「本当に反省しているんですか?」 世間の疑いの目、足を引っ張るメディアやSNSに晒され続けること
刑期を終えて罪を償っても「本当に反省したのか?」と度々叩かれてきた田代まさしさん。そんな厳しい目は回復に役立っているのでしょうか?
公開日:2024/02/05 02:00
覚せい剤取締法違反などで度々逮捕され、メディアの取材対象にもなってきた田代まさしさん(67)。
刑期を終えて罪を償ってからも「本当に反省しているのか」と叩かれ続けてきた。
その批判やバッシングは回復につながったのだろうか?
叩かれるのを覚悟で「ヒロポン酢」C Mに出演
——田代さんは刑期を終えて出所してからも「本当に反省したのか?」とメディアに度々叩かれてきましたね。
だって、「ヒロポン酢(※)」のC Mにも出ていますから、「お前反省してないだろう」と思われてもしょうがないでしょう(苦笑)。
※大阪の企業が作っているポン酢の名前。田代さんがCMのメインキャラクターになっている。
でもそうやって、偏見の目で見る人たちには抗わないと。障害者の就労支援をしている企業が作っていて、障害者の人たちも関わっています。
もちろんこの仕事を受ける前に保護観察所の人やダルクにも相談しましたよ。「俺は叩かれることを覚悟でやろうと思っているのですが、どう思いますか?」と。もちろんバッシングを受けるだろうと反対されました。
それでも「俺が宣伝することで少しでも売れて、障害者の人たちが頑張ろうと思えるなら、それだけで俺はいいと思っています。俺が叩かれるのは俺自身のことなので、別に構わない」と言ったんです。
ダルクも最初は反対していたのですが、「でも受けるべきストーリーがあるのならいいんじゃないかな」と言われました。
手紙とポン酢が送られてきて、最初は「ふざけたポン酢を作っているな」と思ったんですよ。「ふざけんなよ、こんなもの作りやがって。それを俺にわざわざ送ってくるのかよ」と最初は思いました。
けれど、手紙を読んだら、「HEROという会社で障害者施設を運営している者です」と書かれていて、この人たちもバッシングを覚悟でヒロポン酢と命名したこともわかった。だったら俺も叩かれることを覚悟で、「俺しか宣伝できる人はいないじゃないか」と思ったんです。
——まあこのネーミングの商品をシャレにできる人はなかなかいないですよね。
シャレにできることイコール大丈夫、ということなんです。本当にやばかったらギャグなんか浮かばないから。
——しかしあのC Mの内容もかなり攻めていますね。強面の人たちがおもちゃの注射をうっているところを、「コラー!」とパコーンと叩いて。
「ヒロポン酢で気持ちよくなりなさい!」って言う(笑)。別に薬物を勧めているわけじゃないし、このポン酢は本当に美味しい。そして障害者にも役に立つ。それならいいだろうと。CM料も大した金額ではないですが、ダルクに全額寄付したんですよ。
——あのCMでバッシングを受けたりしましたか?
いや、面白いとか、美味しかったと言われました。売れちゃって、一度品切れにもなったんですよ。
一度つまずいた人の足を引っ張り続ける文化
——逮捕直後にも多くのバッシングを受けましたね。その後も何かあるにつけ、「反省していないのではないか」などと足を引っ張ろうとする報道が続きました。
逮捕直後は仕方ないし、その後もいっぱいありますよ。
——そういう批判やバッシングは自身が薬をやめ続けようとしているのに役立ちましたか?
絶対とか、100%というのはないんですよ、人生。例えば100人を納得させようと思ってもそれは無理です。絶対にアンチが現れるのが世の中の常だから。でもそれを含めた上でやっていかなければいけない。
講演する時も全員を納得させようとは思っていません。来てくれた人の中で「すごく良かったです」「心に沁みました」と言ってくれる人が一人でもいたらいいやと思う。「あんな犯罪を犯したのに面白おかしく喋って、全くこの人は反省していない」と思う人もいていいと思ってやっていますから。
だから叩かれることは想定内なんです。確かにメディアは酷いよなと思うこともたくさんあるのですが。
——欧米では回復しようとする人を応援する「リカバリーカルチャー」が根付いています。それに対し、日本では一度つまずくと、その後も隙あらば足を引っ張ろうとする文化がある。それは回復にどのように影響しますか?
助けにはならないですよね。俺は特に褒められて伸びるタイプだから。褒められるとすごく調子に乗って頑張れるタイプ。でもみんなに「ダメだ。ダメだ」と言われると、「なんだよ!」といじけちゃうタイプです。だから、アメリカのように「頑張っているね」と応援されたら、「もっと頑張ろう」と思えるのですよね。
以前、警察の職務質問を受けた時に、「前科があるから何か出てくるだろうというそういう視線が、僕たちの回復を遅くしていますよ」と伝えたことがあります。「でも仕事ですから」と言われたら「そうですか」と言うしかない。
「ただ、本人たちは一生懸命やめようとしているのにまだこんな扱いをされるのかという気持ちになりますよ。それはわかってください」と言いました。自分が悪いのだから仕方ないのですけれども。罪を犯してしまったのだから。
かといって、その人が二度と這い上がれないのかと言えば、それは別の問題です。這い上がれた時にみんなが「良かったね」と拍手する社会であってほしいし、いつかそうなることを望むけれども、今の日本ではそれは難しいのかなと思います。
信じてくれる先輩、妻、リーダー
——先日、田代さんのYouTubeチャンネル「MARCY’Sちゃんねる」にも出ていらした佐藤秀光さんは何度逮捕されても「信じ切りたい」とおっしゃっていましたね。出所後も障害者が乗ることができるバイク作りに誘ってくれています。そういう人が周りにいることについてはどう思いますか?
