Addiction Report (アディクションレポート)

「酒がやめられない」編集長と、「やめろと言えない」わたしの雑談トーク(6)身体の声を聞くって難しい

最近、胃潰瘍が8つもあったことがわかった岩永編集長。「それでも飲んじゃう」「飲めてしまう」と話す口ぶりに含まれる、微妙な気持ちの揺れのようなものを、青山が掘り下げて聞きました。

「酒がやめられない」編集長と、「やめろと言えない」わたしの雑談トーク(6)身体の声を聞くって難しい
青山ゆみこ(左)とAddiction Report編集長の岩永直子。喫茶店でお茶を飲みながら、話題はひたすらアルコールという二人

公開日:2024/07/18 02:00

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だらだらトーク

アディクション専門メディアに関わりつつ、自身もまた「アルコール依存症の限りなく黒いグレーゾーンにいるのではないか」とも自問するAddiction Report編集長・岩永直子。

同じく、念入りな酒飲みだったけれど、4年ほど前に「お酒をやめた」というライターの青山ゆみこ。春に上梓した『元気じゃないけど、悪くない』(ミシマ社)の主要なテーマの一つも「アルコールとの関係性」でした。

やめたいわけではなく、できれば「適量を健康的に楽しく飲みたい」。

そんな超難問に解決策はあるのか? 

お互いの生活や人生を振り返りながら、切実に「お酒との付きあい方」のヒントを探す雑談トーク連載6回目です。(まとめ:青山ゆみこ)

ああ、潰瘍に酒がしみる

青山 胃潰瘍が8つもできていたとか。その後、体調はいかがですか?

岩永 もう痛みはなくなって、処方されてるお薬を飲み続けたら、炎症は収まっていくそうです。あまりにも痛い目にあったから、わたしも今回はさすがにお薬もちゃんと飲んでます。

青山 夫が過去、胃潰瘍をやったらしくて、「とんでもない痛さだった」って聞いてたので、岩永さんはよく我慢してたなあと、びっくりしてました。

岩永 レストランのバイトにも行ってたんです。痛みが強く出た初日は気持ち悪くてお腹も痛くて、さすがにお酒は断ってました。でも、胃酸の分泌を抑える市販薬を飲んだら少しおさまった気がして、宴会のお客さんからワインをご馳走になって、お酒も飲んじゃってた。

青山 えっ!

岩永 そのうちだんだん痛みが強くなって、未明から猛烈な痛みで寝てらんなくなって、夜が明けて朝イチで「これは、まずい」と病院に駆けこんで。青山さんが著書でご自身の不調から病院を行脚する様子を書かれていましたよね。本当にね、人はつらくてつらくてたまらない状況にならないと、自分の生活を変えようとしないんだとわかった気がします。誰に酒を飲むなって言われても飲み続けてたけど、「ああ、これかあ」って。

青山 お酒の量は減ったりしましたか?

岩永 今、ワインエキスパートの勉強しているので、バイト先でも店員の一人としてワインの試飲会なんかにも参加させてもらえるようになったんです。昨日もお昼の12時から会があって、1時間半ぐらい飲みっぱなし。量もかなり飲んだのに、わたし、その後カレーまで食べに行ったんです。しかも特に辛い種類を選んじゃった。どれほど胃に悪いことをしてるんだろう……。喉元過ぎたら、なのかな。

試飲会でしこたま飲んだ
散々飲んだ後、非常に辛いカレーを食べた。胃に優しくない......

痛みが強い時は吐き気がこみ上げてご飯が食べられなかったので、体重が1週間で2.5キロ減ったんですよ。でも、目の前の痛みがおさまると、すぐにまた飲んじゃう。身体が欲するというか、心が「飲まないとつまんない」みたいな感じになるんですよね、わたしの場合。体重もあっという間に戻っちゃって。

身体の声と理性の働き

岩永 今回は、自分が本当にアルコールの依存症なのかって考えてしまって。食べ物やお酒の制限について、お医者さんにもあえて確認しなかったんです。聞けば止められるに違いないから、そんなやぶ蛇なことはすまいと。

体調が良ければ飲むし、飲む気もしないなら飲まずにおこうと考えたんです。「自分の身体の声に正直に」という感じでしょうか。いや、そうやってきれいにまとめたけど、潰瘍があるのに酒飲んでいたから、本当にそれでいいのかな……。

青山 わたしが浴びるようにお酒を飲んでた頃、風邪をひいてる時も飲むとアルコールが鎮痛剤みたいに効いたのか喉の痛みがぼんやり緩和して、痛みを感じないと心が楽になる気がした。さらに、アルコールでテンション上がって張り切って、無駄に体力消耗して疲れてたんでしょうね。翌日、酔いが醒めると喉はよけいに痛いし、身体のしんどさは倍増してる。

