「酒がやめられない」編集長と、「やめろと言えない」わたしの雑談トーク(10)依存するものは変わる?
アルコール、買い物、人間関係、薬物……人がなにに依存するのか。なぜ依存するのか。依存先が変わったり。理由と背景は一人ひとり異なるし、実は「たまたま」だったりするのかもしれません。
公開日:2024/08/30 02:00
やめたいわけではなく、できれば「適量を健康的に楽しく飲みたい」。
そんな超難問に解決策はあるのか?
「お酒を減らしたい」Addiction Report編集長・岩永直子と、4年ほど前に「お酒をやめた」ライターの青山ゆみこ。お互いの生活や人生を振り返りながら、切実に「お酒との付きあい方」のヒントを探す雑談トーク連載10回目です。
買い物依存がお酒に変わった過去
青山 ギャンブル依存症だと借金でどうしようもなくなったり、周りにも知られることがないとやめるきっかけにはならないじゃないですか。違法薬物の場合は逮捕されたりとか。
大きなきっかけは外部からやってくる。でも、きっかけがない限りはやめる手がない。限界みたいなところにたどりつきにくい。
岩永 酒をやめた人のほとんどが、決定的に本当に飲めなくなるという状況、飲むと死ぬっていう状況にならない限りは、やめない気がしますね。
青山 お酒の場合は手軽に買えるコンビニがあるし、家でも飲めるし、朝からでも飲める。可能性しかない。そんな環境で自分が決めて「やめる」って、むしろ可能なのかなって疑問なんです。
岩永 難しいですね。
青山 そういえば、わたしは『ほんのちょっと当事者』という本で書いたんですけど、自己破産しかけたことがあったんです。若い頃、買い物で。カードをばんばん使いまくって全部止められて。どうしようかってなった時に、結局は親に肩代わりしてもらったんです。
岩永 ギャンブル依存でいくと、最もやってはいけないことですね。
青山 そうなんです。今は理解できます。当時、この本を読まれた方の一人がSNSの投稿で、「この著者は買い物依存症で、家族が処理して良くなかった」みたいな感想で呟かれたのを目にした覚えがあります。
だけど、2019年当時のわたしはまだ全然わかってなくて、カードを使いすぎただけでしょうくらいの認識で(苦笑)。
その体験が買い物依存症だったかはわからないけれど、誰かに尻拭いをしてもらうという最悪の対応をした。あの時、結局カードが使えなくなったから買わなくなったけど、もう一枚使えてたらまだ使ってたと思うんですよね。ヤバい。
青山 何でそれを思い出したかというと、当時はお金がなかったので、お酒の量がマシだったことに思い当たったんです。お給料が全部カードの支払いに消えるから飲むお金がなかった。
だから小銭をかき集めてにぎりしめて、キャッシュオンデリバリーの明朗会計のバーに行って、千円くらい分だけ飲んで帰ってた。お金がないことがわたしのお酒をとめていたですよ。
岩永 なるほど。
青山 その後は、買い物しなくなって、本格的にお酒に走るようになるんだけど、それって依存先を変えていったんだと今になってわかった気がして。薬物依存症だったマシュー・ペリーが麻酔薬ケタミン依存になっていく記事を読んで、そのことも思い出したんです。
岩永 依存対象はどんどん変わっていくんですよね。酒がなくなったら何で頭ぼやかしたらいいんだろうって思いますよ。それは自分が解決しなくてはいけない問題なんだけど。
青山 岩永さんは、お酒以外で依存したっていうものはありますか。
岩永 人間にもそんなに依存しないっていうか。去るものは追わずで、去られたらとっても悲しいんですけど、もう仕方ないって思っちゃって。仕事はワーカホリック気味ではあったけど、今はそんなに。まあ、お酒飲んで筆が遅くなるのが嫌だなって思うくらいで。
