうしたことから、やはり新しい治療の開発は、非常に重要です。

これはてんかんの薬物治療の効果について、パトリック・クワンとマーチン・ブロディが2000年に出した論文ですが、すごくエポックメイキングなものだと思っております。
世界では注目を集めてきた大麻のてんかんへの効果
2018年に、米国てんかん学会に行って非常に驚きました。この時に大きな話題になっていたのが、大麻由来成分であるC B D、カンナビジオールの話題です。

その時に本当にびっくりしました。話では聞いていましたが、もう米国ではてんかんの発作を抑える薬として販売されることになったのだ、と。「エピディオレックス」というお薬です。このような時代だったのです。

次の年2019年のことです。写真の左側の人は、中里信和先生(東北大学教授)という、てんかん診療で有名な人ですが、真ん中の人は誰でしょう。「あなた誰?」と聞くと、「I’m a whisky drinker」と言って、夕方6時前なのに、もう瓶の半分ぐらい1人でウイスキー飲んでいる、このおじさんです。びっくりしたのですが、この人がマーチン・ブロディ(Glasgowのてんかんユニットディレクターおよびグラスゴー大学医学部名誉教授)なのです。
その時、横に私にマーチンが「お前、脳外科医だからいいよね」って言うのです。「側頭葉てんかんの手術などだったら患者さんを治せるでしょう。僕を見なさい。過去40年、てんかん領域で仕事をしてきたけれども、やっぱり3割の人は治すことができないんだということを証明しただけなんだよ。我々は100年前から臭化カリウムとカンナビス(大麻)で7割治せるといってたんだ」ということを言ったのです。
私は逆に7割は治せると聞いて、驚きました。この人たちは、大麻がてんかんに効くということを、自分たちの医学の歴史の中できっちり知っていた。そういうことをこの目で目撃いたしました。
権威ある医学雑誌、ランセットに1890年、ジョン・ラッセル・レイノルズという方が、大麻はちゃんとてんかんに効くという論文をその当時から出していました。

こんなふうにチンク油(皮膚炎や火傷などに使う塗り薬)として使っていたこともあります。

この写真は、「ナショナルジオグラフィック」に掲載されたものです。正高佑志先生と一緒にこの記事の日本語監修をしたのですが、みなさん医療大麻というと、こうした形状のものを想像するのではないでしょうか?

僕もこれを想像していました。要するに、おどろおどろしい大麻です。でも、実はそれだけではなくて、いろんな摂取方法があることを、だんだんと知るようになりました。

こういうものの中に、医療用のものがあります。

原料があって、最終製品になるまでにだんだん精製されていく。

大麻の主成分はTHCとCBDですが、その他にもたくさん特有の成分があることが非常に面白いところだと思います。
日本における大麻の歴史
日本では、なぜか神事で使ったり、古い教科書にも書いてあった「インド大麻」と呼ばれたりした時もありました。

インド大麻というのは、僕の勝手な想像ですけど、日本の固有の大麻とはちょっと違うのだろうと思います。つまり、日本で大麻を吸って精神作用があるということは、あまり歴史的には知られていなかったのではないかと思います。

日本は第2次世界大戦で敗戦しました。そこで、マッカーサーが、大麻を米兵が乱用したらいけないからということで、全部禁止にしなさいと言い出したそうです。マッカーサーは大麻を禁止にしたいけれど、占領下にある日本政府は、日本の大麻の農業は守りたい。そういう背景が当時の立法過程の中で議論されたのではないかと思います。

だから旧法の中では、第4条に、何人も大麻から製造された医薬品を使ってはいけない、お医者さんが使ってはいけない、患者さんも処方されてはいけないと書かれている。
推測ですけれど、おそらくこれは、「禁止するけど、医療目的で使っている人を罰するのは良くない」という考えが当時あったのかもしれません。成熟した茎と種の実から製造されたものは法律上の大麻としないとも、書かれています。

それまでは医薬品に関する品質基準を定める公的な文書「日本薬局方」にインド大麻が載っていたのですが、この法律の制定を受けて、1951年の改正でリストから除外されました。

