薬物依存症から回復中だったマシュー・ペリーは、なぜまた麻酔薬ケタミンに依存したのか?
薬物依存症から回復中だった「フレンズ」の人気俳優マシュー・ペリーは、麻酔薬ケタミンに依存して死に至りました。なぜこんなことが起きてしまったのでしょうか?
公開日:2024/08/21 02:12
「フレンズ」の大人気俳優マシュー・ペリーが54歳の若さで突然亡くなり、全世界にショックを与えたのは、昨年10月28日。それから10ヶ月近くが経つ今、彼を死に追いやった5人の人物が起訴された。
若い頃から酒、違法ドラッグ、処方薬オピオイドなどに依存しては更生し、また依存に陥るということを繰り返してきたペリー。だが、近年は、ようやくそのループから抜け出して、新たなスタートを切っていた。事実、死体解剖の結果、違法ドラッグはまったく検出されていない。
代わりに見つかったのは、血液中にあったケタミンだ。ほかのドラッグから足を洗ったペリーは、密かに、麻酔薬であるケタミンに依存するようになっていたのである。
メンタルヘルスの問題を解決するためケタミンに
ケタミンは、鬱の治療にも使われる。西海岸時間15日の記者会見で検察が発表したところによれば、メンタルヘルスの問題を抱えていたペリーは、最初、あるクリニックでケタミンセラピーを受けた。ペリーはこれを気に入り、増量をお願いしたが、この目的のためにはごく少量の使用が定められているため、クリニックの医師は拒否。そこでペリーは別の入手方法を探し、サルバドール・プラセンシアという医師にめぐりあった。
大物セレブであるペリーがケタミンを欲しがっていると知ったプラセンシアは、過去にケタミン専門クリニックを経営していた別の医師で友人のマーク・シャーヴェスに連絡。検察が明らかにしたテキストメッセージで、ふたりは「あのバカ、いくら払うだろうね」「さあ見てやろうよ」とやり取りしている。
素人のアシスタントが注射、危険な状況も放置
ケタミンの売買は、ペリーの住み込みのパーソナルアシスタント、ケネス・イワマサを通じて行った。プラセンシアは、イワマサにケタミンの注射のしかたも教えている。ケタミンの投与は専門医師の指導と監視のもとに行われなければならないのに、プラセンシアは、素人のイワマサにやらせたのだ。
注射を日常的に受けていくうちに、ペリーの依存症は悪化。焦ったイワマサがプラセンシアに「もうなくなってしまいました!」と連絡をしてきたこともあった。プラセンシアが急遽ペリーと駐車場で待ち合わせをし、車の中で注射をしたこともあると、イワマサは供述している。危険な状況にも陥った。ある時、クリニックでケタミンセラピーを受けた後、自宅に来てもらったプラセンシアから量の多い注射をしてもらうと、ペリーは体を硬直させ、血圧が一気に上がって、話すことも動くこともできなくなったというのだ。それを見てプラセンシアはイワマサに「もうこれはやめよう」というようなことを言ったが、恐れはあっという間に喉元を過ぎてしまったようで、彼はそれからも取引を続けている。
そんな中、ペリーとイワマサは、必要とする量を常に確保できるよう、エリック・フレミングという知人を通じ、ジャスヴィーン・サンガという密売人からもケタミンを買うことにした。フレミングは、納得のいく手数料を自分にも払ってくれるのであればという条件で、仲介人を引き受けている。
亡くなった日には全身麻酔とほぼ同量のケタミンを検出
ペリーが亡くなった日、イワマサは、ペリーに頼まれ、まず朝8時半ごろ、次にその4時間後、さらにそれから40分後に注射をした。最後に頼んできた時、ペリーは「大きいのにしてくれ」と言ったという。その後イワマサはペリーのためにジャクジーの準備をし、iPhoneと眼鏡を受け取りに行くために外出。帰ってくると、ペリーはジャクジーで溺れて死んでいた。ペリーの体から検出されたケタミンは、ひとりの人間を麻酔にかけるのとほぼ同量だったと報告されている。
ペリーに起きたことは、本当にいたたまれない。人の命を守る職業であるはずの医師ふたりは、ペリーが危険な状況に陥っているとわかっていても、金儲けを優先した。しかも、彼らは、1瓶12ドルのケタミンを2,000ドルでペリーに売っている。まさにドラッグディーラーに成り下がったのだ。ペリーが死ぬと、自分の身を守るために慌てて記録の改ざんをしており、その点でも罪を問われている。
依存症に苦しむのを間近で見ていた人がケタミン依存を手助け
検察によれば、サンガも、わずか2週間ほどで1万1000ドルドルほどを儲けた。フレミングも寛大な手数料をもらっている。だが、パーソナルアシスタントのイワマサがこれらの取引で金銭を得ていたという事実は、出ていない。彼はただボスの言うことを拒否して仕事を失うことを恐れていたのだろうか。資格がないのにドラッグを注射するのは違法だとわかっているはずなのに、彼はあえて危険をおかし、実際に罪に問われることになったのである。