すごくありがたいし、感謝の一言ですよね。今の妻も俺を信じて待っていてくれた人の一人だし、そういう人たちがいなければ今の俺はいなかったと思います。今はそういう人を一人、二人、増やしていかなければならないなと思います。
一人いれば十分と思う時もあるんです。世の中全部敵に回しても、お前だけいればいいやと。自分も誰かのそういう人になりたいですしね。
——ラッツ&スターの皆さんはどうですか?リーダーの鈴木雅之さんは最後の逮捕後に会ったりしていますか?
会っていないけど、あいつは高校の時からの同級生で、あいつのお母さんは第二の母と思っています。あいつの家から高校通ったりして、一緒にシャネルズやラッツ&スターを作ってきて同じ思いでやってきた。
ただあいつも「鈴木雅之」という個人のレーベルがあるわけだから、それを傷つけることは避けたいし、俺の存在が彼のためにならないなら俺は身を引く。
でもいつか、隣に立てたらなと願っているし、あいつの隣に立ってもう一度歌うのが最終目標ですといつも言っています。でもそれは俺が決めることではない。いつになったらO Kなのかもわかりません。
——30周年の再結成の時にステージに立てなかったのはつらかったのではないですか?
30周年の時にリーダーが一緒に出てほしいと言っています、と電話があった時に、全部のV T Rを見返して振り付けも思い返して、練習していました。でもその後、レコード会社がダメと言っていますと言われて、ショックを受けました。
その後にすぐ薬を使ったわけです。その時の裁判で「せっかくまた輝く場所に戻れると思っていたのが、今まで犯した罪によって大きな企業からダメだと判断されたことが寂しかった」と言ったら、検察官から「その時はダメでも何年か待てば良かったじゃないですか。35周年などまで」と言われたんですよ。
つい「あなたには僕の気持ちはわかってもらえないと思います」と返しました。彼らは簡単に「待てば良かったじゃないですか」と言うけど、その時の俺は「ああ、やっと出られる。もう絶対に薬は使わない」と思っていた。でもダメと言われた。その絶望感はわかってもらえない。
リーダーからの手紙
薬を使った後、鈴木雅之からメールが来たんです。
「お前のやったことは同じ不良だった俺には少なからずわかる。でもお前のネームバリューや歩んできた道はあまりにも大き過ぎた。それをお前自身が台無しにした罪は自分で償わないといけない。だから表立って力にはなれないけれど、お前が立ち直ってくるのを俺はいつまでも待っている」
日本という国は信用を取り戻すのがすごく難しい国です。一度ならまだしも、二度三度は難しい。それをお前は払いのけるために頑張らなければいけない、とも書いてありました。
でもどうすれば払いのけられるのかわからない時期でした。
——リーダーのその言葉は響いた?
響きました。それを言わなければならないあいつもつらかっただろうと思います。でも何年間もやめて、「やっとこれで元に戻れる」と思った時に、ダメです、と言われて絶望的になっていました。
——鈴木さんは今も陰で応援してくれているのですか?
俺が刑務所にいる間にあいつのお母さんが亡くなったんです。第二の母が。出所後にこのお母さんと志村けんさんの墓参りには行きたいと思いました。すごく胸につかえていることだったので、リーダーに「行かせてほしい。住所を教えてくれないか?」と聞いたら、住所を送ってきてくれました。
それで行ってきたことを報告したら「ありがとうな」と返事が来た。葬式に立ち会えなかったという思いは、墓参りをして少しおさまりました。
志村さんの墓参り 笑いの力
——志村さんの墓参りにも行かれたとのことですが、コロナ禍で志村さんが亡くなった時はどういうお気持ちでしたか?
