「僕が支えれば何とかなると思ってた」田代まさし親子が明かす依存症と家族の葛藤
3日に開催された「依存症シンポジウム IN東京」に、田代まさしさんと息子のタツヤさんが登壇。「(薬物を)使ってるかもしれないと思ったの、いつ頃?」「中学ぐらいの時から奇行が目立ち始めた」といった率直なやり取りが行われ、400人の観客で満席となった会場からは、笑い声がたびたび上がった。

公開日:2025/11/06 02:00
11月3日、一般社団法人ARTS主催の「依存症シンポジウム IN東京」が開かれた。田代まさしさんと長男のタツヤさんによるトークショーでは、当時の心境やダルクに通い始めてからの変化、家族ならではの葛藤を振り返った。
本記事ではイベント当日の様子を一部抜粋してお届けする。
初孫誕生で「回復ってこういうこと」

客席に飴を投げながら登場した田代さん。「なんだか客席との距離を感じる。この壁を打ち破りたい」と、お笑い芸人・ヒロシのネタ「ヒロシです」のパロディー、「まさしです」を披露した。
「出所後、『おかえりなさい』が『コカイン買いなさい』に聞こえました」
「沖縄にはドラッグマーシーという薬局があります。写真を送りつけるのはやめてください」
「後輩のクワマンのFacebookに友達申請をしたら、断られました」
「このあと一緒に登壇する田中紀子さん、お会いするのは5回目ですが、とうとうタメ口になりました」
会場全体がどっと笑いに包まれると、「ね、距離がグッと近づいたでしょ」と言い、こう続けた。
「『もっと悲惨な話を期待していました』と言われたこともあるけれど、こうやって楽しく回復を語るのは、僕にしかできないことだと思っています」

ここから、長男のタツヤさん、田中紀子さんも登壇。当事者と家族の視点から、薬物依存の回復プロセスが語られた。
田中紀子氏(以下、田中) タツヤさん、お子さんが生まれたそうですね。おめでとうございます! 田代さんは初孫ですか?
田代マサシ氏(以下、田代) 初孫です。かっこいいおじいちゃんになりたくて、体を鍛え始めました。薬がとまって、タツヤに子どもができて……回復ってこういうことなんだと思いましたよ。
田代タツヤ氏(以下、タツヤ) すごく前向きに治療に取り組んでいるから、子どもにも『おじいちゃん頑張ってるよ』と言える。頼もしいし、家族として応援できるようになったのが嬉しいです。
田代 応援できなかった時もあるよね。「この人、なんか使ってるかもしれない」と思ったの、いつ頃?
タツヤ 小学生の頃は、仕事も忙しいはずなのに、少ない時間でいつも遊んでくれるパパだった。授業参観や運動会にも参加してくれて、周りの子どもたちからも人気があった。
でも中学ぐらいから奇行が目立ち始めて、イライラしていることも多くなった気がする。
田代 奇行って、どんな?
タツヤ 窓を割って家に入ってきたりとか。
田中 えー!!
田代 ちょっと言い訳させてもらっていい? 仕事から帰ったらチェーンされてて、「一家の主が帰ってきたのに何事だ!」って。車庫にあったガムテープを貼って、破片が飛ばないように小さく割って中に入ったの。
タツヤ 確かにそれは事実です。でも母との関係が悪化してたから、母がチェーンをしてしまったという背景があったと思う。
あとは、今思えば、白い何かを吸ってた気がする。当時はそれがなんだかわからなかったんですけど。ただただ家族が崩れていくような感覚があったのはその頃。
覚醒剤使用のきっかけ「プレッシャーから逃れたかった」

