Addiction Report (アディクションレポート)

「酒がやめられない」編集長と、「やめろと言えない」わたしの雑談トーク(2)なぜ、わたしたちは「やめたい」のか。

お酒が大好きで、やめたくない。でも「減らしたい」と悩んでいる岩永編集長。なぜ「やめなきゃいけないと思うんですか?」。その背景を聞くうちに、青山がやめたかった理由も浮かび上がってきました。

「酒がやめられない」編集長と、「やめろと言えない」わたしの雑談トーク(2)なぜ、わたしたちは「やめたい」のか。
新潟で日本酒を飲む岩永。酒を手にするといい表情になると言われている(岩永)

公開日:2024/06/11 02:00

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だらだらトーク

やめたいわけではなく、できれば「適量を健康的に楽しく飲みたい」。

そんな超難問に解決策はあるのか? 

「お酒を減らしたい」Addiction Report編集長・岩永直子と、3年ほど前に「お酒をやめた」ライターの青山ゆみこ。お互いの生活や人生を振り返りながら、切実に「お酒との付きあい方」のヒントを探す雑談トーク連載2回目です。(まとめ:青山ゆみこ)

※記事中にお酒の写真がいくつか出てきます。

やめたいというより、飲み方を変えたい

青山 20代前半の、アパレル時代の接待での失敗なんかに関しては、後悔というか、すごく恥ずかしかったので、残念なエピソードとして自分のなかに残ってるけど、他ではお酒を飲むことで悪いと思ったことがあんまりないんです。覚えてないからというのが大きいのかな。二日酔いでしんどい朝に、昨日飲むんじゃなかったみたいな、瞬間的な反省はあっても、人生の汚点みたいに思う後悔とか反省は全然ないんですよ。岩永さんと一緒で、誰かとお酒を飲んで「わはは」っていうのが楽しくて、毎晩飲みに行ってましたね。お酒をやめたいと思い始める40代後半まで、30年近く。

なんでこういう話をするかというと、岩永さんが最近「お酒やめようかな。どうしようかな、自分はやめたいのかな」みたいな話を時々されますよね。「やめたくはないけど減らしたい」とか。それは、飲むと原稿書けないとか、なにかお酒そのものじゃないところに理由があるのかなと思って。

岩永 酒飲まない方が、純粋に仕事がはかどるんですよ。例えばコロナの時ってめちゃくちゃ忙しかったので、取材してその日のうちに原稿を仕上げて、次の日に出すということを繰り返してた。だから飲むにしても超深夜からでした。だけど今はお腹がすく7時とか8時に飲み始めちゃうから、それ以降仕事ができないでしょう。それがすごくもったいないと思っちゃうんです。

あと、アルバイト先のイタリアンレストランのシェフがそうなんですが、アルコール依存気味な人とわたしが一緒に飲むことで、この人をますます依存から抜け出せなくさせてる申し訳なさというか。わたしが依存症専門のメディアの編集長をしているにもかかわらず、イネイブラーというか、酒に依存する人が依存し続けるのを後押ししてしまうような立場になってる。それは、本当に良くないなと思っています。

バイト先でシェフが作ってくれたまかないを食べる時は、たいてい酒と一緒だ(岩永)
仕事終わりに常連の千葉さん(右)がご馳走してくれてシェフ(左)と一緒に飲む(岩永)

青山 自分だけじゃなくて、関わる人に対して。

岩永 そう。どちらにしても、自分の酒の飲み方を考え直す必要があるのかなって思い始めてるという感じです。毎日必ず飲んで休肝日を作らないとか、そういうのをちょっと変えたいなあと。酒を飲んだせいで仕事に穴を開けたとか、そういうのはないんですよ。だから、日常生活に支障をきたすようになったら依存症っていう定義からすると、私は限りなく黒っぽいけれども、まだグレーゾーンなのかなっていう気がする。その認識の甘さもちょっと問題なのかもしれないです。どうなんでしょうね。