当時、コメントを出しました。「志村さんより僕が逝くべきだったと思いました。志村さんは今のこの世の中に笑いを届けるために必要な人でした」と。
自分がなぜお笑いに固執するかというと、志村さんと一緒にお笑いを作った自負もあるし、一番脂がのっていた志村さんと仕事ができた。今でも「あの時が志村さんは一番面白かった」と言われるんです。
そして何より、ユーモアって絶対に必要だなと思うのです。どんな時も。
——ご自身がつらい時、寂しい時にお笑いが力になった。
救ってくれたのが笑いです。だからそれで乗り越えてきたのですが、今、笑いで乗り越えようとすると、「反省していない」とか「治そうという気持ちがあるのか」とか叩かれます。
あるライブの時、自虐ネタのようなものをかましていたんです。舘ひろしさんの「泣かないで」を歌っていた時、注射器を出して「うたないで〜♪」と歌ったりする。
そうするとお客さんはみんな「おーい」とツッコむんだけど、自分としては「こんなふうに笑いにできるまで元気になりましたよ」と伝えている自虐ネタなんです。
でもそれを見たファンの女の子が、「反省しているんですか!」と急にライブ中に話しかけてきたんです。僕は「すみません。お気持ちは嬉しいのですが、多くの皆さんが楽しんでいらっしゃる中で、あなたのためだけにこのギャグをやめるわけにはいかないですよ」と伝えました。
本当に心配してそう言ってくれたのでしょうけれども、正直その言葉はきつかった。自分は見にきてくれたお客さんを楽しませて帰らせないといけないという思いがあるんです。
ネットでの批判も、前までは見ないようにしていました。でもマザー・テレサの言葉で、「愛情の裏返しは憎しみではありません。無関心です」という言葉がある。関心があるから俺に文句を言うのだと受け止められるようになりました。
「シャブジジイ死ね」「シャブジジイ死ね」とネットでずっと書いてくる人がいる。前は嫌だなと思っていましたが、最近は「こいつは俺のためにこんなに時間を費やしている。お前、俺のこと好きなんじゃね?」と思うようになりました。本当に嫌いだったらそんな労力を使わないですよね。
▶「目指すのは「今日一日」やめること 回復に役立つのはつらい刑務所暮らしではない」に続く
【田代まさしさんインタビューシリーズ】
- 3年やめていても囁く悪魔「ちょっと休憩しませんか?」 田代まさしさんが語る薬物の本当の怖さ
- 笑いで紛らわせてきた子供時代の寂しさ 「自分で解決する癖」が裏目に
- 「本当に反省しているんですか?」 世間の疑いの目、足を引っ張るメディアやSNSに晒され続けること
- 目指すのは「今日一日」やめること 回復に役立つのはつらい刑務所暮らしではない
【田代まさし(たしろ・まさし)】歌手、タレント
1980年、鈴木雅之さんとシャネルズとしてデビュー。デビューシングル「ランナウェイ」がいきなりのミリオンセラーを記録して以降、数々のヒット曲に恵まれる。その後、志村けんさんにギャグセンスを認められ、お笑いにも進出。「バカ殿様」や「志村けんのだいじょうぶだぁ」などでお茶の間の人気を不動のものとするが、2001年から覚醒剤などの使用の罪により3度の刑務所服役生活を余儀なくされる。2022年10月福島刑務所を出所後は、保護観察所と日本ダルクに定期的に通いながら、依存症で苦しむ仲間たちの為に、ライブ、You Tube、講演など、精力的な活動を続けている。
コメント
ヒロポン酢美味しかったです
ポン酢好きの私が言うからに、間違い無いです
激やせしてた時は凄く心配したけどこんなに元気になってくれて本当に良かった。ずっと好きです
刑事事件というのは本人と司法との問題であって、本来他人には関係ない。
事件をエンターテインメントとして商品化しているメディアと、報道を楽しむ人々が被告に必要以上の苦しみを与えている。
人権を踏みにじることそのものを享楽とするメディアのビジネス自体を規制する仕組みが作られるべきだ。
文春のようなゴシップ紙もそうだが、警察のリークを無批判に垂れ流す一般報道にも相当問題がある。
メディアを野放しにしているこの国の法制度はもっと変わっていくべきだ。
今記事を読んでラッツ&スターの動画を観ましたが、なんとオシャレでカッコいいグループなんでしょう♡
マーシーが歌う姿を生で観たい!私だけでなく、それを願ってるファンはたくさんいるんでしょうね。それなのに30周年の時は残念なことになって。。
辛いエピソードの数々は初めて知ることばかりで驚きました。生い立ちや様々な苦しみは、スターであるが故、公開することは困難なことだったと思いますが、こうやって発信してくださったことで、不可解だったことの裏にはそういう訳があったのかと私は腑に落ちました。
これからもこんなふうに発信して下さることで、私の認識が変えられたように、多くの人の考えも変わっていくと思います。
足を引っ張り合う社会なんて嫌だと皆思っているのですから。
ヒロポン酢、実においしいですよね。いまもリピートしてます。
SNSでヒロポン酢のCMをはじめて見た時、あ、日本も変わってきた、と本当に本当に嬉しくて面白くて大笑いしました。
おまけでもらったヒロポン酢のMARCY'Sキーホルダー(気遣いからかヒロポンのロゴが反転されてる)も堂々とつけてますよ!
>這い上がれた時にみんなが「良かったね」と拍手する社会であってほしいし、いつかそうなることを望むけれども、今の日本ではそれは難しいのかなと思います。
響きました。ただ、私は間違えたひとが這い上がるまでただ無関心に冷たい目でほっておくのではなく、せめて温かいことばと態度で「がんばれ」と言える社会であってほしいと思います。
いつまでも無責任に「反省してるの」などと詰め寄る人は、きっと「自分はちがう」とでも思っているんでしょうね。実際は、誰でも、ふとした何かのきっかけで大きく道を外れることがあるかもしれないのに。