田中 最初は「これ(覚醒剤)あるよ」って言われたんですよね。
田代 あるバラエティ番組で司会をしていたとき、ADに「最近元気ないですね、いいのありますよ」って言われたんですよ。面白いことを考え続けなきゃならないプレッシャーから少しでも逃れられるんだったら、一回やってみようかなって。
田中 タツヤさんにとっては、人気者だったパパが、ものすごいバッシングを受けるようになったわけですよね。当時、ご家族はどう過ごしていたんですか?
タツヤ 報道陣が家の前に100人以上いる毎日だったので、とても帰れる状況じゃなくて、母と妹は母方の実家に行き、僕はホテルから学校に通っていました。この頃、母親の心が壊れ始めていたので、会わなくて済むことに少しだけホッとしていた部分もありましたね。
(父の逮捕で)家族が崩れていった理由がはっきりとわかって、モヤモヤがとれた感覚もありました。
田中 ファミリーシークレットの謎が解けたんですね。依存症の家族はよく「子どもたちには隠している」と言うけれど、子どもは察知するんですよね。だから私は、「(子どもに)依存症だと説明したほうがいい」と伝えることがあります。
学校のお友達は、どうでしたか?
タツヤ 知らない生徒からの視線は感じました。でも仲のいい友達は「学校来いよ!」って味方になってくれました。恵まれていたと思います。
田代 タツヤの周りにそういう友達がいてくれて、すごくありがたいと思ったことを覚えています。
田中 バッシング報道ってなんの役にも立たないし、むしろ再起が難しくなってしまいますよね。治療につなげるための報道をすべきなのに。
田代 バッシング報道よりも、俺がげっそり痩せていた頃の写真の方がよっぽど効果がある。
田中 あれ薬で痩せたんですか?
田代 そうだよ。何も食べない、全然寝ない(生活)だったから。自分では体が締まってすげぇいい感じと思ってた。
あの写真を使われるのすごく嫌だったけど、「こうなりたくない」「薬はやめよう」と思ってもらえるなら、どんどん使ってくださいと思うようになった。
田中 タツヤさんの学校にもマスコミは来ましたか?
タツヤ 学校には来ませんでした。母方の実家には来たみたいですけど。
田代 刑務所入ってる時に義母から手紙がきた。「娘や孫たちに大変よくしてくれて感謝している。でも今回のことで私は、外に洗濯物も干せなくなりました」と書かれてたんですよ。俺が叩かれるのは仕方ないけど、家族のところに行くのはやめてよと思います。
車に乗っている時に、カメラを持った取材陣に囲まれて、車が傷だらけになったこともあります。「悪いことしたから仕方ない」という問題ではないですよね。
「なんで変わらないんだろう」家族の葛藤

田中 一度目は執行猶予でしたよね。戻ってからはどう過ごしていましたか?
タツヤ ご飯に行ったり、家族で会ったりはしていたけど……こう言っちゃなんですが、あんまり反省した感じがないなとは思ってました。
(田代さんと会場から笑い声)
田中 そこは正直どうなんですか?
田代 やめようと思うのに、やめられない自分がいて。家族愛があればやめられるって皆さん思うでしょう。でも体や脳が覚えている欲求が勝っちゃうんです。「もうやらないでよ」と言われるのが、プレッシャーになっていましたね。
個人の意見だけど、最初薬に手を出した時に「保護観察所に8年通う」「毎月(薬物の)検査をする」などと厳しくした方がいいなと思います。最初から厳しかったらこんなに何度もやらなかったかもと考えたことがあって。
田中 おっしゃる通りですね。
田代 タツヤは、なんでパパは変わらないんだろうって思って、(依存症の)勉強をし始めたんだよな。
タツヤ 「なんで治らないんだろう」「僕が支えればなんとかなるんじゃないか」という気持ちがすごくあって。周りの意見を聞いたり、勉強したりして、「薬をやめて」とプレッシャーをかけるのがよくないことだと知ったんです。
田代 すごいのは、(ダルク創設者の)近藤恒夫さんに話を聞きに行ったりする。
田中 家族会にもつながっていないのに、その境地に達することができるのは、すごく心が柔らかいんだなと思います。
タツヤ 父がダルクに入って、依存症という病気と向き合い始めたので、応援する気になったというか、同じ方向に向かっていけるようになりましたね。
田代 覚醒剤のやり方は教えてくれるけど、やめ方は誰も教えてくれなかった。ダルクでやめ方を教わって、近藤さんと過ごすうちに、だんだんと心に変化が起きたんだよね。
タツヤ ダルクに入ったあと、小学生の頃に遊んでくれていた優しい父の雰囲気に戻ったなと感じました。前向きに生きているからなのかな。
田中 涙が出るね。依存症の家族は、当事者のかつての姿を知っているから、なかなか手を放せなくて苦しむんですよね。でも家族愛で依存症は回復しない。家族が手を離し、仲間につながった方が回復できる。そういう仕組みなんですよね。
ダルクに入ったあとにも(スリップして)逮捕されていますよね。その時、タツヤさんはどう感じましたか?
タツヤ 怒りはなくて、ただただ残念でした。薬物のことを勉強していたので、また支えてあげようという気持ちでいられましたね。

——イベントの終盤、観客から「親子で登壇するのは、どんな気持ちですか?」と質問があった。
田代 逮捕されてから、こういう話をする機会が全然なかった。タツヤも何も言ってこないし、俺もどう思ってたかなんて聞けない。それが先日、別のイベントで一緒に登壇して、「タツヤ、こんなこと思ってたんだ」「俺ってそんなに奇行が激しかったんだ」って。初めて聞くことばかりで、いい機会をもらったなと思いました。
タツヤ こうして登壇させてもらえるのは、お互いに学びがあるし、治療の一環だと考えています。
依存症への無理解や偏見、バッシングは、当事者だけではなく家族や仲間も深く傷つけます。だからこそ、今日のような機会を学びの場として、みんなで理解を深めていくことが大切だと思います。依存症当事者とその家族が、良い関係を築いていける社会になるといいなと、今日改めて思いました。

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コメント
素晴らしいです👍
回復した田代さんがまたお茶の間にも笑いを届けてくれる日がくるといいなと思いました。
