依存症と向き合う刑事法学者に何ができるのか?園田寿さんインタビュー【後編】
刑事法学者として、薬物規制に関する研究もおこなう園田寿氏。依存症に関心を抱くようになった理由のひとつが、あることを「やめたくても、なかなかやめられなかった」からだという。

公開日:2025/03/18 02:00
薬物規制などを研究し、メディアでも発信活動をしている刑事法学者の園田寿氏(甲南大学名誉教授・弁護士)。
⇒依存症と向き合う刑事法学者に何ができるのか?園田寿さんインタビュー【前編】
園田氏にも「やめたくても、なかなかやめられなかったことがあった」。それが、依存症に関心を抱くきっかけになったという。
「1日4箱」吸っていた
園田氏がなかなかやめられなかったもののひとつーー。それは、タバコだ。
タバコを吸うことは「犯罪」とはされていない。しかし、喫煙は本人だけではなく、周囲の人の健康にも悪影響があるとして、2020年に健康増進法が改正され、受動喫煙を防ぐためのさまざまな取り組みがおこなわれた。
多くの人が利用する施設は原則として屋内禁煙となり、街から喫煙所が徐々に撤去された。
筆者が過ごした大学のキャンパスでも、2014年の時点で複数あった喫煙所がひとつ、またひとつと消えていき、最終的に1カ所となった。
タバコを吸う人が「かっこいい」とみられる時代は幕を閉じ、今では、喫煙者は肩身が狭い思いを余儀なくされている。
しかし、過去には、大学院での授業中、研究会や学会中にタバコを吸う研究者もいた。園田氏もそのような時代を生き、自らもチェーンスモーカーだったと打ち明ける。
「1日4箱は吸っていました。徹夜することが多かったのですが、明け方になると、灰皿がタバコの吸い殻で山盛りになっている状態でした。タバコだけではなく、毎日酒も飲んでいました。今思い返すと、よく身体が続いたなあと思います」
娘の涙で、禁煙を決意
ニコチンには依存性があるとされている。タバコが吸えないとイライラしたり、ストレスを感じたりする人もいる。園田氏も何度も禁煙を試みたが、2日ともたなかったという。
「禁煙をすると決めたのに、家族に『ちょっと買い物行ってくる』とウソを言って 、そのままタバコを吸ってしまうこともありました」
40代のころは週に10コマの授業を担当し、月に2本の原稿を書き、大学教員として学内の委員会などのさまざまな仕事に駆り出された。徹夜続きの日々で、酒とタバコでしんどい気持ちを紛らわせていた。

転機は、50歳のころに訪れた。別の大学にうつることになり、健康診断を受けた際に「肺にちょっと影があります。精密検査を受けてください」と言われた。
「帰宅して家族に伝えると、当時、思春期で反抗的だった娘が泣き出してしまったんです。これは何とかせなあかん、と思いました」
意を決して内科に行き、禁煙パッチとニコチンガムを勧められた。約3週間治療を続け、徐々にタバコを吸いたいと思わなくなった。
「2週間ほど経ったころ、タバコの煙を嗅いだだけで嫌悪感を感じるようになりました。とても不思議でした。それまでは、テレビに喫煙しているシーンが映し出されると、私も吸いたくなって一服していましたし、電車が来ていてもタバコを吸うことを優先していました。やめる決意があったことと、徐々にやめていく方法が合っていたんだと思います。今は、まったく吸いたいとは思いません」
合法と違法を分けるもの
アルコールも60歳になってやめた。
「ちょっと大病をしましてね。医師にアルコールはよくないと言われたのもありますが、年齢を重ねて飲めなくなったというのもあります。酒はスパッとやめられました。もともと身体に合っていなかったのかもしれません」
こう語りながらも、園田氏には今もやめられないものがある。甘いものとコーヒーだ。
「おはぎやチョコレートが大好きで、コーヒーは1日5、6杯飲みます。なぜ、ハマってしまうのか理由はわかりませんが、人間は誰しも何かにハマっている気がします」

園田氏は「合法と違法を分けるものは、なんだろうか」との問いを抱き続けている。精神科医の松本俊彦氏の「薬物に区別はない」とのことばをきっかけに、ハッとしたという。
「覚醒剤や大麻だけではなく、ニコチン、アルコール、カフェインも『薬物』ならば、何が合法と違法を分けているのか。その根拠が気になるようになりました。国内外の文献で歴史を調べていくうちに、科学的な根拠があるというよりは、経済的・政治的なことが関連していることに気づきました」
研究者人生は、まだまだ続く。園田氏は、刑事法学者として、今後もこの問いと向き合い続けるという。
【園田寿(そのだ・ひさし)甲南大学名誉教授、弁護士】
1952年生まれ。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年、成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年、日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年、朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。座右の銘「法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり」。