Addiction Report (アディクションレポート)

処方薬に依存した10代女性がODの結果…。背景には家族関係や恋愛関係〜過去の取材から

 2000年代前半。取材で出会ったアカリ(仮名)が、家庭環境や恋愛関係に由来する寂しさから、精神科処方薬に依存するようになり、自殺した。そのアカリを生前から取材していた筆者が、当時の取材ノートから振り返る。

処方薬に依存した10代女性がODの結果…。背景には家族関係や恋愛関係〜過去の取材から
アカリがよく行っていた歌舞伎町(撮影:渋井哲也)

公開日:2024/06/19 02:00

関連するタグ

 私が処方薬依存に関心を持つようになったひとつの出来事は、2000年代前半に起きた、10代女性、アカリ(仮名、19歳)の自殺だった。アカリとの出会いは、彼女が高校2年生のときだ。自傷行為をしていた男子高校生ミノル(仮名)を取材しようと、JR上野駅公園口で待ち合わせた。すると、ミノルの後ろに隠れるように、同級生のアカリがついてきた。初対面のときはほとんど話すことはなかった。私が主催していたオフ会で何度も会い、取材するようになった。そんなアカリがある日、自殺した。

 自ら日記サイトを立ち上げる

 アカリの第一印象はおとなしい女子高生。私と会った後に、日記サイトを立ち上げたことを彼氏のミノルから聞かされた。もともと家族関係や友人関係の悩みをミノルに相談していた。そうした内容を日記に書いた。

 日記サイトのお手本となったのは、当時人気だったテキストサイト「南条あやの保護室」だ。その中にある「日記」には、同じように悩む女子中高生が多くアクセスしていた。サイト内にある電子掲示板には、感想などを綴られていた。このサイトの影響で、何人もの女子中高生が自らサイトを立ち上げるようになる。アカリはその一人だった。

 アカリは、離婚した母親と会いたいという寂しさから、精神的に弱くなっていた。当時、付き合っていたミノルは精神科に通っていた。ミノルは父親との関係悪化から手首を切る自傷行為を繰り返していた。そのため、ミノルは、自傷行為をする女子高生の「南条あやの保護室」に辿り着いた。アカリはミノルからサイトを教えてもらった。また、自傷行為もミノルがしていたことの影響で、アカリもするようになった。

 「会わせたい人がいる」。それは「CG202」の管理人だった

 その後、アカリは、自らオフ会を主催するようにもなった。また、数多くのオフ会にも参加した。そうすることで、母親と会えない寂しさを埋めていたのかもしれない。

 そんなあるとき、アカリがこう言った。

 「会わせたい人がいる」

 アカリは何回か言っていたが、タカシのことだった。この頃は、ミノルとは別れており、タカシと付き合っていた。タカシは「CG202」というサイトの管理人だった。「CG202」というのは、リタリンの識別コードを意味する。

 サイトにはリタリンの効能について説明書きがあった。また、メンバー紹介のコーナーがあり、ホームページを持っている場合はリンクが貼られていた。電子掲示板もあり、処方されやすい病院の情報や精神疾患の悩みが綴られていた。ピーク時にはメンバーは20人を超えた。ユーザーたちは悩みを相談しあう関係でもあり、ユーザー同士で恋人が誕生したりもした。

 タカシがサイトを開設した理由がある。リタリンによって気持ちが楽になったため、「同じような悩みを持つ人たちにもリタリンを使ってほしい」と思っていた。最初は身近な友人や病院仲間に配っていたが、その中の一人が自殺をしてまった。その時に、違法な譲渡をしたとして逮捕されたのだ。

 リタリンは、当時、精神科を利用する若者たちに人気だった。一部では〝合法覚醒剤〟と呼ばれていた。ただ、なかなか医師から処方されないために、インターネットの掲示板で譲渡や売買がされた。もちろん、無断での譲渡や売買は違法である。

 しかし、リタリンの乱用が問題となり、リタリン流通管理委員会は2007年10月、リタリンの「うつ」の適応症が削除され、ナルコレプシーのみとなった。その際の厚生労働大臣の承認条件及び厚生労働省・課長通知により,ノバルティスファーマ株式会社は,リタリンの流通管理を適正に行うよう指示され、「リタリン流通管理基準」が設定された。アカリがタカシと出会ったのはずっと前だった。

