Addiction Report (アディクションレポート)

肩代わりや金銭管理は逆効果 社員のギャンブル絡みの犯罪、防ぐために企業は何をしたらいいのか?

コロナ禍以降、ギャンブル依存症の社員による犯罪が急増しています。社員を守り、損害を与えられることを防ぐため、企業は何をしたらいいのか。企業向けの啓発イベントで、ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表が語ったノウハウを詳報します。

肩代わりや金銭管理は逆効果 社員のギャンブル絡みの犯罪、防ぐために企業は何をしたらいいのか?
ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表

公開日:2025/12/13 02:02

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ギャンブル依存症を理由に大きな借金を抱えたり、横領や窃盗などの犯罪に手を染めたりする問題が後を絶たない。

依存症で人生を棒に振り、会社にも損害を与える問題を予防しようと、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」は12月5日、企業の人事担当者向けに啓発イベント「ギャンブル依存症から社員を守ろう」を都内で開いた。

まずはギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表の講演を詳報する。

企業で研修していることを表で言える時代に

私たちは、企業にギャンブル依存症対策を取り入れてもらうことを悲願としています。8年前に私たちが企業研修を始めた頃は、社会情勢も全く違い、企業での研修を実現しても、「うちの企業に依存症者がいると思われては困るので、絶対にこのことを外で言わないでください」と言われていました。

今では社会情勢も変わり、研修をして「このことをホームページやSNSで紹介してもよろしいでしょうか」と言うと、「どうぞどうぞ。うちでは、こういうことをやっていると伝えてください」と言っていただけるようになりました。少しずつ企業の意識も変化してきたと思っています。

今日は、私たちがギャンブル依存症は個人の問題ではないことをなぜ企業に理解していただきたいかをお話しします。

コロナ以降急増したギャンブル依存症絡みの犯罪

今、ギャンブル依存症に絡む犯罪が、特にコロナ禍以降、尋常じゃないぐらい増えています。

田中紀子さん提供

今年の春、オンラインカジノをメインにしていたギャンブル依存症者で、私たちの団体に繋がって回復の道を歩いている93人にアンケート調査をしました。

犯罪行為の経験がありますかと聞いたところ、なんと46.2%の人がギャンブルの資金を作るために何らかの犯罪行為をしたと答えました。

1番多いのは窃盗と横領です。横領は企業に直結する事案であると言えます。

さらに、いわゆる闇バイトがここ数年大変増え、詐欺の受け子、出し子、架け子をやってしまったり、「タタキ」とあるのは強盗のことですが、こういう凶悪犯罪に手を染めてしまったりするケースも出てきています。ギャンブル依存症と犯罪の関係はゆゆしき事態になってきていると考えています。

これはオンラインカジノ絡みの犯罪についての集計ですが、様々なギャンブルがある中で、やはりオンラインカジノは1番スピードが早く、ギャンブル依存症になりやすいギャンブルです。

これに匹敵するのは、FXのような投資と公営競技です。

田中紀子さん提供

競輪、競馬、競艇、オートレースです。かつて日本のギャンブル依存症問題といえば、パチンコ、パチスロ依存症の時代がありましたが、今はこの公営競技、オンラインカジノ、FXが中心です。

それら全てが何を使ってできるかといえば、スマートフォンなんです。スマートフォンが今や博打場になってしまった。この時代になってから、犯罪が圧倒的に増えてきた実感があります。

公営競技の場合は、オンラインカジノよりは少ないのですが、それでも38.2%の人が犯罪歴があると答えています。こちらの場合もやはり1番多いのは横領です。

違法なギャンブルをやっているわけじゃないので、法令を遵守する気持ちがある人たちなのかなとは思います。ただ、社会人、会社員の人たちが多いので、当然ながら横領が増えてくるのかなと思っています。

固い職業の人もギャンブルで巨額の犯罪に

最近報道されたギャンブル事件簿ということで、いくつかピックアップしてみました。

田中紀子さん提供

司法書士の方の事件は、最近です。報道された横領額は1億1827万円です。すごい金額ですよね。

さらに、銀行員がFXや競馬の損失を補填するために、客の貸金庫から窃盗を働いていたという事件もありました。これも懲役9年というものすごく重い判決が出たので私たちも驚きました。大きな騒ぎになったので、皆さんもご記憶にあると思います。

