摂食障害に苦しんだダイアン・キートン「あれは依存症だった」
先日、79歳で亡くなった人気女優、ダイアン・キートン。センスがよくチャーミングな彼女も、若い頃、摂食障害に悩んでいたことを告白しています。

公開日:2025/10/15 02:03
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先日、79歳で亡くなったダイアン・キートンは、演技力とファッションセンスはもちろんのこと、明るく、ファニーで、チャーミングな人柄でも愛されていた。だが、そんな彼女にも、暗い過去があった。駆け出し女優だった70年代、過食症に苦しんだのである。2011年に出版された回顧録「Then Again」でその秘密を明かした彼女は、テレビのインタビューで「あの頃の私は依存症だった。私は依存症から立ち直った人間」と語っている。
「痩せるなら」という条件付きで主演に抜擢
きっかけは、彼女が脇役として出演していたブロードウェイミュージカル「ヘアー」の主演女優が、当時大人気だったテレビドラマ「ミッション:インポッシブル」に1話だけゲスト出演することになり、一時的な代役に選ばれたこと。彼女は立派に大役をこなし、プロデューサーは、このまま主演をやらせてあげようかとオファーをしてくれた。ただし、「痩せるなら」という条件付きだ。
その頃のキートンは、身長170cm、体重63kg。カロリーを気にすることなく、思うままに食べたいだけ食べていた。まずはビタミン注射で4キロほど落としたが、また太って役を取り上げられたらどうしようと、不安でしかたがない。そんな時、共演者が、太らないために食べたものを吐いているらしいという、ある女優についての噂話をするのを耳にしたのである。最初は「なんて汚い話」と呆れたが、まもなく自分で試すように。うまくできるようになると、毎回、食べたいものを好きなだけ食べてはすぐに吐くというのが、彼女の食事の「日課」となった。
過食しては吐いて
このテクニックを使えば大丈夫とわかったキートンは、信じられないような量を食べるようになる。ディナーは、ケンタッキー・フライド・チキンを1バーレル、フライドポテトを数人前、TVディナーと呼ばれる、当時アメリカで人気だった温めるだけの出来合いの食品を二人前、パイを3切れにチョコレート、パウンドケーキといった具合。それだけの食べ物を買い、アパートに持って帰るだけでも大変だ。なにせ、毎日がそうなのである。
ウディ・アレンと恋に堕ち、彼の家に転がり込むようになっても自分のアパートの家賃を払い続けた理由は、そこにもあった。こっそりと食べるためのものを確保する場所が必要なのだ。彼と一緒にレストランで食事をする時も、タイミングを見つけて吐いていたのだが、アレンはまるで気づかず、誰もが顔負けする彼女の食欲、そしてそれだけ食べても太らないことに、感心するばかりだった。
体調が悪化 秘密を抱えて孤独に
当然、そんな生活は、影を落とすようになる。ひとつは、健康面。食事のたびに大量に吐いたら単純に喉が痛くなるだろうが、半年も続けた頃には、血糖値や血圧が下がり、胸やけや便秘に悩まされた。歯医者に行くと、なんと26個も虫歯があると言われ、治療のために痛い思いをすることになった。
それに、時間。1日3回、大量に食べては大量に吐くには時間がかかるし、まめな買い出しもある。恋人のアレンに「この映画館でこの時間にこの映画を見よう」と誘われても、「あの店にいつものあの食品を買いに行っても間に合うだろうか」と考えなければならなかった。さらに、精神的な苦痛。この大きな秘密を守り続けようとすることで、彼女は次第に孤独を感じるようになるのである。
抜け出すきっかけは心理カウンセリング
そこから抜け出す道を作ってくれたのは、心理カウンセリング。ただし、すぐにそれに助けられたわけではない。ほかの人に話せないことを話せる場所であるにもかかわらず、キートンは長いこと、その話題を出さず、関係のないことばかりをカウンセラーに話していたのだ。だが、通い始めて1年ほど経ったある日、キートンはついに、「私は喉に指を突っ込んで、今食べたものを吐くんです。それを1日3回やるんですよ。やめるつもりはありませんから。あなたに何を言われてもね。わかりました?」とぶちまけたのである。

その直後に解放されたというわけでもなかった。変化が訪れたのは、そのおよそ半年後。ある朝、起きて、冷凍庫に入っているアイスクリームを見ても、なぜか食べたいと感じなかったのだ。しかし、ようやく回復に向かっても、キートンがその過去を打ち明ける日は、長いこと来なかった。妹ふたりに告白したのは、回顧録が出版される少し前で、何十年も経ってから。その頃、母はアルツハイマーを患っており、伝えたくても伝えられなかった。そのことについて、彼女は後悔してやまない。
「私は自分に嘘をついた。嘘をつき続けた」
今さらながら告白した理由について、キートンは、「理解してもらいたいわけではない。私は、この重荷から自分を解放したいだけ」と、回顧録に書いている。
「私は(嘘の)プロになった。詐欺師になった。秘密がいつもそうであるように、そこから嘘が広がっていった。私は自分に嘘をついた。嘘をつき続けた。過食症の恐ろしさを自分で認めようとしなかった。5年もの月日を、飢餓を満たすためにあらゆる犠牲を強いて過ごしたというのに。私は自分で作り上げた刑務所に閉じ籠もり、孤独に生きたのだ」。
数々の有名女優たちも同じ秘密を
キートンはまた、その章のはじめで、ジェーン・フォンダ、ジョーン・リヴァーズ、ポーラ・アブドゥル、リンジー・ローハン、サリー・フィールド、ダイアナ妃、カレン・カーペンター、マリエル・ヘミングウェイ、オードリー・ヘップバーン。ポーティア・デ・ロッシ、ヴィクトリア・ベッカム、ケリー・クラークソン、フェリシティ・ハフマン。メアリー=ケイト・オルセンなど、世代の違う女性たちの名前を挙げている。
「私たちがみんな同じことに執着したとは、にわかには信じ難い。メアリー=ケイト・オルセンと私に共通点があるなど、可能なのだろうか?彼女は私より40歳ほども若く、1億ドル以上も金持ちなのに。それに、あのジェーン・フォンダ?まさか。ケイティ・ホームズが主催したパーティでヴィクトリア・ベッカムを紹介された時、私は彼女が誰なのか知らなかった。にもかかわらず、私たちは同じ秘密を共有したのだ。違いは、私はこれまで隠し続けてきたこと」
同じ悩みを持つ人を力づける告白
これらの有名な女性たちの名前を連ねられると、あらためて衝撃を受ける。だが、同じ病に悩んだ人、今も悩んでいる人は、セレブリティにかぎらず、一般人にもたくさんいる。悲しいことに、これは、世代も、国境も越えた問題だ。キートンの告白は、現在そこに直面している人たち、これから直面する人たちを、力づけてくれることだろう。私たちが憧れたこの女性が、勇気を持って辛い過去を語ってくれたことに、感謝したい。
ご冥福をお祈りします。
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