対人関係のストレスは飲んで散らす
岩永 基本真面目な人間だと思うけど、わたしは人と喧嘩をすることは厭わない。味方であってもズバッと言ってしまう。それは良い部分でもあるし、わたしにとって非常にマイナスになってきたこともあって。
基本、一人で仕事をするのが性に合っていて、仲間で徒党を組むのも大嫌いです。自分に良くしてくれる味方にさえ、家族や友達でさえ、自分が間違っていると思ったら「これおかしいでしょ」ってグサッと刺しにいったり、上司にも言いたいことはビシバシ言ったりして、サラリーマンとしては不利になりがちなことはあえてやってきました。
前にもお話したように、自分はADHD気味だと思っているんですが、その特性なのかな。「直情的な自分」「抑えられない自分」がわたしにはあるんです。
青山 そうなんですね。
岩永 自分の欠点でもあるけど、こうしかできない。言葉の奥にある真意を読んで、それに細かい配慮して、こちらも言外に意味を持たせるなんてこともうまくできない。
青山 こうやって岩永さんと仕事をしたり、時間を重ねてやり取りが増えるごとに、「この人はこういう言い方をするんだ」とわかってきました。物言いが端的で、ごくあっさりと事実だけ伝える。裏表がないし、他意もない。そういう言葉の距離感がわかってくると、受け取る側もストレートに受け取れますよね。
例えば、ちょっとズバッとものを言われても、実は以前から思うことがあったんじゃないかなんて邪推をせずに、単純に意見を言ってくれたんだと理解できます。かえって楽ですよ。
岩永 相手の言葉の裏の裏を読んで、「気を遣わせてるんだろう」なんて思いながら話をするのは、わたしにはもう大変なストレス。自分ではそこまで考えてないから、私のストレートな物言いに傷ついたり戸惑ったりする人に「そういうつもりではないんですよ」と説明するのが大変なんです。
こうやって人と関わる仕事、編集長として色々な人の調整をする仕事を与えられてるので、自分なりに配慮も考えなくてはいけないですよね。そういう本来の自分ではない努力をしていると疲れ果ててしまって、晩ごはんを食べる時に、酒も飲みたくなるわけですよ。
青山 そうだったのかあ。
岩永 日々ダメな自分っていうか、改善しなきゃいけない自分と対峙して、結構ヘトヘトになってる。
青山 それぞれに個人の性質があるわけで、そこを根本的に変えるのって難しいですよね。変える必要があるのかって話だけど。
岩永 青山さんって、誰とでも仲良くなれて、すごいえらいなと思ってるんですよ。
青山 いやあ、わたしが人に気を使ったり、自然と空気を読んでしまうのも、やめろと言われたら逆に難しい。空気を読むって、悪いことのように言われることが最近多くて、なんか責められてる気もするんです。
少し前、メンタルが絶不調だった頃は、空気なんて読めないし、読みたくないと思っていたので、読まないことが悪いとは思わない。でも、読めることが悪いかっていうとどうなのかなと。
岩永 何も考えてないわけじゃないんだけど、相手には傍若無人に見えちゃってる気がするので、そこも悩む。
うわー、すいません、なんか悩み相談みたいになってきた。
青山 ちょっとズレちゃうかもしれないけど、仕事柄で守秘義務が強くて、ちょっとした愚痴の一つを家族にも言えないという方もおられるわけじゃないですか。話せば楽になることでも、簡単に口に出せない、言えないというのは苦しいことだろうな。
処方薬との付きあい方も結構難しい
青山 岩永さんが飲みたくなるのは、人間関係のストレス以外になにかあったりしますか?