税務署員が31回にわたり現金で受け取った税金の滞納分を着服したこともありました。

普通に考えると、非常に硬い、信頼の高い職業と思われてる人たちがギャンブル依存症になると、こうした犯罪を犯してしまう。特に会社のお金を扱える立場の人がギャンブル依存症に罹患すると、横領事件が起きやすいんですね。

こういう横領事件などが起こった企業から、よく研修の依頼をいただきます。これから対策を練ろうと考えていただき、すごくありがたいのですが、マスコミ向けに「これから再犯防止に力を入れていきます」というところは、たいていの場合セキュリティを強化しますとおっしゃる。

でも、セキュリティを守る立場の人がギャンブル依存症だったら、いくらセキュリティを強化したってやるんです。

ギャンブル依存症の人たちに対して、世の中の人は、だらしがない人とか遊び人みたいなイメージを持っていますが、実際は普通のサラリーマンです。むしろ仕事だけはしっかりやり、堅い職業に就いていたり、仕事ができると評価されていたりする人たちが多いわけです。

ギャンブル依存症であり続けるために、1番大きな重要な要素があるわけですが、それがなんだかお分かりになるでしょうか?

ギャンブル依存症をやり続けることができる——。それはお金を借りてくる能力があるということなんです。お金を借りられなければ、ギャンブルを続けることはできません。

社会的信用が高い公務員や大企業や金融機関に勤めている人は、いくらでも借りられる。本人も、「最後は退職金でなんとかすればいいや」と思っている節がある。

世間の勝手なイメージ、作られたイメージと実態は全く違うんだということを、ご理解いただけるとありがたいです。

会社が親に肩代わりを迫る

こちらは最近あった横領事件の事例です。プライバシー保護のため詳細を若干変えてあります。

田中紀子さん提供

ギャンブル依存症の息子が会社で500万円弱の横領事件を起こして、会社が親を呼び出したんです。

そうすると、だいたい、こういう風に言われます。

「息子を犯罪者にしたくないでしょう?」

親に弁償をさせようとするわけですね。

親は家族会に繋がってはいたのですが、まだ繋がりたてのビギナーでした。

家族会から、「『息子はギャンブル依存症なので、回復施設に入れたい』と会社に言え」と指導されます。今まで何度も肩代わりをしているので、親も一括払いできるお金がないのが現実でした。これまで2000万〜3000万のお金を肩代わりしてきたのです。親御さんも、会社をクビになってはいけないとか、犯罪を犯すんじゃないかと心配で、肩代わりを繰り返してきたわけです。

そして会社に対して、「息子が回復施設に行くのであれば、施設に入っている間は親が分割払いで横領した金額を払います。でも、退所後は息子自身に支払いをしてほしい。この条件がダメなら、息子を告訴してください」と言ったのです。

これは完璧な家族会のアドバイスで、これが私たちのセオリーです。当事者は施設に行くと回答しました。刑務所よりは、当然施設に行くと答えますよね。会社も分割案で了解してくれたわけです。

問題はここからです。会社は借用書を作り、親に連帯保証人になってくれと強要してきたのです。これでは、本人が回復に向き合いません。逃げたって、親が連帯保証人になっていれば、支払ってもらえると思っていますから。そして自分は告訴されません。こうなると、本人の回復のモチベーションがぐっと下がってしまうのですね。

なので、家族会から「連帯保証人になったらダメだ。どうしてもというなら告訴に切り替えてもらおう」とアドバイスし、家族会も会社の交渉に同席したりしました。

親が根負けして連帯保証人に 本人は逃走

会社側はあてになりません。本人の回復よりも、親から回収したい。告訴もできれば避けたい。問題を大げさにしたくない気持ちがある。

結局、親が根負けして、連帯保証にサインをしてしまいました。

田中紀子さん提供

家族会は親がサインをしたことを知りませんでした。息子である当事者は施設に入ったんですが、案の定、1週間で飛び出してしまいました。でも、支払いの義務はもう当事者にないわけです。借金は親がかぶってしまって、当事者も回復しない結果になってしまいました。