 「死ぬことも許されない」という感情からODを繰り返す

 ある日、私とタカシを合わせるために、アカリがオフ会を設定した。

 「生きているのも嫌って、彼氏に言っても分かってくれない。だけど、おじいちゃんやおばあちゃんに迷惑かけたくない。死ぬことも許されない」

 そんな感情から、アカリは何度もODを繰り返した。ハイになることで、鬱から解放されていた。しかし次第に軽い薬が効かなくなり、徐々に重い薬を飲んだ。そこで、リタリンに目をつけて、「CG202」の常連になっていく。管理人のタカシは、元自衛隊員を名乗り、薬事法違反で逮捕されたことがあると、私に言っていた。

  過去の新聞記事などでは確認ができなかったために、真偽は不明だが、本当であれば、確信犯的にサイトを開設していたことになる。ただサイトの表の情報では、リタリンの譲渡や売買の情報もなく、情報交換のみだった。オフ会でも、リタリンを交換する様子はわからなかった。

 トイレに駆け込んで誰かにメール…

 時期不明だが、アカリはリタリンを常用するようになった。高校卒業後、ファミリーレストランでアルバイトをしていたが、リタリンの効用が切れると、急に鬱が激しくなり、トイレに駆け込んで泣いていたこともあった、という。

  「寂しくなったりして、誰かにメールしたくなったりしました。それに手が震えることもあったんです」

 そう言ってリタリンを飲んでいた。リタリンは副作用として依存性がある。そのため、アカリは少し落ち込むだけでもリタリンを飲むようになり、手放せないでいた。しかし、飲み過ぎによって、リタリンの耐性が出てきてしまう。

 そうした依存状態の中で、アカリは急にリタリンの断薬を始めた。タカシと旅行することが決まっており、「リタリンに頼ってはいられない」と思った。ある日のウェブ日記には、

 <今日は処方どおりのお薬を。ボルタレン、パキシル、デパス、ラボナ、ベゲA経口投与。バイトから帰宅する前にレキソタン飲んだけれど。カルシウム剤も。最近楽しいわけは、きっと、リタ抜いてるためだとおもいます>

  と書かれていた、リタリンを飲まなくても、処方通りの薬を飲んでいたためか、<楽しい>と書いていた。

 サイトのメンバーの一人が亡くなることで不安定に

 しかし、安定期は長くなかった。再び不安定になった。不幸にも「CG202」のメンバーのひとりメイ(仮名、10代)が亡くなったのだ。タカシはメイの「弟」と称する人に対して掲示板で、

 <毎日しっかり掲示板の管理をしていれば、こんな騒ぎにはならなかったでしょう。夜中にアカリさんからの知らせがあり驚きました。彼女も気が動転していたらしく、慌てていました>

 と投稿した。そして、誰が悪いのではなく、みんなが仲間、誰も責めるな、との書き込みも相次いだ。

薬だけでなく、ネットワークにも依存していた

 サイトでつながったメンバーだが、リタリンを飲んで、なんとかみんなで生き抜こうとすることが目標だからだ。それだけ、何かしらの理由でうつ状態であり、その背景に、何らかの生きづらさを抱えていた。

 しかし、目標とは相反するように、他のメンバーも次々と亡くなっていく。そのなかに、アカリもいた。亡くなる数日前から、強い自殺願望が湧いてきていた。考えてみると、アカリは単に「リタリン」だけでなく、リタリンが供給される「ネットワーク」そのものに依存していた。

 アカリが大量に貯めていたのは、リタリンのほかにもある。アカリは、致死量となる薬を合わせて飲み、旧友やネットで知り合った友達に最後の携帯メールを送ったのだ。

 <ありがとうございました>

 その後、メイやアカリの相次いだ死について、タカシも責任を感じてか、ODによって自殺してしまう(何を飲んだか不明)。そして、「CG202」は遺族によって削除された。「CG202」のメンバーは、わかっているだけでも8人が死亡した。

コメント

5ヶ月前
Miki

読んでいて切なかった。

死が身近なもので、逃れたくても逃れられないような状況だったと思う。

社会の隅に追いやられるこういう状態をなんとかできないものかのか?

一人一人が考えるべきだと思う。

5ヶ月前
はな

悲しくてやりきれない。

市販薬依存症から若者を守りたい。

コメントポリシー

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが確認した上で掲載します。掲載したコメントはAddiction Reportの記事やサービスに転載、利用する場合があります。
コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただいたりする場合もあります。
次のようなコメントは非掲載、または削除します。

  • 記事との関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 特定の企業や団体、商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 事実に反した情報や誤解させる内容を書いている場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合
  • メールアドレス、他サイトへのリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。以上、あらかじめ、ご了承ください。