Addiction Report (アディクションレポート)

市販薬のオーバードーズで薬学部を留年  「薬剤師になっても、同じ辛さを抱える子にダメとは言いたくない」

薬剤師を目指して大学に通いながら、市販薬のオーバードーズで留年した愛さん。薬剤師になれたら、同じような辛さを経験している子に「ダメ」とは言いたくないと語ります。

市販薬のオーバードーズで薬学部を留年  「薬剤師になっても、同じ辛さを抱える子にダメとは言いたくない」
愛さんがODを辞め続けている日数を記録しているスマホ。取材したこの日は止めて105日目だった。

公開日:2025/01/24 04:16

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大学薬学部で薬の勉強をしながら、市販薬のオーバードーズによって心を保っていた愛さん(仮名、20歳)。

薬のリスクもよく知っているが故に、最初はコントロールしながら使っていたが、徐々に頻度も量も増えていった。

留年もして薬剤師になるための勉強を続ける日々、同じように苦しむ若者に薬剤師になったらどんな声をかけるのだろうか?

2回目の入院

大学1年の最初はだましだましなんとか通い切ったが、前期の終わりがけには辛さが増していった。

数週間おきに行っていた市販薬のオーバードーズが、だんだん週に2〜3回にまで増えていった。量も徐々に増え、6錠程度から20錠〜30錠を一度に飲むようになっていった。

夏の終わり、市販薬の飲み過ぎで記憶が飛び、自宅の部屋で意識を失っているのが親に見つかり、救急外来に連れていかれた。通学できる状態ではなくなり、主治医の勧めで休学。9月から2ヶ月間、2回目の入院をした。

「休学させられて留年が確定するし、もうどうでもいいやと自暴自棄になっていました」

入院してすぐ、病院の窓から飛び降りようと窓の鍵を壊した。すぐに看護師に取り押さえられ、1週間、外から鍵をかけられた保護室に入れられた。どん底だった。

この入院では、最初の入院とは別の医師が主治医になった。これまで診察を受けてきた精神科医の中で、最も家族の問題に注目した医師だった。

「新しい主治医からは『もう大学生にもなっているのだから、すぐに家を出た方がいい』と言われました。親にも、『一人暮らしさせられませんか?』と勧めてくれたんです」

意外なことに母は賛成してくれた。でも父は「金がかかるし、一人だと自傷行為や自殺もするかもしれないからダメだ」と即座に却下した。

退院すると、休学中で時間があるため、母親や主治医の勧めで車の運転免許を取った。事故を起こして人を傷つけてはいけないと、オーバードーズをしないモチベーションにもなった。どうしても我慢できない時だけ多めに市販薬を飲んだが、頻度や量は大幅に減らせた。

3回目の入院

そして、今年4月から、大学1年をもう一度やり直している。既に取得した単位もあるので、通学するのは週3回。週の半分は何も予定がないので、そこで市販薬のオーバードーズを続けていた。

なんとか止めようと、週の後半、アルバイトを詰め込んだ。それでも前期の終わりに、また「もうどうでもいいや」と自暴自棄になり、眠れなくなった。再び市販薬のオーバードーズの頻度と量が増加。どうにもならなくなり、夏休みに3週間、3回目の入院をした。

「眠れなくなるとオーバードーズをしてしまうのですが、クリニックの先生は飲みすぎるのを警戒して睡眠薬を出してくれないし、他の手段も考えてくれない。自分に全く寄り添ってくれない態度に腹が立ち、退院してからは別のクリニックに通うようになりました」

新しい主治医は、もともと入院先の病院に勤めていた医師だった。入院先と治療方針が近くて安心できた。トラウマのフラッシュバックに効果があるとされる薬の組み合わせも試してくれるなど、自分の症状に寄り添ってくれる安心感が持てた。