社内での金銭の貸し借りや、借金していることがバレて、上司が慌ててお金を貸してくれるケースも結構あります。借金を上司が勝手に肩代わりした場合、本人がにっちもさっちも行かなくなった時に、親に返済を迫るケースが多いんです。

中には、2度、3度と親に肩代わりをさせる企業もあります。

もっとひどいケースでは、飲食店や介護など人手不足の業種になってくると、横領をしていてもその人がいないと現場が回らないので、2度も3度も親に横領の肩代わりをさせて雇用し続けるんですね。そうなってくると、親も高齢者虐待じゃないですけれども、家を失ったり、悲劇の連鎖が止まりません。

私たちは10年以上活動してきて、私自身が依存症の当事者として仲間に繋がって21年になりますが、この度初めて、家族が自殺してしまう案件に直面しました。こういう悲劇を繰り返さないことが私たちの悲願でもあります。

早期発見・早期介入のポイントは?

では、早期介入のポイントとなり得る兆候ですが、ギャンブルの問題を企業が事前に把握するのは大変難しいことです。そこがアルコールとは違う。アルコールは、飲み会の翌日に休んでばっかりいるとか、飲み会の時に1人だけいなくなっちゃうとか、酔い方がすごいとか、なんとなく気づく機会があるわけです。

田中紀子さん提供

ギャンブル依存症に気づくのは本当に難しい。でも、私たちの経験から言える兆候があります。

1つめは、うつ病での休職が繰り返されているパターンです。私たちのところに繋がってきた時には、すでに2回もうつ病で休職してるような人たちがいます。

それから、集中力の欠如や、仕事のレベルの低下です。私自身もギャンブル依存症で、当時は弁護士事務所に勤めていたんですが、初めて人事評価が後輩に抜かれたことがありました。その時は依存症の真っただ中で、本当に仕事に集中できませんでした。そんな風に仕事のパフォーマンスが落ちてくると、なんだか人が変わったようになってくる。なにか悩みでもあるような状態ですね。

さらに、社内で借金を繰り返すようになったり、闇金からの電話がかかってきたりするようになる。

欠勤が増え、時に無断欠勤をしてしまう状況にもなります。

ギャンブル依存症も問題なんですけど、ギャンブル依存症に罹患する人たちの40%はうつ病を併発するという研究もあります。どうしても辛い毎日を過ごすことになるので、鬱の薬を飲んでたいたりすることもあります。パフォーマンスも下がり、気がつくと会社に行けなくなっていることがよくあります。

いろんな問題が起きた企業に研修をしに行くと、金融機関では、2回、3回問題が起きることもあります。そういう時に、企業から「今振り返ってみると」思い当たる兆候として、「営業に出て連絡がつかないことがあった」とおっしゃっていた方がいます。あとは、頻繁な離席をしていた。私自身がそうだったんで、それはあるだろうなと思います。今のギャンブルはスマートフォンでできるので、ちょこちょこ結果を見ているわけですね。

他にも取引先へ借金があったとか、仕事中にスマホでギャンブルをしているところを見つかった人もいるんです。スマートフォンでYouTubeの画面を小さくして見ているのを、隣の席の人が発見したということもあります。

ギャンブルの話ばかりするとか、いつも異様なほどお金がないとかもあります。飲み会にも行かれない、忘年会にも行かれないようなことがあると、気付くきっかけになります。

ただ、これだけで介入していくのはなかなか難しい。それでも、そんな風に気づくことがあります。

借金の立て替えや金銭管理に効果なし

企業の方に知っていただきたい早期発見、早期介入のための基礎知識として、「借・金・病」というキーワードで覚えていただければと思います。

まず、金の一時的な立て替えは真の手助けにはならないということです。金融機関からの借金は、法的に解決するのが1番いいのです。それを肩代わりなんかしてしまうと、また借金ができてしまいますし、友人・知人への借金は心情的にも追い詰められ、苦しくなります。友人・知人、会社の同僚への借金は、たとえ自己破産したとしても、もう払わないでいいやということにはできない。なので、余計本人を追い詰め、余計借金を増やしてしまうことになります。

さらに、銭管理や脅し、説教も効果はありません。金銭管理や念書を書かせることを、ちょっと面倒見のいい上司の方はやってしまいがちです。

でも、これは「隠れ借金」に繋がっていきます。そして、闇金に行ったり、犯罪に繋がっていったりしやすい。全く意味がないです。

最後に、ギャンブル依存症は誰でもなる可能性のある気なのだということです。だからこそ、適切な支援につないでいただきたい。支援につなげれば回復できます。

ということで、この3つをキーワードとして覚えていただきたいと思います。

海外での取り組みは?