大麻の成分からできた製品を売る「C D Bショップ」が世の中にありますが、あれは旧法の除外規定、通称「茎・種ルール」によって法律上の大麻から外れたものですから、これは立派に適法・合法であるわけです。現在も現行法において合法な製品が販売されています。
治験が始まった大麻由来成分の医薬品「エピディオレックス」
難治性てんかんの一種である「レノックスガストー症候群」、「ドラべ症候群」、そして「結節性硬化症」だけに適用がある「エピディオレックス」という薬は、現在、日本で治験が行われています。

「CBDはなんでてんかんに効くの?」と聞かれるのですが、どの薬でもどんなものでもそうなのですが、きっとそれは後付けの理由ですよね。

炎症を抑制させる受容体「GPR55」など、作用の仕組みについては色々言われていますが、大麻成分の一つ、THCで活性化されるような多幸感にCBDは関与しない。そして、CBDには依存性はない。これは言い切っていいと思います。
大麻の中にいろんな成分が入っています。CBDが多いものについては、患者さんに抗てんかん発作薬として効きますし、THCが多いものについては精神作用があるのではないかと思います。

食品として売られているCBDでてんかんの発作が止まる
次の演者の正高佑志さんが、2つ英文の論文を書いてくれています。

これはどんな内容かというと、そのへんで売っているCBD製品を患者さんに使ったら、発作が止まった。しかも、「大田原症候群」という普段、診ないような難しいてんかんです。僕は診たことはありますけど、どうしようもないぐらい治療が難しい人たちの発作がこれで止まっている。そんな人が何人かいるのです。
てんかんは、ある薬が非常に治療効果を発揮しているかどうかは、数値でちゃんと評価できます。

これは、患者さんの発作数の記録です。左側は何も飲んでない時の発作で、1日に150mg飲ませた記録が右側です。発作が0になっています。
この患者さんたちは、今でもこのCBD製品を使っています。そのへんに売っているCBD製品は食品サプリメントなのですが、これを使って発作が0になって、他の抗てんかん発作薬を使わなくていい状態になっているということです(註:最近の実情は、患者団体であるカンナビノイド医療患者会が製品を選定しています)。

日本でも医薬品として使えるように働きかける
大麻由来医薬品は、実は抗てんかん発作薬としてのきっちりしたエビデンスもあります。
先ほどのランセットの論文から2018年まで128年経ってようやく米国では薬になったということですが、日本ではどうか。日本では難しいだろうなと思いまして、もう飛び道具を使うしかないと思い、盟友である秋野公造参議院議員(公明党、医師 福岡県選出)に要望書を出しました。

その年に国会で「治験は可能」と厚生労働省の森和彦審議官に言ってもらい、松本俊彦先生も委員として参加していた「大麻等の薬物対策のあり方検討会」も開催され、私も話をさせていただく機会をもらいました。
研究班の私の報告書では、「エピディオレックスの在宅治験が適切」と書いたところ、次の年にJazz製薬が入り、jRCT(臨床研究等提出・公開システム)で治験が公開され、大麻取締法が改正され、第4条(大麻を医薬品として使うことを規制する条文)が削除されたという流れです。
いろんな意見が出るのは当然ですし、いろんな意見が出て良かったと思いますが、大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案の改正論議に際し国会で患者団体が言ったことは、「CBDは規制してほしい」なんですよね。
現在、CBD製品を使っている患者さんがいるのに、患者団体の幹部が差別を助長し、医学史的に間違った発言をするのはとてもけしからんと私は思います。国会の議事録にきっちり書いてあるので、興味があればご覧になっていただきたいと思います。

私も国会で発言する機会がありました。薬の開発もしなくちゃいけないし、普段、そのへんで売っているCBD製品を健康目的に使ってる人たちも尊重しなければいけないと、その時も話しました。
新たなハードル T H Cが一定割合含まれるCDBが麻薬扱いに

また、同時に麻薬及び向精神薬取締法も改正になりました。そうすると、医療目的での使用は可能になったのですが、でも、ここにも非常に大きなハードルがあるのです。
そもそも、処方箋医薬品として使える製品はまだ日本にはありません。今、治験は行われていますが、そのへんで売っているCBD製品は食品扱いです。
しかし、THCが一定の分量以上含まれているものは、食品扱いなのに麻薬になってしまうという恐ろしい事実が新たに出てきました。
法改正はした、大麻は医療目的で使用可能になった、エピディオレックスの治験はいずれ終了するだろう。