25年もペリーのそばにいたイワマサは、ペリーが依存症のせいで過去に死にかけたことがあるのも、依存症から立ち直る努力をしてきたのも、間近で見てきている。にもかかわらず、ペリーがケタミンという新たなものを発見し、またもや闇に堕ちていこうとしているのを見ると、阻止するのではなく、手助けした。ケタミンを打ち始めてから、ペリーが意識を失ったことは何度かあったと、イワマサ自身が供述している。その日がいつか来るかもしれないという不安は、常にそこにあったはずだ。それでも言われるままに注射をしたのはなぜなのか。言っても無駄だからか。単にボスを喜ばせたかったのか。
回復しているように見えても、葛藤は続く
この悲劇は、依存症から立ち直ろうとしている人たちが直面する困難をあらためて浮き彫りにする。依存症は治すのが難しい病気。ペリーのように、外からは順調に進んでいるように見えても、見えないところで本人の葛藤は続いていることがある。そんなところへ、金づる、獲物としか見ない人たちがつけこんできたりする。また何かに依存するようになってしまったことを、本人は、家族や親しい人に言わないだろう。だから人々はその人が順調に日々を送っていると思っている。ペリーが通っていたクリニックの医師にしても、自分のところで安全にケタミンセラピーを受けている彼が、まさか自宅で勝手に大量の注射をしているとは、思いもしなかったのではないか。
2022年に出版した回顧録に、自分はもう死んでいるべきなのだと、ペリーは書いた。怖い思いを何度もしつつ生き延びてきたのに、ついに最悪の日が来てしまった。彼をそこに追い込んだこの5人は、有罪判決が出れば、重い刑が待っている。2019年に亡くなった33歳の男性にもケタミンを売っていた容疑もかけられているサンガは、最長で無期懲役。ほかは、それぞれ最長でプラセンシアが120年、フレミングが25年、シャーヴェスが10年、イワマサが15年。
この人たちが自分の罪をつぐなうのは当然のこと。だが、彼らの刑が決まれば終わりではない。ペリーのように大きなニュースにならなくても、同じようなことはあちこちで起きている。悲劇をひとつでも減らすために、社会として、また一個人として、何ができるのかを考えていきたい。
コメント
本来であれば依存症者に対して適切に関わるべき医師たちでさえ、苦しむ本人をバカにして、あろうことか金づるとして扱っていたことに、大きなショックを受けました。
そして同時に、今回の事件は決して遠い世界で起こっている他人事ではなく、私たちの住む日本のあちこちでも起こっているのだろうとも思いました。
ここ数年で、ニュースで薬物やギャンブルなど依存症絡みの事件を目にする機会は本当に増えているし、手口も巧妙化していて、何時、誰が巻き込まれてもおかしくないと感じるからです。
そんな中で私たちに出来ることは、依存症に対する知識を身に付け、それをあらゆる方法で拡散させていくこと、それにより、1人でも多くの理解者を増やして行くことだと思います。
本当に悲しいニュースと思います。ペリーのように、外からは順調に回復に向けて進んでいるように見えても、見えないところで本人の葛藤は続いていることがあるというのは依存症という病気の恐ろしさだと改めて実感しました。
悲しすぎます。
何度も危険な状態を目の当たりにしているのに続けている何故?お金の為?
イワマサは今何を考えどんな気持ちなのでしょう?
残酷です。
この残酷な事実は多くの人に届いて欲しい。
なんと悲しいこと。二人も医療従事者がそばにいて、たとえ自分が手を下していなくても、状況の悪化に気づけないなんて。それほど依存症というのは狡猾なんだなと改めて恐ろしく思う。
回復を求めた治療から始まったのに、悪意ある人間が近づいて反対の方向へ。海外ドラマで見たことのあるような構図が実際にあると思うと怒りがわく。
本当にいたたまれない。イワマサはどんな気持ちで投与し続けたんだろう?回復には終わりがない、けど周りには治ったように見えていた。依存症ってそういうものだと改めて思う
日本でも市販薬の問題が徐々に表に出てきているけど、この事件ほんと他人事ではない。
依存症からの回復はそう簡単にはいかない険しい道のりなんだ、という事実を改めて当事者家族にも突きつけられた思いだ。
依存症に苦しむのを間近で見ていた人が依存を手助け…というのは実に重い。
私達家族は正しい対応を常に学び実践し続け、当事者が回復しているように見えても葛藤は続くということを胸に刻まなければいけない。
訃報を聞いた時はショックでした。この記事を読んで、こんなことになっていたなんて、ただただ悲しいのと言葉になりません。
悲しいですね。悪意ある、としか思えない周囲にいた人たち…。死につながってしまうほどのかかわり方。許せないです。
ご本人は、ケタミンを求める一方で、ケタミンから遁れたかったのでは…?
マシュー・ペリーの死は、ショックだった。
彼と同じように薬物の問題で苦しむ人たちを助けすることに尽力していることが海外の記事に取り上げられていた。
彼もまた助けることで助かる、を実践しているのだと思っていた。
彼の死はいろんな憶測を呼び、センセーショナルに取り沙汰された。
そうか、こういう経緯があったのか。
潤沢な資産がある著名人は、いままでにも金儲けの餌食になってきた。
「社会として、また一個人として、何ができるのかを考えていきたい」という最後の言葉を胸に刻む。