海外の取り組みについてもお伝えします。

田中紀子さん提供

EAP、従業員支援プログラム、が皆さんの会社にもあるかと思います。

海外のEAPでは、本人がEAPにアクセスして、カウンセラーが初期評価をして、支援先の情報提供、つまり我々のような民間団体であったり、自助グループであったり、依存症の専門のカウンセラーであったり、そういうところを紹介してくれます。

ただ、日本では依存症専門のカウンセラーはほとんどいないと思ってください。ですから、自助グループや我々のような民間団体につながっていただくのが安全だと思います。玉石混交なので、カウンセラーはどこでもいいわけではありません。

次に、介入面談ということで、初期介入は外部のEAPの企業と契約している企業もあると思います。プロバイダーの中には、依存症に介入する「インターベンショニスト(介入者)」という人がいるんです。実は私もインターベンショニストの1人としてずっと活動してきました。ギャンブルの問題がどうやらあるらしいとなった時に、治療に繋がった方がいいと介入する役割の人です。この人が、本人や上司の人と話すことをします。

それでも否認して、「いやいや、もう自分は大丈夫です」となってしまった場合は、外部のインターベンショニストに家族と協働して繋げるパターンもあります。

家族がこのインターベンショニストと計画を立てて、本人に介入していき、回復施設や入院先につなぐケースもあります。海外の場合、めちゃくちゃ高い費用がかかります。1回で300万円、400万円取られます。

私はアメリカでこのインターベンションの勉強をして、「こんなお金は日本では払えないな。家族が介入できるようにしよう」と思って、家族介入のテクニックをずっと磨いてきました。

家族が、施設入所とバーター取り引きするような手法を生み出して、繋げ始めています。さらに、治療を開始するため、自助グループを案内したり、場合によっては専門治療のために休暇、休職を取得してもらったりしています。

肝心なのは、入院した後に自助グループや私たちのような団体に繋がり続けることです。

海外では、治療を継続すること、業務パフォーマンスを特定のレベルまで回復させること、ギャンブルを完全に断つことなどを書面で取り交わし、違反した時には懲戒の対象になる、と契約することがあります。

本人はギャンブルをやめ、社内の借金も解決できる、そんなアドバイスを心がけています。「病気だからしょうがないですよ」「貸した方が悪いんですから」という言い方では、社内の風紀は乱れます。企業も、私たちも、本人も、罪悪感を抱えたまま「ギャンブルさえやめればいい」と思う人はいません。きちんと本人も罪悪感から解放されるような、みんなの身が立つ提案をしています。

支援先や相談体制は?

支援先としては、自助グループや回復施設などがあります。私たちは、借金の返済計画を立てたり、家族関係の調整、治療プランや治療プログラムの提供をしています。他にも職場復帰の際には、職場の皆様と話し合いをさせてもらうこともあります。

田中紀子さん提供

全国どこからでもZoomミーティング

そして、Zoomのミーティングもやっています。

田中紀子さん提供

地方に出張があったり、転勤になったりすることもあるかもしれません。そうなった時に、県庁所在地以外は、ほとんど自助グループなんてありません。誰でも自助グループに繋がり続けられるように、このZoomのミーティングを私たちは強化しています。夜勤や変則勤務がある人でも、支援につながり続けられるようにするためです。

田中紀子さん提供

YouTube番組で、私たちは「たかりこチャンネル」というのをやっておりまして、ギャンブル依存症の職場対応でダメなこととか、こういう社内風土はやめた方がいいという情報を公開しています。ご覧いただけたらと思っております。

また、ギャンブル依存症に対して、社内でやっていいこと、ダメなことなどの研修も、充実させるように努力しております。もしそういう依頼があったら、ご連絡いただければと思っております。

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