青山 気にしているのは、仕事の効率と、周りの依存症者の方との関係なんですね。

やめる必要はあるのか、ないのか

青山 なんかわたしね、岩永さんの話を聞くと、いつも「岩永さんは問題ないよね」って思ってしまうんです。シェフとの関係に関しては、岩永さんの問題というよりは、やっぱり当事者の問題としてあるのかなと。アディクションを取材してきた岩永さんの知識があるから、共依存的なことも心配されてるのかもしれないけど。でも、ご自身に関しては、大きく問題が起きているわけではないし、傍目には十分バリバリとお仕事なさっているように感じてて。どうでしょうか。

岩永 独立してから仕事の仕方がマルチタスクに変わっているというか、会社勤めだった時は会社の仕事だけをやれば基本よかったけれども、今はありがたいことなんですが、あっちこっちの締め切りがある。それをこなしながら人の原稿も組んだり見たりして、講演やシンポジウムにも出て、打ち合わせもあれこれある。仕事の組み合わせが複雑になってきてしまった。加えて、ワインエキスパートの資格を取ろうと思って、その勉強が結構日々大変になってきてしまって……。

あれもこれもやらなくちゃいけないというときに、お酒以外に息を抜く術を持っていないんですよね。青山さんならキックボクシングで運動したりっていうのがあるじゃないですか。わたしには、趣味みたいなものもないし気晴らしになるものがないんですよね。

青山 なるほど。

ワインエキスパートの勉強を始めて、自宅でもワインを飲むことが増えた(岩永)

岩永 お酒って手っ取り早いじゃないですか。プシュッと開けて、ドボドボって注いだらすぐ飲めるし、コミュニケーションの手段でもあるし。今ワインエキスパートの資格を取ろうとして、自分が気になっているワインの味を確かめるという名目もあるし。なんかね、わたしって、仕事と酒だけの人生で、子供もいないし本当に自分一人の生活で完結してしまうので、誰かを世話するということもない。「酒だけ? わたし、酒だけだったっけ?」みたいな。だからね、どうなのかな、この人生って思い始めたんです。

青山 「どうなのかな、この人生」っていうのはすごい一言ですね。

残りの人生を考える

岩永 佐々凉子さんというノンフィクション作家がいますよね。彼女が『夜明けを待つ』という新刊のあとがきで、治りにくい脳腫瘍になったことを明かしているんです。彼女は55歳。私は今50歳で今年51歳になりますけれど、こんなに突然、人生に終止符が打たれる可能性もあるのだと、ショックを受けました。もちろん医療記者ですから、突然、大病になって人生を終える人たちにたくさん出会ってきました。でも、佐々さんは似た職業ということもあるし、命や死の問題を扱ってきた作家でわたし自身がすごくファンなんです。余計に重みを感じるし、僭越ながら自分と重ねてしまうんです。それで自分の残りの人生というものに対して、ものすごく焦り始めている感じがあるんです。

死んだ父ががんになったのが54歳の時なんですよ。自分ももうすぐ、同じ年齢になることも意識させられて、「人生の残り時間」をすごく考えるようになってしまった。そういう意味で、自分の人生を、酒と仕事だけに振り向けていいのかなって。

青山 お酒を飲んだ翌日にSNSの投稿で、「二日酔いでしんどい」みたいなことを書かれているじゃないですか。あのときって罪悪感みたいなものはありますか。

岩永 罪悪感ってあんまり感じたことないですよね。きついなというのは感じる。

青山 身体が?

岩永 うん、身体がしんどいというだけ。罪悪感って悪いことしたり、人に迷惑かけたりするときに持つでしょう。確かにわたしも、飲んで深夜に親しい人に電話したりとか、そういう迷惑かけているけど、仕事に穴を開けたりとかはしていないので、罪悪感って感じはないなあ。ただ、本当は朝からこの原稿を書きたいのに時間がもったいないとか、そういう意味での罪悪感はあるかもしれないですね。

青山 自分への。

岩永 ふとシラフに戻ったときに、人生の残り時間を考えちゃう。酒だけの話じゃなくて、いろんなことに焦りを感じてます。

青山 たとえば?