ただ、それはお酒の影響なのか、体調が悪いからなのかわからなかったんです。そんなことを考えると落ち込むから、当時は思考停止してましたね。飲む直前まではうっすら理性で考えてても、飲み始めたら、身体も頭も心も麻痺しちゃってたんじゃないかな。

岩永 ありますねえ。

青山 飲める可能性があるのに、飲まない選択ができるのは、「今飲むと、自分は間違いなくつらい目に遭う」と切実に想像できる時だけだった気がする。怖さがわたしを止めてくれたのかな。まあ、めったになかったけど。

岩永 昨夜、飲まなかったのは、このところやっぱり胃の調子が良くないからで、理性はいちおう働いた。でもわたしも、先の先を考えてやめておこうというような理性の働き方をあんまりしたことがないですね。

以前、コロナにかかった時でさえ、熱はほとんど出なかったので「体内からアルコール消毒や〜」なんて冗談ぽく言いながら飲んじゃってた。40度近い高熱が出たらさすがにだるくて飲めないけど、普段から風邪で咳がげほげほ出てる程度なら、飲酒欲も食欲もほとんど衰えない。過信してるかもしれないけど、基本、わたしは身体が強いんだと思うんです。

タフな身体がゆえの難しさ

青山 飲む量に身体がどこまでついていけるかって、人によって違いますよね。身体が、というより「しんどい気持ちに耐えられない」という感情処理のキャパの問題なのかな。アルコールを分解する能力が高い、身体も強い岩永さんが、お酒をやめなきゃいけないのか。本当にわかんない。

岩永 青山さんがそう言ってくれるから、余計図に乗っちゃう。

青山 いやいやいやいや。勧めたいわけじゃないんです。ただ、岩永さんと話すと、わたし本当にわかんなくなっちゃう。身体にこれ以上ダメージを与えないように、飲まないという選択がある。あるいは、人間関係で暴力的だったり、大きくトラブルを生んだりするなら、そっちの問題としてやめた方がいい。でも、岩永さんはどちらもないでしょう。じゃあ、なにか問題でも? って思っちゃう。

岩永 この前、バイト先の常連さんの誕生日があって、仲間たちとみんなでお祝いしたんです。ワインもばんばん空けて、どんどん酔っぱって、店でパスタを2皿シェアして食べているのに、二次会で我が家にみんなで来て、稲庭うどんを茹でて、さらにパスタまで作って、食べて。その時まだ胃潰瘍の治療中なのに、そんなことしてる。

バイト先の常連さん、千葉さんの誕生日にもみんなで飲んで食べた

青山 おおお……。

岩永 酒を飲むといろんなことに、リミッターが外れますよね。それが暴食や飲みすぎにつながって、じわじわと自分の健康を害している。とは、うっすらと予感はあるけど、しかも胃潰瘍が8つもあるのに、感覚的にはそれなりに元気だから、見ないふりしちゃってるっていうのが正直なところですね。

青山 痛みが抑えられていたら、気にならなくなっちゃう。あるかどうかより、どう感じるかが優先されるからかな。飲み過ぎ食べ過ぎの翌日、身体はしんどくないものですか?

岩永 2時まで飲んでたけど、全然平気(笑)。

青山 すごいな(笑)。マラソン選手の強化練習みたいに、どんどん負荷をかけて、トレーニングのペース上げて鍛えていくってあるじゃないですか。身体が悲鳴を上げて脱落することもあるけど、岩永さんの身体は、時々息を上げつつも頑張ってついてきて完走する。そういうある意味タフな身体なら、たくさん飲んじゃってもダメじゃない気がする。

岩永 青山さんのそういうのは悪魔のささやきだなあ。

青山 そんなつもりは全くない。だけど、理屈だとそうも考えられて、うーん。

誰かの話はストッパーにならない

岩永 わたしは医療記者として、依存症の人にもそのほかの病気の人にもたくさん取材してきたんです。やっぱりある時「急に来る」んですよ、病気って。なんとなく元気で見ないように見ないようにしてるけど、ある日突然、自分が重い病気だと知らされた人が、たくさんいらっしゃいました。なのに、その教訓を生かそうとしない自分がいる。

青山 そっか。知っているのに。

岩永 わたしの父はお酒が好きで甘いものが好きで、食生活がわたしと似ているんです。その父ががんになって治療するという時に、持病の糖尿病が重症だったので、使える抗がん剤が限られて、治療選択も狭められてしまった。ああ、こういうところでツケを払ってしまっているって、自分の大切な人の体験でも見てきたのに、わたしはまるで学んでない。

青山 人生の先輩の体験談を聞いて、深い教訓を得る機会ってあるじゃないですか。でも、それが本当に自分事として生かせるかは、微妙に違う気もするんです。あの人が言っていたのはこれなんだって心の底から納得するのは、わたしの場合は自分がそうなったときだけかも。

