「苦痛を忘れるためにお酒を飲んでいた」作家・小林エリコが語るPTSDとアルコール依存症
大人になってからPTSDと診断された作家の小林エリコさん。小林さんの父親は毎日酒を飲んで暴れ、母親は父親に殴られていたと言います。また、祖父もPTSDが原因のアルコール依存症だったとのことで、PTSDが祖父、父親、小林さんに連鎖したのではないかと考えています。小林さん自身も問題飲酒をしていた時期がありました。

公開日:2026/01/03 02:00
毎晩酒を飲んで暴れる父、殴られる母
12月3日『怒りに火をつけろ』(ことさら出版)を上梓した作家の小林エリコさん。複雑性PTSDの治療でカウンセリングを受けたことで、「適切な怒り」を取り戻していった経験を綴った作品となっている。

今までの作品の中でも、父親がお酒を飲んで暴れたり競馬場に小林さんを連れていったりする様子が描かれており依存症であったことがうかがえる。
「私が小学生の頃、父は毎日外で飲んで帰ってきていました。鮮明に覚えているのは、酔って帰ってきて玄関のドアを開けられず、インターホンに肩を押し付けてビーッとブザーが鳴っていて、私と母で抱えて家に入れて水を飲ませたことです。
夜になると毎晩のように酔った父と母が喧嘩をするのが襖越しに聞こえてきていました。父がそんな感じなので母はうつ病のようになってしまい寝ていると、父が『俺が帰ってくるのを起きて待っていないとは何事だ』と怒り、母は『具合が悪いから寝ていた』と言うと『それなら救急車を呼ぶ』と119番しようとし、母が『やめてやめて!』と叫ぶという。
ほかにも酔った父が母を殴り、私が寝ている部屋の襖を開けて『エリちゃん、お母さん、離婚してもいい?』と私に聞いてきたこともありました。
日曜日になると朝から飲んでいて、ある日珍しく水を飲んでいると思ったら日本酒でした。日曜日のルーティンは朝起きてお酒を飲んでそれから競馬か競輪に行く、という感じです」

小林さんの父はサラリーマン、母は専業主婦だった。小林さんが小学生の頃はまだ景気が良く、団塊の世代である父の収入は平均以上だった。しかし、父は飲み代とギャンブルにお金を使うため家に入れるお金が少なく、母と子どもたちは貧しい生活を送っていた。
「学校の教材は買えませんでしたし、家の食事はもやしばかりだったので、今でももやしが嫌いです。最近でこそ卵は高いですが、当時は安かったので、もやしの卵とじと、肉など何も入っていないキャベツをただ甘辛く炒めたものが頻繁に家で出ていたおかずです。
それに、私は冬服を3着しか持っていませんでした。3着しかないので洗濯が間に合わなくなり、同じ服を2日間着て行ったらクラスメイトにいじめられてしまいました」
ソーシャルワーカーに「アル中の飲み方だよ」と言われて女性ダルクへ参加
子どもの頃、酒を飲む父に苦しめられて育った小林さんであるが、小林さん自身も問題飲酒をしていた時期があるという。
「うつ病による自殺未遂で精神科への入院から退院した後は生活保護を受けていました。そのときに知り合ったソーシャルワーカーに『依存症の飲み方』だと言われたんです。私はそもそもお酒を楽しく飲もうという意識が全くなくて。
PTSDの影響で体が痛いんですよね。でも、お酒を飲むとふわーっとして苦痛が取れるんです。貧乏なのでお酒は100g換算で一番度数が高くて安いものを選びます。安い焼酎が多かったですね。そして酔っ払ってどうでもよくなるまで飲むという飲み方でした。とにかく苦痛が解消できればよかったんです」
生活保護受給中は仕事もなく、暇でやることがなく寂しかったため小林さんは朝から焼酎を飲んでいた。ある朝起きたら失禁していたことから危機感を覚えた。
「真面目だったので図書館に行ってアルコール依存症関連の本をたくさん借りて読みました。それで、ダルクと付き合いのあるソーシャルワーカーに『ダルクに行ってみたらどう? 薬物じゃないけど依存症だから同じじゃない?』と言われ、女性ダルクに行ってきました。
ミーティングに参加すると、毎日行く場所ができて良い意味で暇ではなくなりました。私よりもヘビーな人の話を聞くと、みんな大変だけど仕事をしている人もいるし私も働けるかもと思うようになったんです。やっぱり同じ仲間の姿というのは参考になりました。半年くらい通いましたね」

連鎖するPTSD
また、小林さんはPTSDの人は依存症になりやすいと思うとも語る。実は、小林さんの父だけでなく祖父(父方)も問題飲酒をしていたという。
「祖父は戦後のシベリア抑留から帰ってきたそうなんです。シベリアでむごい扱いを受けた影響でPTSDになっていたと思うんです。それで、酒を飲んで暴れたり愛人を作ったり。お金がなかったので祖母はホステスとして働き、祖父が愛人を作ったことにショックを受けてトイレで大量にお酒を飲んでそれを父が介抱していたと聞きました。
祖父は飲んで暴れていたかと思えば『屋根のある家でご飯を食べられて幸せです』とお祈りし始めたそうです。PTSDでアルコール依存症になった祖父のいる家庭で育ったから父もPTSDのような状態になり、問題飲酒をするようになったのだと思っています。PTSDが連鎖したんでしょうね」
現在、小林さんのPTSDはカウンセリングにより回復中だ。今もカウンセリングは継続し、さらに筋トレやヨガを行うことで体の痛みが軽減したという。問題飲酒もなくなっている。
「カウンセリング治療を開始してから過去のトラウマを思い出す回数がぐんと減りました。ヨガは強張った体をほぐしてくれ、自律神経の興奮を抑えてくれます。ヨガのおかげで体の痛みがなくなったので、お酒も異常な飲み方をせずにすんでいます。今は人と外で楽しいお酒を飲んだり、家では炭酸水を飲んだりしています」
最後に現在小林さんが何に依存しているのかを聞いた。
「一緒に住んでいるパートナーです。でも『一緒にいないと死ぬ!』みたいな過度な依存ではなく適度な距離感を保ちつつといった感じです。寂しさが緩和されているし、家賃や生活費を折半しているので経済的にも助かっています。
心身ともに調子が良くなってきたら前向きになって、自分のやりたいことをやろうと思うようになったんです。私もパートナーも動物が好きで『ペットを飼いたいね』と話していて、先日猫を飼える物件に引っ越しました。近々猫の里親会に行く予定なので楽しみです」