しんどい日々は続いているけれど

それ以降もしんどい日は続いている。2〜3週に1回、新しい主治医のもとに通い、授業中苦しくなったら、大学の保健センターの看護師のもとに「助けて」と駆け込む。

過去のトラウマを掘り起こすのは、一時中断した。主治医と相談し、今は大学に通うことを最優先にして、後期の授業の必要出席数はクリアした。

「授業を受けているとある意味、自分のメンタルの問題については考えずに済むのですが、それでもきつい。留年しているので、同級生にもまだ慣れていないし、みんなに事情も言えないし……」

3回目の入院以降、市販薬のオーバードーズは止めることができている。インタビューに答えてくれた日は、やめてから105日目だった。この後、この1週間後に再びやってしまい、記録は111日でストップした。

「さすがに二留したらまずいので、学校に行き続けることが、O Dをやめる大きなモチベーションになっています。1年生をもう一度繰り返したくはないので必死です」

留年分も含めて7年で1000万円を超える学費は、奨学金を借りて自分で賄っている。父が「そんな状態では卒業できるはずがない」と学費を出してくれなかったからだ。母は父が愛さんの学費を出していないことも、つい最近まで知らなかった。

「父は損得勘定で動く人だし、母は自分の子供の学費のことさえ夫と話せていない。そんな家庭に私はいるんですよ」と愛さんは自嘲気味に言う。

そんな親との関係は相変わらず低空飛行だ。

「何か大きなきっかけがないと変わらないと思います。だからそれが来るのを待つ。自分で変わることができるとは思えません。なんだか人任せのようですが」

深夜どうしてもつらくなり、誰に宛てるともなく「助けて」と心の中で叫ぶことがある。

「誰が助けてくれるのかはいまだにわからないし、それが両親ではないのは確かです。そういう時に夜間受診する人もいれば、訪問看護で夜間対応してもらっている人もいるのでしょうけれど、私はただただやり過ごすしかありません」

薬剤師だったら自分になんと声をかける?

今はとにかく早く薬剤師の資格をとって独立し、家から出ることを目標としている。

「父からは『大学辞めて働くなら家を出られるぞ』と言われているのですが、今すぐやりたい仕事もありません。6年間大学に通って薬剤師になった方が金銭的にも精神的にも安定しますから」

6年間の勉強を終え、国家試験に受かったら薬剤師になる。その時、自分と同じように市販薬や処方薬を用法・用量を超えて飲む患者に出会ったら、どんな声をかけるのだろうか?

「今の日本だと薬剤師の対応はマニュアル化しています。『そんなことをしてはダメ』と止めなければ、免許は剥奪されるのでしょう。でももし法律で縛られていないのなら、私はオーバードーズする子にダメとは言えないし、言いたくない」

「医療職なら患者さんに『あなたの命を守りたいから止めたいんだよ』と伝えなければならないのでしょう。でも、オーバードーズせざるを得ない苦しさを否定してほしくない。医療職は患者さんが生きていくのを支援するのが仕事です。命を守りながら、その人の辛さを支えることが必要なのでしょうけれど、現状、その両立ができる医療職は少ないと思います」

薬剤師になったら、「市販薬のODをする子にただダメだとは言いたくない」と話す愛さん(撮影・岩永直子)

もし、そんな言葉を薬剤師からかけられたら、愛さんはどう思うだろう。

「素直に受け止められるとは思いません。けれど、自分の命を守ろうとしてくれる人がいるんだとちょっとずつ覚えていけたら、私も変われるのかもしれません。一人の薬剤師にそう言われたからといってすぐ解決するような辛さじゃない。それで治っているならとっくに治ってます」

「家庭に問題のある子は、親から正しい愛情を注がれてこなかった。自分のことを見てもらえなかったし、自分の命はどうでもいいとさえ家族に思われていた。そういう人たちは誰かに『あなたの命が大切』と言われても、なかなか信じることができません」

人を信じられるようになるには、時間も必要だと愛さんは思う。

「誰も助けてくれず一人で抱えていた時もあるのだから、今相談できる人がいるだけいいじゃないと思う時もあります。親からの愛情が不足してきた私のような人間は、人をなかなか信頼できないんですよ。時間がかかるんです。医師や看護師から『あなたが死んだら悲しいよ』と言われても、そんな言葉は全然信じられない」

