Addiction Report (アディクションレポート)

「私の価値を高めてくれるなら誰でもよかった」結婚、出産、離婚でのフラッシュバック アルコール依存症の自覚と再発 宗教2世と依存症(下)

Mさんにとって、家族は必ずしも「温かい」ものではなかった。新興宗教の信者の母親に育てられたことで、そうしたイメージを持つことができないでいた。

「私の価値を高めてくれるなら誰でもよかった」結婚、出産、離婚でのフラッシュバック アルコール依存症の自覚と再発 宗教2世と依存症(下)
結婚、出産、離婚でのフラッシュバック アルコール依存症の自覚と再発

公開日:2026/06/19 22:00

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 アディクション(依存症)は人生のステージが変わった瞬間に、新たな姿に変貌したりする。風俗業界からの脱却、そして結婚と出産。一見すれば「暗闇からの脱出」を果たしたかに見えたMさんだが、第1子出産を機に、精神的危機に直面した。

母になる恐怖と結婚・家族イメージ

 Mさんは新たな人生を模索する中でパートナーと出会い、「できちゃった結婚」をした。自身の結婚は2回目。待望の第1子を出産した。念願だった「普通の、自分だけの温かい家庭」を手に入れた。…そのはずだった。性的な依存はどうなったのか。

「結婚すると、“あなたは私のもの、私はあなたのもの”という認識になりました。お互いが共依存として認知が進んでいきました。だから、夫は避妊せず、子どもを作る。そして、私は自分が帰る場所を作る、そのために妊娠を求めました。それを望まないと立っていられなかったんです。それに私は普通の社会人として働けない。職場に通うことも3ヶ月が限界。鬱の状態になってしまいます。性産業や水商売で頑張り続けるのは28、29歳で限界を感じました。女性の商品価値も年齢を上げればやはり落ちます。それでも〝わたし″という価値を高めてくれる人なら誰でもよかった。なので、私を選んでくれたパートナーと結婚することにしました」

温かい家庭を想像できないでいたMさん(撮影:渋井哲也)

 結婚相手となった男性はどのように価値を高めたのだろうか。

 「毎日高速で1〜2時間かけて、ソープ街の入り口まで迎えにきてくれました。すごいゾッコンだったんだなと思います。何よりも第一優先が『私』。それまで大切にされたこともなかったので驚きました。だから心が開けたんだと思います。そして心理的な依存も深まりました。だけど、子どもが産まれると、私よりも大事にされる対象物ができ、『私は?』って。産んだら終わり?と思いました。価値が無くなったようにも感じました」

 出産時に入院する際、「輸血同意書」を書いたことでフラッシュバックした。そこでも精神的な救いはなかった。エホバの証人(JW)は教義で「輸血禁止」を謳っていたこともあり、混乱したそうだ。

 「『輸血ってなに?』、『子どもを産むのに輸血するの?』という感じになりました。それで罪の意識とか、私なんかが『産んでごめんね。育てられるかな?』などのいろんな負の感情が芽生えました」

 我が子を腕に抱いた瞬間、Mさんを襲ったのは至福の喜びではなかった。「従順であること」や「我慢すれば愛される」という思考が再現した。

 「結局、幸せな家庭生活を築きたいと私が思った時に『JWに戻るしかない』って思って。そこから、結婚した現実と、JWが居場所だった過去への回想という、記憶の混乱が生まれたんです」

 Mさんには子育てのロールモデルは全く存在しない。

「最初は夫を頼りましたが、夫婦関係の中では否定的な言葉が増え、子どもへの接し方にも不安を感じる場面がありました。自分の中では、虐待の世代間連鎖への恐怖が強くなりました。夫からの日常的な人格否定的な発言も始まりました」

アルコール依存症を自覚する出来事

2022年11月、アルコール依存症と自覚する出来事があった。友人宅でワインを3本空け、激しく泥酔していた。

 「泥酔状態で、子どもをベビーカーに乗せて駅前を歩いていました。泥酔していたので記憶が曖昧なのですが、何かを壊して警察がやってきました。夫が来るまで女性警察官が保護してくれていました。このとき、警察の人に必死でJWのこと、排斥された当時のことを話していたようです。このとき、自分の心理的な問題は、両親の離婚がきっかけでマトモに生活ができなかったのではなく、JW2として忠実な子供だったからではないか? と気づいたんです」

 しかし、その後、夫から離婚すると言われ、子の親権を夫が取ると主張し、今は離婚調停中だ。そのため、Mさんは「子どもを取られる」「見捨てられる」という感覚になり、排斥経験や過酷な過去とフラッシュバックした。ただ、アルコール依存症と自覚しつつも、否認したい気持ちもあった。

 「歌舞伎町ではこの飲み方が普通だった。でも、アルコール依存症についてSNSで調べたら、依存症の話題を見つけ、たまたま宗教2世の当事者の話が出てきました。そこで今までにないほどの強い共感を得ました」