岩永 わたしは海の見えるところで仕事をしたいってずっと思っていたはずなのに、未だにそれは実現していない。そのことにも最近急に焦りを感じて、海の見える物件探しにすごく必死でいるんですよ。残り時間を考えて、時間を無駄にできないぞって。だから、酒との付き合い方も考えなくちゃいけないというのはそういうことの一つですね。

青山 自分の人生の時間の使い方として、お酒について考えるという感じ?

岩永 あとは健康も含めて。これほど医療記者として人の健康のことを書いているのに、自分は酒を飲むと脂もんとか炭水化物たっぷりの食べ物を食べちゃうわけですよ。で、非常にブクブク太ってしまってきたところがあって。若い頃は女性ホルモンで守られていたかもしれないけど、50ってなるとそろそろ閉経を迎える。これまでは女性ホルモンで守られてたものが、ガタッと落ちていくだろうから、これは本当に気をつけないと酒も飲めない身体になるぞって思う。父も母も糖尿病なんで、私も絶対なる可能性は高い。そうすると酒も飲めないし食さえも楽しめなくなる。

わたしは酒とともに食べることがとっても大好きで、だからレストランでバイトもしてるんですけど、それさえもできなくなったらもったいないなと思うときに、酒でドライブがかかってる食欲とか、無駄食いっていうのが本当にやばいなと思っていて。そういうのなかったですか? 酒を飲んでると太りやすくなったとか。

青山 ほぼそれが理由でお酒をやめたみたいな感じですよ。40を過ぎた頃から40代中盤にかけて、少しずつ健康診断の数値が変わってきて、可視化されてきたんです。単純に血中脂肪とか、血圧とか、あれ? 変わってきたなっていうふうになって。お腹周りとか、脂肪の層も確実に厚くなってる感覚がありました。けして筋肉ではないぶよっとした感じの。特に45を超えてから、その速度がすごく速まったふうに感じて、これは明らかにお酒だよね。お酒と酒に伴う食べ物の摂取というか、脂っこいものも大好きだし、塩辛いものも好きだし、どう考えても健康的ではないよね……。そんな食生活をしてると体重もどんどん増えていくし、そうなると身体が重くて運動もしたくないみたいな気持ちになる。っていうときに、私の場合はコロナが始まったので、巣ごもり生活で楽しみが食べて飲むことしかないぞって、さらに加速したって感じで……。

(つづく)

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コメント

4ヶ月前
QOO

お酒がある当たり前の生活はふと、健康面やお酒の害について考えるのだけれど、誘われると、今日は飲もう。明日からにしようとかホントに思ってた。

簡単に節酒の意思は砕けた。

お酒を飲まなくなった今、普通の人のようにお酒が飲めたらなと思う。

4ヶ月前
はな

飲酒という窓から自分の内側を見始めたお話。

だんだん深くなってゆく感じがします。

どうなってゆくんだろう?

4ヶ月前
キャサリン

 「どうなのかな、この人生」

50代は頻繁に自分に問うていた。

家族に依存症の問題を持つ人がいたからでもあるが、50年も生きてきたのにこの程度かよ、という不甲斐なさや、いろんな意味で下り坂に差し掛かっているという不安からだったような気がする。

バリバリ仕事をしていらっしゃる岩永さんも(一緒にして申し訳ない)こんなふうに考えるんだなあ、とちょっと意外で、勝手に親近感を感じる。

友人たちは総じてお酒が大好きで、そこまで飲まんでもええやろ、的な困った人も中にはいるが、彼らは他人に飲むことを強要しないし、暴力・暴言などで他人を傷つけたりしない。だから飲まないでもその中にいると楽しい。

私は30代からほぼシラフで、たまに飲む。しかし、今回のお話を読んでいるうちに、アルコールに代わるものに依存してたよな、と今まで忘れていたあるものを発見。

さて、次回にどんな発見があるのか、楽しみ。

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