「私自身、私のような患者に対して、『あなたが大事なんだよ』と伝え続けるだけの支援者にもなりたくない。そう言われ続けると、相手を信頼できない自分のことが嫌になるからです。『みんなこんな風に言ってくれているのに、信じることができない自分がダメなやつだ』と追い詰められる。ひねくれていますよね。」

自分自身、さらっとさりげない言葉をかけてくれる医療職の方がとても楽だ。

「好みはあると思いますが、その人に負担をかけてしまっていると感じてしまうようなベタベタした医療職の方がしんどいです。寄り添えば寄り添うほどいい、ということはない。助けてほしいというこちらの気持ちを理解しつつ、『そんなに簡単に、信用できないよね』とわかってくれる人の方がかえって安心できます」

大学で「若者の市販薬乱用」について学んで

大学では「若者の市販薬乱用」について学ぶ講義がある。

「『若者の薬物乱用は違法薬物ではなくて、圧倒的に市販薬乱用が多くなっている』と授業でも聞いています。それを聞きながら『やってます。ごめんなさい』と心の中で思っています」

医療職を目指す若者で同じように市販薬を乱用している人を、ネットの病み垢でもよく見かけている。

「看護学部と心理学部が多いです。多少、医療の知識があったとしても、学校で授業を受けているときの自分と、プライベートの自分は同じ自分ではないからです」

そんな病み垢を見ていると、最近、薬局でも大量購入を止められて困っているケースが増えている。

「買えなかったから苦しさを逃す方法がなくて、高いところから飛び降りちゃった子もいます。使えなくて、苦しさが爆発してしまって、暴れて保護されたというケースも見かけました。ただ買うのを制限するだけでは、そんな状況に拍車をかけるだけのような気がします」

「薬学部の学生からすると、薬局での販売の規制はやるべきだと思う。でも中途半端にやるべきではないと思います。ただ売らないだけでは、追い詰められるだけ。大量購入を止めて、薬剤師は『責任を果たした』と満足するかもしれませんが、買えなかった人は全然救われていないですから」

医療従事者に理解してほしい

そんな現状を肌で知る医療従事者になり、同じように苦しむ人の力になれたらと願う。

「現在、自分の問題と戦いつつ、世の中で市販薬が乱用されていることも知っています。私たちのような若者は気づかれてもいません。こういう人も使っている、こういう事実があるってことをまずは医療従事者や世の中の人に知ってもらいたいんです」

大学で市販薬の乱用について授業を受けていた時、そばにいた同級生がその時、「あんなの何が面白いんだろうね。あれいいことある?」とつぶやいたのも忘れられない。

「私は心の中で、『確かにいいことないよね、でもそのおかげで生きている人がいるんだよ、ここにも』と思っていました。医療従事者を目指している学生でもそんな感じなんです。世間の人が理解できなくて当たり前だと思います」

「なぜ恵まれているように見える私たちが市販薬を乱用するのか、学校の先生は市販薬の乱用は伝えても、その理由は伝えない。薬について教える先生たちでさえ知らないからです。目の前にODをしている若者がいるのに、見えていないからそんな教え方になるし、『何が面白いんだろうね』という学生の感想になる。せめて医療従事者はもっと理解してほしいと思います」

(終わり)

コメント

3日前
匿名

医療従事者です

大変な思いをされてこられましたね

難しいところかもしれませんが

薬剤師になる🟰様々な考えの患者さんと関わる

それを肝に銘じていただきたい

当然 愛さんのようなOD辞められない患者さんもいれば このままではいけないと思考を変え、病院にかかり市販薬ODと断絶された患者さんもいます。

その一方で、「自分は病気でないからお薬を飲まない」という患者さんも幾多とおられます(お薬だけもらいに行くが)

体調が良い🟰寛解した

と勘違いされて自己断薬される方もおられます。

その方にも寄り添える薬剤師になっていただきたい

広い視野で物事を考えて

愛さん自身を客観視してみてください

ODの苦しみが緩和されることを願い

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