アルコールと歌舞伎町はセットだった(撮影:渋井哲也)

否認をしなくなったため、アルコール依存症を扱っている病院へ保健所の人と一緒に向かう。しかし、医師に「治療をするほどの依存症ではない」と言われて、帰された。困ったため、子どもが関わっていることを理由に、行政とのつながりを作った。

 「行政に関われば関わるほど、子どもの頃に受けた鞭打ちって虐待だったんじゃないかと思ったんです。でも、母親に子育てのことを聞くと、『鞭しろ!』って言うんです。鞭打ちして躾ができて良かった、と。私はその『鞭』がきっかけで毎日苦しんでいるのに」

一方で、病院では、複雑性PTSDやパニック症などの神経症などと診断された。

「アルコール依存症の治療は受けていませんが、手が震えるほどの離脱症状が今はないので、ハームリダクション的な減酒を行ないたいな、と思っています。今、子どものためにリスカもODも出来ない。主治医には『お酒くらいいいよ。ただ、飲酒運転や精神安定薬と一緒に飲まないでね』とは言われています。子どもがいなかったら自傷行為で終わらず、希死念慮と闘っていたと思います」

フラッシュバックと再発

2022年7月、安倍晋三元首相殺害事件が起き、犯人が逮捕された。犯人が宗教2世だったこともあり、こども家庭庁は同年12月、「宗教の信仰等に関係する児童虐待への対応に関するQ&A」を作成し、解説動画も公開した。行政上の見方が変わった。

しかし、Mさんには現場でうまく機能していないとの実感がある。そのため、サバイバーへの支援活動や情報発信もしている。断酒会や保健所主催のリカバリー・ミーティングに参加もしている。訪問看護やヘルパーも利用し、医療と福祉と繋がった。

そうする中で、JWが2026年3月、統治体が動画で「医療目的の自己血の使用に関する見方を調整することにした。一人一人が自分で判断する」と述べ、輸血緩和をしたのだ。Mさんはアルコール依存症との自覚があったが、落ち着いていた矢先だった。

「実は、発表の前日、輸血緩和のニュースが出るかもしれないというリークがあったんです。でも、実際に輸血拒否で亡くなった友人やそういう信者を知っていたから、前夜祭と称してずっと飲んでいたんです。飲まなきゃやっていられない。信じていたものは何だったんだろうって嘆いていました」

報道に加えて子どもの誕生日も近かった。JWは「誕生日」を祝うことを禁止しているため、フラッシュバックが起きた。まだ子どもの誕生日を受け入れられない。

「翌日、二日酔いしながらSNSを見てみたら、報道が世界的にあり騒がれていました。しかも教団は悪くない様な話になっていた。今さら、輸血の緩和と呼ばれても、頭がついていけない。また、担当の精神科医師も、私がCPTSDのため、相当な精神的被害があったのだろう、と予想していました。もう色々とやるせなくて、〝また〟お酒を飲むしかない。私は子どもの寝顔を見ながら缶ビールを開けました。飲まなきゃやっていられないとなりました。飲みながら話して笑って泣いて。気が済むまで怒ってぐちゃぐちゃでした」

心情が揺れ動くMさん(撮影:渋井哲也)

こうした経緯で、問題飲酒が再発した。

 「子どもには同じような苦しい思いをさせたくない。自分の経験が『若者の問題』として今後の社会資源になればいいなと思っています。フラッシュバックと闘いつつ支援を利用して、トラウマのケアもしています。しかしアルコール依存症の再発もしているのが今の私です。一概に問題のある家庭として簡単に処理はしてもらいたくはなく、『一般的』を知らないからこそ社会と、若者の問題として『依存症』に関する背景を改めて考えてもらいたいです。今の私の行動は一見矛盾しているように見えると思います」

 Mさんにとって依存とはなんなのか。

「苦痛を和らげるための自己治療のようなものだったと思います。酒そのものに依存していたわけではないのかもしれません。リストカット、オーバードーズ、性依存、アルコール。対象は変わっても、求めていたものは同じ。『生きていていい』と感じること、自分の価値を確認すること、安心して居られる場所を見つけることでした。人は居場所や支えを失ったとき、別の何かに繋がろうとします。依存症とは、その人が生き延びるために選ばざるを得なかった方法でもあると思います。だからこそ、『何に依存したのか』だけでなく、『なぜ依存せざるを得なかったのか』に目を向けてほしい」

 どのように回復を図ろうとしているのか。

 「今は、訪看を通して過去の自分と向き合ったり、自立に向けてます。トラウマケアの治療も始め、養育していくにあたり過去は過去と切り分けられるよう、取り組んでます。なお、ライフスキルが全くありませんので、ヘルパーさんに教えていただいてます」

(おわり)

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