岩永さんのお父様のことは、もはや自分自身の体験になっていると思うけど、それでも人の頭の理解というか思考というか、そういうものがストッパーになるわけではない。残念ですよね、自分に対して。

岩永 そうなんですよね……。

青山 わたしがお酒をやめたら楽になったというのは、あくまでわたしの話でしかなくて、岩永さんにそのままいい話とはいえない。単純に一つの例。だから、岩永さんがわたしの話を聞いて「じゃあやめよう」とならないのは、当然にも思うんです。

人はやりたいことしかやらない。なによりも、自分のもっている自由を奪われたくないですよね。時々、恐怖を煽るようなことをして、自分の言うことを聞かせようとする人がいますよね。一見、正しくて良い話をしながら寄ってくるけど、お酒の場合だったら「お前みたいなやつに抗うために、むしろ飲んでやる」って思っちゃう。

岩永 分かります。SNSで胃潰瘍のことを投稿したら、お医者さんから結構アドバイスがあったんですよ。あんまり面識もないSNSの「友達」なのに、すごい説教してきたり。わたしは普段、医療の専門家の話を取材して書いてるけど、自分事となるとあまり響かない。ましてや知り合いでもない人がよく知りもしないのに正論をぶつけてきたら、「何様のつもりだ」みたいな気持ちになる。

青山 ありますよね。あんたに言われたくないわって。

岩永 母からも説教されたんですよ、76の母がですね、50の娘に、「なんで潰瘍ができて体調が悪い時ぐらい節制できないのか。やめられないのは依存症だ」って、泣かんばかりの勢いで言われたんです。「うるさい、はいはい」って電話切っちゃった。そういう大事な人の声も全然響かないなあ。

青山 お母さまとしては、心から娘の身体が心配ですよね……。

なぜか切実に届いてくる言葉

岩永 他人事を自分事化はできないけど、時折グサッと刺さる時もあるんですよ。わたしにはずっと影響を受け続けている患者さんが何人かいます。最初は大学時代にボランティアをしていたホスピスで出会った女性の言葉。医療記者として、心の底にずっとある。あとわたしが30代の半ばの頃、少し年上の40歳ぐらいの女性で卵巣がんが再発して、もう厳しいだろうという人に会ったんです。その人が、家族との関係でこうすればよかったというような後悔をおっしゃって。その時、わたしは後悔しないように生きようと強く思って、意識して選択をするようになったんです。あと、自殺した友人の存在もあります。そんな人たちの言葉は自分の行動の規範になる。誰かの言葉が自分に強く影響するということ、あるんですよ。でもアルコールに関しては、それが全然ないんです。

青山 アルコールからは離れちゃうんですけど、10年くらい前、ホスピスに通って聞き書き取材をしていた時に聞いた言葉を思い出しました。その方もわたしと同じで子どもはいないけど、姪っこさんとすごく関係が近しくて、病院でも付き添われていて。その人から「私は一人やけど、一人じゃない。こうやって姪もおって、幸せや。親戚じゃなくてもいいから、仲の良い人をつくっておかなあかん。一人になるで」みたいなことを言われたんです。

わたしは当時40代中盤で、一人になってもいいわという気持ちもあったから、あんまり響かなかくて。でも、その2、3年後、立て続けに母の看取りや父の介護に関わるようになった時、その方の言葉をよく思い出すようになったんです。親戚づきあいみたいなものがむしろ嫌で離れてて、今も特に積極的に親戚づきあいをしたいと思わないけど、なぜかその方の言葉が時々ふっと浮上するんです。

岩永 ありますよねえ。そういうこと。

青山 命の限りを告げられて、それを理解している方とはいえ、苦しんで泣き叫んでるという状態でもない。日常生活の会話の中で耳にした言葉なのに、なぜかふっと自分の中に残ってて、心に大きく触れてくる言葉もある。必死に説得された言葉だとむしろ遠ざけようとしてしまうかもしれない言葉もある。なにが違うのかな。

岩永 もともと自分の中にあった疑問とか、心の奥でなにか引っかかっていたことに応える言葉なのかもしれないですね。Addiction Reportの編集長をするようになって、わたしの周りは依存症の人だらけで、人生のディープな話も聞かせてもらって記事にもしてきたし、自分の問題として心に響くものはある。でもアルコールに関しては、それで自分の人生を変えようってところまで至ってないのは……なぜなのかわからないんです。

(つづく)※連続3回更新、第2回は7月19日公開です

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コメント

3ヶ月前
匿名

最後の自分の人生を変えようってまでは至ってないってのが、残りました。

私は自分の人生変えるのって何だかイヤだなって思ったり、めんどくさかったり、勇気がいったり、、。変わりたくないでしょうね。

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