しかし対象疾患は3疾患だけで、大田原症候群の患者さんはどうするの?ウエスト症候群の患者さんはどうするの?もっと治療が難しい他の患者さんどうするの?という問題は残っているわけです。

結局、今まで使えていたものが、新たな規制によって使えなくなる。そして、使えなくなると、発作が再発する人がどうしてもいるわけです。
ですので、その人たちの継続の所持をどうするのか、今までになかった供給をどうするのかという問題が法改正の後に起こったわけです。
遠隔診療で、医師が再譲渡する形に
継続所持に関しては医行為で医者が処方すればいいわけですから、医行為で処方する。そして、もう1つの供給については、特定臨床研究で研究班が供給することを厚労省にお願いして、相談して実現したわけです。

患者さんは日本全国にいますが、どういうわけか沖縄県の患者さんが非常に多いのです。遠隔診療で解決できたことが非常に良かった。継続使用は、医師、持っているCBD製品の所有権を1度私に譲ってもらって、医師が、ペーパーワーク上、ちゃんと再譲渡する形を取ることになったのです。

厚労省は「1人1人しっかり対面で診療し、てんかんの患者でないとこういうことはやってはいけない」と言うので、こういう形で乗り越える手続きをしました。この結果、32名の患者さんに麻薬を譲渡することができました。
一人一人、この人は難治性のてんかんの発作を抑える目的で使っているということを私が全部確認して、医行為として麻薬の処方をしたということで、患者さんの継続の所持について法的な問題をクリアすることができました。
食品サプリメントを臨床研究に組み込む
特定臨床研究は、厚労科研費を原資としています。行政のお金です。外国に行ってこの話をすると、「君の国は大麻にお金出すの?すごいね」みたいに言われるのですが、患者さんの治療目的だからと説明しています。
カンナビノイド臨床研究ホームページを作って、そこからだんだん入れるようにしてあります。2025年の3月に始めたのですが、まだお金の問題などあって、まだ大々的にアナウンスはしていません。
この製品は、米国では通販で買えるものですけど、日本では麻薬になっています。でもこれを使ったら、てんかん発作が少なくなった、0になったと言われます。まだ参加者は多くないですが、そういう効果のある方がおられるのですごいなと思っています。

でも、これは麻薬ではあると同時に食品なので、このままではどこまで行っても今の日本では医薬品の開発にはならない。いろいろな工夫をしているところです。
DCT(Decentralized Clinical Trial、分散化臨床試験 ※)ですね。
※来院しなくても、オンライン診療やデジタル技術を使って、患者が自宅やその他の場所にいながら参加できるようにした新しい形の臨床試験。
遠隔地にいる患者さんにどうやって大麻を送るのか、という問題も僕らは解決しました。宅急便や郵便で送って大丈夫です。法律的な問題はないと確認しています。
しかし、やはりこの研究で大切なのは、その人が本当に必要な人なのかという確認です。判定委員会も作って厳しく一例一例吟味し、診察をしています。患者さんの負担は1回の診察あたりだいたい5000円ぐらいで、CBD製品代金は全部厚労科研費で賄っている状況です。

正高先生には、いつもこのために月1回熊本から出てきてもらって、遠隔診療をやるんですね。患者さんにも必ず画面に出てきてもらいます。この他にも3人ぐらいスタッフがいるのですが、これを毎月やって診察している状況です。

現在、この臨床研究には患者さん三十数名が参加していて、目標症例数は150例です。難治性のてんかん患者が対象で、僕はてんかん診療医なので難治性のてんかんの人たちになんとか届けたいと思っています。
一方で、日本臨床カンナビノイド学会の責任者をしていますので、医療目的であったら、ほかの病気の患者さんたちにもなんとか届けたい。昨年8月、このことで厚労省と大喧嘩しました。厚労省はやはり規制側ですから、そのあたりを認めてくれません。
「一度その辺で引いとけよ」と言われたので、仕方なくちょっと引いたという事実があります。しかし、私は別にここで諦めたわけではないので、他の病気にも広げていかなくてはいけないなと思っています。
有用な大麻由来医薬品を日本でも使えるように