岩永 あとは睡眠の問題かな。酒飲んだらとりあえず寝つきは良くなるんですよ
青山 岩永さんが睡眠に関して別の解決法があったら、お酒の量がかなり減るんじゃないかなとも感じますね。
岩永 それはありますね。薬は飲んだり飲まなかったりしていて、少し前にすごい悪夢を見て、それからまた睡眠の薬を飲むようになったり。
青山 わたしも2017年から睡眠障害で寝られるお薬を飲んでいます。クリニックは転々と変わってるんだけど。お酒をやめる前、今かかっている精神科の先生から「睡眠の薬とお酒を整理しましょう」って言われたんです。薬の効能が分かりにくくなるから、お酒をやめて薬だけ飲んで、きちんと睡眠をとるってことを一回やった方がいい、と。
確かにお酒を飲まなくなったら、薬がすごく効いてかなり熟睡できるようになった。薬がこんなに効くんだっていうことに驚きました。もともと処方薬とお酒をちゃんぽんして、いい加減に飲み続けてたっていうのが、やっぱりいろんな意味で悪かった。処方薬の乱用みたいな面があったんだなと。
岩永 わたしが寝つきをよくするためにジンを飲むのは、寝るまでに酔いが冷めてるときだけ。かかりつけ医の新城拓也先生にはそれぐらいなら良いって言われてるんだけど、ほぼ同時に飲んでるって感じ。良くはないですよね。お酒も薬も代謝に肝臓を使っちゃうし。
青山 ちゃんぽんしちゃうと、朝起きた時、前日に飲んだお酒のしんどさなのか、薬のしんどさなのかわかんないみたいなことになりますよね。結局寝つきも悪いし、よくも寝られないという状況になる。だから、やっぱりお酒をやめてきちんと薬を飲んだ方が不眠にも効果があるんですよね。
ああ、でもこういうこと言うと、また「正しい人」みたいになるなあ。説教臭いというか。
岩永 ほんとにえらい人だなあ、青山さん。あ、すごい嫌そうな顔してる(笑)。
青山 その上にあげる感じ、嫌だー(笑)。
岩永 でもやめようってグラスを置くのは、意志だと思う。
青山 そうせざるを得なかった部分がどれだけ大きいのか、わかってもらってないような気もやっぱりしちゃうなあ。
例えば、ギャンブル依存症の人が、借金で家族みんな泣かして、自分もすごく自己嫌悪に陥って死にたいみたいな気持ちになるぐらい、わたしもお酒に対して嫌な気持ちがあったからわたしもやめてる。いともたやすく簡単にやめたように言わないでよ、って。
岩永 すいません。基本的に優等生と思われがちなのでこういう風に自分より優等生って見られる人をからかうのが大好きっていう感じになる。外れたことができないし。ドラッグとかもタバコとかもやったこともないし。
青山 いろんな依存物質があるけど、お酒は一番やめにくいなっていう気がしますね。どうなんだろう。
岩永 そうそう、ハードなドラッグだと思うんですね。買いやすかったり飲みやすかったりしてて。でもそれほど悪いこと見られてない。
青山 お酒飲んで陽気な人って楽しい人に見られて肯定される部分もある。これが薬やって楽しい人ってなると、途端に批判されるのに。お酒飲んで楽しい人だとやっぱりいいよねみたいな。実際、楽しいだけの人も多いですから。うーん、難しいですね。
(おわり)※この連載はだいたい月一更新予定です
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コメント
読んでて「わかる、わかる。私もそう思ってるところがある!」って。
毎回、自分では言語化できない部分を話してくれ「私も一緒に話したい」と思ってしまう。
「人に気を使ったり、自然と空気を読んでしまうのも、やめろと言われたら逆に難しい。空気を読むって、悪いことのように言われることが最近多くて、なんか責められてる気もするんです」
めちゃくちゃわかる。
ほんと責められてる感じがするんですよね、だからあんたはダメなんだよ、と言われてる感じ。
基本一人が好きで、徒党を組む、団体行動が大嫌いな私が家族の依存症の問題によって、仲間の中に今いることが信じられない。仲間の中にいないとどうにもならない、とギブアップしたことでずいぶん私は変わった。生きやすくなった。
徒党を組む、へのネガティブなイメージが自助グループによって木っ端みじんに吹き飛んだ。
たくさんの人の中にあっても、私という個はちゃんとそこにあるとわかった。
お二人のお話を読みながら、自分の来た道を振り返りました。
やっぱめっちゃいい対談だなあ。