こういう抗てんかん発作薬の図をご覧になったことがあると思います。カンナビジオールは随分上の方にありますが、FDA承認になるまで開発に128年かかりました。
まだ日本では使えませんが、非常に有用な薬であるということを伝えておきたい。
抗てんかん発作薬であり、てんかん患者の発作が止まる、0になる。きっちりした医薬品としての機能を持っている薬です。

ILAE(国際抗てんかん連盟)は、「90、80、70」というプログラムを今、行っています。
世の中の90%の人がてんかんは狐憑きなどではなくて、ちゃんとした脳の疾患であることを理解すること、80%の人にちゃんとした抗てんかん発作薬が届き、70%の人が抗てんかん発作薬で発作を制圧できる——。こうしたことができるように、行っているプログラムです。
大麻由来成分をカンナビノイドと言いますが、薬効がある成分はCBDだけではないはずです。植物由来なので、この80%を達成するには、種さえ開発すれば、アフリカなどの開発途上国に種を送って自国で育ててもらえば、抗てんかん発作薬になるのではないかと思います。繰り返しますが、薬効はCBD単独であるわけではないと思っています。

しかし、グローバルな製薬会社は、企業としての目的で日本の市場に入ってくるわけで、日本の患者さんのことは考えていないことはよく実感しています。ですから、いつか国産で開発されることが必要なのではないかと思いますし、日本製の大麻由来医薬品が世界中で役立つ未来を私は見届けたいと思っています。
てんかん以外の病気にも効果がある可能性
一方で、外国ではどんな風に使われているかですが、英国の医療大麻の登録制度を見ると、外国では、非がん性疼痛、線維筋痛症、神経原生疼痛、それから不安症、P T S D、うつに使われるのが中心になっています。大麻の薬効は、また違ったものが見えてくるのかもしれません。

現在治験中の大麻由来医薬品は、対象疾患がわずか3疾患で、レノックスガストー症候群とドラべ症候群、結節性硬化症は、難治性てんかんのだいたい3パーセントぐらいということです。

ですから、難治性てんかんの人たちだけ見ても薬は足りず、もっと開発されるべきですし、難治性てんかん発作抑制作用を持つ大麻由来の医薬品、食品は、エピディオレックスだけではないわけです。
強調したいのは、大麻由来医薬品を必要とするのは難治性てんかんの患者だけではなくて、日本の中にはたくさんお困りの方がいて、そういう人はすごくマイノリティです。
患者会というのは世の中にたくさんあって、ある患者会の中でも、「そんなCBDのようなものを使うなら、患者会から出ていってください」と言われるような差別も生まれたりしています。やはりちゃんと理解してもらい、必要な患者さんに届けることを、これからも継続したいと思います。
私は外科医ですので、外科治療で1人でも多くの患者さんを救うことが目標ですが、やはり薬の開発には大きな意味があることを最近実感しています。
【質疑】
(質問)CBD製品の中に含まれているCBD以外の成分にも効果があり、THCが含まれている製品が効果があるということでしたが、それはてんかんに対してということなのでしょうか?
(答え)てんかん発作に対しても、その他の疾患に対しても、おそらく効果があると思います。
例えばTHCもそうですし、THCVという成分も、そういったものが少し多く含まれているものは、他の成分も含まれているはずです。レアカンナビノイドというものがたくさん入っている。他のテルペン(動植物から得られる化学物質)も入っていますので、それのどれがどのぐらい効いているかは誰もわからないのですが、ピュアなCBDよりもそうじゃないものの方が一般的には効くと考えてもいいのかもしれません。
【太組一朗(たくみ・いちろう)】
1965年生まれ。脳神経外科医。聖マリアンナ医科大学脳神経外科教授。日本医科大学卒業。日本脳神経外科学会同時通訳団員。専門領域は、てんかん外科・定位機能神経外科・整容脳神経外科・CJD二次感染対策・大麻由来医薬品開発。厚生労働科学研究「カンナビノイドの実態把握に資する研究25KC2006」「カンナビノイド製品とカンナビノイド医薬品の薬事監視24CA2012」研究代表者。第212回通常国会における「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案」の改正論議に際し、参議院から与党唯一の参考人として招致を受け、法改正賛成の立場で意見陳述した(2023年11月30日)。